93
『戦った分だけ、経験は溜るが、その分情報は敵側にも漏れていることを考えて駒は動かせ。
お前は自分の頭に自負があるからこそ、弱者の思考に弱い所がある。
サクヤは負けた分も強くなる。
なぜなら、自分の情報をなるべく洩らさないよう注意して指すからだ。
それは次につながる。
一つの盤面だけが全てじゃない。勝った、負けた、その後の事も考えて指せ。』
シカマルの幼いころから、シカクの話しには『サクヤ』と言う人がよく出てきた。
そして話に出てくる割に、奈良家に顔を出した回数は微々たるもので
シカクの話に出て来る度に、シカマルの母であるヨシノから「ああ、あの白い子。」などと呼ばれていた。
親子ほど離れているシカクの友人の話は、大体いつも文句から始まり、最後は大笑いして終わる。
シカマルは、どういう経緯でシカクの友人の位置にいるのかは知らなかったが
父に認められているようで、とてもとても眩しかったのを、覚えている。
父親の将棋の相手が嫌になり、『真の目の白いの』に突撃した事件から
サクヤは良く、シカマルに付き合って将棋をしてくれた。
しかし、シカマルに『何か』を教えてはくれなかった。
シカクのように、追い込み学ばせる将棋でなく
アスマの様に、将棋談義を挟み指導する将棋でもなく
ただ直向きに、シカマルの将棋に答えるだけだった。
そしてそれは、シカマルがサクヤとの『経験の差』を測るにはちょうどいい物差しだった。
サクヤが、シカマル相手に盤面を見ずに
実力でも、才能でもなく、経験の差である。
サクヤの戦い方は、決してかっこ良くは無い。
良く言えば慎重、悪く言えば迫力が無い。
誰かにサイコロを振らせないそれは、将棋にもよく出ていて、撤退が早く、あと一歩の思いきりに欠けるとシカマルは常に思っていた。
シカクは、シカマルがサクヤと勝負するようになってから『サクヤを見本にしろ』とよく言った。
『お前はヒーローでは無い。お前には出来ない。サクヤの様に
シカマルは、それがあまり好きでは無かった。
―――
――
木の葉隠の里は、ナルトが妙木山に修行に出て、一時の平穏が訪れていた。
あの、渦の中心であるナルトが居ない里が、静かで穏やかな事は、ナルトが修行でいない3年で分かっていたが、居ないなら居ないでそれは、少し寂しかった。
しかし、時機に寂しいなどとは言ってられなくなる。
あの暁が、尾獣の人柱力であるナルトを狙って、木の葉を襲う事は明確であった。
「暗号の『ホンモノハナイ』…
それなら、そのペインとかって言う6人は幻術で、もう一人いたって言う女の“暁”の術かもな…
そいつが影から物理攻撃で自来也様を…」
「イヤ…そうは考えにくいわ
フサカクっていう蛙のかしらが言うには、自来也様は実際にその六人に武器で刺されて亡くなられたそうよ。」
暗号部のテーブルでシカマルとサクラ、シホは
ペインの情報をありったけ集めて、検死の結果が出るのを待っていた。
里を襲う可能性がある以上、ある程度パターンを予想しておく必要があったからだ。
「まあ…
そのペインを三人倒したけど、生き返ったって言うし…
信じがたい幻術の中のような話だけど…」
「“暁”相手に常識は通じねーよ
不死の奴らまでいたんだからな」
「とにかくほかの情報が出てくるまで、ある程度のパターンを出来るだけ推測しておきましょう。」
現実は将棋と違って、戦った分相手の情報を持ち帰れるわけではない。
負ける時もあるし、
自来也様が命を賭けて残してくれた情報は何としてでも、活用したいところであったが、その情報は、その場に居たわけでもないシカマル達には少なく、もどかしい思いをするだけであった。
「しっかし、こんな大変な時にサクヤはホント、何してんだか…
自分の弟分ぐれぇ守ってほしいもんだよな…」
「シカマル、またサクヤさんの話?」
サクラはこの手の話に飽き飽きしていた。
シカマルはサクヤのいない間に何度もサクヤと現状を比べるのだ。
サクヤが居れば、サクヤだったら、その言葉はもう聞き飽きてきた。
しかし、その名前に逐一反応している人がいた。
シホである。
「サクヤさんには、ある意味お世話になっている身ですが、ここまで里に帰って来ないほど忙しい人だとは思いませんでした。」
サクヤが
暗号解読“班”を“部隊”まで作り上げた、暗号解読部隊、部隊長『紐縄ホドキ』の弟子である
と言うのは暗号部では有名であった。
