雷の国
とある山間に、真の目の本家という物は存在する
その家は、一応初代当主の血を今も受け継いでいるそうなのだが
「あんたがサクヤちゃんか―!!よう、来はったなー!!」
と玄関先で、買い物帰りの大根が刺さった鞄を持つおばさんに、テンション高く出迎えられ、初っ端からマシンガン如くトークを繰り広げられた。
何だろう、この実家に帰った感…
別にそこまで広くもなく狭くもない普通の客間に通され私が最初に見たのは
威厳たっぷりな着物に袖を通し胡坐をかくおっさんと、来客用に据えられたお茶と、無心で羊羹にかぶりつく豆粒サイズの管狐である
「ほう、お主が…
ってコラ!!
マメちゃん!!
これはサクヤちゃんの為に買った羊羹!!食べたらあかん!!
すまんなぁ…すぐ新しいの用意するさかいちょっとまっとってや!!
おい!!母さん!!新しい羊羹あるかいな?!
あ、わし真の目サンバと申します。お手紙ありがとうな~
こんな辺鄙なところに遥々来る言うから、わし張り切って雷の国一の羊羹こうてきたさかいゆっくりお茶でも飲んでまっとってや~
マメちゃんも食べるんやったら用意するゆうたやろ!!いい加減にしなさい!!」
百面相するおっさんに威厳無く挨拶された。
一応、『真の目』の文字を頂いているので、先にあいさつの文を鷹にて送っておいたのだが、それが裏目に出たのかマジで威厳が無い。
流石真の目
管狐は妖怪であり、寿命が存在しない
なので、一家に一体管狐が存在する真の目では、その家にて受け継いでいくのが習わしである。
よってこの管狐、マメちゃんは、血筋から言って初代真の目当主の相棒と言うべき管狐のはずなのだが…
「いやや、わてはくう。ようかんは、ぜんぶわてのものや。ぜったいやらん!!」
小さい。
今迄生きて?きた時間的にもっとこう、流暢に話してもいいはずなのだが
何故かめっちゃ幼い。
そのフォルムも、精神年齢も小さい。
序に心も小さそうだ。
「そこ!!なんかゆうたか?!」
「いえ、なんでもありません。」
心を読まれたのでしらばっくれといたけど、めっちゃこいつ心狭いな…
「何 か ゆ う た か ?」
「…いえ…なんでも…」
顔ちけぇ…
ずいっと体?(顔?)を寄せてきたせいで圧迫感が半端ない
次いでとばかりにデコに頭突きを喰らった。
しっかしなんだ…ホントちっせぇ…
ピンポンドンがバレーボールサイズだとするとこの管狐は豆粒サイズだ
私にガンを垂れたと思ったら羊羹にすっ飛んで行ったのでメンチより羊羹の方が大事らしい。
脳みそも小さそうだ…
綺麗に切りそろえられた羊羹がでかく見える。
私は美味しそうな羊羹のご相伴にあずかる事を諦め、一応、未だ威厳を保とうと咳払いで誤魔化している当代の真の目当主真の目サンバさんの対面の座布団に座った。
しかし、
「そこは、わての席やああああああ!!」
さっきまで羊羹に熱中していたはずの管狐は
すこーん
と良い音を立て、腐っても客のはずな私に、ボディを喰らわせ
かわいい音の割に重い一撃は、客間から見える綺麗な庭に吹き飛ばすほどの威力を発揮し
直線的な軌道を描き、私を池に落とした。
「何すんじゃこの豆狐ぇえええええ!!」
ばざあああああ
と音を立て、水しぶきを上げ、まき散らし、私は池にいた鯉に餌と間違えられながら勢い付けて起き上がり
ボディくらわした豆狐を一発殴ると視界を広げると
そこは竹藪の中であった
その竹藪はどこまでも続いているようで
霧に紛れて先は全く見えない
サクヤは池に落とされた瞬間に時空間忍術が発動していたのを肌で感じて居た
これでも写輪眼は時空間忍術である。自分がどういう忍術に巻き込まれた位はなんとなくであるが分かっていた。(わかっていてもうっぷんを叫ぶかどうかは別問題であるが)
サクヤは、餌と勘違いして齧り付いたせいで共に連れてきてしまった鯉を粗方落とし、びしょ濡れになってしまった服を絞り、取りあえず付近を散策する事にする。
このわけ解からぬ忍術が時空間忍術である限りこの場は先程の場所ではない事は確実である
濃い霧が道を迷わせているのか、先ほどから同じ道順を辿っているようにサクヤは感じて居た。
