書き出しをどう書くか悩むのはいつものことだ、とりあえず自己紹介でもしておこうか。
俺の名前は灰原彩(はいばら あや)。女のような名前だがれっきとした男である。年は20。職業は大学生、兼探偵助手。探偵事務所でバイトのようなものをしている。上司の・・・つまり、この事務所の探偵の名前は白鐘直斗(しろがね なおと)、警察がご厄介になるほど有名な『名探偵』の家系、白鐘家の五代目である。
しかし、この物語は所謂『名探偵もの』・・・ワトソンがホームズの活躍を書き記すようなものではない。
むしろこの物語は、ワトソンがホームズの先兵として活動する様子を書き記した、いわば日記のような物である。
さて、
前書きと同じ始まりかたをするのはどうかと思うが、これほどわかりやすい導入もないので多用させてもらおう。
さて、
事の始まりはとある依頼からだった。依頼主は総合電子機器メーカー〈レクト〉の代表取締役、結城彰三氏。
内容は娘、結城明日菜さんの意識不明の理由を探ること。正確には、ソードアート・オンラインによる昏睡状態から彼女が帰還しない訳を探ることである。
ソードアート・オンライン
VRMMO、仮想現実型大規模多人数オンラインゲームの金字塔となるべく作られたゲームであり、世紀の大天才茅場明彦氏が作り上げた『ゲームオーバー=現実の死』という狂気のゲーム。
使用者の意識をゲームの中に取り込む家庭用VRゲーム機『ナーヴギア』を凶器、もしくは錠として使用された、意識の集団監禁事件は二年前に勃発し、つい最近ゲームに囚われた者が生還した。テレビでも報道されている一般的な話題だ。だがしかし、実際には三百人の人間がいまだ意識不明という謎を残していたことを知る人は、この時点では少ない。
そして、どうやら白鐘探偵の探偵の新しいお仕事は、その謎に向かっていく事であるようだった。
一つの車が師走の東京を走る。グレーのレディーススーツにダークブルーのネクタイを合わせた女性を助手席に乗せた車は、とある総合病院にたどり着いた。駐車場に車を停めると、二人の男性が歩いて来るのが見える。一人はブラウンのスーツに身を包んだその出で立ちはいかにもやり手の経営者といった感じを見せている。彼が今回の依頼主である結城彰三氏。その後ろから来たもう一人は、ダークグレーのスーツと眼鏡の奥の人好きのする笑顔が印象的だった。
「よく来てくれました。改めて、私が依頼した結城彰三です。」
「白鐘直斗です」隣にいた少女・・・直斗さんが返す「こっちは助手の彩君」
「灰原彩です、よろしく。」彼女の紹介に合わせて挨拶をする。
「よろしくお願いします。」互いに挨拶を交わすと、彰三氏は隣の眼鏡の男を紹介した「こちらは、私の部下である須郷くん。」
「須郷です。よろしくお願いします。」眼鏡の男・・・須郷氏はそういうと、一歩下がって彰三氏を促した。
病院の前で簡単な挨拶をした後、中に入り、昏睡状態の結城明日菜さんが入院している病室に向かう。
病院のロビーは病院というよりむしろホテルのようで、ただの庶民には衝撃しか生まれなかった。
受付から通行証を受け取り、病室に向かう間にも、まだその衝撃は頭から抜けていなかった。原因の中にいるのだから当たり前なのかもしれないが。
「ここ、病院ですよね?」
思わず隣にいた直斗さんに小声で質問する。
「ここは民間企業によって運営されている高度医療機関です」
隣を歩いている直斗さんも驚いたような顔でーーーおそらく他の人にはわからないようなほどの驚き顔だがーーー同じく小声で返してきた。
「公営のものとは様々な違いがあるでしょう。・・・さすがにここまでとは思いませんでしたが。」
直斗さんは事前に情報を集めて来ていたのか、この病院についてもある程度教えてくれたが、正直覚えきれていないので割愛する。むしろ直斗さんが急な依頼だったというのにそこまでの情報を集めていたとこに驚いた。
そんな会話をしながら彰三氏の後をついていくと突き当りの病室の前で立ち止まり、ネームプレートについたスリットに通行証を通すとドアが一切の音を立てずに開いた。
