サクヤ御一行は林の国にいた。
ちょっとばかし、そこの物騒な集団と取引するためである。
しかし予想に反して、その姿は毛むくじゃらで、白く、大きく、山の様な姿だった。
……サクヤの目の前には白い山がいた。
「お主に用があって来た。」
「そうか、そうだろうと思う。」
サクヤには、こんな無駄話をしている時間は無い。頭痛に親指を添えた。
さっさとこの『白く』、『目立つ』、『狐』を如何にかして移動させないと、通報されすぐさま何奴?!されて捕まる事位は分かっていた。分かっているが…
こやつ、めっちゃ怒ってる…
「(やややばいよぉぉおおお
めっちゃ怒ってるよぉおおおお)」
「(当たり前やろ…あんな別れ方しといて…)」
「(むしロ、まだワシらがこいつの腹の中に納まってない方が可笑しイ…)」
「(…ノーコメントでおねがいします。)」
「あの日、話した内容
お主はあの名を偽名と言ったが、何故そう言い切れる。」
来ると思ったよこの質問…
つか、こいつに見つかりたくないがために色々逃げていたりもしたのだが
全て無に帰ってしまわれた…
この質問に答えるには前世の事から話さなければならず
そうなると蝦蟇の予言も説明せねばならず
更に、もしかしたら叔父さんの目の色々を話さなければならず
「場所を…移動しよう。」
そう言ってサクヤは、セーフハウスにこの狐を招待せねばならなくなった。
―――
――
何重にも編まれたその結界はまるで封印のようで、封印と言うにはその蝶番は緩かった。
「まず、言わなければならない事がある。
私の前世の記憶と、お前の言う真の目初代当主の前世の記憶が同じ記憶だとは限らん。
生まれ変わったと言う根拠が、お前の記憶と、予言だけではあまりにも拙い。
もしかして前世があっても、同じ時代、同じ国に生まれてたか怪しいし、同じ世界から転生したのかも危うい。
それは解かるな?」
「それぐらいわかるわ…」
拗ねたように答える狐は現在小さくなっている。
そうしないと屋内には入れないからだ。
地面にそのまま腰を落ち着けるサクヤと、普通サイズになった白い狐は向かい合う。
「次に、そもそもの情報が錯誤している。
お前の記憶を疑っているわけじゃないんだが、余りにもあやふや何で、お前以上に生きている妙木山の蝦蟇の仙人に確認したところ、その話はお前の話す内容と大きく乖離していた。」
「蝦蟇におうたんか?」
「ああ。今はあちらから呼び出せないように色々細工しているが、私は蝦蟇と口寄せの契約を結んでいる。
蝦蟇仙人から聞いた話では、お前と旅をしてからその予言を貰っている。話が合わない。」
「…やけ、あの時はそん話は知らんかったはずや。
それは、あいつの名前が偽名の説明にはならん。」
早くというように本題にずばずばと切り込んでいく狐は、少しでも嘘を言えば、喉元に噛みつかれそうなほど尖っていた
「そうだな。
じゃあ、話を戻そう。
偽名と言うのは古今東西『良くある名前』が付けられる。
雷の国では最後に『イ』が付く名前が多いと聞く。
もし、雷の国で『私の名前はトロイです。』と言われたら、取りあえずは信じるが、偽名だと言われてもそれを疑わないだろう?」
「…せやな。けど、時代もあるやろ。今は『イ』が多い。けど、ワシの知っとる範囲では違う言葉が多い時代もあった。」
「それと同じで、私の前世では『山田花子』は偽名に多く使われる名前だった。一昔前の名前で、そこそこ多い『苗字』。
学校の書類説明で使われる名前はいつも『山田花子』か『山田太郎』だった。
当主の前世の名は『山田太郎』…だろ?」
サクヤの言葉に狐は息をのむ。
その様子を見て、サクヤは自分の予想が大方当たっていたことを確信する。
「あとは、あの場でお前の動揺を誘ってこの話自体が嘘か本当かを確かめれられればよかった。」
「…ワシの嘘を初めから見抜いてたっちゅうことか…。」
嘘と認めた。
「初めからじゃないがな。ある程度嘘は入るだろうと思っていた。口伝と言うのはそう言うものだ。」
「せや、あの話は、嘘が多い…
ワシまでたどり着いた者に話す内容や。」
そう話し出す狐にサクヤは、続きを促す。
「この世界に、転生者は多い。その記憶を持った者も多い。
せやから、ワシに辿り着いた時点では、そう言うように初代真の目当主と約束したんや。
あいつのチャクラをすべて喰ろうてワシは今まで生きている。
いや、生かされている。
初代当主は自分と同じ時代、同じ国、同じ世界から来るものを待っていた。
あ奴が探していたのは、あ奴と同じ世界から来る、あいつと同じ『常識』を持った人間や。
やから、その為に少しでも
ワシは、
じゃが、お前が、見つけた…あ奴の、名を、…見つけた。
ワシは…名前の他は……姉がいたことしか知らんかった…」
そう言いながら、狐はおろおろと涙を流し、地面を湿らした。
サクヤは、無感動にそれを眺める。
「最初に言った通り、ワシはお前にすべてを話すことにしよう。
…それが、約束の全てや。」
前を向いた狐は前足の甲で涙をふき取り、古く、ホコリをかぶった記憶を話し始めた。