私に、前世の名前を聞いた妖怪は納得したようにフンと鼻を鳴らす。
先程の気迫と興奮はどこへやら、その姿は只の老狐だ
「易々と名前を教えよって…やはりあのバカの姉か…」
「お前が聞いたんだろうが。
馬鹿は否定しないが失礼だな…
まあ…今はいい、私は名前を答えた。
早く記録をよこせ。」
煽るように指先でよこせとジェスチャーするが
せっかちな性格も同じかよと視線が刺さる
ンジャゴラァアと無言でチャクラを錬って威圧する
序に祖父そっくりの顔で凄む、
ある一定層の人間には良く効く顔は、こいつには効かないようで、(そもそも2代目を知ってるかどうかも怪しい)白狐は視線をそらし呆れ、私に向かって緩く息を吐く
この狐にとって緩くなので、私にとっては暴風に近い
テメゴラ!!絶対わざとだろ!!
「さて、どこから話したもんか…まずお主の『弟』の生まれから話すべきやろか…?」
にたりと笑って『弟』と言う言葉をわざとらしく使う狐は厭らしい
…ん?
いや、ちょっと待って
もしかして…
「あの~つかぬ事をお聞きいたしますが、もしかしてその記憶ってーのは…口伝…?」
「何をゆうとろう。当たり前じゃ。ワシに特殊能力なんて無い。お主の目のような便利なものもない。
なによりこの目やしな、文字も書けんし読めん。残っとるんは口伝だけや。ちっと長い話になるが…ここまで来たんやし、三日ぐらい付き合えるやろ。」
ジーザス
「いやいやいやいや?!
3日?!無理だよ!!
普通に2泊3日とか無理!!
こちとら仕事が山と待ってるんだよ!?火影が黙ってねェよ!!殺されるよ!!
それに3日も経てば豆狐に攫われたドンが瀕死だよ!!」
「2泊3日ぁ?何なまっちょろい事ゆうとる。
三日三晩じゃろ。
火影は…如何にか出来るやろ。
お主、便利な目を持ってるようやし。幻術にでもかけてちょちょいのちょいやで!!」
神は死んだ
片目を瞑ってウィンクする狐は可愛くない…全く持ってくぁいくない。
「それにどうせ、お主の管狐はマメが攫ったんやろ?
せやったら時間がたてば勝手に戻ってくる。安心せぇ。」
何一つ安心できる要素が無いが、私は鷹のピーさんが5代目に雑巾絞りされない事を祈っておいた。
生きとし生ける者、大体は忘れる習性があり
私の、弟の記憶は、ほんの少し甦りはしたが、セピアからカラーになったぐらいで声、仕草、形、そのほとんどをピンボケしたように忘れている
そしてこの妖怪もそうであった。
「あーなんやったかな…大体…1000年?いや2000年だった気もすんな…まあそこらへんの大昔にワシが生まれて…
んん?まてや…?そうなると、ワシあいつといつおうたんや?…」
「ダメダメじゃねェか!!」
悪魔の証明ではないが
ない事を証明する事はとても難しい
だが、悪魔が存在するならば、悪魔がいない事も証明できる
弟がナルト世界線に来ていない事は証明できないが
この狐が私の前世に弟がいるという事実を知っている時点で
私の知り合い範囲の人間が転生している事は確かではある。
まあ、そもそも私以外の誰かと勘違いしてる可能性も否めなくはないので、仮称弟と呼ぶ事にした。
これは本人に確認するまで呼び続けることになるので、もしかして甦ったりしない限り仮称が取れることはあまりなさそうだ。
私としては先祖(?)に弟が出てきた時点で眉唾物だったこの話
更に記憶が定かではないときた…
口伝のややこしい所はこういうとこだよな、まあ醍醐味でもあるが。
それに、先人がどう思ってここまでに至ったか興味も有ったので大人しく促す。
「まあ、時系列は今は置いておくからさっさと話せ。」
「なんや、上から目線に…わかった分かった!!話す話す!!チャクラ練るのやめい!!
