また来て三角   作:参号館

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任務で忙しいのか週に1,2回しか来ないサクヤは、1年の間は何だったのか、サスケを今迄通りに扱った。

まるで家族がいた時の様に扱うので、サスケは横にイタチがいるような気がして、振り返るといない、と言う事を繰り返す。

サスケはそれが、未だイタチを憎め切れていないように感じて、苦い顔をするしかなかった。

 

両親を殺したのはイタチで、一族を殺したのもイタチで、サクヤを壊してしまった(とサスケが勝手に思っている)のも、イタチだ。

サスケはサクヤと会うたびに、それを再三心の中で唱えなければならない程、サクヤは普通にやってきた。

 

 

サクヤは他の大人と違って、事件の事を憶測で語らなかったし

可哀相などと同情を匂わす言葉を、サスケに一切使わなかった。

サスケに対する態度は以前と全く同じで、そしてサクヤとの会話には

 

イタチの名前すら出てこなかった。

 

あれほど仲が良かった、その面影はどこにもなく、

サスケには、それがイタチの付けた傷を忘れようとしているように見えた。

(実際は置いておいて。)

 

 

 

 

 

サスケは時々、修行が夜遅くなった時に捕まり、真の目の大浴場に突っ込まれて、乱雑に洗われた。

自分でやると言っても「背中に手が届くならそうしてる。」とスポンジと、泡を乗せた両手を掲げ、肩をすくめながら論破され、その日は決まって風呂上りのストレッチを念入りにする。

 

親が居ないナルトも似たような環境であったようで、小脇に抱えられ真の目の銭湯に突っ込まれる姿を里でよく見かけた。

(流石にナルトと放置された修行にて、相性が悪いと判断したのか、ナルトと同じ風呂に突っ込まれる事は無かった。)

 

ナルトと同列に扱われるのはサスケとしては少し嫌だったが、サクヤが誰にでもこうだという目安にもなっていて、サスケは少し安堵した。

気を使われてこんな対応をされているのであれば、いたたまれないからだ。

 

 

真の目の大浴場は広く、時間帯で男女分けており、子供は保護者と入ることが義務付けられていたので、女湯の時間にサクヤと共に入った時もあった。

サクヤにとっては、イモ洗いの気分だったのだろう。

 

共に湯船につかった時見えた背中は、あの日よりマシになっていたが、処置が遅かったからなのか、傷跡が大きく残っていた。

特に、腕から指先に続く火傷跡(ケロイド)と、背中の切り傷、体中についている裂傷。

一体何をしてあんな傷を負ったのか…

 

再三の事だが、サスケはこれらすべての傷がイタチによるものだと思っている。

一応、傷自体は根の拷問で着いたものもあるのだが、その原因がイタチの里抜け、手助けの嫌疑によるものだった所を考えると、その考えはあながち外れてはない。

 

サスケはアカデミーの教室で、同じくサクヤの傷を見たであろうナルトが、能天気にかっこいい、強そう、と誉めそやす、その言葉が許せなかった。

 

 

―――

――

 

「おい、起きろ。」

 

アルトの静かで、落ち着いた声がサスケの耳に良くなじむ

しかし声の持ち主はサスケの意識を覚醒させたいらしく、ゆらゆらとサスケを揺らす。

乱暴な手つきに、母さんでは無いとあたりを付ける。

そして文句でも言おうと目を開けると、サクヤがいた。

 

目を丸くしたサスケは勢いよく飛び起きる

あたりの確認をするために目を凝らして首を回す。

 

ココは……第13修練所だ。

修行場所にしていたところでチャクラが切れてそのまま寝てしまったのだろう。

辺りは黒に塗られている。

最後の記憶の時はまだ明るかったはずだから、ずいぶんと寝ていたらしい。

 

サスケの様子にサクヤは、白い髪を揺らして下を向くと同時に深く息を吐き、鈍い赤を鋭くしてサスケに向けた。

 

「三回目だ」

 

サクヤの目は冷たい。

何の三回目かは分かっていた。

こんな時間になるまで演習場で寝ていたところを()()()()()『3回目』だ

 

「修行もいいが、日々の生活あってこその修行だ。

日々の生活もままならない奴には、修行をする資格はない。」

 

サクヤの断定する言葉にサスケはひるむが、『資格が無くても、俺は修行をしなければならない。サクヤの言葉を無視しようと思えばできる。』と心を持ち直す

 

