夕刻、豆腐屋の笛の音が辺りに響く。
イタチは来る途中サスケに「修行!!」と引っ張られて行き、姿はない。
サクヤはミコトと、夕飯を手伝う約束をしたのでイタチ宅まで来たはいいが、先程ミコトが豆腐を買いに、つっかけをかけて出かけてしまっていた。
サクヤは今日のメニューを冷蔵庫の中身から勝手に推測したり、材料を切ったり、必要そうなものの調味料を測って置いたりと下準備をして待っていたが、それも全て終えてしまって…
端的に言うなれば、暇であった。
帰ってくるのが遅い…。
しかしサクヤは、大方ミコトが近所のおばさん衆に捕まり、話に花を咲かせているのは分かっていた。心配は必要なさそうである。
そうと分かれば、勝手知ったる何とやら。
人んちの冷凍庫を勝手に漁ってアイスを2つ発見したサクヤは、意気揚々と口に突っ込んで休憩きゅうけーいと腰を下ろした。
しかし、意気揚々と腰を下ろしたは良いものの、じわじわと不安が込みあがってきて、冷や汗が頬を伝った。
もしかしてこのアイスはイタチのだったかもしれん…
どうせ怒られるなら巻き添えを…ともう一人いるはずの家の中を彷徨っていたら縁側にその姿を発見する。
一声かけて近寄るがその人は気分が浮かないようで、返事もなくただ庭を眺めるだけであった。
何かしてしまっただろうか?と一瞬サクヤは思案するが、今のところ心当たりしかないので、考えるのはすっぱり諦めて本人に聞く事にした。
もう一度口を開こうとするがしかし、その言葉は飲み込まれる。
「近いうちに、イタチがお前に助けを求めると思う。
もし、その時が来たらイタチを助けてやってくれ。」
鯉を眺めながら話すフガクの表情は見えず、ただ鯉だけが水面を揺らしていた。
サクヤはフガクの頼みに、はっきりと返す。
「いやです。」
サクヤのあまりな答えにむっとしてフガクは振り返る。
そこには人の家の冷凍庫を漁って出てきた、アイスが差し出されていた。
フガクは人工的な水色を数秒睨みつけ、ため息をついて受け取る。
大方一人で食べるのも気が引けたので、家長でもあるフガクに差し出して、イタチの追撃を免れようとしているのだろう。
そう予想したフガク。
大正解。そのままである。
ソーダアイスを咥えたフガクをサクヤは笑う
「似合わねー!」
フガクは、これからの事考えると、こんな嘲笑どうって事は無かったが、イラついたので嗤うサクヤの脛にチョップを入れた。
あだっ!!
と言う声と共に、蹲り、転がる姿は忍びに非ず。
「話し戻しますけど…
イタチ君は自分で勝手に助かるんです。
イタチ君を助けるべきは私じゃない。貴方達『うちは』だ。」
ひとしきり転がって痛みが落ち着いたサクヤは、よっこらせとフガクの隣に腰を下ろした。
「だが、お前も『うちは』だ。
写輪眼が開眼しているだろう。」
「…よくご存じで。」
サクヤの写輪眼の開眼は、サクヤの内では最極秘事項であった。
知っているのはサザミ位、それも開眼して数日、舌の根も乾かない内に封印されているはずで、もし知っているならば監視の類を付けられる里上層部だろうとサクヤは考えていた。
これはヤバイ事になったな…
どこから漏れたんだか…
サクヤが頭をひねらせていると、フガクが簡潔な答えをくれる。
「サザミから簡易的な封印の方法を聞かれた。」
「成る程。」
思わぬところから漏れたものだ。とサクヤは感心する。
それと同時に、このうちはフガクと言う者が、とても頭の切れる者だと言う事を認識した。
サザミとて素直に聞いた訳ではないだろう。
さりげなく、大胆に
しかし、そうと分からぬよう、言葉を使って、視線を使って、ありとあらゆるものを使って、このうちはフガクから聞きだしたに違いなかった。
それをしてなお、フガクは少ない情報からサクヤの写輪眼開眼に辿り着く。
切れ者、それも奈良シカクに引けを取らない。
ダンゾウがうちはを、いや、『フガクを族長に収めたうちは』を警戒するのも分かる。
そのキレを持ってして、この人は身内に甘い。
いや、優しさと言うべきか。
一応部外者で、仮にも倒すべき火影のコマであるサクヤに、それを頼むのはお門違いだ。
この者は、クーデターに失敗した場合、イタチだけは助けろと言っているのだ。
「確かに私には、うちはの血が、流れています。
でも千手の血も同じだけ流れてます。
そして、私は真の目です。
どちらでもない、真の目なんです。」
サクヤの言葉にフガクはふっと息を溢して笑った
そして過去、狛犬と言われた人を思い出す。
『俺は真の目だから…困っていたら、手を貸さざる負えない。
だから俺の前で困るな。』
酷い言い様だと思った。
でも同じぐらい優しい言葉だった。
困っていたら絶対手を貸してくれる、一緒に悩んでくれると言うのだ。
隣で呑気にアイスを齧っているサクヤは、真の目。
誰にでも手を貸す、真の目。
それは誰も助けないが、誰かに手を貸すことは出来ると言う事。
親子そろって言葉遊びが過ぎる。
そして、親子そろって、この『真の目』の手を借りるのだ。
「イタチを、頼んだ。」
フガクの持つアイスは溶けて落ちかかっている。
サクヤは、ぼたぼたと落ちていく液体に、気付かないふりをした。
アイスはスタッフ(鯉)が美味しくいただきました。