シカクは、サクヤの実力を隠す『癖』が、サクヤ自身を守っているのに気付いていた。
しかし、サクヤの特殊な環境の問題であったが故、シカク自身がそれに言及する事は無かった。
作間もそうであったからだ。
年の功と言うのか何なのか、作間の『それ』はサクヤよりもっと厄介で
だからこそまだ、若いサクヤのそれは見抜く事が出来た。
サクヤが成長するにしたがって、それはもっと自然になり、見抜く事が困難になって行くことは想像に易い。
そしてシカクは、サクヤの本性と言うべき、『シカクと相対できる実力』を、サクヤの『堕落した優しさ』で隠されている状態が、シカマルには良くはない事も分かっていた。
がしかし、シカマル自身が堕落した優しさを甘受していることに気付かない限り、それはどうする事も出来なかった。
シカクは、サクヤの『シカクと相対できる実力』を中忍試験、本戦前の1か月でシカマルに引き出させ、マスターさせるつもりであったが
サクヤに、さりげなくシカマルが相対すべき人物を、サクヤからシカクにズラされ
それが現在的に見て、的外れでない事に内心舌打ちを打っていた。
確かに中忍試験合格は、血系限界(特技)を伸ばす方が先決だし、手堅い。
だが、シカクは長期的に見て、サクヤと相対する方が、シカマルの利になると考えていた。
だから幼少のシカマルが、盤上で自分と相対するのを嫌がった時に、サクヤをあてがったのだ。
まあ、その目論みはサクヤの堕落した優しさによって無に還られたが。
サクヤの堕落した優しさは、中忍になって初めての任務で
シカマルに、とてもしょっぱい涙を流させる理由に十分なった。
シカクは、ほら見ろと思う反面、こんな思いをさせるべきでは無かったのかもしれないと、少し…爪の先程の後悔はしていた。
サスケ奪還任務の隊長に、書類上の暫定的保護者であるサクヤでは無く、シカマルを
最後に推薦(後押し)したのはシカクであった。
あの日、朝早く飛んできた忍鳥に『是』を返した。
上忍になったばかりの、サクヤの忙しさも含めて勘定した部分もあったが
シカマルが、サクヤとの差を理解するのに丁度いいのではないのかと思ったのだ。
そして、それは大きくシカマルの心に残ることになる。
編成した中では年長者で、一番強いと思われたネジ、重体
親友であるチョウジ、一族の秘伝役を使った丸薬により重体
キバ、傷が深いが命に別状はなし、重傷
赤丸、キバを庇った事により神経を損傷、重傷
ナルト、重傷、命に別状はなし。
応援に駆け付けて来てくれた砂の者やリー、迅速な対応をした医療班がいなければ、この内何人かは確実に死んでいた。
シカマルの自負と思い上がりの犠牲になった親友たち
もっと、ましな作戦は無かったのか、
オペ室の前で、ついこの間敵だった砂のテマリに発破をかけられ、シカクに活を入れられ、5代目に声かけられ、一応立ち直ったものの
その酷い思い上がりはシカマルについて回った。
―――
――
「クソッ!!」
小さく声を上げて、少なくなってきたチャクラを錬る。影がしなり、ガコンッという音と共に、目の前の瓦礫が持ち上がった。しかし、それも長くはもちそうもない。
隙間から聞こえた僅かな声を頼りに、控えていた下忍が瓦礫から人を助け起こす。
「息子が!!1階に!!」
母親だったのか、乱れる髪もそのままに必死に訴えて来るが、『1階』は無い。
静かに首を振るシカマルに母親は泣き崩れた。
母親が生きていただけでも、まだ良い方だった。
説得して病院に連れて行こうとするが、口を開いて、閉じることしかできなかった。
シカマルは、この母親を慰める言葉を持っていない。
母親を助け起こした忍が、無言で母親を背におぶる。少しばかり暴れたが、動き始めると大人しくなった。
母親を見送ったシカマルは
他の、崩壊が始まっている建物から一人、二人と拾い避難所である火影岩、アカデミーへと急ぐよう伝える。
襲撃が始まってもう、30分は経っている。
サクラの様な医療忍者が病院に集結し、本部の体制が整い、手すきの者がちらほら出ても良い頃なのに
依然と一般人の誘導がはかどっていなかった。
