また来て三角   作:参号館

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「サクヤ、着替え、これで良かったかしら?」

 

パンツもどうにかなったし、お見舞いの煩いのは5代目のおかげで、いなくなってくれたし(一括とも言う)

ホクホクと病室に帰ったら、紅様がカカシさんからの伝達で私の着替えを家から持ってきてくれたらしく、(先程のセクハラはそういう訳か…)風呂敷片手にパイプ椅子から立ちあがってくれた。

私はまさかの遭遇に、思わず病室を2度確認してしまった。

 

うん、ちゃんと真の目サクヤの札がかかってる。

 

私の変な行動に紅様はきょとんとしているがそれもまたふつくしい…

っ、とトリップしてる場合じゃなかった

紅様に私の下着なんてものを漁らせてしまった不覚を申し訳なく思い、早々に受け取り。

本日の予定を聞いたら定期検診も終わったし、このままフリーだそうだ。

 

じゃあ序とばかりに、ガイさんからもらった熱く重いお見舞いのフルーツセット特盛(検査入院だし3日ぐらいしか病院にいないと言ったはずなんだがな…)から桃をいくつか出して紅様にお土産を持たせた。

その桃の入った袋を眺めて紅様は憂い顔だ…

 

桃、嫌いだったか…?

一応以前桃系のカクテル飲んでる姿を見たので行けると思ったんだが

先程までいた人たちに食いきれないからと配ったのでもう残っているのはパインとバナナしかないが…

 

 

「私、サクヤに嫉妬していたわ。」

 

「んえ?」

 

「ずっとサクヤがうらやましかったの。」

 

「まて、何の話だ」

 

「あの人の、アスマの心配、全部もってっちゃうあなたが羨ましかったの」

 

 

 

 

 

 

―――

――

 

 

 

 

「サクヤはな、俺の…

いや、俺だったんだ。」

 

そう話してくれたのはつい最近だった

アスマが座っているベットに西日が掛かり、シーツに影が出来る

この時間がたまらなく好きだった私はベットに寄りかかってぼんやりと話を聞くのだ

 

此れでも私はこの嫉妬を隠しているつもりだったの。

でもアスマは分かっていた

全部分かって私と、その嫉妬に付き合ってくれていたの。

 

「俺は自分の後ろにはいつも親父がいて、それで…」

 

言いづらそうに笑うアスマは、何時かの時を思い出す。

 

「あいつの影には常に2代目がいる…

真の目に血の括りは無いに等しい。

帰属意識も、里より一族の方が強い。

でも、周りはそうは見ないんだ。

もう、死んだっていうのに…周りは、里は、血に縋りつく。

そのくせ、真の目ってだけで何かやれば変人扱い、

良いように親の名を背負わせ

良いように、里に帰属しないと、真の目を使って中心から遠ざける…

俺はそれを如何にかしてやりたかったんだ。」

 

アスマと3代目の摩擦はある程度は、隣で見ていたから分っているはずだった。

でも、アスマは解かる

解かって、しまうのだ。

 

「俺が頑張ってもどうにかなるもんでもない事も分かってた

でも、『2代目の孫だから強いはずだ。』『頭がいいはずだ』『さすがサザミの甥っこ』『狛犬の襲来』散々な事を言われてきたサクヤを見ると

悔しくって、悔しくって、

思わず俺、サクヤの二つ名真剣に考えちまったよ、ハハッ。

今思うとヒデー名だよな…伝書鳩だなんて…

でもその時は良い名だと思ったんだ

絶対帰ってくる。

里に帰ってきてくれる。

って…

 

上忍にも推薦しまくった。

オヤジに大した会話もしてねェのに何を考えてるんだと何度も言われた。

でも、誰か、あいつの名前を呼んでやるべきだと、

あいつを知ってやるべきだと思ったんだ。」

 

誰かの名(威光)ではなくサクヤの名前を呼ぶ人は確かにあれから増えた。

 

「俺は、あいつが先祖の威光に、どれだけ目を潰されてきたのかと思うと、今でもやり切れねェ

あいつは自分の実力を普通って言うんだ。

あんだけ術に多彩で、

封印術も、結界も、戦闘に組み込める程頭がいい。

あんなに、あんなに才能があるのに…!!

全部親のせいで!!先祖のせいで!!

その努力が、頑張りが、なかった事にされんだ!!

