「マスター、甘いカクテルくださいな」
「お、今日は飲むのか、珍しいな」
「イベントごとぐらいでしか飲む暇ないもんで。まあ未成年も多いし、カウンターでこっそりとですけど。」
そのあと、ネタばらしーーどうやら“SAOクリアオフ会”に“キリトを驚かせよう作戦”が組み合わされていたらしいーーの後、和人君のタジタジの音頭を合図にオフ会が始まった。
「ふーん、キリトと一緒にアスナを助けに、ねぇ。」
「そうなります。彼とは助ける理由が違うだけでしたね」
「それで?なんかなかったの?」
「・・・?なんか、ですか?」
「どうせキリトのことだからなんかあったんでしょ?アイツが急にすっころんで・・・そのたわわな胸部装甲を鷲掴みにされたとかさぁ?」
「ちょ、里香さん。初対面の人にそんな・・・」
「そ、そんなことありませんよ!ALOのアバターでは比較的スレンダーな方ですから!」
「え、アバターって自分そっくりじゃないんですか?」
「え?」
「え」
「え」
「なんか向こうが面白いことになってんすけど」
「SAO内でアバターが機能してたのはほんの数時間。あとは全部現実のソレだったからな。カルーアミルクできたぞ。」
直斗さんはテーブルでそばかす顔の女子とツインテールの女の子と会話している。しているうちに謎のすれ違いが起こっているようだが。
ちなみに直人さん、あなたのアバターは“あなたが見たなかで比較的”スレンダーなのであって周囲から見ると十分たわわです。
「つっかれた・・・」
「和人君クッタクタだな、どうした」
「背中バンバン叩かれたり尊敬のまなざしで見つめられたりしてキツかった」
「あぁ、うん、そいつはお疲れさまだ」
「レイドボスよりきついかもしれない・・・エギル、バーボン、ロックで」
「・・・酒の注文は冗談だけにしときな高校生」
「ほらよ」
「「なん・・・だと・・・!?」」
アンドリューさんーーーSAOでは『エギル』だったらしいーーーが俺らの冗談をよそにグラスに丸い氷の浮かぶ茶色い液体を差し出す。雰囲気がすでにアルコールである。
未成年飲酒。ダメ、絶対。
「ってこれウーロン茶かよ」
出されたソレを和人君が恐る恐る口に入れると、拍子抜けするような声で言った
「未成年に酒なんか出すかよ」
「アンドリューさんビックリするからやめてそういうの。」
どうやらおちゃめなマスターの冗談返しだったらしい。ほんとにやめてほしい。
「エギル、俺には本物をくれ」
言いながら、和人君の隣ーー俺とは逆側ーーのスツールに一人の男が座る。
ワイシャツとネクタイにスラックスといったサラリーマンの風体をした、茶髪を上げる赤いバンダナが印象的な男性だ。
「初めて見る顔だな、壺井遼太郎だ。“向こう”じゃ『クライン』って名前だった。」
「そりゃあ初めて見ますよ、"向こう"に行ってないですからね。
白鐘探偵事務所で助手をしています、灰原彩です。」
「おっと、んじゃあアスナさんを助けてくれたってことか、俺からも礼を言わせてもらうぜ。アスナさんがいなけりゃこいつがショボくれたまんまだったからな!」
「うるせえよクライン・・・おまえこのあと仕事あんだろ、飲んで大丈夫なのかよ」
「へへ、残業なんざ飲まなきゃやってらんねえよ。」
言いながらアンドリューさんから丸い氷の浮かぶバーボンを受け取るとスツールを回す。その先にいたのは先ほどまで謎の混線を起こしていた女子高生たちだ(直斗さんはあれでも高校三年生の18歳・・・明日奈さんと同い年だ)。
あの後明日奈さんが説明に入ったらしく、今は仲良く談笑している。あのKY探偵が同年代の人と混ざって笑っているとは珍しい。
「いやぁそれにしても・・・いいねえ。」
「未成年に手ぇ出したら後が怖いですよ。女性の体は15、6で子供作れますから」
「するかよんなこと!!」
