また来て三角   作:参号館

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暁は戦争を代理で受ける傭兵集団で

暁に属する者は、皆どれも戦時中恐れられた名であり、実力のある顔ぶれであり

そして、とても人間臭い組織であった。

 

 

霧隠れ国境付近

暁での最初の相棒と言うべきマンセル相手、枇杷十蔵の最後を見届けたイタチは、サクヤの言葉を思い返していた。

 

「未来、『知っておけば』と思う時が必ず来る。

その後悔をしないために私は知っていたい。」

 

サクヤはこの言葉をどういう意味で使ったのだろう?

イタチは、もっと十蔵の事を『知っておけば』と思った。

知って何になるってものではないけれど、知りたかった。

 

知らないイタチは、冷たくなった十蔵に、首斬り包丁を握らせる事しかできなかったし、それはイタチの自己満足であった。

サクヤの言葉が、イタチの胸にはよく刺さった。

 

 

―――

――

 

 

「贈り物をしたい。」

 

そう声をかけたのはイタチからだった。

サソリは勢い良く開いた扉に、極冷静に言葉を返す

 

「扉を閉めろ。そして出ていけ。」

 

アジトの一つで備品整理をしていたサソリは、その突然の訪問者を取りあえず放置して、風圧で飛ばされたネジやバネをまた揃える。

イタチが静かに扉を閉めると、部屋は元の暗さに戻る。

が、扉を開け放った本人は未だ居座るらしく、消えない気配にサソリは舌打ちした。

 

綺麗に並べられたいくつもの小さい備品にイタチは近親感を持つ。

この部品…どこかで…

しかし、イタチの思考はサソリの声に戻された。

 

「誰にだ。」

 

「…それは、答えられない。」

 

イタチの贈り物の相手を、サソリが恋人と勘違いするのは必然だった。

イタチに家族はいない。一族同胞全て殺したことになっているからだ。

残るは外因的要素、友人又は恋人である。

 

「ッハ、望みの物は何だ?櫛か?簪か?お前も妙なものにうつつを抜かすんだな。」

 

しかし、イタチは別にそれでもよかった。

贈る物が、少し特殊であったし、相手に会えるかもわからなかったからだ。

もしかしたら、会えないままこの贈り物は永遠に、日の目を見れない。なんて事もあるだろう。

それでも贈らなければならなかった。

 

「刀を打ってほしい。」

 

「刀鍛冶に頼め。畑違いだ。

俺は傀儡の仕掛けに使うものしか作らねェ。」

 

「サソリ、あんたの傀儡は全て手作りだと聞く。当然そこに付随している刀も手作りなんだろう?」

 

「そりゃまあ、これは己そのものだからな。誰かの鈍じゃ、この切れ味は再現しきれねぇ」

 

「金はある。チャクラ濃度が濃くても折れない一級品のチャクラ刀を売ってくれ。」

 

「…だから刀鍛冶に頼め。

傀儡師として、物を作って売る者として言うがな

俺は俺のチューニングでしか鉄は打てない。そんな誰ともわからねェ奴のチャクラ比に合わせるのは無理だ。」

 

「そうか…あんたなら出来ると思ったんだがな…一応サンプルのチャクラも持ってきたが、流石にそれじゃあ無理そうか。

芸術品はやはり芸術だったと言う事か…実践には向かなそうな刀をよこされ、すぐ折れても困るし、諦めることにする。

時間を取らせたな。今度なにか送ろう。団子でいいか?」

 

謝っているようで謝っていない、絶妙な煽りにサソリはイラつく。

先の戦闘でデイダラに()()()()、飛ばされ、

()()()()、木っ端みじんにされた傀儡の調整

リーダーの采配により、アジトの一つで店開きをすることは出来たが、圧倒的に足りない部品

更にイタチの突然の訪問(再三言うが悪意はない)、専門でもない分野の注文、そして自分のモットウを煽るような物言い。

サソリは気が短い。待たせるのも待つのも嫌いである。

 

「……よこせ」

 

「…生憎今だんごは「サンプルよこせって言ってんだよ!!」

 

その言葉に、イタチがポケットから出した小瓶を、サソリは分捕り、解析機と思われる物を口寄せすると、そこに小瓶の中身を乱暴に突っ込んだ。

 

「いいか、俺はな芸術は永遠に続いて行くものだと思ってる。

すぐ折れるだと?!サソリ印の傀儡は繊細と、頑丈で、有名なんだよ!!

俺にケンカ売ったことを後悔するんだな!!」

 

 

トビ曰く、デイダラの堪忍袋は常に爆発している

そしてサソリの堪忍袋は、緒がとても短かった。

 

 

 

 

 

約半年ほどかけられて完成した刀は2本であった。

黒く濁っていて、つや消しがなされ、重い見た目の割に軽い仕上がり、多少刃こぼれしていても、力押しでぶった切れそうなその刀は

鍔が無く代わりに持ち手部分は奇妙な形をしていた。

刀からそのまま鋼が続き、まるで柄が生えているような…

 

「普通の形でいいと言ったんだが…」

 

「ああ?!俺は刀鍛冶じゃねえんだよ!!普通の刀なんか作ってられっか!!文句あんなら返せ!!