「こちらです。」彰三氏が俺たちを中へ促しながら入る
彰三氏に続いて入った病室には、一人の少年が立っていた。黒のジャケットを来た中性的な顔の細身の少年、それっぽく整えたら女の子のようにも見えるだろう。
そして、彼の姿越しに見えるベットで横たわる人物がいた。キレイな栗色の髪を長く伸ばし、遠目からも端正な顔立ちをしているのがわかる。容姿端麗とはまさにこのことなのだろう。だがしかし、ここ2年は使われていないかのように細くなった体、その頭にかぶさる黒いヘルメット型の機械『ナーヴギア』がその美しさを台無しにしていた。
このベットで寝ている人物が肝心の結城明日菜さんで、少年は彼女を見舞いに来ていたらしい。
「・・・と、桐ケ谷君。今日も来てくれてたのか。」
「こんにちは、結城さん。お邪魔してます。」
「かまわんよ、この子も喜ぶ」
「失礼、彰三さん。この子は?」
どうやら少女が喜ぶ関係の少年について、直斗さんが質問する。質問のために前に出た直斗さんにつきそう様に前に出る途中。結城さんの後ろにいた信之氏が、妙な目線ーーまるで嘗め回すようなーーを明日菜さんと少年に向けていたのが見えた。
「あぁ、白鐘さん、彼は桐ケ谷和人君、あのSAOの英雄キリト君だ。」
「ちょ、結城さん!?」
「あぁ、菊岡さんのいっていた少年ってアンタか」
「えっ・・・!あなたたちはいったい・・・!」
その言葉に驚いたような表情をした少年ーーー和人君かーーーは素早く警戒し始める。と同時に脛を直斗さんに思いっきり蹴られた。どうやら余計な事を言い過ぎたようだ。直人さんあなたの蹴り痛いです。
「彼女たちは白鐘探偵事務所の探偵さんだよ。」
「始めまして、白鐘探偵事務所の白鐘直斗です。」
「助手の灰原彩。よろしく。」
「あぁ・・・。よろしく。」
「彼女たちはSAO事件の時も警察に協力していたんだ。」
彰三さんが俺たちとあの事件との関係を簡単に説明してくれる。その間桐ケ谷君はずっと驚いていた。
無理もないだろう、警察もご厄介になるあの『白鐘』の探偵がこんな17の少女で、ましてやその少女がかの事件を解決しようとかかわっていたと聞いたらそんな反応もする。
「僕たちもできることはほとんどありませんでした、せいぜい総務省の人と協力してすべてのユーザーに病院を手配させる事しか・・・」
だが、この少女は、あの事件についてとても悔やんでいる。先に言っておくと、彼女は東京だけでなく全国にいたSAOユーザー1万人をその日のうちにすべて特定し、病院に収容、完全介護体制を整えた。その手配を、政府によって対策チームが作られる前におこなってる。対策チームが彼女に頭を下げるしかないことを行っている。しかし、彼女はそのあと何もできずに二年を過ごしたことが残念でないらしい。
この白鐘直斗という人間は、責任感がとても強い、去年半年かけた事件で少しは丸くなったが、一人で形をつけようとする癖は消えていない。責任感が低いよりは良いのだろうが。
「彰三さん、そろそろ依頼の詳しい内容について聞かせてください。どうやらそちらの子のことらしいですが。」
「ああ、すまない、君たちには明日菜が帰ってこないことについて調べてほしい、というのは前にも言ったね。」
話を変えるように彰三さんから詳しい話を聞こうとすると、二人の人物から声がかけられた。
「そのことなんですが社長ーーー」
「あ、あんたたちはーーー」
が、同じタイミングで話かけてきたために二人とも声を止めてしまった。直斗さんが仕方がないとでもいうようにため息をつくと、こちらに声をかけた。
「すいませんが彩君、桐ケ谷くんから話を聞いてきてもらっていいですか。正直、年下と話すのは慣れていないので。」
「わかりました、お偉いさんと話すのは苦手なんで、助かります。」
周囲の人物に呆れ顔やら不安顔やらにさせながら和人君に顔を向けると、和人君も察したように頷き、「じゃあ、また」と明日菜さんに声をかけてから俺と一緒に廊下へ出た。