「クラインのことだ、出しても不思議じゃないな」
「てめえキリト!俺のことどんな風にみてやがんだ!」
「「女に飢えてる」」
「いや灰原さんには聞いてねぇ!あとエギル笑うな!」
「いやぁ、キリトくんの周りは退屈しなさそうだね」
壺井さんの独り言に茶々を入れ、始まった和人君との口喧嘩を横目にカルーアミルクで口を潤していると、俺の隣ーーー和人君とは逆の位置ーーーに男が座った。いい値段のしそうなスーツをばっちりと決め、できるビジネスマンのような姿をしている。男性は俺に顔を向けると話し出す。
「始めまして、『シンカー』といいます。『MMOトゥデイ』というMMO専門ニュースサイトの運営をしています。」
「・・・それ、アバターネームでは?灰原彩、探偵助手です。」
「シンカーさん、お久しぶりです。そういえばユリエールさんと入籍したそうですね。」
「おっとそいつはおめでたい、おめでとうございます。」
口喧嘩の途中でシンカーさんに気付いた和人君が声をかけ、それに便乗するように祝福する。彼はそんな祝福に照れたように笑い、現実に慣れるのに精いっぱいだとこぼした。
「そういえば、ネットで話題になってましたね、新生MMOトゥデイ。なんでも2年ほど前から休止していたとか。」
「私が動けない状態でしたからね、新生と言われてもお恥ずかしい、コンテンツも情報も少なくて・・・」
「まさしく宇宙誕生の混沌って感じだからな」
シンカーさんの嘆きをアンドリューさんが拾う。それを聞いた和人君がその身をカウンターから乗り出した
「エギル、どうだ?『種』の方は」
「すげえもんさ、ミラーサーバー含めてダウンロード総数10万、実際稼働中の大規模サーバーが300ってところだな」
「種?」と俺が会話をしていた二人に質問すると。キリトが呆れたように笑っていった
「文字通り種だよ・・・VRMMOのな」
「・・・じゃあ何だよ、ALOってサービス復活してたのかよ・・・。くっそ最近他の事件にかかりきりだったからな・・・」
「おう、ベンチャー企業がデータ買い取って、飛行時間の制限をとっぱらって、世界樹の上に街一個乗っけてな。」
その後、和人君とアンドリューさんから『種』こと『ザ・シード』の詳細を聞き、二杯目の酒ーー今度は赤ワインとカシスリキュールのカクテルーーを手に愚痴ることにした。
『ザ・シード』とは、簡単に言えばVRMMOのパッケージソフトらしい。これと、サーバーとケーブル、そして3Dオブジェクトを揃えれば、それだけで一つゲームを作れるらしい。彼はそのソフトを完全フリーで配布することにしたらしく、今もどこかで世界が作られていてもおかしくないそうだ。
「教育や観光にも使われているみたいだな。あんだけリアルな世界だ、無理ねえか」
「私たちはいま、MMORPGを超えた新たな世界の創成に立ち会っているんです・・・私もサイト名を変えようと思ったんですが、これといったものが無くて」
手元から取り出した端末で調べていた壺井さんに続けて、シンカーさんがぼやく。
確かに、ここまで行くとMMOだけではくくれないだろう。フルダイブVRそのものを示す新たな言葉が必要になるかもしれない。
・・・まあ、そこまで考える必要もないか。そういうのは頭の良い人か大衆心理に任せよう。
そんなことより、MMOトゥデイの新たなサイト名だ。
「名前か・・う~む「ギルド名『風林火山』なやつのセンスなんて誰も期待してないよ。」なんだと!新生風林火山にはな・・・」
「それで、何か案はありますか?」
また騒ぎ出した二人をよそにシンカーさんが尋ねてきた。といわれても、俺もアイデアがすぐに出るわけじゃない。
少し考えながらグラスを見つめていると、ふと一つだけ思い浮かぶ。
「・・・『カーディナル』とかどうですか?いや、今飲んでるカクテルの名前言っただけですけど。」