元々暗号と言うのは『暗号部』が解読、作成を担っていて
暗号部の中に解読班、作成班が存在するわけである。
暗号と言うのは、解読、作成、どちらにしても時間が掛かる物として今まで処理されてきていたので
戦時中、忍びは暗号で指示を送られてきても、解き方を知ってる人が死んでいれば、これが何の連絡なのかわからない、などと言う事態に陥っていた。
いわば、サクヤのいた現代の戦争の様に、暗号を効率よく使えていなかったのだ
更に、暗号を作成解読できる人材は常に敵国から情報を狙われ、味方からは情報が漏れないように命まで狙われる始末であった。
よって第3次忍界大戦中、暗号部は常に人員不足で、新しく人が入ってもすぐ前線に駆り出され、伝令に駆け回り、ある意味人材の墓場を化していたのだ。
そこでホドキが考えたのは、各班に暗号解読できる人材を一人作り、それを暗号解読部隊として召集、セミナーを設け教育を施す事だった。
暗号は里の機密に関わる情報なので、情報の規制は多かったが
さわりを教えるだけの、アカデミーではカバーしきれない範囲を、補うことは充分出来た。
セミナーを受けた者は表向き解読部隊に配置されている人材となるが、その隊員を各班に貸し出す体にすることで班行動の規律には接せず、暗号部の人員不足は解消される。
さらにセミナーを受けた者は、里から送られてきた暗号がその場で解けるよう教育されるので、
場面によって、止む負えない理由で暗号を急に変更したとして、送る相手にも同じセミナーを受けた隊員が居れば通じるようになる、時短が可能になるようにした。
もちろん敵国の暗号も簡単であれば、その場で解けてしまう。
後進を育てるきっかけにもなった。
そんな、頭脳集団の部隊長、の1番弟子サクヤは、あの吐血事件から暗号部に顔を出すようになっていた。
サクヤは並大抵の暗号は自分で解けてしまうので、あまり用はないが
思い出した様にほいっと仕事を投げて来るので、暗号部(作成班)とは顔なじみである。
シホは時々飛び込みでサクヤから振り分けられる仕事に疑問を持たなかったし、不満も無かったが、ここまで里を空けた事は初めてであった。
大体一月に一度は家に帰ってくると言うのに、ここ数か月は里にさえ帰っていないようだった。
「いったいどこまで任務に行ったんですかね…?」
シホの疑問にシカマルは、ここ最近の不審な動きを思い出していた。
「サクヤの姿を、ここ数か月見ねぇんだよな…」
「それ、私も思ってた。綱手様が言うには、ある任務に就いてもらってるって…」
サクラの同意の声に、シカマルはあることを話す決意をする。
「こんな踏み込んだ仕事、今迄俺に振られることはあんまりなかったんだが
最近それも多くなってきてて…おかしいと思って、実はサクヤの家まで行ったんだよ。」
シカマルの話に、サクラとシホはそれで?と促す。
「家具から何から、もぬけの殻だった。序に蔵までもない。
蔵は最近撤去したのか、まだ、建ってたあとが残ってけど…いつか家の方も撤去されかねんぞあれ…」
全て確認したわけでもないが、サクヤの家は窓から様子を見た限り家具一つ無く、蔵は完全に撤去されていた。
引っ越しの路線も考えたが、シカマルにはあの蔵を動かす意味が解らなかった。
サクヤが困っている姿は想像がつかないが、何か変なことに巻き込まれていないといいが…と心配はしていた。
「……夜逃げでもしたんですか?」
シホの言ったことが一番の正解であるが、話は横にそれていく。
「さあな…
ただ、サクラにも話してねーって事は、上がそれを隠したがっているのは確かだ。」
「え、それって…」
「もう死んでいるってことですか…?」
サクヤをここ数か月見てない。
何から何まで片づけてある家。
上が知られて困る事
サクラとシホの頭の中には『真の目サクヤ、他殺か?!自殺か?!監禁か?!』の見出しがひらひらととはためいていた。
「いや…真の目の連中がお祭り騒ぎをしてないとこから見ると、死んでないのは確かだ。」
サクラとシホは安堵のため息を吐く。
が、この有事におけるサクヤの不在に答えが出たわけではない。
ここ数か月、シカマルだけでなく、サクラ達は
『サクヤが居れば…』、と思う場面に数多く遭遇していた。
木の葉は、早くもサクヤが居ない事による弊害が出始めていた。
時系列とにらめっこして、過去の自分が書いた文章を恨み、私は諦めた。
もうどうにでもなれ。(˘ω˘)スヤァ…