なんやかんや言って、イタチはサクヤの家に通ったし
その後イタチの家に来たサクヤは、サスケの誘うままチャッカリ、夕飯まで食べた。
家族にサクヤは好評で、父であるフガクまで、サクヤと話をしたがってたいる様子を見せた。
サクヤは
「私というクッションを置いて家族とコミュニケーションを取りたいだけだよ。」
等と言っていたが、あれはどう見たって、サクヤに興味があった。
イタチはあの日、詮索を大拗ねモードで回避した事が切っ掛けで、父や母、サスケがサクヤに興味を持ったことに気付いていなかった。
「最近火遁の成功率が下がってんだよね…まあ前から低いんだけど、どうも力推しでチャクラ練ると失敗するから、コントロールしようと調節するんだけど、そうなると火力が足りなくなるって言うか……
端的に言うと、減速する。」
「そんな難しいのか?普通の火遁より、チャクラ比率がだいぶ高いとは思ってたが…」
イタチとサクヤの二人が縁側で話していると、決まってフガクはサクヤを挟んで縁側に座る。
イタチはそれが少し嫌であった。サクヤはイタチの客であるのに、フガクを相手にすると、サクヤはイタチをいつも蔑ろにするのだ。
その日も変わらず
「あ、お邪魔してます」
「来たか。」
から始まったフガクとサクヤの会話は、イタチを通り過ぎて隣からの声に変わった。
「確か、お前は白い火遁だったか…。うちはではお前の祖母のニヒトさんが有名だったな。」
「あーなんか聞いたことはあります。
勢い余って初代の髪燃やした人でしたっけ?
ん?や、違うな…これは叔父さんの方か。
えーっと……樹海降誕を端から燃やしてった人だっけ?」
「……概ね合っているが、その簡潔すぎる説明は誤解を呼ぶぞ。」
「いや、ブーメラン…。サスケ君、最近フガクさんに構ってもらえないって拗ねてましたよ。フガクさん散々サスケ君の話するのに何言ってんだとか思いましたよ~。」
「…。」
急な話の転換に着いて行けないフガクは新聞を開いて黙する
後ろでミコトがくすくすと笑い、サスケが顔を真っ赤にしてサクヤに突進する。
サクヤが誰かと話すと、いつも周りが巻き込まれる。
周りを巻き込んで会話をするのに、なぜこの人が友人と言うものを作れないのか不思議であった。
「俺は本家筋ではないからな…あまり武勇伝は知らないが、お前はもう少し先祖を敬ったらどうなんだ?」
話しを無理やり元に戻すフガクにサクヤは
「じゃあフガクさんはもう少し家族を顧みるべきですね。イタチ君にこの前脛蹴られたんですけど。どういう教育をなさっているので?」
無い眼鏡を上げるふりをして、教育ママを演じる。
サクヤを真似てサスケが「どういう教育をなさっているので?」と繰り返すので
イタチは笑うしかなかった。
「あなた、お茶を入れてきますね。」
イタチにつられて、ひとしきり笑ったミコトが席を立つ
と、サクヤはイタチとサスケに目配せをする。
「おいテメェ、まさかミコトさんを顎で使える立場だってゆうんか?ああん?」
とばかりに厳しい視線が刺さるのでイタチとサスケは二人そろって立ち上がるのだ。
早々にお菓子を持って、サクヤの隣に移動するサスケは、自分の立場をよく分かっている。
イタチは、まだ余所行きの顔で可愛がられているサスケに、『今の内だけだぞ。』と視線を送ってミコトの手伝いをする。
縁側から父の笑い声が響いて、サスケが何かを話す声が聞こえる。
何を話しているのか、そわそわと気にしているイタチを見てミコトが口を押えた。
押さえないと大笑いしてしまいそうになるのだ。
「イタチ、いいのよ。あとは私がやるわ…気になるんでしょ?」
的確な母の言葉にイタチはなにか負けた様でムッとする。
縁側から今度はサクヤの笑い声が聞こえる。
ずっとこうであればいいのにと願ってしまうのは罪であろうか。
しかし、サクヤが
この家に来るまでの間、掛けられる言葉の数々を思えばそれは願えなかった。
「千手が何の用だ。」
「うちはを里端に追いやった千手だ…」
「あいつさえいなけりゃ、うちの倅だって活躍できるってのによ…」
「第一あの任務で生き残っているのがあいつだけって本当かよ…全部あいつが殺したんじゃねえのか?」
「目さえなければただの雑魚だろ。」
お年寄り相手になればサクヤの祖母の逸話が未だ残っているのか、好意的に接してくるものが多いものの、木の葉にクーデターを仕掛けようとしている一族としては、千手であるサクヤは目の上のタンコブだった。
千手とうちはの友好の証しであるサクヤは
千手でも、うちはでもあるサクヤは
どちらかが互いの血を認めない限り
