うちは一族抹殺は成した。
イタチと、
サクヤはこの記念すべき(?)第一回情報取引にて、里に侵入している人物をマダラと決定づけるには早計だとイタチに言って聞かせていた。
「イタチ…『マダラ説』を信じたい気持ちも分かるが…はっきり言ってそのうちはにある遺跡の目撃情報だけじゃ、それは真実とは言えないんじゃないか?。
『うちはマダラ』じゃあ、話が大きすぎて俯瞰して見れない。
それはとても危ない事だと私は思う。」
イタチの話から『マダラ』の言葉が出た時点でサクヤの頭の中にはオビトの名前が浮かんでいた。
しかし、カンペをそのまま伝えることは出来ない。
何故なら、その情報の出所が『前世』と言う、論も証拠も何もない所からだからだ。
よって、このイタチの『マダラ説』を、サクヤはどうにかして、オビトまでは行かないが仮称マダラまでには持っていきたいところであった。
しかし、イタチは1を言って10を理解する者…
イタチには、イタチなりの推測がある。簡単には説得されてくれない。
「そうは言っても、現状
木の葉の結界を潜って来られる技術を持っていて、更に里の外から単騎でそこに行く必要のある人物なんて…
かつて里を滅ぼしたがっていた『うちはマダラ』しかありえない。
俺も最初は里外の勢力だとは思ったが…
遺跡には写輪眼を持つものしか通れない仕掛けが付近にたくさんあった。
状況的に写輪眼を持っていることは確実。」
「状況証拠だけが証拠じゃない。
真実はいつも一つじゃない。
人間が動いているんだ、それには心理的理由がいくつも絡み合う。
侵入者の目的が何であれ、お前の話は少々…うますぎる。
事実が小説の様に綺麗にまとまる、なんて事はまずない。推測には綻びがどこかしらにある。それを指摘しているんだ。
これしかないと思考を止めたらそこで終わりだ。
安西先生も、諦めたらそこで試合は終了だって言ってただろう?」
「いや、アンザイ先生って誰ですか。」
「……うっうん゛っ
…まあ安西先生は置いておくにしても。
叔父の目や、カカシさんの様な移植の前例もある。
『うちはマダラ』と決めつけるのはまだ早いんじゃないのか?」
サクヤのわざとらしい咳払いに、イタチの呆れた視線がグサグサと刺さるが、サクヤは白を切ることにした。
応える気のないサクヤにため息を吐くとイタチは自分が集めた情報を一から、馬鹿でも分かるよう、優しく、分かりやすく、サクヤに説明する。
「…うちは一族は死体を確実に持って帰るのが掟だ。
里の条約にも記されている。
それは写輪眼という力を敵族に取られないためだと表向きにはなっている。
日向一族は洩らしが無いよう呪印をつけたりするが、写輪眼を持って帰る理由はそれだけでは無い。
写輪眼の扱い辛さは白眼の比じゃない。
たとえ奪えたとしてチャクラも多く使うし、それ相応の人間でないと逆に目に振り回されて自滅する者がほとんどだ。
それ相応の人間は、おいそれと敵から奪った目は入れない。
目自体に幻術を掛けて敵を操る術もうちはにはある。
それを掻い潜り、目が十全に使えているとなると、侵入者は火影級の人物か、『うちは』の者に限ってくる。
影のレベルに成ると、おいそれと一人行動はしないし、出来ない。
そして、過去里抜けしたうちはの血を引くものは『マダラ』一人、だ」
それは、うちは一族がどれだけ里に貢献してきたか、どれだけ里を守ってくれていたかを表す物的証拠だった。
たとえクーデターを企てていようとも、里に貢献してきた証拠は揺るがない。
マダラが里を抜け、襲い、2代目火影となった者に警戒されていようとも
瞳力と言う力を仲間から狙われていようとも
九尾事件の犯人だと睨まれても
ここまで、里を見限る者は『うちはマダラ』以外、誰一人おらず、話し合いで解決しようとしてきた『うちは』の貢献は揺るがない。
待遇の停滞は、謀反を呼ぶ。
さりとて待遇は上げ過ぎると力を持ちすぎる。
程良いのは『特別』とする事
だから2代目火影は警備隊と言う特殊な位置に『うちは』を置いて中枢で力を持ちすぎないよう調節した。
それを停滞させたのが3代目であり、戦争であった。
まあ、そのすべてが今おじゃんになろうとしているが。
「…マダラだとして…年はどうする?