俺はそれを如何にかしてやりたかった…!!」

 

悲痛に、鎮痛に拳を握り、アスマはうつむく

確かに陰で2代目の劣化版やら、特にパッとしない中忍とか言われていたのは私も覚えていた

『それ』はアスマにとって、かつて自分がされてた事の繰り返しだったのだろう

その声には重みがあった。

 

 

「…でも、最近そうでもねぇんじゃねえかと思ったんだ。」

 

 

掌に爪が食い込んでも握っていた拳の力は、言葉と同時に溶ける

 

「あいつ、笑うんだよ。

あの2代目そっくりの顔で、笑って泣いて怒って睨んで…

それがあいつなんだ。

 

まだ、その威光にすがりつく里の奴らも。

自分の実力も推し量れないままでも。

サクヤはあいつなんだ。ここに生きてるんだって、等身大で…」

 

サクヤは良く笑う。

からかうし、煽るし、会議はサボるし遅刻する。

問題ごとの先にサクヤがいることなんかしょっちゅうだ。

でも、皆サクヤが嫌いにはならない。

嫌いになれない。

 

「俺、あいつの事分かって無かった。

確かにあいつの力は傍目に威光で塗りつぶされてるが、あいつはそれを少なからず、誇りに思ってた。

俺が捨てた、もう、持ってない誇りだ。」

 

「そんな事っ!!」

 

そんなことはない

絶対ない

アスマだって、昔誇りに思ってたし今だって―

 

「実は俺、それを少し分けてもらったんだ。

サクヤの誇りを分けてもらって、俺は

 

サクヤを救ってやるどころか、サクヤに救われちまったんだ。」

 

笑うアスマに影は無かった。

いやーしてやられたわー

なんて言っているアスマは、それはそれは嬉しそうで…

 

やっぱり、私は嫉妬してしまう。

出来るなら私がアスマを救いたかった。

救いたかったし、救ってやりたかった。

でも、アスマを救ってしまったのはサクヤだった。

ゆっくり、じっくり

サクヤは、生きてるだけでアスマを救ってしまった

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

 

 

 

皆聞いてくれ

『伝書鳩のサクヤ』って二つ名、アスマが付けたらしい

全然知らんかったわ

誰が広めたとか付けたとか気にしたことなかったし

第一、二つ名なんて自分が自称しない限り、いくらでも流動してくものだろと思ってたので、

真剣に考えてこれって…センスが無い。

私が言うのも難だがマジセンスナイ

 

私がこの名前のおかげである意味どれだけ被害をこうむっているか…

名前ダサすぎて変な逸話広がるし、賞金が上がってしまうし…上役に良いように名前使われるし…

せめて、もうちょっとかっこいい名前を付けてくれてもいいんじゃないのか…

まあ師匠のおかげで好きにはなったが…

全く、大好きになってしまったではないか。

 

良い名をくれるものだ。

 

 

 

 

 

 

籠の底から発見した、最後と思われる林檎をうさぎさんに剥いて、紅さんに渡す。

静かなお礼の声と、私が無残にも食い散らかしているうさぎさんのシャクシャクという音が病室に響く

 

ひと段落して落ち着いた私は、緑茶を飲んで口をすっきりさせ

泣きながら、笑いながら髭クマの事を話してくれた紅さんに

私は敬意を持ってして答えた

 

「私は以前、紅さんとアスマさんが結婚すると聞いた時

『アスマのすね毛を全部抜いてからブチ殺す』と誓った。」

 

急に何言ってんだこいつという視線が天井から(多分護衛by5代目)刺さるが放置する

 

「でも、私の手で殺す価値もなかった。」

 

紅さんに頬をぶたれた。

だがその手には戸惑いがある

音の割に痛くはない

私は彼方に向いた顔を戻し、もう一度紅さんに目を合わせる。

 

「紅さんを一人置いて死んじまう奴なんて、殺す価値もなかった。」

 

大きく見開いた目は赤く、零れ落ちそうだった。

 

「アスマは、紅さんがとどめを刺してやれ。

天国で、子供の話をいっぱいして、成長が見たかったと泣くアスマの悔し涙握り潰し

里の行く先を託せる次世代の、未来の話をして、あいつが笑う様を嗤い

憤慨する様を煽り、泣きっ面に一発は確実に入れてやれ

一発…いや、一回でいい。

アスマに、

 

 

『もっと生きたかった』と言わせろ。」

 

 

 

小指を差し出す

紅様は泣いても、鼻水が出ていても、美人だった。

もう腫れてきた私の頬とは大違いだ。

 

 

「ええ!!」

 

 

紅様のイイ笑顔と共に私たちは、女の怖さを天国でたっぷり味わせることを暗部の潜む病室で誓った。

 

 

 

 

 

だが上忍推薦勝手にしてくれやがった事だけは許さねぇ

来世で絶対殴る。


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