下忍になってからは二人が会う事は無かった
お互い違う班だったと言うのもあるし
サクヤが優秀であったというのもある。
中忍二人の班に入れて見劣りしない立ち回り、1年もしない内の中忍試験出場、班員の死亡、隊長の負傷により初期班が解散したりと様々な事があった
イタチは風の噂でサザミの甥っ子が中忍試験でやらかしたらしいとか、伝書鳩のサクヤが仲間を皆殺しにして帰って来たとか、真の目のモヤシが暗部入りした等聞いていた
しかし、そのすべてが本当ではないとイタチは考えていた。
火影の狛犬に会うまでは。
イタチが中忍に上がり、暗部に入る頃
イタチより2年ほど早く暗部にいたサクヤは、どっぷりと暗部に染まっていた。
あの透き通る白が暗部に居ることにイタチはすぐに気付いていたが、下忍説明会の時を思うと、話しかけられないでいた。
「今日のメンバーは少し変則で、ロ班から2人、イ班から1人、あと狛犬に入ってもらうから仲よくしてね。」
隊長であるカカシにそう言われて、イタチはこくりと頷く。
が、聞きなれない名前を聞いたことに気付き、イタチは疑問を声にする
「狛犬…?」
「ああ、初めてだっけ?
通称コマ。
火影のいう事しか聞かないから火影の狛犬なんて呼ばれてる。
お前と同じ年ぐらいに暗部に入ったやつだ。
まあこの話は色々長くなるから、本人にでも聞いてみるといい。
丁度来たことだしね。」
「…?なんの話っすっか。」
待機所に入ってきた狛犬の面を付けたその暗部は、短い髪がつんつんと跳ね上がり、薄暗い照明の中、ポツンと、まるでそこだけ切り取られているように白かった。
イタチはその髪に見覚えがあった。
「…今日の作戦に参加するロ班のイタチです。よろしくお願いいたします。」
下忍説明会の自己紹介を忘れているかもしれないと思ったイタチの、丁寧なあいさつにコマは、ぼうっとイタチを眺めると「うん」と返事をするだけで、見かねたカカシに肘鉄を喰らった
「いたい…暗部は何時から暴力が横行する現場になったんだ…」
「うん。じゃない!
挨拶されたらちゃんとあいさつしなさい。
ていうか、暗部に暴力も何もないデショ!!」
コマはため息をこれ見よがしに吐く
次いで頭に平手が飛んできたため、大人しく自己紹介する気になったようで口を開く
が、それは叶わなかった
「うげっ」
「いや~悪いねイタチ君。こいつ常識ってもんを知らないから。」
部屋に本日のメンバー最後の一人が来て、コマの頭にどしっと肘を乗せたからだ。
「デタラメ人間の万国ビックリショーの先輩らよりは常識有りますよ。
それにこいつが噂のイタチならもう自己紹介は下忍の時にしたんだよ。」
「それでも挨拶はするってーもんだ!!」
あの自己紹介を覚えている事にイタチは驚き、そして、少しうれしかった。
イ班の忍びに体重をかけられ、序とばかりにカカシに肘を乗せられ
2人分の体重がのり、沈んでいき、うめき声を上げる姿を見ると、コマはこの暗部という薄暗い所にとても馴染んでいるようだった。
「…真の目サクヤ…所属班は…特にな…し。
…よろしく…お願…い…しま…す…。」
絞り出すような『よろしくお願いします』が出た頃には『火影の狛犬』の威厳は無くなっていた。
「どうした?」
カカシ達と別れ、サクヤとツーマンセルで任務に当たったイタチは
まるで囮の様に、敵めがけて飛び出していったコマを追いかけ、辿り着いた先
その光景に唖然とした。
血の一滴も付けずにイタチの元へやってくるサクヤの後ろには、その白い髪と真逆の、鮮やかな赤い海が広がる。
まだ息のある者が何人かいるのかヒューヒューとわずかな音が聞こえる。
意識が後ろに取られていることに気付いたサクヤ
「あ、悪い。
来る前にどうにかしようと思ってたんだが…ちょっと待て、処理するから。」
その言葉と共にサクヤは振り返り、火遁の印を組む