もし生きていたとしても軽く100は超えるぞ。」
「マダラは術と言う物に理解が深い。
あの年代、初代柱間の時代は絵物語の様な本当が多く、その中で数々の伝説を残してきた人間だ、
何か特殊な術を使って、生きていてもおかしくはない。」
伝説という言葉にサクヤは親指でおでこを押さえ、ため息を吐いた。
伝聞、口伝、伝説全部全部全部、大体の事は嘘が混じっている。
それは故意であったりなかったりするが、あまりそれは重要ではない。
古い資料程、絵物語の様な話になる理由が二つある。
一つ、それを理解する技術が追い付いていなかった場合
資料を残した者がそれを理解している文明に居なかったか、馬鹿だったので理解するに至らなかった。よって伝説の様に語り継がれる。
誰かが日食を予言したとして
日食を『日食』と皆が理解している現代と
日食を悪魔の仕業、神の御業、よく解からない物ととらえている時代の差
と言えば、よく解かるだろう。
二つ、マジで強かった場合
語り部自身が負ける話しはこのケースが多い。
そして負けるからこそ、敵の情報が膨大になる。
『己も強かったが、相手の強さが半端なかった、負けるのは致し方なかった。』
または『そんな奴に喉元一歩手前まで迫った』等、己の力を誇示する為に話が膨大になる。
更に、一族、仲間内で語り継いでいる内に話しは変容していき、尾びれ背びれ色々も着く
「古今東西、伝聞と言うのは視点が偏りすぎていて当てにならん。私達はその名前の大きさを知らなすぎる。
たとえそいつの血が『うちは』で有ろうと無かろうと、写輪眼の能力を上手く使って、侵入している時点で相当やばい奴だ。
『うちはマダラ』の名を騙るなんて、事も無くやって見せるだろう。
警戒するに越した事は無い。
この際侵入者が『うちはマダラ』でも何でもいい。
問題はそいつがいつ、どこで、何を起こすかだ。
お前は忍びだろう?よく分かっているはずだ。
正面から戦うな、なるべく多くの情報をかすめ取れ。
出来るなら常に警戒を抱かせて相手を疲弊させろ。情報戦は心理戦であり疲弊戦だ。
心は常に変化する、そして人は進歩する生き物
高を括った瞬間、私たちは敗北すると思え。」
サクヤの最後の授業の様に思えたその時間で、サクヤはイタチに、サクヤが当時してやれるだけの、最高を詰め込んだ。
―――
――
イタチは、元々サクヤを巻き込むつもりはなかった。
情報の共有は、サクヤの覚悟に応えたまでで
イタチにとってサクヤは『真の目』であり
『うちは』でも『千手』でもなかったと言う事だ。
里にサクヤを残していく事は、一族以外碌な知り合いがいなかったサスケのためであり、イタチの為でもあった。
真の目の結界の淵、袖に潜り込んだ気配にイタチは気付いていた。
そしてイタチはそれを放置する事に決めていた。
仮称マダラに気付かれることを承知で、イタチはそれを付ける必要があったのだ。
「お主が真の目を利用するのは勝手ダ。
ダガ、里に残ったサクヤがどうなるかは想像つくだロ?
