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雷鳴が響き渡り、雨が止んだりふったりと忙しい天気が辺りを包む
かつて繁栄を極めたうちはのアジトは崩れていた。
山の頂にあったその建物は、先程落ちた大きな雷で山ごと崩れ、幸いにも残ったうちはの紋様は、それが彫られている壁だけ心細く聳え立つ。
その壁の足元には、うちはの最後の生き残りであった二人が、いみじくも並んで倒れている。
チリっと何かが壁の上方からのぞく
ちらちらと光るのは炎だ
落ちてくる雨を溶かすかのように揺れるそれは白い。
ひかりの呼応を皮切りに手、腕、足、とまるで人の様に形を成していく白い炎。
サスケとイタチ、それ以外存在しないはずの場所に、独り立つ
薄銀の髪、白い装束、黒い双剣を後ろ腰に据え、その眼は赤く、幾何学を描いている。
人はゆっくりとイタチの枕元に降り立つと、何事かをつぶやき、撫でるように、左手で静かにイタチの目を閉じた
サスケの気配を追って様々な忍がこの近くにはいる
長居は禁物だというように、また白い炎が人を包む。
溶ける様に消えた後には、何も残っていなかった
―――
――
木の葉は、サスケの捜索、保護の為に
ナルトをはじめとした新7班の4人、カカシを隊長とした元紅班4人、計8人を、『暁』のうちはイタチ捕縛の任務に就かせていた。
しかし、
「サスケの勝ちだよ!
うちはイタチは死亡。」
暁の妨害に会い、時間稼ぎをされ、足場の木から生えてきた暁のトゲトゲアロエヤローことゼツからの情報は、カカシ達を震撼させた
サスケを追い、崩壊した建物に行き付いたものの、そこはもぬけの殻。
すでに先程の暁の奴らがサスケを手に入れたのは明白だった。
しかし、そこには少ないながらもいくつかの匂いが残っていた。
キバはまるでルーティーンの様にその場で匂いを追う。
1つはサスケ
次にサスケと似た匂いが一つ
更に先程あった暁のアロエと、面の男の匂い
最後に、
真の目サクヤの匂い
キバの、姉の友人であるサクヤは、何度か共にいるところを見ているし匂いもしっかり覚えている。
彼女が何故ここに訪れたのかはわからないが、微かだが確実に匂いがある
彼女はどうやってこの場所を当てたのか
あるいは暁と仲間なのか…
付近に匂いが無い所を見ると時空間忍術か口寄せの類で来た事は分かる。
「カカシ先生。」
一瞬姉の友人に限って…と思い、黙っておこうかと考えたがしかし、キバは上忍の指示を仰ぐことにした。
小さくカカシ以外に聞こえないよう匂いの種類を話すキバ
カカシはわずかに顔を強張らせた
キバの報告を聞いて数秒、口を開いたが言葉は出ず、首を振る。
「…もし、本当に居たのなら…あいつの事だ、これ以上ここで得られる情報はないだろう。このことは里で精査する。」
カカシとキバの雰囲気に気付いたナルト達が何事かと顔を向けるのを躱してカカシは忍犬を一匹木の葉に遣わした。
その日、木の葉の里から忍が一人、そして真の目の蔵が一つ消えた。
カカシの忍犬の報告を聞き5代目火影はすぐさま使いを出したが、その姿はもう、どこにも無かった。
消えた蔵のあった、家の玄関には木の葉の額当て、辞職届だけが残り
あとは全て無かったかのように綺麗さっぱり片付けられていた。
『真の目サクヤ』
その『人』を表す記号は忍界ではそこそこ有名であった。
『2代目の忘れ形見』『木の葉の狛犬』『サザミの甥子』『伝書鳩のサクヤ』
どれも言えば大体あいつかとビンゴブックを開けるほど有名ではあった
一時、うちはの血筋が途絶えた時は写輪眼目当てに金額が吊り上った名残で賞金は高めに設定されているが
得意忍術、性質、特になく平坦な歴々であることも、2代目火影の孫という威光がまぶしすぎてそれさえも覆う事も有名であった
『ここに額当てを返します。辞められないようであれば抜け忍として扱っていただいて構いません。それでは。』
