午後3時過ぎ。サーバーのメンテナンスが全て終わった後。直斗さんは、またスクナとしてーーツクモと共にーーALOに立っていた。
ログアウト場所として利用していた宿から降りると、見知った男女を見かけた。
「リーファさん」話しかけたのはスクナさんだった「それにキリトくんも、無事だったんですね。」
「おう、」キリトが軽快に答えた「メンテギリギリでアルンにこれたんだ。・・・そっちも大丈夫だったんだな。」
「よかったぁ」リーファも安心したように話す「近くにいないもんだからびっくりしちゃった。」
「そもそも飲まれていませんでしたからねぇ。」
「僕たちはこれから世界樹へ挑戦しようと思っています。君たちはどうでしょうか」探偵は行った。確かに、これから世界樹へ攻め込むためには、少々人数が足りない。今回は、リアルの都合でヒミコが来ておらず、こちらは先輩を含め二人しかいないのだ。
「いいぜ、俺たちも今から行こうとしていたところだ。」少年は言うが速いか、向こうのパーティからの参加依頼が目の前に現れた。探偵が『YES』ボタンを押すと、スクナの下に新たに二つのステータスバーが出現する。
「それじゃあ、行きましょう」スクナの呼びかけに答えるように、ドアを開け外に飛び出した。
「うわぁ・・・」顔から感動を隠さずにリーファは声を漏らした。
現実より一日が短く設定されているアルヴヘイムーー夜しかできない人物に対する配慮だそうだ。ーーにおいても今日の午前1時ごろのアルヴヘイムは太陽が沈み初めていた。そのあとにヨツンヘイムから脱出したのなら、アルンはそのころ真夜中であったはず、中世ヨーロッパのような街並みは、昼と夜じゃ印象が大きく変わるのだろう。
「いろんな種族が、ああやって歩いているのって・・・なんかいいね。」
どうやら街並みではなく、様々な種族がいることに感動していたようだ。
「アルンにずっといると、むしろ一種族だけの方にいわk「どうしたんだ、ユイ?」」
リーファの言葉に皮肉を飛ばそうとすると、キリトの声が何故か強く響いた。そちらを見ると、彼の胸ポケットにいた小さな妖精が食い入るように上空を見つめていた。
「・・・上空、世界樹方向・・・!」ユイは空を見つめ続ける
「このプレイヤーIDは・・・ママです!ママがあそこにいます!」
そこからのキリトの動きが速かった。
急に背中の羽を震わせると、目に止まらない速度に雲の向こうへ飛び上がった。
「キリトくん!?」シルフも慌てて羽を広げ空へ飛んでいく。
「僕たちも行きましょう!!」探偵も空へ飛び立つ。
「分かりました」
探偵と並走するように飛んでいくと、雲を抜けた先で、キリトが空に弾き飛ばされた。空には弾き飛ばした場所から波紋が広がっている。『進行禁止エリア』。システムによって作られた絶対の障壁である。
「止めて、キリト君!」リーファが落ちてきた彼を受け止める「そこから先には行けないんだよ!!」
「ユイちゃん!」スクナが追いつき、体制を整え再突進しようとするキリトの、傍らにいた小さな妖精に呼びかける「緊急アナウンスのようなものはありませんか!」
「警告モードがあります!それなら届くかも・・・!」言いながらユイが空へと呼びかける。「ママ!!私です!!ママ!!!」
ユイの叫びの後、何かが空から落ちてきた。長方形の薄い板が、光を反射している。いつの間にか剣を抜こうとしていたキリトが、手を器にして板を手に取る。しばらく全員でこれが何か話していると、不意にユイが板に触れて、叫んだ。
「これ・・・システム管理用のアクセスコードです!」
「アクセスコード?」探偵が素早く反応した「ということは・・・これを使えば、システムに介入できるんですか?」
「いえ・・・」ユイは悲しげに言う「ゲーム内からアクセスするには、コンソールが必要です。私でもシステムメニューは・・・」
「無理・・・ってことですか。でもそんなモノが落ちてくるってことは・・・」
「この上にキリト君の目的がある。」
探偵の言葉にキリトが相槌を打つ。
「リーファ、」キリトが言った「教えてくれ、世界樹の中に通じるゲートはどこにあるんだ?」
「・・・木の根元のドームの中だけど・・・」リーファは眉を寄せた「でも無理だよ、あそこにはガーディアンがたくさんいて、どんな大軍隊でも突破できなかった」
「それでも、行かなきゃいけないんだ」
言い切ったキリトの目は、覚悟に満ち溢れていた。
「今までホントにありがとう」キリトは二人を見て言う「ここからは俺一人で行くよ」
言いながらリーファの手を離させ、頭を下げてから、黒い剣士は降下していった。
「行ってあげてください」探偵はリーファに言う「おそらくですが、彼にはあなたが必要です。」
リーファがその声に振り向くと、目に浮かべていた涙を飛ばすかのように、急降下していった。
「どうするんですか先輩?」
「少々気になることがあります」探偵は言いながら右手のボウガンを展開する「一つは、この障壁が、どの程度の物を通すかどうか。」
太矢をボウガンにつがえると、探偵はソレを空に向かって放った。空気に波紋が発生し、太矢ははじけてポリゴンへと砕け散った。
「遠距離・・・いや」言いながらストレージを操作し、何時の間にか手に入れていた小石を上に放り投げる。小石は太矢と同じ末路をたどる。さらに剣を抜いてたたきつける。空に波紋が起こり、剣もろともはじき出される。
「どうしたんですか。」
「上に何かある・・・もしくは何かが行われていることは確定です」探偵は納得がいったようだった「先ほどのカード・・・アクセスコードだけが障壁を通ってこちらに来ました。おそらく、あれはこちらに落ちてくることを想定していなかったのでしょう。あとは、彼が追っている人物、『ママ』が誰なのかが分かれば・・・行きましょう、後を追います。」
「分かりました。」急降下を始めた探偵の追い、しかし地面に激突しないように、羽を休めながら降りていく。否、落ちていく。
空から世界樹の根元にある扉ーーグランドクエストの開始地点ーーに降りると、そこには金色の髪のエルフが、手のひらに乗せたリメインライトに向けて何かを振りかけていた。振りかけられたリメインライトは輝きを増しながら人の形をとっていき、キリトの形を残して霧散した。
「ありがとう、リーファ」キリトは蘇生させたリーファーー蘇生用アイテムは結構高価だーーに礼を言った「だけど、あんな無茶はもうしないでくれ、これ以上迷惑はかけたくない。」
「迷惑なんて、あたし・・・」言いかけるリーファを半ば無視するようにキリトは扉へと向かう。「待ってキリトくん!一人じゃ無理だよ!」
「それでも」呼び止めたリーファを振り払うようにキリトは言う。「行かなきゃいけないんだ」
「なんで・・・」リーファの声が小さく響く「いつものキリトくんに戻ってよ・・・わたし、キリトくんのことが
「もう一度・・・アスナに会わないと、何も始まらないんだ」
・・・えっ?」
リーファの顔に驚愕が浮かぶ「いま、なんて、」
「・・・?」キリトは首をかしげながら答えた
「あぁ、アスナ。それが俺の探してる人の名前だよ」
「・・・確定。ですか?」
「そうですね。」空に浮かびそれを聞いていた探偵に問えば、とても簡単な答えが返る。「一旦宿に・・・というか、現実世界に戻りましょう。依頼していたアレが使える。」
「分かりました。」言いながら、近場の宿へと向かい、その場を後にする。
この時探偵は、あのシルフの少女の正体を知らなかった。