「これからは他人だな」
そう言って別れたテンとコマだったが、再会は比較的早かった。
同じアカデミーに通っていたというのもあったし、イタチのクラスが上級生の組手に混ざる機会があったのだ。
「それじゃぁ始めようか~。このクラスは忍組手は初めてだったね~まずこうやって印を組んで―…」
教師が説明するそばに集まって皆一様に聞いていたが、
コマに自分だと気付いて欲しくて視線を送りまくり、そしてそれはすべて不発に終わっていた。
コマが別れ際に発した『他人』という言葉がテンに重くのしかかる。
しかし、神は人に二物も三物も与えるようで
イタチは忍びの才能と、更に諦めないド根性を持っていた。
他人になったのならまた1から関係を作り直せばいい。
そう思い、どうにか接点を作ろうと周りにコマの事を聞いて回るが
「ああ、あいつ?変人の真の目サクヤだろ。」
「なんか2代目の孫だかで特別らしいよ。」
「特別処置な。飛び級してる授業とそうじゃない授業とあるらしいぜ。」
「あたし、真の目の藪に、2代目がベソかきながら突っ込んだ犯人って聞いたよ。」
「俺この間里の図書館で奈良家の大人に引きずられてくの見たぜ。ぜってーあれ説教だ。」
「僕、あいつが川で流されてるの見た。」
「「「「「…え?どういうこと?」」」」」
「いい子なんだけどね~なんか子供っぽくないんだよね~いい子なんだけどね~」
しかし優秀なのは変わらず、飛び級制度を使っていると聞いたのはイタチにとっては朗報であった。
「(俺も、早くサクヤさんに追いつこう…。そしてサクヤさんに意識されるくらい優秀になるんだ…!)」
アカデミーの授業レベルの低さに嫌気がさしていたイタチは、このつまらない時間をサクヤへのアピールに使おうとしたのだ。
しかし、その作戦はいきなり暗雲を垂れこませることとなる。
当のサクヤが授業にあまり真剣では無かったのだ。
いくら優秀なイタチでも、授業を聞いてない相手に張り合ってもどうしようもない。
そして酷い事に、サクヤは意識どころか、気づく素振りもなかった。
サクヤに友人という友人はいないらしく
いつも一人でボーっとつまらなそうに授業を聞いては先生に注意されていた。
イタチはサクヤが何故このつまらない授業を大人しく聞いているのか不思議であった。
「(遺跡で会ってた時は、あんなに楽しそうだったのに…。)」
オタクは得意分野の話をふられると、猛烈に喋りたくなる生き物だと言う事をイタチは知らなかった。
座学は大体聞いてない。
実践演習では時間稼ぎの捨て駒に使われていることが多い。
投擲の授業はサボっている。
体術の授業では常に避けるばかりで、攻撃に転じるのさえ諦めている様だった。
「さ~く~や~」
「待ってください、これはデフォルトなんです。仕様です。避けれる攻撃を無理にうけるなんて私には無理です。」
「そういう意味じゃな~い!!ちゃんとやらないと居残りさせるよ!!」
サクヤはそのまま誰にも勝つことなく、そして負けることなく時間を潰していった。
イタチはその間に5人抜きをしていたが、そのアピールは空振りする。
結局体術の授業では、二人が組むことは無かったし
イタチはサクヤの他人のふりに負けて、アカデミーではついに話しかけることが出来無かった。
―――
――
九尾襲撃事件の後、飛び級で卒業試験を受けたイタチは、下忍説明会でサクヤも同時期に卒業していたことを初めて知った。
今回飛び級したのはどうやらサクヤとイタチだけだったらしく、12歳以上の子供の中で9歳と7歳の二人はある意味悪目立ちをしていた。
説明会まではまだ時間があり、イタチは思い切ってアカデミーでは話しかけられなかった勇気をここで使う事にする。
「俺、うちはイタチと申します。貴方は…?」
「…真の目…サクヤです。」
やっと名前を聞けると思い話しかけ、名乗り、名乗られたのだが、その会話は弾むことは無かった。
しかし、答えてくれたことが嬉しかったイタチは、サクヤのテンションがガタ落ちしたことに気付かず、更に話しかけしょんもりする事となる。
「あ、えっとその。今回飛び級卒業したのって俺たちだけだそうですね。一緒の班に成ったりするんですかね?」
「…多分ないと思うよ、基本上忍を入れたフォーマンセルで動くらしいから。ここに一人入れるよりバランスを考えて足りない所に補充する方が現実的だ。」
「あ、そうですよね」
そっけない言葉にイタチは自分が何かしてしまったのかと思案するが答えは出なかった。