更には間違った避難所情報まで民間人に広がっている。
そろそろ敵が『誰』で、『何人』いて、『何』をしているか、と言う基本情報がシカマル達下っ端の中忍に回って来てもいいはずだが、何も来ていなかった。
敵は多分、と言うより9割の確率で『暁』のはずなのだが…
正確な情報が回って来ない限り、シカマルの立場上、一般人の避難誘導以外出来ることはない。
煙の立ち方から言って中心から外に向かっていけばある程度凌げる事は分かっているので、確実な火影邸、アカデミー、火影岩の方へ避難誘導させているが
にしたって、遅い。
指示が遅い。
指示にはレベルがある。
行きつけのお店で「何時もの!」と頼むのと
リストランテで「シェフのおすすめで。」と言うのと
チェーン店で「コレ」と指さすのでは
だいぶ違う。
このレベルは様々な方向に難易度がある。
カウンターしかない居酒屋で調理している店長に「これ」と指さしたら見えないと言われるし。
突然入ったリストランテで「いつもの」と頼むと「どのコースにいたしましょうか?」と帰って来るし。
チェーン店で「シェフのおすすめ」とは言えないだろう。
忍びも同じで、その階級レベルに合った指示を出すべきなのだ。
今まさに、下忍向けの指示が無い。
木の葉の里は、ペインの襲撃予測に置いて、奇襲の確率が高かったため
事前の訓練では、奇襲の犯人が発覚した後に各々動く手筈だった。
が、シカマルの見た現状では、戦況が分からず下忍は立往生しているし、指示を与えるはずの中忍以上の忍びは、戦闘のある中心部に向かって行って、帰って来ず
シカマルが指示を出して、やっと少し機能してきたところだった。
この状況を簡単に言うならば、下忍の統率がとれていなかった。
情報の齟齬が激しい、火影に何かあったのか…
普通なら一度本部に確認するところだが、ここで事前の手筈が火を噴く
『奇襲の犯人が発覚した後、動く手筈。』
そう、シカマル達は『伝令が来ない限り、下っ端は一般人を避難させる』命令が最優先になってしまう。
中忍試験の時はあんなにスムーズに伝令が行きわたっていたのに…何故…?
前回の襲撃とは違うからか…?
いや、前回も今回も奇襲、規模、共に変わらないはずだ…むしろ襲撃人数は少ない。
違うと言えば、目的人物が今回は火影でなくナルトで、目の前では無く、(ナルトの位置が敵に洩れてない限り)どこにいるのか分からないと言う部分だ。
それによってナルトを探す、又はあぶりだす為に被害が大きくなっているのか…?
いや、木の葉崩しもそこかしこで煙は上がっていたし、しっちゃかめっちゃかだった
でも一般人の避難誘導はもっとスムーズだったはずだ。
でなければあの被害で済むはずがない。
ああでもない、こうでもないと木の葉崩しと比べていたが、シカマルの奥底にずっといる違和感が、何かはもうわかっていた。
サクヤの不在がシカマルが考えるより、ずっともっと大きい。
サクヤがいれば、事前に伝令の穴に気付けてた。
サクヤがいれば、もう少し下忍の統率がとれていたかもしれない。
サクヤがいれば、木の葉の中心から敵を移動させるぐらいの案を思い付くはず。
いや、もっと言えば…サクヤだったら…
こうなる前に、敵に標的を絞らせ木の葉で無い場所でペインを迎え撃てただろう。
自分は一体何をやっていたのだろう。
シカマルは、つい、1時間前までのペイン戦に向けた戦略の数々が流れていくようだった
暗号解明に奔走し、いい気分に浸っていただけで
何一つ、成し得ていなかった気さえしてきた。
反省は後だ。とシカマルは頭を振るが、思考は上手く切り替わってくれない。
この問題は、まるでサクヤを相手取っているようだった。
簡単なようで難しい。
こういう時、どうしていただろうか…
もやもやとした何かが、シカマルの胸のあたりから沸き立つ。
「早く、帰ってこい…。」
誰がとは言わないが、誰かは明白であった。
大事な事を書き忘れてて…
私、将棋にも、戦略にも詳しくないので、そこら辺詳しい人はイライラすると思いますが、ふわっとした話しか書けません。
許してちょ。