めっちゃ昔の話なんやけどなー、」
最初の知的な感じどこ行った
思わず突っ込むほどにフランクになり、説明が下手なこの狐
本当に説明が下手で
何故口伝で三日三晩かかるかよぉく分かった。
マジで三日三晩かかってやっと理解した。
「ああっ?!
そうじゃないってどうゆうことだよ!!
お前がこう言ったんじゃねえか!!」
「ああもう煩い!!重箱の角突くなや!!
もっかいゆうで?!
良いか?!よう聞けや?!――…」
仮称弟は死亡と同時に生と死の狭間の空間に落ちてしまい
そこで長い間魂が彷徨っていたら、丁度通りかかった六道仙人に拾われ
ナルトの輪廻転生の輪に組み込まれたらしい。
そして記念すべき第一回目の転生時
『ナルトかよおおおおおおおおお!!!』
無事記憶を思いだし、自分の行く末が暗雲に満ち満ちている事に気が付いた
というのもこの弟、やばい事にうちはの分家に当たる男性と、千手の分家に当たるうずまき家の女性が駆け落ちした後に生まれたらしい
どっかで聞いたことあんなー…はは…
転生した当初
魂状態で会っている六道仙人や前世の事は忘れていたらしいが
7歳の時無事(?)思い出した弟は自分が今どういう立場に居るのか理解して冷や汗たっぷりに思ったそうな
「(今が戦乱期ではありませんように…!!)」
しかし、その願いも届かず、無事父と母から、未だうちはマダラと千手柱間が生まれていない事を知った。
両親は駆け落ちしたと言う通り、両一族から結婚を反対される立場にあり
弟は10歳になるまで両親と共に旅をしながら、一族の追手から逃げていたそうな。
その後、弟たち家族は皮肉にも、うちはと千手に同時に見つかり、すったもんだの末、両親は裏切り者として殺され
息も絶え絶えに逃げた先で、弟はこの白狐に出会った。
「最初は、どこかの迷い子だと思とったが、話を聞いて驚いたわ、まさか両親ともについさっき殺されて息も絶え絶えに逃げてきて、序に妙な知識なんぞもっとるもんだから…
…ワシは妖怪やから時間に詳しくない
やけど、こんな数年、10にも満たぬ幼子が、頭から被った両親の血を見て正気を失わず
に、冷静に逃亡を選択して、血を洗い流すために冬の川を潜って渡り
山の闇にまぎれ、竹藪の中を、ワシのチャクラを感知して迷わず付き進んだときたもんだ…
ワシの正体に気付くまではいかなかったものの、その知識、精神は立派にバケモノ級や」
その後、弟はこの狐と旅に出る
未だ、山と成る程大きくなかった白狐は、弟の作った竹筒に入って国を、世界を見て回ったそうだ
そこで、両親を亡くしたり、人さらいから逃げたり、と様々な理由で孤児なった人に出会い、誰かを助け、誰かに助けられ、仲間が増え、好きな人が出来て、家族が増え、真の目が出来た。
忍びに両親を殺された弟は、忍びから遠く離れた大工になり
子供に、仲間に、家族に、知識と愛情を与え
大往生して、一族総出で見送られたそうだ。
私の前世の記憶にいる弟は結構なオタクであった
何かにハマればそれにのめり込む
だからNARUTOにハマった時点で、既出の印は本人の言う限りは大体結べるし、私と違ってきっちりストーリーや人物、それからなる人物構成を全て記憶しているはずだ。
なのでこの狐が言うように弟が私と同じように転生していたのなら、真の目なんて中二な名前を付けてる感じから言って、ぜってーあいつ無双してた…
と思っていたのだが
