真っ白な壁。
無機質な通路。
スクナたちが転移した先で見たのはその二つ、それ以外に一切がない“ただの廊下”だった。近くにいたのはユイの手を取っていたキリト、そしてキリトの体に触れていたスクナ達。そして白いワンピースを着た少女だけだった。
「・・・ここは?」ジライヤがいう「ここが世界樹の上なのかよ・・・」
「・・・分かりません」少女が言う「ここには、ナビゲート用のマップ情報が存在していません・・・」
「あなたは、」スクナが少女に聞いた「ユイちゃんなんですか?」
「あ、はい、」少女ーーユイが答えた「いろいろ事情があって、こっちが私本来の姿です。」
「ユっユイ」キリトが話を遮るようにユイに聞いた「アスナのいる場所は分かるか?」
「あ、はい」ユイは周囲をきょろきょろと見渡しながら答えた「ここから近いです・・・ちょうど上の方ですね。」
「キリトくん」スクナが言う「私たちは別の所を調べます。ユイさん、アクセスが集中している広い空間は見つけられますか?いえ、アクセスの集中しているかだけでも構いません。」
「・・・難しいですけど」ユイは眉間にしわを寄せながら言った「ここより下の階層に、アクセスが集中しています。・・・あれ?」
「どうかしたんですか?」
「おかしいんです」ユイ問いかけに答えた「アクセスが集中しているんですけど、全員の座標に規則性があるんです。まるで、整列したまま、じっと動いていないみたいな。」
「・・・見つけた。」探偵は静かに、確信をもった「僕たちはそこに行きます、キリトくん、そちらはお任せしますよ。」
「分かった」キリトはその言葉に答え。ユイの後を追うように走り出した。「そっちも頼むぞ・・・じゃないな、健闘を祈る!」
「・・・えぇ。」スクナは肩をすくめ、歩き出す。「そちらも、健闘を祈ります。」
「・・・で」歩きながらジライヤが尋ねる「見つけたって何のことだ?」
「・・・はぁ」探偵は、なんでここにいるのか、という目線を向けながら仕方がないといわんばかりに溜息をつき答えた「しばらくは、他言無用でお願いします・・・簡単に言えば、証拠です」
「証拠?」ジライヤは続けた「ってことは昨日言ってた目的って奴か。」
「えぇ」スクナは「・・・この際です、皆さんも協力してください。」
「おいおい、そりゃねえだろ」ミカヅチが呆れたようにいう「俺たちは、スクナの手伝いをしに来てんだぜ、なにいまさら言ってんだ。」
「・・・ありがとうございます」探偵は照れくさそうに帽子を下げようとして、下げる帽子が無かったために髪を手で押さえながら言った。「僕らは一つの依頼を受けました、内容は『SAO事件に取り残された三百人の原因を突き止めること。』です。」
「取り残された三百人って、ニュースになってたアレ?」横を歩いていたヒミコが言う「私も情報バラエティで意見聞かれたよ、適当に答えたけど。」
「でもそれで、なんでこのゲームやることになるんだよ」ミカヅチが言った「なんかあんのか、このゲームに。」
「とある情報筋から、未帰還者の目撃証言があったんです。」探偵は答えながら突き当りの前に立つ、その壁には三角形の模様が上下鏡合わせになっていた「その後の調査で、未帰還者が24時間このゲームにログインしていることが分かりました。」
探偵が下を向く三角形を押す。三角形は光を発し、目の前の壁が
「うおっ!」ミカヅチは驚いた「何だこりゃ・・・」
「エレベーターですよ。」探偵は壁の先の空間ーー小さな部屋ーーへ入る。そのまま身をひるがえすと、部屋の外からは死角となっている所に部分に目を向けた。「やっぱり、階層を示すパネルがある。・・・行きましょう。」
全員が乗ったことを確認してから、探偵が一番下のパネルを押す。すると、エレベーター特有の浮遊感を感じた。
「マジでエレベーターだ・・・」ミカヅチが言った「なんでんなとこにあんだよ・・・」