寅の印で止まった手、イタチの目の前が轟音と共に白く染まった。
イタチは咄嗟に写輪眼を発動させたが、それは正しい判断では無かった。
葬儀の様に粛々と、当たり前の様に温度差に風が通り過ぎ
人の焼ける臭いさえしない。
殲滅だとは聞いていた。
だがここまで惨いとは思わなかった。
幼き日見た戦争の光景がフラッシュバックする
サクヤの寸でまえから跡形もなく燃え尽きた光景に思わず嘔吐く。
イタチは胸糞悪い感情を押さえるのでいっぱいであった。
これでは何も残らないではないか。
遺体が残るだけ、未だあの戦争の方がましであった。
苦しげに歪んでいた顔が白に燃やし尽くされて行く様をまざまざと、写輪眼で見てしまった。
命の燃え尽きるさまは後には何も残らず、イタチの目には、それがまるで
見られたくないというように
サクヤが、自分の異常性を必死で隠しているようにも見えた。
錬られたチャクラが多かったのか、サクヤの呼気は熱を帯び、勢いあまり2、3回と白い閃光が瞬く。
サクヤのチャクラが落ち着き、前方が開けると
視界いっぱいに広がる白い煤けた空間は、すべてを
サクヤの処理という言葉が耳に残って何度も聞こえる
自分もいつかこう処理されるのだろうか、いや
どうせ殺すなら何故命を残しておいたのだろう。
残した命でいったい何をするつもりだったのだ
「集合の時間だ。行くぞ。」
イタチの様子に気付いたサクヤが、この場から離れるのがいいと考えたのか、動けないイタチの腕を引っ張り背中におぶる。
今は、そんな気遣いより、その火遁の意味を教えてほしかった。
言い訳をしてほしかった。
しかし、イタチの心の声など届くはずもなく周りの景色は風の様に早く進み、振動を少なく、忍ぶ足運びは慣れているようで、イタチは無性に、真っ黒なコマ(暗部)では無く、あの真っ白なコマに会いたくなった。
集合場所手前で降ろされたころには吐き気も収まり、普通に歩く事が出来た。
林を抜けたところにはカカシ達がもう集まっていた
怪我はしていないようで、風下である林の中に血の匂いは漂ってはこない。
サクヤは、危なげなく歩くイタチに、後ろ手に声をかける。
「暗部は、…胸糞悪い仕事と、肉が食えなくなる仕事と、血の無い地獄を作る仕事で出来ている。それも一つ一つ来るんじゃなくて、全部一気に来る。
お前、暗部に向いてないよ。
優しすぎる。」
イタチは、カカシを班長とするロ班に配属された時、試しとばかりに手裏剣や苦無で攻撃された事を思い出した。
あれはそのままの実力を試されていた。
以来そういう事は無かったが、これは、覚悟を試されている。
止まった足音にサクヤは振り返る。
イタチは真っ直ぐ前を向いてサクヤに答えを返した。
今更戻れない、俺は暗部でいないとならない。
里の為に、一族の為に、自分の幸せ
「向いて無くても、俺はここにいないといけないんです。」
何もあの光景を初めて見たわけではない。
本当は吐き気を催す光景なんか何度も見て来ていた。
父に連れ添われ戦争に行った時も
里が九尾に襲われた時も
仮面の男によって仲間が殺された時も
思えば、イタチの節目には血と争いの記憶しかなかった。
忍びの仕事を考えればそれは普通の事なのだろう。
しかし
イタチにとって唯一、血と争いの香りが漂ってこない記憶は
サスケや家族の記憶と、コマと過ごしたあの長くも短い記憶だけであった。
これ以上、イタチはあの記憶に何のエフェクトもかけたくなかった。
イタチは、あの優しい記憶をそのまま、胸の奥に閉じ込めて置きたかった。
狛犬がどういうモノか分かっているつもりで
しかし、あの優しい日々の、空に溶けだしそうな少年がそのままそこにいると思っていたイタチは
全て優しさで出来た『それ』に、気持ち悪さだけが重く残る。
サクヤの背中で、イタチは『火影の狛犬』の優しさと、柔さに触れた。