しばらくすると先ほどの車が駐車場を出て、すぐあとに直斗さんも現れた。車に乗ったのを確認してから発進させる。
「よく知るなんてものじゃなかった」直斗さんは吐き捨てるように話し出す。「須郷さんとつながっていましたよ。」
誰がと聞けば、先ほど話を聞いた相手がと答え。探偵は続ける。
「病院で依頼は遂行するといった手前、あちらに情報を漏らさせたくなかったのですが・・・」直斗さんは悩んだ末、首を振りながら続ける「いえ、すぎたことです。情報も手に入ったし、向こうに反応させずに終わらせましょう。事務所にお願いします。」
言いながら携帯を取り出すとどこかへ電話をかけ始めた。
「分かりました。」
いったいどんな情報を手に入れたのか気にはなったが、それで探偵の邪魔をしては本末転倒だと、黙って進路を探偵事務所へと向けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
事務所に着くと、その前で見慣れない男が立っていた。無難な黒いスーツに黒縁メガネをかけた彼は、車から降りた探偵を見つけると、おっ、という顔をして近づいてきた。
「いやぁ、まさか僕の方が先につくとは思わなかった。」
「菊岡さん、暇なんですかあなた」
いやぁはははと男が笑いごまかすと、だいぶ諦めたような顔をした探偵から紹介をされる。
「菊岡誠二郎さん。国家公務員で、VR空間に関する事件を扱っている人物です」
「ご紹介に上がりました、菊岡です。よろしくね、灰原くん」
直斗さんの紹介に合わせるように手を出す男ーー菊岡さんの顔にはニコニコとした笑顔が張り付けられていた。何故名前を知っているかと思いながらもこちらも手を出し握手を交わすと、探偵はさっそく本題を切り出した。
「今日は、2,3聞きたいことがあったので、呼び出させてもらいました。」探偵は事務所の鍵を開け、彼を迎え入れる「仮想空間、正確にはナーヴギアに関するものです。」
「それは構わない。だけど、わざわざ僕が来る必要あったかな?」言いながら、菊岡さんは、事務所の中に入っていく「電話とかでも十分な気がするけど。」
「何処から情報が洩れるか分かりませんから。」探偵はコーヒーを入れるように指示をして。菊岡さんをソファに促し、その対面に座る。「それに、結果としてかなり大きな事件になる。もみ消されるわけには行きませんから、念のため。」
「なるほど、ある程度上の人に話を通したかったと。」ソファに座った菊岡さんが納得したように言い、さらにその目が探偵を鋭く射抜く。「・・・僕がここで、君たちの口封じをする可能性は?」
「ここには、僕が仕掛けた盗聴器とカメラがあります。」言いながら探偵は、部屋をぐるりと見渡す。「壊しきれないよう細工をしたモノがたくさんね。」
「・・・」ここまでの静かな口論に屈したのは菊岡さんだった「降参、何が聞きたいんだい?」
コーヒーの入ったカップを二つのせたトレイを二人の元へ運び、それぞれにカップを渡す。菊岡さんがすぐさまテーブル上のビンに入れていた角砂糖を入れたあたり、苦いコーヒーは苦手なようだ。
「では一つ目」探偵は、指を一つ立てながら言った。「ナーヴギアによって、洗脳を行うことは可能かどうかです。」
「・・・急にすごいことを聞くね。」コーヒーを口にしていた男はぎょっとした顔をした後、顎に手を当てながら考える「可能かどうかなら、可能だね。そもそもあれの行うVRゲーム自体が脳に直接刺激を与えて仮想空間を作り出している、脳をレンチン出来るような威力を出せるナーヴギアなら、記憶障害、精神障害を起こせるだろうし、洗脳が出来てもおかしくない」
ナーヴギアによる処刑をレンジでチンと同様の感覚(原理は一緒だが)で話す彼に少々引いたが、探偵は続けた。
「二つ目。もし、仮想空間内で監禁行っている場合、加害者を罪に問うことはできるか。」