頭によぎったのはまず幻術で、幻術返しを何度もするが違うのかなんなのか、藪から出ることは叶えられていない。
「いったい何なんだ…」
呆れと、疲れと、怒りが混ざって頭痛がしてくる。
駄々をこねて、5代目に無理言ってピンポンのお見送りまではもぎ取った
だから本当は、真の目本家に顔を出したら、サクヤはさっさと帰らなければならないはずだった。
しかし現状である
このまま1日、いやもしかして数日ここを彷徨う事となれば、帰ったら大目玉どころではないし、なんならその前に食料が尽きて餓死の可能性もある。
最悪、万華鏡写輪眼の力を使えばなんてことはないが、そうなるとサクヤの足取りが急に消えることになり、ダンゾウらへんに怪しまれてしまう。
懸念材料が全く無いのも、それはそれで考えようだが、なるべく少ない方がいい。
親指で眉間をぐりぐりとさするが頭痛は変わらずそこに在る。
やはり、あの管狐が何かしら仕掛けたのは確か。
あの池に術が仕掛けてあったのなら、鯉はずっと前からサクヤの落下地点に水と共に落ちていただろう。
という事は時空間忍術の印の類を体に付けられた可能性だ。
そうすると、サクヤにかじりついてきた鯉が、共に来たのも納得できる。
サクヤは一応納得し、先程起こった一連の出来事をよくよく思い出す。
時空間忍術の基本は術式にある。
巻物なり、クナイなりに術式を施して、それをアンカーに術を発動させる。
なのでサクヤを飛ばしたと言う事はサクヤのどこかしらに術式を書きこんだか、あるいは術の発動時、術式と間接的にでも接触している状態でなければならない。
先程の豆狐が接触したのは2回。
ガン付けられた時衝突したおでこと、重い一撃をもらったボディーだ
デコは鏡も無い今、自分の姿を確認できないので
もぞもぞとボディの確認からすると
そこには豆狐の顔がくっついていた。
「なんや~きづくん早いな~つまらん。
もっと弱ってからむさぼり喰ろうたろ思ってたんにな~」
豆狐はそう言いにゅっとサクヤの体から尾を引きながら出てくるがその実体は無いようで、捕まえようと伸ばしたサクヤの掌をすり抜けた。
雑巾絞りにしてやろうと思っての行動だったが、この様子から行くと常時透けている可能性も視野に入れておかなければならない。
これから豆狐にどう対処していくかと舌打ちを打ち、考えている顔は凶悪である
「お~こわやこわや…何をする気やったんか知らんけど、わての仕事はここまでや。あとはそこの二匹に聞き
1匹は担保としてわてが持って帰るさかい。安心しぃや」
安心できない言葉と、虫唾が走るような嫌な笑みを残して、ポンと音を立てるとその豆狐は消え
そして腰にいたはずのドンの気配も消えた。
厄介なことになった。
これではドンを助けるまで帰れない。
ピンポンなら数年放って置いても問題ないほどにチャクラをサクヤから吸引しているが
ドンは宿主から離れてしまうとそこまでチャクラが持たないのだ
省エネして3日が限度である。
そして厄介な事に、ピンポンは『父の目』のおかげで契約が強固で多少消えても分体から復活が可能だが、ドンはその増える能力のおかげで一度消えたら同じ個体は二度と復活しない。
影分身とは違って、本体がやられたとして、分体が消えることはないが
記憶の引き継ぎが出来ないので、どれ一つとして同じ記憶や、経験を持つ個体がいない
よって、私たちの知るドンは文字通り消える。
棟梁が、これらをどう統括して無線代わりに使っていたのかさっぱり見当がつかないサクヤは、未だドンを一時的なチャクラマーキングとしてしか使えていなかった。
上手く使えてやれない不甲斐なさにギリッと歯ぎしりをするがサクヤにはこの状況を打破する手段はない。
だから、
「ピン。」
「はいな」
「一番いいのを頼む」
最後まで言うか言わないかのうちに、ピンは大量のチャクラを錬り、前に向かって最大威力の火遁を見舞った
ゴウとその一帯を燃やし尽くしたピンはこんなモノまだ序の口と言うように鼻を鳴らす
「ポン」
「おう。問題ないゼ。このまま真っ直ぐダ。」
プスプスと音を立てる竹藪はサクヤの向く方向のみ綺麗さっぱり視界が開けていた。