また来て三角   作:参号館

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「ハ?!サクヤが里抜け?!」

「いったい何のために…」

 

「なんの為かはわからん。

自慢じゃないが、私があいつの真意を測れたことは今までの一度もない。」

 

火影室は喧騒で包まれていた。

サクヤとかかわりのある物を集めて足取りを追ってはいるが

明確な逃亡経路は浮かんでこず。

目撃情報はイズモとコテツが火の国書状受付所で、次の任務へ向かうと言って笑顔で去ったところで切れている。

 

 

がしかし、集められた上忍、特上メンバーはそこまで真剣にものを考えていなかった。

 

 

「…なんか、ひょっこり帰ってきそうだよな…『起きたら日が暮れてたんですけど、これって遅刻に入りますか?』とか言って。」

「あいつの事だから『遺跡が私を呼んでいる』とか、ふざけた理由で里抜しそうだよな…」

「いや、古物商にちょっと面白れぇもんが入ったんだが…とか言って物陰に連れ込まれて誘拐されたと言う事も有り得る。」

「厨房でつまみ食いした料理がおいしすぎて食べ過ぎたって言って、潜伏してる城の押入れで寝たやつだからな…妙なところ大胆で…警戒ってもんを知らないから…。」

 

上忍班長である奈良シカクは、友でありライバルであった作間のハチャメチャっぷりを思い出して、それらを否定できないでいた。

似ている、似ている、とは思っていたが、こんなところまで似なくてもいいだろう…

 

「先ほどカカシの忍犬が報告に来た。

隊員の犬塚キバが、うちはイタチとサスケの戦闘があった場所から、サクヤの匂いをわずかだが探知したそうだ。付近にそれらしい臭いは無く、時空間忍術で来たと考えられる。」

 

「あ、それなら。

俺たちの任務の時

あいつ、一回途中で抜けたんですけど、サクヤが瞬神の術使って跳ぶの見たのでそれかと思います。」

 

瞬神の術

その名は広く凡庸される名であり、身近では『散』の合図で使う初歩的術であり、他にも今は亡きうちはである『瞬身のシスイ』が使っていた幻術の類や、果てはあの二代目が作り4代目がものにした時空間忍術まで様々である。

よって、その言葉は意味を成す様で成していない。

意味が広義過ぎて答えになっていないのだ。

 

イズモとコテツからの報告に、火影の席に座る綱手はため息を吐いた。

意味を成す様で成していない。

サクヤを説明する言葉は、こういう言葉が多い。

火影の狛犬、賞金7千万、木の葉の伝書鳩、サザミの甥…あとは何があったか…

散々通り名に文句を言っていたと聞くが、自分から何か名を名乗ったと聞いたことは無かった。

それは通り名をどうとも思っていないとも同義だ。

 

 

綱手として一番惜しい所は、なんやかんや文句を言いながらも、あの手この手で問題を解決できる、使える人材であったところだ。

流石2代目の血縁者と言うべきか…

しかし、色んな意味であの手この手過ぎて結果を素直に喜べるかと言われたらそうでは無いが…

扉間3兄弟は親戚であったし、綱手も世話になっていたので何とかしてやりたいところだ。

 

 

 

「ただ、一つ言えることは

この辞職届と返された額当てを見るに、木の葉に仇成すつもりはないと言う事だ。」

 

「忍びを…辞めたという認識でいいのですね?」

 

奈良上忍班長が鋭く綱手の言葉に突っ込むのは、そこが重要であるからだ。

サクヤが忍びを辞めたという認識を里が取るかどうかでこの場の雰囲気は一気に変わるであろう。

なんせあの顔を使ってあれやこれやと里の中枢に引っ張り込んだせいで、今サクヤは情報のるつぼと化しているからだ。

木の葉のちょっと言えない事のあれやこれをピンポイントで詰め込まれている。

他里に行かれると主に防衛力的意味でヤバイ。

最悪、木の葉対世界…

なんて戦争起こそうと思ったら起こせ、そして確実に勝ってしまう奴だ。

そんな奴を木の葉は放置はできないのを解かっている。

だがその情報ないし、色んな意味でひょっこり帰ってきそうなので殺すには惜しい人材である。

誰かあいつを留めれる人材、又はひきつける人材がいてくれれば御の字なのだが

実際あのサクヤが妄信的に慕っているイルカが木の葉に居ても()()である。

 

 

「私は概ねそうとらえている。

あいつは馬鹿だがボケてはいない。

自分がどういう状況にいるかということだけはよく分かっているだろう。

何れ帰ってくると踏んでいる。」

 

あの、紐縄ホドキによってもたらされた伝言はそういう意味であった

『アレは必ずお返しします。』

綱手はこの伝言を、『返す気がある』としてとらえた。

綱手とカカシとサクヤの間で躱された密約は今も続行中と言う事。

必ず木の葉に()()()()()と言う事、だ。

 

 

「そうとはかぎらんのぅ…」

 

 

 

不穏な空気を醸し出しながら火影室に現るはダンゾウ。

後ろに根の忍を控えさせ、相変わらず物騒な見た目をしている。

 

「何の用だ。ダンゾウ。

私は貴方に自宅で待機するよう言ったはずだが?」

 

「なに、年寄りの冷や水だ。忠告しておいてやろうと思ってな。あの小娘の酷薄な性格をの。」

 

「…何を知っている。」

 