無双した場合、この狐の他に何かしら(口伝でも書物でも)記録が残ってていても可笑しくないので今生の記憶を掘り返したが、私の遺跡文書の知識を持ってしてもそれに当たるような事柄は思い出せなかった。
風が吹けば桶屋が儲かると言うように、仮称弟が何かしらのバタフライエフェクトを起こしてる可能性もある
一応私の知る範囲で、原作と違うとこをを思い出すが
私の記憶力は頼りにならないらしく、目についておかしい部分は私と父や叔父達だが、
ストーリー的に矛盾する部分は無い。
もし仮称弟が起こしたバタフライエフェクトがあるなら
今迄カンペ通りに来た道筋から言って、原作ナルトに集束する力も証明されることになりそうである
私はこの話が嘘であって欲しかった
「お主の弟は、まだ両親が殺される前、蝦蟇に会ったそうだ。
そこでとある予言を与えられたと聞く。
蝦蟇は夢を見んそうだな…」
「…」
「せんじゅつとやらは知らぬが、ワシとてこの話位はちゃんと覚えとる
予言はこうじゃ『お前さんの家族がこちらに来て、大暴れする。』
あ奴はその言葉を聞いてすぐピンと来たようだ。
三日目夜、焚火の前で座り込み、話を聞いていた
薪がぱちぱちと爆ぜあたりを照らすが、相変わらず辺りは濃い霧に包まれていて様子は3日前と変わらない。
膝を抱えている私の横にはもう整理された荷物が置かれ出立の準備はできていた。
「…最後に、一つ確認したい。」
「別に最後にせえへんでもええやろ…
ああ、分かった分かった!!分かったからチャクラ練るな!!
どうぞどうぞ!!もう何でも聞きや!!」
この狐は何か聞くとすぐ屁理屈が帰ってきて話が横にずれる
チャクラで圧すのも慣れてきた。
「私の父、作間はあんたに何か渡さなかったか?」
「なんや、弟のことちゃうんかいな…薄情な奴やな。
そやなー…ワシは作間にお主のもっとる管狐を渡したんと、嫁はんが身籠ったっちゅう報告の2回しか会っとらんから何も貰っては無いと思うで。心配ならマメに確認させよか?」
「いや、いい。
解かった、ありがとう。」
「…作間のゆう所の等価交換や。礼は他ん事に取っとき。」
「…いや、礼を言わせてくれ。
あんたのおかげで大方の問題は解決した。
感謝する。」
「なんや、分かったんか?」
「分かってはいない。だが憶測だがこれで大体の事が納得いった。
そうだ、感謝序に一つ情報をやる。」
3日前に出した野外焚火セットの火を、足で砂をかけ消す。
途端、辺りが暗くなるが、一気にチャクラを錬り上げ、目を万華鏡にする。
私の放出する光と熱であたりの空間が照らされ捻じ曲がる
「お前は、私や仮称弟の真名を知ることで、この世界に私達を縛ろうとしているんだろうが…
その名前、偽名だ。」
忍び舐めるな
そう簡単に情報喋るわきゃなかろう。
私は答えた。
「山田花子」と
日本ではよく使われる偽名らしい偽名だ。
山本とかも考えたが山田が一番わかりやすい
仮称弟もそう思ったのだろう。
山田の姓にこの白い山は納得をした。
つまり外国人の可能性は減った。そして私の弟の可能性が少し上がる。
忍びから遠く離れた大工になったとか言うが、中身は忍びそのものではないか。
名を偽り、姿を偽り、暗躍する。
狐は目を大きく見開き停止している
これ幸いと、私の体が白い炎に溶けるように、燃えるように消えていく。
やはりこの術、発動ロスが難点だ
視力が無くなるのはごめんだが、もう少し速度を上げたい。
もっと大量にチャクラを錬り込めば早くなるだろうが、それでは私の方が先にばてる。
最後に見た顔は、泣き顔だった。
修正される可能性大だが取りあえず乗せておく