「それに・・・」ジライヤが言った「ここにあるのは、空中都市のはずだよな。の割には、殺風景じゃなかったか?まるでどっかの施設みたいだ。」
「そうだね・・・」ヒミコが同意した「全然都市って感じじゃない・・・。」
「どうやら本当に」スクナが言った「このゲームをクリアさせる気はなかったみたいですね。」
「どういうこと?」ヒミコがスクナに聞く。
「おそらく運営が欲しかったのは、“大型サーバーを運用するための大義名分”です。」スクナが説明を始める。「何かやましい理由のために、サーバーを使いたかった。それを認めさせるために、VRMMOで外側を作ったんです。
・・・そうであれば、先ほどのクエストの矛盾も理解できる。」
「矛盾?」ミカヅチがその声に返した「さっきの扉がか?」
「そうだな。さっきのクエストがクリアできたのは、あのカードキーとユイちゃんがあったからだ。」答えたのはジライヤだった「てことは、その二つがないやつには一生クリアできなかったんだ」
「その通りです」スクナが同意する「そして、その二つはどちらも彼個人の事情によって手に入れたもの。彼以外では手に入らないものだったんです。・・・そうすると、ゲームとして成り立っていない。彼にしかクリアできませんから」
「クリアできないゲーム・・・」ヒミコは顎に手を当てた「なんでそんなゲームを作ったんだろ」
会話を続けているうちにエレベーターの止まる感覚と後に扉が開いた。短い通路の先に大きな扉が言える
「そこで最初の結論です」スクナは歩き出した「すなわち、このゲームは大型サーバーを使うための大義名分である、という推理ですね。」
「なるほど・・・そもそもゲームである理由はいらなかった。むしろ、長く遊んでいてくれた方が、やましい理由をカムフラージュできる、ってことですか。」
「ツクモ君の言う通りです」後を追う声にスクナがこたえる「クリアせずに長く遊んでいてほしかったわけですね。・・そして、ゲームであったことには別の理由もある」
「理由?」ミカヅチが後ろから返した「他にもあんのかよ。」
「・・・僕の推理が正しければ」スクナは続けた「その理由は、『データの転送がしやすかった』ということです。同じ形式だったために、こちら側に送りやすかった。」
「ちょっと待て」ジライヤは足を止めていった「さっきお前、SAO事件に取り残された原因を突き止めること、っていたよな・・・それって」
「多分、想像の通りですよ」スクナはドアを押しながら言った。
「下手人は『SAO事件の被害者を三百人』、このゲームの強制転送したんです。アバターを取り除いて、脳を繋げるシステムだけを・・・ね。」
ドアが開く。その先に在ったのは巨大な空間、そこに人ひとりが入りそうな水槽がいくつも並んでいる。水槽には人間の脳のようなものが一つづつあった。
「・・・おそらく」スクナはその光景を見ながらーー少し怯えるようにしてーー言った「ここにある水槽の中の脳は、その通り三百人分の脳そのものです。このサーバーから、ナーヴギアを通じて電気的に
操作できる、ね。」
「・・・フラスコの外って・・・こんな感じ何ですかね・・・」
「言ってる場合じゃありませんよ」スクナは部屋の中に入った「コンソールを探してください。キーボードと、画面があれば構いません。」
「・・・ここにあるもんなのか?」ミカヅチは言った「他のとこに隠したりしねえのかよ」
「人間の心理・・・というものでしょうか」探偵は説明した「人は、大切なものを近くにおいておいたり、自分でやる傾向があります、ミカヅチくんも机の上や近くに編み棒か、裁縫セットがあるでしょう?」
「・・・何で知ってんだよ」ミカヅチは驚く、図星だったようだ。
「君は分かりやすいですから」探偵は微笑みながら続けた
「ここを作った人物・・・仮に、Aさんとしましょう。僕は彼をここ最近追っていました。
Aさんにとって大事なのは“研究の結果”と“自分の好きな人物”。“研究そのもの”や“それ以外の人物”に対してはたいして考えていません、おそらく、大体の研究を研究者達に任せているんでしょう。」