ちゃんと注文通りにチャクラ圧に耐えきれるチャクラ刀だ。

さらに諸刃の黒、つや消し、重みも付いてる。対価は払ってもらうぜ。」

 

一体どれだけ吹っかけられるのか…

しかしまあ、半年かけてこれだけの業物を作ったのだから払ってもいいか

ニヤッと悪い顔をするサソリにイタチは嫌な予感がした。

 

「…まあ一応もらっておく。金はいつものところでいいか…?」

 

「いや、等価交換だ。

金じゃそいつは渡せん。

代わりに、そいつを誰に渡すか教えろ。」

 

そう来たか…

等価とは言うものの、全然等価でない。

サクヤと自分との接点がもし他国、木の葉にばれたら命の危機に瀕する

もちろん、サクヤの手によって、自分(イタチ)の命が。

 

「…金でいいだろ。」

 

「だめだ。この俺をこき使った刀だ。金なんかで満足できるはずもねェ。

誰だ?誰にこの俺の、()()()で、()()に使える、()()な作品を渡す?」

 

ダメだ、この人めっちゃ怒ってる…

思い付きで、サソリに頼んだは良いものの、ここまで()ってくれるとは思わなかったイタチはサソリの考えが読めてなかった。

ブラフは今、回収されている…

すまない、サスケ。俺はここまでだ。

間3秒も無く飛び出た答えがイタチの答えだった。

 

「真の目サクヤだ。」

 

アッサリと潔く、なんの躊躇いもなくサクヤの名前を売ったイタチは、次にどんな言葉が来るか…と身構えたがしかし

サソリは顎を指でなぞると、イタチから視線を外した。

なにか思案しているようである。

考えがまとまったのか出た言葉は、イタチの思わぬ所へ話が飛ぶ。

 

「真の目…そいつの父親は名前を何てーんだ」

 

「…俺もそこまで詳しくは知らないが…真の目作間と聞いた。二代目火影の倅だと。」

 

「はっ…ははは…ハハハハハハハ!!」

 

イタチの言葉に帰ってきたのは嘲笑で、冷笑であった。

急に狂ったかと、イタチはサソリを眺めるがその笑いは止まらないらしく終いには頭を抱えて笑っている。

 

「親子そろって俺の作品をねだるとはな!!ハハハハ!!まったくあいつら狂ってんじゃねェのか!?」

 

「…何か因縁でもあるのか?」

 

様子の可笑しいサソリに取りあえず話を合わせてみるが、帰ってきたのは圧倒的熱量の怨念であった。

 

「因縁?!

そんなもの…あるさ!!

ある!!大ありだ!!

因縁で終わらない執念と侮蔑の塊がな!!

昔、砂の傀儡部隊が白い暗部にコテンパンにやられ、ごっそり傀儡を持っていかれた事があってな…俺はあの屈辱を忘れねェ。

だが、それ以上に許せねえのが、次に対峙した時、そいつおれの顔を見てなんていったっと思う?

 

『あんた凄いな!!まさか油圧で動いているとは思わんかった!!これならあの合金の弓も引けるってもんだ!!

あと球体関節での可動域の方が高くないか?二段関節にも驚いたが、そこに手を入れると重くなって機動力がなくなるんじゃないのか?何を他に削ったんだ?

とゆーか元々の形じゃないだろあれ!!凄いな!!あそこまで原型が無い物も初めてみたぞ!!

傀儡ってーのは代々受け継がれるもんなのか?!いや、それとも基本形から変化させてく感じの方か!

なあ!!どうなんだ!』

 

一言一句間違いなく覚えてる!!

あいつは…あいつは、俺の傀儡の種を一から十まで、戦場で、全部明かしてくれやがった!!

俺は死ぬほど恨んだ!!

傀儡子であればある程度全様を見ただけでどんなものが入ってるか大方の想像は出来るし、そんな可動域かっていうのも大体わかる。だがあいつは!!

只の暗部だとのざばった口で、その傀儡のすべての意思をも理解しやがたんだよ!!

どうしてこれにしたのか、何を目当てにこの毒を仕込んだか、可動域による使用用途、全て当てやがった!!傀儡子の名折れだ!!

俺は悔しかった…これ以上ない位…!!

誰かに理解してほしいなどと思った事は無かったが、理解されると言う事がこんなにも気持ち悪い事とは思わなかったぜ!!

それも正確無比にだ!!

 

ああああああああ!!

たまらなくイラつく!!

そんな鈍らどこへでもやれ!!

もうその刀は見たくねぇ!!…ちくしょう!!ムカつく!!」

 

その後大いに騒いだサソリは、イタチから代金を受け取ることなく去って行った。

サクヤの父の話は今まであまり聞いて来なかったが、サクヤと似て、何かとんでもない事をやらかしていそうであった。

あまりむやみにこの名を口にすることは辞めておこう。イタチは肝に銘じた。

 

この刀は素っ頓狂な出会いからサクヤに廻ることになる。

あのサソリのご機嫌を損ねてまで手に入れた刀であるからして、サクヤの腰に刺さっている刀が粗悪品であれ何であれ、後戻りできないようブチ折ることはイタチの中では決定していた。

 


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