2度目はサクヤの方が覚えてないと思う。
俺は、おでこの痛みと、日に透かした髪が白く淡く青い空に広がって、赤い目が俺をとらえて離さなかったことしか覚えてなかった。
「サクヤー!帰んぞー!!」
「うぃー」
木の葉の公園は子供でにぎわっていた。
親が戦争に出ていることが多く、面倒を見る人が少ないので必然的に公園に集まるのだ。
そこで各々好きなように遊ぶ子供もいれば、仲間を集めて遊ぶ者もいる。
余りに多い子供に木の葉は公園の数を増やす計画を立てたほどだ
中でも一番広い、木の葉成り立ちを書いた石碑の立つ公園は人気であった。
遊具も何もないが、鬼ごっこ、影踏み、氷鬼等走る遊びには最適だったからだ。
そして石碑が丁度障害物となりその遊びは平面では無く立体になる。
そんな石碑の陰に一人しゃがんでポツンといる少年は浮いていた
ぶつぶつと何かを唱えながら、ゆっくりと石碑の文字を指で追って行く姿は少し…いや、とても異様だった。
「ねえ!!」
「人が足りないんだ。」
「遊ぼう?」
様々な子供が少年に声をかけたが、その誰一人にも気のいい返事をしない少年はそのうち相手にされなくなって行った。
「なにやってるの?」
「やめとけよ、あいつ変な奴だから。話しかけると食われちまうぞ。変人で有名なんだ。」
うちはの子供は、うちはの集落の中にすでに公園があるので、そこ以外に行く事は少ないが、無いわけではない。
イタチは、シスイに木の葉石碑公園での立体的な鬼ごっこの話を何度もされており、この公園で遊べることを心待ちにしていた。
しかし、イタチは未だ4歳になったばかり、シスイに連れてこられたものの、来るまでで体力を使い果たしていた。
なので、大人しく公園の隅で立体鬼ごっこを眺める事にしたのだ。
うちはにある公園は、うちはの者しかいないので盆暮れ正月に見る顔ぶれと、あまり変わらない。
だから一族以外に知り合いが居ないイタチにとってはある意味公園デビューになる。
その公園デビューに水を差したのが件の少年である
短く切られた髪はつんつんと秋晴れの空に向かって跳ねているが、本人は気にしていないようだった。
「サクヤぁ!!!まだか!!」
「んぁー」
公園の入り口で、黒い出で立ちの大人が少年をしきりに呼んでいるのだが
その返事は生返事でしかなかった。
イタチは大人の言う事を良く聞く子供だったので、その少年が親に生返事を返して、全然動かない姿を見て、気付いていないのかと、お節介をやく。
しかし、肩をつんつんと突いたみたものの、少年は無図がるように体を揺らしただけでその場を動こうとしない。
「ねえ、きみのおとうさんよんでるよ?」
「んー」
「サクヤぁ!!!先帰っちまうぞ!!良いのか!!」
「…。」
終いには返事もしなくなった。
と思ったら少年は突然勢い良く立ち上がる。
タイミング悪く少年の手元を覗き込んできたイタチは、視界に白が近づき
頭突きをおでこに喰らい、ゴンッという音と共に倒れた。
「って…?誰?」
その少年はそこで初めてイタチの存在に気が付いたようだった。
鈍い紅い目をイタチに向ける姿は子供だが、イタチは言い知れぬ恐怖を感じた
そして、じくじくと痛みだすおでこに泣き声を上げたのだ
少年は、一部始終見ていた黒い出で立ちの大人に拳骨を喰らい
イタチは公園デビューが、涙の幕開けになった。
おでこの痛みと、紅く鈍く色を発する目
下から見上げた時、青い空に広がる透ける白色を忘れられなかった。
あの、恐れを抱いた目の意味を知りたくて
以降イタチはあの日の少年に会いに、何度も、足繁く、公園に通ったが
それ以来少年は公園に姿を現さなくなった
イタチはあの日少年が何を読んでいたのか分からなかったが、あんなに真剣に読んでいるものが面白くない訳がないと一足早く、母や父から文字を習う事にした。
あれを読めば少年の心の内を知れるだろうと考えていた。