良くて拷問、最悪打ち首。
うちは抹殺が里の命令と言ってもそれは極秘、監視任務の責任追及は逃れられはしなイ
あいつに傷残してタダで死ねると思わん事ダナ…」
「…同胞を手に掛けた身だ、今更ただで死ねるとは思ってはいない。サスケが生きる未来になればそれで十分。それ以上は求めてない。」
「…ワシはお前が嫌いダ。偏屈で、窮屈で、活きる時間を無駄にしテる。
けど、…ワシはサクヤが好きダ。
サクヤに感謝するんダナ。」
イタチの目が死後、サスケ以外に埋め込まれる場合、サクヤの命令によってその眼は文字通り焼失するだろう。
幼き日から
イタチとツーマンセルを組むこととなった枇杷十臓は初め、イタチのその何処からともない知識を才能と考えていたが、そのほとんどがサクヤの入れ知恵であった。
『忍の戦争っていうのは基本、チャクラを使った大技を仕掛けることが決め手となることが多い。
この間の
それが決め手で戦況が土に傾いている。
だが、私はチャクラを使った術は奥の手であり、早々に使うべきでないと思っている。
もし土の国の軍師が私と同じ考えならば、今土の国は奥の手を出さなければならない程窮乏している事になるだろうな。
奥の手が派手で、大掛かりで、恐れられる物あればあるほど、それは如実に表れる。
だから――…』
「お前さぁ…俺がメイン、お前が援護だって言ったろ?
先にターゲット殺すなよ!?」
枇杷十蔵は怒っていた。必ず、かの邪知暴虐のイタチを叱らなければならぬと決意した。十蔵には様式美がわからぬ。十蔵は、霧の忍であった。霧を吹き、剣を振い、押すなよ?押すなよ?と言われたら押さない常識を持っていた。けれどもフォーメーションに対しては、人一倍に敏感であった。
しかし、イタチは邪知暴虐であった。
「だが『相手に
「……ほぉ…。んじゃその奥の手とやらが出ちまった時はどぉすんだ?」
怒筋が十蔵のこめかみに浮かぶ。
しかしイタチは、さも当然とばかりに、言葉を綴る。
「その為に十蔵がいた。こちらの奥の手であるお前が前に出ていれば、まず相手はその威力に怖気づく。相対してお前に尻込んだ時点で決着はついていた。
『最上の勝利は戦わずして勝つこと』だ。」
サクヤの知識の多くは合戦にて活躍する集団心理と、兵法である。
現代に普及しているものは『子、曰く』から始まる孫子の兵法が有名所である。
例にもれず、中二臭いサクヤは、高校で漢文にフィーバーしていたので履修済みである。
現代で、平凡で非凡に生きていたサクヤには、何に役立てると言う物ではなかったが、NARUTO世界線に転生してからは「ああ、これが噂の…」と言う具合に役立っていた。
「三十六計逃げるにしかず」で有名な『三十六計』もまた兵法である。
偏見的に見るならば、そのほとんどが
古今東西、『忍』は道具であり、方法であった。
里システムが出来る前からそれが成り立っていた故、その
忍とは違った視点から切り込むそれは、忍相手の奇襲にはあまりにも効き過ぎた。
「前から気になってたんだけどもよぉ。
お前の、その妙ぉな知識は、一体どっからくるんだ?」
「妙な…?」
「初めはお前の才能とか経験的な物かと考えていたんだが…
お前のその知識は、あの平和ボケした木の葉で、エリートで育った奴の考えるようなもんじゃねェ。
そいつは俺らみたいな泥臭い、血なまぐさい道を、這って生きてきた奴がやるような考え方だ。
お前のその知識はどっから来たんだ?」
イタチは暴虐であったが、邪知では無い。
うちはのエリート教育の中に、そんなちゃちな事を考える人はいなかった。
何故ならチャクラを使い、ダダーンと大きい術使って相手を追い込む方が楽だったから。
うちはマダラの武勇伝を聞けば一目瞭然であろう。
木の葉には、いい人材が育つ環境(アカデミー)があった。
そして、3代目によって第2次、3次と忍界戦争の道を、
『最上の勝利は戦わずして勝つこと。』なんて言い出す輩はダンゾウか、奈良シカク、真の目サクヤ位だった。
いや、この狸とムジナと狐が出てきた時点で、一見お綺麗にも聞こえる
イタチが情報の出所を喋れば、サクヤを
もしかして、この情報がサクヤに渡れば――…
イタチは、確実にどこかしらで殺されることを悟る。
「…黙秘権を行使する。」
「お前…それで俺が納得するとか思うなよ。」
大拗ねモードは『黙秘権』という市民権を手に入れた。
文中に出てくる、兵法や、伝聞伝説に関しては只の私見であり、事実とは異なる部分が多いです。
気になった方はググるか、各々で調べて下さい。