しかし、「あまり言いたくは無いんだが……」から始まったサクヤの言葉に、サスケの心はぽっきりと枯れ枝の様に折れた。

 

 

「お前は今、()()だ。

一応世話係である私や、保護者の火影様が居るとはいえ、何時も見ていられるわけじゃない。

私にも火影様にも仕事がある。

お前の両親が生きてた時の様に、常に誰かが見ていて、助けてくれるわけじゃない。

お前は、今、正しく『一人』なんだよ。」

 

サスケは、同じうちはの記憶を持っているサクヤから繰り出される”一人”に、自分以外はもう、『うちは』が居ない事を、嫌と言う程思い知らされる。

 

「サスケ、お前は賢い……。

一人に慣れろとは言わない

だが、一人で出来る範囲の事をしろ。」

 

分かっているだろうとばかりに付けられた『賢い』がサスケにとっての救いであると同時に、続く言葉がもう共に支え合う家族がいない事を明示していた。

 

サスケが、一人に慣れていない事は明白であった。

間に合わない洗濯

空っぽの冷蔵庫

メニューの変わらない食事

分別の出来ていないゴミ箱

演習場で夜が更けるまで気絶。

 

はっきり言って、『3回目』と言うのも発見された数が3回であって

今迄ももっと、数えきれない数、森で街で演習場で、無防備に命を晒してきた。

それが元で体調を崩した数も少なくは無い。

家族が居たなら、(うちは一族が滅びて無ければ)こんなことはありえなかった。

 

何時も誰かしらサスケの所在を知っていて、遅かったら誰かしら迎えに来てくれた。

自分で買い足さなくとも必要な物が何時も十分用意されていた。

家に帰ったら明かりが燈っていた。

困っている時の後ろには、必ず誰かが見守ってくれていた。

 

一人で生きたことが無かったサスケは、一人の裁量を知らなさすぎた。

サスケは今、『うちはサスケ』は一人なのだ。

 

どうしようもない事実を、突き付けられた。

目をそらしてきた事実であり、確実にサスケの頭に居る事実だ。

 

 

 

―――

――

 

いつもだったら、元気よく反発が帰ってくるタイミングにサスケが大人しい。

サクヤは言い過ぎたか…と爪の先程の反省はしたが、言葉を撤回する気は無かった。

 

 

ナルトが唯一幸いだったのは、最初から一人だった部分であろう。

サスケの様に『喪失』を知らずに済んだ。

それに、凝らなければ多少なりとも『愛情』は、周りの人間が補填する事が出来る。

血がつながっていなくとも、仇であろうとも、死にやすい赤ん坊から生き続けた事実がある限り、誰にも愛されてないとは言えない場所にナルトはいる。

だからサクヤは、ナルトが出生の秘密を知って尚里を愛する事が出来るように、真の目を使って、信頼関係を作る方法も教えた。

 

 

しかし、サスケは元々あったそれらを、今になって喪失した。

それと同時に家族の愛情も失った。

ナルトの様に補填が利くかと言ったら、そうでは無い。

愛情が欲しいのは彼ら(両親)であって、もう二度と会う事の出来ない彼等(家族)であって、誰でもいいわけでは無いのだ。

 

サクヤが生まれて幾何か、忍界大戦が終わる頃なれば、サスケの様に一族壊滅なんて話はざらだった。

そういう人間が、その後どう生きてきたかも、サクヤは良く知っている。

生き残ってしまった子供が、どうしようもなくなって、真の目に拾われることも多かったし、戦後の破壊された建造物の補修に出た真の目に、流れてくる情報はそんなものばかりだった。

 

だから、今(サクヤや三代目がいる)のうちに一人の裁量を知っておかないと、本当に一人になった時、一人の重さに耐えきれなくなる。

そう、サクヤは思ったのだ。

 

 

 

サクヤは帰るぞと、サスケに立つように促すがどうやらガス欠らしく、静かな森にお腹の虫の鳴き声が響いた。

耳まで真っ赤にしたサスケに、サクヤは腰のポーチから兵糧丸を出して差し出す。

しかし、サスケはそれを受取ろうとはしなかった。

 

「食えるときに食わないと死ぬぞ。」

 

サクヤはサスケを急かすが、何やらかすれた小さな声で言い訳をする声が聞こえる。

 

「…い……ら」

 

「は?もっと大きい声で言ってくれ。」

 

「…いから…」

 

これは無理だと、サクヤはサスケに近寄り耳を極限まで傾ける。

 

「あんだって????」

 