「・・・どうだろう」菊岡さんは真剣に考えこみだす「まだそこらへんの法整備が終わっていないから、どうとも言えないね。」
そうですか、と返答する探偵に、菊岡さんは逆に質問をした「もしかして君は、SAO未帰還者300人ことについて言ってるのかな?」
「その通りです。」情報の礼を情報で返すように、探偵は続けた「とある人に、ALOのアクセス状況を監視してもらっていました。」
「ちょっと待って」続けようとした探偵の話を菊岡さんが切った「ALOのサーバーはSAOのコピーだ、ソレに介入できたのかい?っていうか犯罪じゃ「犯罪は、」
お返しとばかりに探偵が菊岡さんの話を切る
「法に整備され、誰かに証拠を突き付けられて始めて犯罪たりえます。だからこそ、僕は証拠を集めるんです。」
どんな手を使っても、と言外に語る探偵に、菊岡さんは押し黙る。依頼と事件の解決について、彼女の考えはとても固い。柔らかく考えられない代わりに、そうと決まれば、網があろうが突き破る。
「話を続けます」探偵は続ける「その人が言うには、今日の午前4時から、サーバーへのアクセスが300人余りになっています」
「・・・?」菊岡さんは首をかしげる。「それがいったい何なんだい?オンラインゲームとしてはかなり少ないとは思うけど。」
「いや、菊岡さん。明らかに多すぎます」
どうやら菊岡さんにはこの異常がわからないようだ、仕方がないだろう。
「オンラインゲームのメンテナンスなんて、ゲームの外からプログラムを整備するだけでいいんですから。」
誰も、自分がやらないゲームの定期メンテナンスのタイミングなど覚えているはずがない。
「・・・!プレイヤーが入ってこれない時間か!?」菊岡さんは座っていたソファを立ち上がりながら叫んだ。
「その通りです。」直斗さんが答える。「メンテナンス中にも拘わらず300人もの人物がアクセスを続けている。しかも、その300人はある共通点がある。」
「・・・共通点?」菊岡さんは息を整え、ソファに座り直す。「もしかして、それがSAO未帰還の300人だ、といえる証拠かい?」
「その300人は」探偵は、質問を無視するように。・・・その質問に答えた「ほとんど全員が各病院にあるナーヴギアから接続を行っています。いくつかのIDが病院から許可を得て確認したものと一致しました。」
探偵は机に置いておいた封筒の中から300人ぶんのアクセスについて乗ったスクリーンショットのプリントと、デジカメで撮ったものをそのままプリントした、ナーヴギアと思われるもののIDが乗った写真をいくつか見せた。確かに、その写真と同じナンバーがファイルに書かれているものにも存在している。
「・・・確定、だね」菊岡さんは天を仰いだ「その300人はSAO未帰還者だ。そうなると、僕は仮想課の人間として、君達の活動に協力しなければならない。何かやってほしいことはあるかい。できることならやってあげるよ。」
「彼の保護を」探偵は新たに写真を取り出す。一人の男が須郷信之と会話している写真だ。「僕が秘密裏に須郷さんについて調査していた際にあった人物です。名前は高田太郎。どうやら証人になりえるようなので。」
どうやら今日会ってきた人物のようだ。先ほどの地下駐車場で撮影していたものだろう。
「すでに裁判についても考えていたのか。すごい手腕だな。」
「・・・ほめ言葉として、受け取っておきます」探偵が言った。
「分かった、」菊岡さんは頷いた「僕が動かせる人に話を通しておこう」
だけど、と菊岡さんはさらに続けた
「君が言ったことを返すなら、彼の行為は、まだ法として整備されていない。このままじゃ不起訴処分で終わってしまうよ」
「その時は」探偵は、ノータイムで答えた「何とかします。・・・僕たちの仕事が完了したら。何もしなくてもボロを出すでしょうから。」