業務的に書かれた辞職届の裏に、メモ書きの様に記されていた文字は特に感情もなく
ただ、あるだけである。
蔵が消えた説明もなく、家が整理された意味もなく、行き先も、未来も、希望も落胆もなく
只あるだけの文字は、解読にてこずるほどの汚さだが、それがまた如実に真の目サクヤを示していて、これ以上どうにもならない程の現実であった。
それを最初に発見したのは紐縄ホドキと言う忍びであった。
解読班に属する彼はおっとりとして抜けているがその頭脳は確かで、サクヤの幼いころからの知り合いで、師匠である。
呼び出されて行った先に、これがあるとは思わなかったホドキだったが、予期していなかったわけでは無かった。
心底嫌そうに会議室に向かう姿を見なくなってずいぶん経つ。
国外任務が続いているとは聞いていた、家に帰る姿を見れたことは内数回しかない
木の葉崩しから里が落ち着いて3年経つが、彼女の任務の忙しさは木の葉崩しから変わらず、寧ろ里にいる時間の方が少ないようだった。
このまま使い潰すのはサクヤの為にも、里の為にもならないと思い火影様に直談判もしたが依然変わらず。
サクヤが目の前で倒れた時にはホドキは拳を握る位しかできなかった。
いつか、里も彼女の御役目を終わらしてくれるだろう。彼女を手放すだろう。
と思っていたが、先に彼女が里を手放すとは…
親、親戚の威光のせいでもあるが、サクヤはそこそこに重要な位置にいた。
3代目、5代目火影、共に密命多く、相談役からの信頼厚く、上層部会議に呼び出され
姿を現す頻度は少ないながらも、3代目火影からは古参の暗部をも、凌ぐ頻度で呼ばれていた
上忍班長奈良シカクの息子、シカマルは「何かとしょっちゅうよばれる中忍」などと認識していた、言えて妙なり
それは上忍になっても変わらなかった
寧ろ昇格にかこつけて雑用が増えたぐらいである。
サクヤは滅多に会議に出ない。
アカデミーの館内放送を使って、火影直々に威圧のある声で呼ばれて初めて行くぐらいである。
ちょっとやそっとの会議には参加しないし、姿さえも見せない
その実、会議内容を知っているのだから質が悪い。
何処から持ってきたか正確な情報を、会議が終わった後、個人個人に足していく姿を見ると
その労力を会議に注げと言いたくなるのも仕方がなかろう。
今日も館内放送で呼ばれた名前は結局会議室に来ることはなかった。
辞表を開いたホドキの目が赤く鈍く反射する
幻術に陥っていることは分かっていたがホドキの心臓は落ち着いていた。
「驚かないんですね。」
「まあ、小さいころからサクヤちゃんの師匠やってるからね。写輪眼を持っている事は知っていたよ。
えっと…作間さんのだったけ?」
「…正確には父方の叔父ですが、里では作間の写輪眼で有名ですね。」
ホドキの目の前に映るサクヤは薄く笑っている
ここ最近この笑みが目に付いた。
「そう、そうだったね…。」
ホドキは哂う
「そんなに幻術空間で落ち着かれるとこっちが落ち着かないんですけど…」
「だってサクヤちゃんの幻術だからね。
僕には解く力もないし、それにそこまで幻術に詳しくはないんだ。トラップとかは得意だけどね。
でも、詳しくても解かないと思うよ。サクヤちゃんの幻術は優しくて、柔くて、強い幻術だから。」
やはり微笑む姿は自然体だ。
幻術のサクヤは、師匠にはかなわんとばかりにため息を吐く
「伝言があります。5代目火影、千手綱手に届けて下さい。『約束を守れずすみません。アレは必ずお返しします。』」
「しかと聞き届けた。」
ホドキの声を聴き終わるか否かの間に姿は掻き消え、ホドキの赤い目は、元の目の色に戻る。
「サクヤちゃん。遺書でも、もうちょっと捻るよ。暗号解読班としては3点かな。」
それって10点中ですよね?と言う声は聞こえなかった。
無論100点中である。
写輪眼の能力にこんなのねぇよとか言うツッコミはよしてくれ。
これは二次創作だ。
そう、ストーリーも、技も、関係も二次創作なんだ!!