「・・・もしかして、」ジライヤが気づいた「そのAってやつの好きな人物が、さっきキリトが言ってたアスナってことなのか?」
「その通りです。」スクナが答えた「これに基づくなら、普段、アスナさんがいる付近にAさんがおり、それ以外については遠くに離すと考えました、実際アスナさんがいる部屋と逆方向にここはあった、であれば、同じく離されるものが研究そのものです。」
スクナが話している間、歩きながら周囲を見渡していた視界が、強い光をとらえた。
コンピューターのディスプレイ特有の、目の痛くなる
「見つけました」言いながらディスプレイに歩き出す。
「良し!」探偵は思わずといったように声をあげる「ツクモ君、予定道理おねがいs
「なんでここに人がいる!?」
「・・・!ツクモ君!」聞きなれぬ声に探偵が叫ぶ「早くコンソールに!」
その叫びを聞くや否やディスプレイに向けて走り出す。ディスプレイの下には、ホログラムで作られたキーボードが浮いている。その座標にキャラクターのアバターが置かれれば、その点に合わせた文字が入力される。仮想世界ならではの装置だ。
走った勢いのままキーボードに手をつけ、事前に聞かされていた言葉を思い出す。
ーーー現実へと戻った際、探偵は自分のデスクの引き出しから一つのカードを手に取った。パッと見はただのALOのソフトカードーーこれをアミュスフィアの本体に差し込むことで、ALOの世界に“飛ぶ”ことが出来るものーーだった。
「何ですかそれ?ALOのカード?」
「プログラムを追加で入力したものです」尋ねた声に探偵は言う。
「・・・それ、“入力”の前に“不正”ってつきません?」
「・・・そうですね」返す答えに探偵は一呼吸おいて答えた。
つまるところ
「安心して下さい、ゲームを有利に進めるものではありません。」探偵は弁解するように言った「これはとある人物に作ってもらった。サーバー侵入用の物なんです。サーバーに繫がるコンソール内で合言葉を言うことで、その人のPCからサーバーを操作できるようにする、そういうプログラムなんです。」
「ほう・・・。その合言葉とは」
「・・・」探偵は数瞬の沈黙の後答えた「それはですね・・・」ーーー
「『コール・メジエド』!」
思い出した言葉を叫ぶと、即座にスクリーンの中がウィンドウが出たり消えたりとあわただしくなり、それと同時に若い女の子のような声が頭の中で響き渡る。
『よっしバックドア貫通、ゲーム外から失礼するぞ!さっさとタスク消化だガンガン行こうぜ!
とりあえずこっち以外の操作を制限、んでもって研究用プログラム・・・コイツだな、ユーザーを解放、ログアウト!
研究資料は・・・こっちか、んじゃコピって保護して解除に二重パスワード・・・いいや、倍プッシュで三重もってけ!
ん・・・なんだこのデータ・・・『ヒースクリフ』?まあいいやスルー安定だな。
・・・あれ、一人ログアウト出来てねぇ!なんでだ!?
別のユーザーに所有されてる!?どういうことだ!!??
・・・ユーザーより上位の権限!?運営側かよコレ!?なんでこんなプログラム作ってんだ!?』
おっと雲行き怪しくなってきたぞ。
そんなことを考えながら後ろを警戒しようと振り向いた瞬間、ちらりと見えた画面に再度振り向いた。
見返した画面は砂嵐のように灰色の画面となり、すぐに何かの映像が現れた。
『んお・・何だこの画面・・・マテ、誰が流したんだコレ!?』
それは黄色い背景に、傾きながら奥に落ちる、画面部分の抜けたテレビのコマ撮りの中を進むような映像、
否、
いくつものテレビの中に落ちているような映像だった。
何故か目が離せずにそれを見続けていると、先ほどとは違う、機械音声のような声が、今度は部屋に響き渡るように聞こえた。
【不正アクセスを確認、“マヨナカオンライン”を起動します】
それが聞こえた瞬間、
電源を切れるように意識が途切れた