油断した・・・!
研究室を見つけ、捜索する間も、僕ーー白鐘直斗は出入口を警戒していた。何時近づかれてもすぐに全員にログアウトを促せるようにしているつもりだった。
まさか、ログイン地点を研究室にしているとは思わなかった!
判断ミスだ。だけど、それを言っている時間はない。
ツクモ君はすでにコンソールを通じてバックドアを完成させている。それは先ほどから彼の向かった方向に輝く光の変化から明らかだ。なら僕たちが必要なのは、彼女のための時間を稼ぐことだ。
「皆さん、こっちに来て下さい!」
言いながら二人の方へ走る。ジライヤさんとミカヅチ君は武器を取り出しながらこちらへ向かい、そのまま研究者ーーナメクジを擬人化したようなアバターをしていたーーから僕を守るような位置に立ってくれた。ヒミコさんも後ろに控えてくれている。
「すでに準備は終わっています。あとは時間を・・」
【不正アクセスを確認、“マヨナカオンライン”を起動します】
そのアナウンスが部屋に響いたのはその指示を出す時だった。
その言葉に、僕たちーー“あの事件”に巻き込まれた人たちーーはあるものを想起する。
それは空間。
一年前、一つの殺人事件から発展した案件で現れた、深い霧に覆われた一つのスタジオ。ジュネス八十稲羽店の大型テレビから入れる空間・・・。
そこまで考えたところで後ろを振り向いたのは、探偵の勘、というものだったのでしょうか。
振り返ったそこには、あのテレビの中に落ちていく間に見えた光景を流すディスプレイだけ
そこに、ツクモ君はいなかった。
「ツクモ君!!」
叫ぶと走る、どちらの方が速かっただろうか。
気付いたらそのディスプレイに、当たり前のように飛び込んでいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーー再起動、状況を視覚にて確認、学校の屋上の上--
ーーいったい何があったのか、順を追って振り返るーー
ーーキーボードに手を置いて、
ーーバックドアの開通を確認、スクナの援護に入ろうとして--
ーー【マヨナカオンライン】に引きずり込まれたーー
ーー現状を完了、再度周囲を視覚にて確認ーー
ーー屋上の上、変化なしーー
ーー内容、『状況の打破』ーー
ーー思考開始・・・ーー
「彩君!」
|遠くから聞こえる声に振り向くと、そこには先ほどまで一緒にいた四人が見えた。《ーー聴覚より認識、反応。視覚にて確認、スクナ、ミカヅチ、ジライヤ、ヒミコーー》
ーー思考を安定、会話を開始ーー
「先輩?それに皆さんも、どうしました?」
言いながら四人に近づこうをすると、
肩を掴まれた。
驚きながら振り向くと、そこには一人の男がいた。
「あれは、“シャドウ”か!」
ジライヤさんが叫ぶ、シャドウとはいったいなんだ?
「そう、わたしは、灰原彩のシャドウ。彼が抑圧した感情の具現。」
その青年は、茶色いコートに身を包み、にらみつけるような一重の細目が特徴的だった。
男はその顔を呆れたように破顔させると言った
「あぁ・・・自分の顔も分からなくなったのか。全く・・・」
・・・自分の顔?
おかしい、少なくともこんな顔では・・・
・・・あれ?
青年は近づく、何故か離れようとする足は、それでも離れなかった。
「気付いてるかい、自分が一度も自分の事を話していない事に。
気付いてるかい、自分への評価を誰かに押し付けていることに。
気づいているかい、しなくてもいい自己犠牲をしていることに。
気付いてるかい、自分が一度だって
自分のことを、見ちゃぁいないことに」
「
“彼”は“その顔”を近づけ、言い切った。
「な・・・お前、シャドウだよな・・・?抑圧された・・・」
ジライヤさんの声が遠くに感じる、それほどに、彼の言葉は響いて
「シャドウですよ、私は、この子の、“俺”のシャドウです。」
続く言葉に、“何か”が反応して、とても立っていられなくなりうずくまる
「私は“俺”の、抑圧された感情、思想。」
・・・違う
「この子が、灰原彩が、心の奥底に丸ごと一気に押し込んだ。」
・・・違う、違う!
「“俺は人間である”という自己意識の暴走です。」
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ
「違う!!!」
体を無理に立たせて叫べば、“その顔”はとても近くにあった
「違わないよ、君は人間だ、まぎれもない人間だ。違いなんて一つもない。
どれだけ意思が無いように努めようと、
どれだけ自分の意識を抑えようと。
間違いなどなく君は人間なんだ、逆立ちしたってモノにはなれやしない。」
「お前に何が「分かるんだよ」・・・!?」
「分かるのさ、お前が人間だと、お前に何があったかも分かる。だって・・・
“私”は“俺”で、
“俺”は“私”なのだから。」
「・・・“俺”は・・・」
「彩さん駄目だ!それ以上は・・・「花村先輩!」・・・白鐘!?」
「駄目です、あれは・・・あれは抑えてはいけない!」
ーー後ろから聞こえる声を無視、自己保存のため、反論を開始。ーー
「“俺”は道具だ、代替の利く道具!お前が人間なら・・・
『お前は“俺”じゃない』!」
「・・・強情だね、まあいいや。そうだね、『灰原彩は道具である』という命題が真であれば、確かに私はあなたではない・・・」
ーー言いながら、“彼”から“何か”が吹き出す。それと同時に足から、いや全身から力が抜けた。ーー
ーーまるで、“何か”が自分から抜き取られるように。ーー
ーー吹き出した“何か”が彼にまとわりつく。ーー
ーー全てまとわりついたそこにはーー
ーー巨大な動く人形があった。ーー
ーー黒を基調とする和服に赤い番傘ーー
ーー球体関節をのぞかせた四肢ーー
ーーそしてその顔には、般若の面がついていた。ーー
「我は影、真なる我・・・
なら、私がその命題を覆す。『人は死ぬ』という原則を持って!!」