何だかどこぞの白塗りの殿様の言葉を彷彿させる馬鹿にした物言いにサスケはカチンときたが、答えなければサクヤはひかないだろう。

サスケは渋々サクヤに聞こえる声の大きさで答える。

 

「…………甘いから…食べたくない…。」

 

 

サスケのその言葉に、サクヤは大きな、大きなため息を吐くと、腰のポーチをもう一度漁った。

 

兵糧丸は結構甘い。

保存目的に甘いコーティングがされているし、栄養価の高いはちみつや、砂糖、甜菜糖などの糖分がふんだんに入っているからだ。

そして薬膳の甘みも相成り、あまいモノ嫌いな人間には、不味さが増す。

甘くない兵糧丸も存在するが、得てして、口に入れる用では無い、拷問用と言わしめるほど苦く、且つ値段が高い。

アカデミー、それも一人暮らしの生計には辛いものがある。

ちなみに売れ行きは良くない。

 

ポーチを漁る手は、目的の物を手にしたらしく、サクヤがサスケの前にそれを晒す。

 

「ほれ。」

 

兵糧丸だった。

 

「だからっ」

 

文句を言おうとした『ら』の口に、サクヤは無理やりそれを突っ込んだ。

サスケは、口に入れた食べ物を出さない躾けは、両親から受けていたので

唐突なそれに、吐き出す事はしなかったが、嫌そうに口をもごもごと動かす。

しかし予想していた、いつもの妙な甘さがやって来ず、サスケはサクヤを見上げた。

 

「それの作り方はまた今度教えてやる。

もう1粒口に入れたら行くぞ。」

 

そう言ってサクヤは袋ごと兵糧丸をサスケに投げる。

置いて行かれると、サスケが慌てて口にもう一つ分入れたところで、サクヤは屈みこみサスケに片腕を伸ばし

 

そのまま肩に担いだ。

 

「っな!?」

 

「ふいー…重くなったなぁ……」

 

「っ一人で歩ける!!」

 

突然の事にサスケは暴れるが、なんてことないように往なされる。

それと同時に、連勤帰りの中忍にさえ後れをとる自分の実力に、嫌気がさした。

 

「それは糖分の分量が少ないから普通の兵糧丸より栄養価は落ちる。

いずれにしろ消化して栄養が体に回るまで待ってる暇はない。

私はこの後も仕事が入ってる。

お前を家に帰したら、また出なきゃならん。」

 

其れならば置いていけばいいじゃないかと言いかけて、サクヤが自分の為に夜を掛けて来てくれたことを思い出した。

申し訳なさに一言謝ったサスケは、思考をサクヤの予定に切り替える。

 

「次に帰ってくるのはいつなんだよ…。」

 

「…多少前後するが大体1週間後だ。

その後休みを1週間貰った。兵糧丸はその時に教える。

それまでは、それで我慢しなさい。」

 

『それ』っと言った袋には結構な量が入っている。

サクヤの分は大丈夫なのかと思い聞くが、皮肉が帰って来るだけだった。

 

「お前と違って、私は普通の兵糧丸も食えるからな。」

 

むっすりと黙ったサスケにサクヤは何も声をかけず夜の森を掛ける。

このままサスケの家まで行くかと思われたが、街中に入ったあたりでサクヤはサスケを降ろした。

暗くて分かりにくかったが、空に梟が飛んでいる。

 

「すまん、予定が早まった。

ここからは一人で行けるな?」

 

目線を合わせて問いかけてくるサクヤに、サスケは頷きを返す。

サクヤは沈んだ頭に手を伸ばし、ワサワサとサスケの髪をかき乱した。

 

「今日は寒くなる、時間も遅いし風呂で暖まって、ちゃんと消化に良いもの食べて、早めに寝ろ。」

 

その言葉と同時にサクヤは、サスケの返事も聞かず、一瞬の内に夜に沈む。

後に残ったのはぬるい優しさで、熱くも冷たくもないぬるさは、何時かの西日に照らされたサクヤそのものだった。

 

 

サクヤはサスケに『ぬるい』一人を作り上げる。

 

サスケがもし、『本当に』一人になっても生きていけるよう。

イタチの思う方に進むよう。

 

フガクに頼まれたイタチに、サスケの不自由ない生活を頼まれた火影に、頼まれたから。

 

 

 

サクヤの思惑を知らないサスケにとって、それは救いであり、同時に

未だにイタチを思い自分と接する、どちらにも振り切れないサクヤの気持ちを表しているようで、好きでは無かった。

 

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