また来て三角   作:参号館

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サクヤが、幼いころからシカクを相手に奮闘していたと聞くと、聞こえはいい。

が、シカマルと同じように、将棋で遊ばれていた事は確かである。

そこから学ぶことは、何もなかったわけではない。

しかしサクヤは、シカクやシカマル程に頭がいいわけではないので戦術、戦略の『見本』には成れど

それを使うタイミングも、やり方も、すべてが『お手本』にはならなかった。

シカク程の頭脳を有してないサクヤには、その戦術が使えなかったのだ。

 

だからサクヤは、その戦術を凌ぐ方法を編み出した。

シカクに準ずるのではなく、シカクに立ちふさがる方向にシフトした。

 

シカクは里の頭脳で

よその国相手に、戦争をして生きて帰って来た

思慮、経験、共に深い頭脳で

サクヤは、そのシカク相手に、凌ぎ方を一から編み出してきた。

 

戦争が終わって間もなくの、冴えた頭を相手に、立ちはだかり続ける経験は

当時のサクヤ以外もう、できない経験で

それを編み出す経験は、シカクと同じで『頭のいい』シカマルだからこそ、出来ない経験だった。

付け刃の戦術で、幼いながら()()シカマルが相手にされない訳である。

 

その経験の価値をシカマルは知らない。

 

 

 

 

サクヤは『サクヤの持つ経験』を、シカマルが知る必要は無い、と考えていた。

その経験はある意味、戦争遺物であり、後の世代に残す必要性を感じなかったと言う部分もあったが、一番大きい部分は

 

サクヤが『シカマルはそういう場面に会う必要がない』と判断したためであった。

 

 

シカマルに団子屋で捕まった当時、サクヤはまだナルト世界線に生まれて十数年。

両親を亡くし、仲間を亡くし、命を狙われて、ココがどういう世界かは分かってきていたが、それは天災の様なもので、一方的な暴力であり

戦争と言う、陰謀渦巻く政治的な暴力を、サクヤはまだ、机上でしか知らなかった。

 

戦争を知らない現代人にとって、将棋と言う疑似でも

幼い子供を追いつめ、逃げ道をふさぎ、苦汁を飲ませる事は、出来無かった。

いや、したくなかった。

 

追いつめると言うのは絶妙なさじ加減が必要である。

相手の様子をつぶさに観察して、その日の出来事と掛け合わせて、過去を加算して、心がおれる寸前で止めなければならない。

親でも敵でもないサクヤは、ともすれば勢い余って心を完全に壊しかねないそれを、コントロールしきる自信は

 

無かった。

 

 

よって利己的で、偽善な感情で『だたのゲームなんだし…』とサクヤは手を抜き

シカマルと並び、シカマルの手の届く場所に位置取り成長を促した。

 

それが普通だ。

誰もが適切な鬼教官にはなれないし、誰かの敵になりたくない。

そして、まだ幼いシカマルを、容赦ないシカクの矢面に立たせるならば

いくつもの苦渋の中で、何かを編み出すような盤面に立たせるならば

 

『自分の代で、こんな経験は終わらせてしまうべきだ。』

 

という、現代的で、堕落した優しさによって、サクヤはシカマルの相手を引き受ける事にした。

 

 

きっとサクヤのいた元の世界線では、サクヤの判断は英断として語り継がれる物であっただろう。

戦争の体験をさせるべきではないと感じるように、受験戦争を抜けて何も得なかった虚無を抱えさせたくないと思うように、後の世代にこの経験を残してしまわないように…

 

しかし、そういう世界であるから、

もう戦争が起きる心配も、明日死ぬことを考える必要もない世界であったから、

()()()()()()()()()()()()英断になるのである。

 

残念ながらサクヤが今生きている世界は、戦争がいつ起きても可笑しくない世界で

シカマルは、それに否応なく巻き込まれる立場に居た。

 

 

 

 

―――

――

 

 

木の葉の感知結界に、人間が一人感知された。

感知結界を張っている結界師は、声を上げる。

 

「侵入者だ!目標は一人、西口イのB地点だ。」

 

それを聞いた、その場に居る中忍や上忍達は、いっせいに状況把握と伝令に走る。

 

 

 

いくつもの大きな爆発音の後

ゴゴゴゴッと振動が建物に伝わる

結界班は屋根の上を伝って現場に向かったものの、これはどう考えても一人で成せる攻撃範囲では無い。

あたりの黒煙立つ光景に、状況が思っているより深刻なことを悟る。

 

「こう、あちこちで!

どうなってる!!侵入者は一人じゃなかったのか?」

 

「すぐに白眼で確認します!!」

 

結界班に所属する日向家の者が白眼を発動するが、規模が大きすぎて一人では把握しきれない事は明白であった。

 

「ええい!結界班だけでは間に合わん!他の部隊に連絡して救援を要請しろ!

それから、火影様にも連絡だ!!急げ!!」

 

この規模の攻撃に、いつもなら、もう来ていてもおかしくない救援、援護が全く、連絡さえよこしてこなかった

その事に結界班の日向家の者は少し首を傾げるが隊長に従い、火影邸に伝令を走らせた。

 

 

 

 

 

地下に併設されている検死室に、ガイガーカウンターのような機器音が鳴る。

シズネは音の出所である、チャクラ計機を手に取り、死体についていた複数の黒い棒の内を一本持ち上げそれに近付ける。

すると途切れ途切れだった音が、断続的な音に変わって行く

 

「急にチャクラの計機が反応して、黒い棒が過熱したから、おかしいと思ったんだ

コレ、高周波チャクラを受ける復調装置だったんだ。」

 

他の作業をしていた研究員が振り返り質問する

「フクチョウ装置…?

つまり、なんです?」

 

復調装置事態分かって無い様子にシズネは言葉を重ねる

 

「つまりコレは、チャクラの、受信機って事!

今まさに受信してる!」

 

未だ概要を理解できていない研究員に説明しようとするが

説明の途中で、其れより今は5代目に報告する事の方が先だと気付く。

受信機だと言う事は、今受信していると言う事は、

 

今まさに、どこからか送信されている信号が、()()にも受信されていると言う事だ。

 

ズズズズ…ン

と建物が揺れた

 

 

 

 

 

―暗号部

 

シカマル達は暗号部のテーブルに広げていた資料を一旦置き、窓の外を覗き込む

黒煙がそこかしこから上がっている

 

「これって…?」

 

冷や汗をかいてサクラは事実を飲み込もうとするが、シカマルの声に冷静になる。

 

「行くぞ!」

 

何者かが里で暴れている。

ならば木の葉の忍びはそれを止めるまでだ。

 

取りあえずサクラは医療班が活躍できる病院に向かい、シカマルは状況の把握と里の者の避難誘導、シホは上司と共に、万が一の為に火影邸へ、

それぞれが適材適所へ向かう事となった。




ねむみ

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