どこまで行っても、どちらにも属せない。
サクヤが真の目であって本当に良かったとイタチは思った。
自分だったらこの板ばさみは、木の葉と一族との板挟みと同じくらいに辛い。
必然的にイタチは、用事があればサクヤの家に行くようになった。
―――
――
「ねえ、それ、どうにかなんないの?」
「無理ですね。俺の親友が亡くなったんです。もうちょっとかける声が違うでしょう。」
辛辣ながらも、サクヤがイタチを気遣ってくれている事は明白であった。
イタチの親友たるシスイが自殺したことはもう里中に行き渡っていた。
何せ『瞬身のシスイ』なんて二つ名が通っていたぐらいである、見なくなれば誰だって気付く。
「今日の任務無し。これから私暇なんだけど。あんた暇?」
イタチは、あまり『うちは』には居たくはないが、サクヤのその言葉に二つ返事で乗るほども元気も無かった。
今は、放って置いて欲しかった。
先日の諍いが頭をよぎる。
身内に疑われるのは辛いものがある。
是とも非とも言い難い態度で、言葉を濁していたらイタチの手はサクヤに引かれた。
おおよそ、思っている事を察したのであろう
引れる手の向くまま行く道は、良く通る道のりである。
玄関先で、いつもの如く真の目のお年寄りからもらう飴やクッキー、御饅頭等のお菓子は、イタチの胃袋の中に早急に詰め込まれる。
この量を突っ込んでもまだ飯が入るのだから忍びって凄い。
もはや恒例行事となっている光景に、サクヤは微妙な目を向け、頬袋と、ポケットが菓子でいっぱいになった頃、サクヤはイタチを家に招き入れた。
しかし、玄関でサクヤは靴も脱がず鍵を手に外に出て
庭に向かうと、隣接している蔵の扉を開けた。
淡々と、何かしらをしていることは分かっていたが、その手元は暗くて、夜目が利くうちはでも見えなかった。
この蔵はどうやらカラクリ屋敷らしく、あちらこちらからカチカチと音が響き、鐘まで鳴るものだからイタチは驚く。
「なんだ、この蔵…?」
「あれ?イタチ君が知らないなんて珍しい。
こういう時いつも『全て知ってる』とばかりに尊大にふんぞり返ってるのに」
煽りの入った言葉に『俺だって知らない事もある』と言わんばかりにイタチは睨むので、サクヤは苦く笑うしかなかった。
その態度自体が尊大であることはイタチは分かっていない。
サクヤは藪蛇をつついたと、話を元に戻す。
「…私の父『作間の蔵』だよ。
私も全ては把握してないけど
ここん中、結構貴重忍術の宝庫で、なんだかわからないけど封印されてたり、妙な所に結界があったり、なんとなく集めたカラクリが仕掛けてあったりするから気を付けて。
イタチ君の事だから、無闇矢鱈に触ることはないと思うけど、ここで何起きても自己責任って事で。」
そう言ってサクヤは蔵の真ん中
巻物や本、レンジにネジ、歯車、何のためか燃えた竹筒が散らばる中、唯一空いているスペースに腰を下ろした。
後ろの扉は閉まると同時に、カラクリと結界封印が静かに牙を研いでいる。
天窓があるのか、東から降ってくる光は書物の森を少しばかり照らして、影はサクヤを閉じ込めた。
サクヤの赤い目が、わずかな光を反射して暗い水槽(蔵)の中で浮いて、まるで写輪眼の様に鈍く光っている。
この目をイタチは知っていた。
イタチがサクヤと言う人間を、初めて認識した時
恐れを抱いた目
諦めと、戒めと、矛盾を抱えた、イタチを見ていない、空っぽの目だ。
これは、逃げられそうにない。
前門の虎、後門の狼
イタチは逃げる事を諦めて、これから来るであろうサクヤの質問を、躱すことに神経を注ぐ事にした。
「さあ腹を裂いて話そうじゃないか!!」
ニヤッと悪い顔で笑うサクヤ。
イタチは知っている。
これは、只笑ったら悪い顔になってしまった時の顔だ。
しかし天井から降る光のコントラストで、悪い顔に拍車がかかって完全に悪い顔である。
イタチは唾を飲んでサクヤを見つめた。
任務には守秘義務がある。
それが例え師であれ、親であれ、それを口にすることは里に仇なす事とされ、発覚次第、即刻首が物理で落ちる。
況してや、イタチの持つ二重スパイの情報はそう易々話せる内容ではない。
が、サクヤには幼き日から今この時、イタチを、延いてはうちはをある意味助けた
イタチが漏らす情報に待ったをかけたおかげで『うちは』が未だ生きている。
サクヤの優しさと、柔さと、賢さが生んだ恩である。
それを正確に解かっているのはイタチだけだ
そして、うちはの門外不出の機密情報を外に出して、危機に陥れたのもイタチなので
返済義務があるのもイタチ一人である。
もしかして自業自得…
もしかしなくても自業自得。