初っ端からケンカ売りに来ているとしか言えない剣呑な雰囲気に上忍たちは身を固めた。

ダンゾウがよこす情報が良い事であったためしがないのだ。

ダンゾウにはいい情報でも自分達にはしこりが残るような報告である。

里にとっては悪くはないが、良しとは言えない報告をいくつも受けてきた。

 

「なに、あ奴が不穏な動きをしていたのを先ほど思い出しての。

様子見がてら調べさせたら…里の外、真の目の所有する森に妙な蔵が建っておった。

捜索にワシの手の者を送ったが…素気無く退けられた。

数多の死傷者を出しての…

これは里に対する反逆だ。無視できん。

綱手、いい加減火影なら、その甘っちょろい考えを捨てることだ。自ら離れた駒は元に戻ることはない。よく分かっているはずだ。

大蛇丸然り…他里のコマになる位ならば、今のうちに手を打ち

そろそろあ奴に見切りをつけるべきだ。」

 

反逆、手を打つ、見切りをつける、言葉の節々にサクヤを殺すことを匂わせる。

報告内容は要領を得ないが死傷者が出ていることは無視できない。

 

 

綱手は片手で目を覆い、ダンゾウに問うた。

 

「真の目の者は血を嫌う。

ダンゾウ、あんたはそれがどういう意味か分かるか…?」

 

「…ただの一族内の規律であろう。血で解決する争いごとを避けよ。そういう意味だ。」

 

ダンゾウにとって過去、作間と写輪眼を巡って争った時、逃げられた先でもある。

その規律に良い記憶はない。

真の目の棟梁たる人物が間に入ってきたからこそ、あの話は大きくなり、ややこしくなった。

あれを逃せばもう作間いや、『うちはニヒト』の目を手に入れることは無い。

そう思って手を出したが…さてはて…

 

質問に答えたと言うのに綱手は未だうつむき、その眼を下に落とし、手で影を作っていた。

 

「綱手、ワシは質問に答えた。お前はさっさと結論を出せ。今長引かせるとあ奴を見失う事になるぞ。」

 

「違う。」

 

「…なんの話だ。」

 

「真の目の血液嫌いはそうでは無い。そうでは無かったんだ。」

 

「今そんな話をしている場合か!!

あのアホが木の葉の機密情報を持って敵国に逃亡しようとしておるのだぞ!?

さっさとせねば木の葉は戦に巻き込まれ多くの死人が出る!!

暁の動きが活発な今、九尾の人柱力と言う問題も抱えている!!

里を崩壊させるつもりか?!」

 

 

 

「…サクヤは真の目だ。」

 

あいつは真の目なのだ

どうしようもなく真の目なのだ。

あのお人よしの集団に居る、真の目なのだ。

血を嫌い、助けを求められれば手を貸さざる負えない、孤児が集まって始まった、あの真の目なのだ。

綱手はサクヤの事を調べるうちに真の目の歴史が『千手』や『うちは』に届くほど長い事を知った。

 

真の目に生まれた子供の名前に『サ』を入れるのは逸れた子供が真の目の目に止まりやすいように、逸れても、死に別れても、また家族を得られるように、願いを込めて付けられる。

竹藪に真の目在りと言うまでに真の目が竹をよく使うのは、管狐が竹筒に忍び込みやすいように、子供の持つ竹筒に忍び込み、家族を守りやすいように。

誰にでも手を貸すのは、皆まとめて真の目にしてしまえと初代が言ったから。

血の繫がりが薄いのに皆変人なのは、生きることに一生懸命だから。

真の目が持つのは捨てる神じゃなく、拾う神だ

サクヤは木の葉を捨てたのではない

 

棚上げしたのだ。

 

 

「サクヤは辞表も提出しているし、額当ても返している。

そしてそれを私が受理した。サクヤはもう、忍びを辞した。

追い忍は向かわせない。これが里に貢献してくれた、忍への答えだ。」

 

「何を馬鹿な事を…!!木の葉に被害が出ておるのだぞ!!

あ奴が木の葉の忍びでは無くなったからと言って、あ奴の持つ情報が消えて無くなるなんて事は無い!!寝言は寝てから言え!!」

 

ダンゾウは綱手の言葉に牙をむく。

しかし、綱手は首を縦には降らなかった。

 

「ダンゾウ。私は言った。自宅で大人しくしろと。

火影命令を無視して、真の目(ひとんち)の蔵に勝手に入ったお前が悪い。

よって、この五代目火影から謹慎を命ずる。」

 

 

 

真の目が過去、歴史の上でその姿を現すのは決まって協定を結ぶ場所であった

真の目の結界は血を嫌う

そこで血を流せば、一時(ひととき)の間、時が止まる

協定を結んだ相手が真の目の敷地内で暴れれば時は止まる。

目撃者は真の目、

血を流せば、真の目の者から者へ伝えられていき、その一族は真の目の庇護から外れる。

今より横のつながりが少ない時代、真の目の庇護が外れるのはどの一族も避けたかった。

何故なら、商いと、大工、木材管理は殆どが真の目で占められていたからだ。

真の目を制する者が世界を制する、そうまで言われた。

 

木の葉設立に真の目が立ち会ったのも、必然だったのだろう。

協定の書状には『千手柱間』と『うちはマダラ』の、サインと拇印、当時の真の目の当主たる字で『うちはと千手の協定に、血は一滴も流れなかった。』と記されていた。

 


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