仮想世界の探偵『助手』   作:潤々

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ダイシー・カフェ~もしくはわずかな情報源~

ダイシー・カフェ。

さいころをモチーフにした看板を掲げた裏通りの喫茶店は、店主には悪いが閑散とした雰囲気がお気に入りで、結構な頻度で利用している。

SAO生還者の店主曰く、『夜は稼げる』らしい。

 

ドアを開けるとカランコロンという鐘の音と共にカウンターの向こうにいる店主が出迎えた

 

「いらっしゃい、兄ちゃん。」

「こんにちは、ミルズさん。『いつもの』二人分でお願いします」

 

ドアを開けると、カランという鈴の音と共にスキンヘッドの黒人マスター。アンドリュー・ギルバート・ミルズさんが挨拶をしてきたのでそのまま注文する。常連客特有の会話の後ろで、後ろにいた直斗さんが関心したような声を漏らした。

 

「ずいぶんと寂れた雰囲気がありますが・・・なるほど、君が好きなのも頷けます」

「後ろの嬢ちゃんは随分と毒舌だな・・・」

 

直斗さんの歯に布着せぬ物言いにミルズさんはあきれていた。この探偵は常識があるんだか無いんだか・・・。

そのまま直斗さんがカウンター席に座ったのを見て、俺も隣に座る。

 

「それで、件の彼は・・・もしかしてマスターが?」

「その話は食べながらでいいでしょう。おいしいですよ、ここのフレンチトースト。」

「・・・そうですね、そうしましょう。」

「なんだ、俺になんか用か?」

 

直斗さんのKY発言に対応しながら料理を待っていると、厨房と思われる場所から料理とカップを二人分持ってきたミルズさんがやってきた。

俺がダイシー・カフェに来るといつも頼む『いつもの』とはフレンチトーストとオリジナルブレンドのコーヒーのセットである。

それを並べると、ミルズさんはカウンター越しに俺たちへと向かう。他の客はいいのかと一瞬考えたがそもそも他の客がいなかった。

直斗さんも他の客がいないことを確認してから、ミルズさんに話し出した。

 

「すいません、あなたに、少々お聞きしたいことがありまして。」

「俺についてか、いったいなんだ?」

 

「ソードアート・オンラインの中で“閃光”と呼ばれたプレイヤーについて何か知らないでしょうか。」

 

「・・・なんでそれを知っているんだ?」

 

 直斗さんが質問した瞬間、ミルズさんの声のトーンが下がった。周囲の気温さえ下げてしまうような目は、実践を経験した兵士を思わせた。

 しかし、直斗さんは彼の質問に、とても冷静に答えた

 

「僕はとある筋から、SAO事件、そして未帰還者の謎を追っています。」

「ってことは、お前さんはあいつらを助けるために行動してんだな?」

 

「そのとおりです」

 直斗さんの真摯な言葉と態度に、ミルズさんは信用したのか、かの“閃光”について話し始めた。

 

「“閃光”。SAOでその二つ名を持ってたのは、アスナちゃんしかいねぇ。」

「ご存じなのですか?」

「向こうじゃ結構な有名人だったからな。」

 

 直斗さんがミルズさんへ質問を繰り返すのを見ながらフレンチトーストを口に運ぶ。とりあえず得られた情報から和人くんの情報には嘘がないことを確認できた。

 情報のすり合わせを終え、お礼を言う直人さんにミルズさんは少々考え込んでから言った

「・・・こっちでも少し調べてたんだ」

いいながらしゃがみこむと、おそらくバーカウンターについた戸棚から何かを取り出し机に上げた。

平たい長方体に、背中から羽の生えた少年と少女が連れだって空を飛ぶ絵が描かれたそれは、とても見覚えのある物だった。

 

「『アルヴヘイム・オンライン』?」

「知ってるのか。そう、アルヴヘイム・オンライン、通称ALOだ」

思わず声に出た声にミルズさんが答える。

それに答えるようにまた声を上げる

 

「知ってるも何も・・・これやってますもん」

 

ALOは今人気のVRMMOだ。1年前に『今度こそ安心!!』と発売されたナーヴギアの後継機〈アミュスフィア〉をハードとして作られたこのゲームは、その特徴的なシステムによって人気を博している。

 

「名前だけは聞いたことがあります」

 という直人さんにーーーおそらく今回の依頼について情報を調べるうちに見つけたのだろうーーー俺とミルズさんで解説をする。

「妖精達の住む世界で、その妖精の一人になっていろんなことをしようってVRMMOです」

「レベル無しの完全スキル性、プレイヤースキル重視・・・プレイヤー自身の反射神経とかが直接反映されるっつう玄人向きのシステムでありながら、"飛べる"って特徴で大人気なんだ」

「飛べる・・・ですか?」

 説明の中で彼女が興味を持ったのはその単語だった。彼女は続ける。

「確か、仮想空間内で行うことができる動きは、人間のできる動きの延長でしかないはずでは?」

「妖精だから羽があるってんで、フライトエンジンってのを搭載して空を飛べるようにしたんだと」ミルズさんが言ったその言葉に、直人さんが呆れた顔をする。

「フライトエンジン・・・もはやなんでもありですね」

 

 話の流れが完全に世間話になってきていたからか、直人さんがコホンと咳払いをした後、話を切り出し直した

「話を戻しましょう。そのアルヴヘイム・オンラインが、明日菜さんに関係するものなんですか?」

 

「おっと、そうだった。その話だな」

 ミルズさんがおどけたような態度で言うと、すぐにまじめな顔で、一つの紙をポケットからだして言った

「こいつを見てくれ」

 

 それは、一つの写真だった。おそらくALOの中で写真撮影用のアイテムを利用して撮られたものだろう。雲を突き抜けた先で枝葉を付ける大樹という現実ではありえないもの、ゲーム内で『世界樹』と呼ばれているものをおさめた写真だった。

 

「世界樹の枝葉・・・あれ、ALOでここまで飛べませんよね?」

「ここまで飛べない・・・飛行に制限があるんですか?」

言葉の中で直斗さんがそう疑問を呈し、それにミルズさんが答える。

 

「そうだ、ALOには飛行可能時間に制限がある。そして、フィールドのちょうど真ん中にある世界樹ってもんには、どれだけ頑張っても葉っぱの先にすら届かない。・・・だが、バカなことを考えるやつってのはどの世界にもいるもんでな。5人くらいで体格順に肩車して、ロケットみたいに飛んでったヤツらがいたのさ。」

「あぁ、ありましたねそんな話、最初聞いたとき大笑いしましたよ。」

 聞いた事のあった話を思い出し、笑いを抑えながら言った。

「・・・バカ軍団ですか」

 と直斗さんもあきれるように言う。全くである。

 

「っと、そんな話じゃねえ、この辺りを見てくれ。」

言いながらミルズさんが指で描いた丸の真ん中には、枝に吊り下げられた鳥籠が映っていた。

 

「鳥籠?何でこんなところに。あのロケット法のあとで枝葉の大きく下、雲の上に少し行ったとこで進行禁止エリアになって、この辺りはユーザーに見えないところのはず。メモリの無駄ですよ。」

「なるほど・・・見せるつもりの無い位置に置かれた籠、ですか」

 ゲーム製作の事情を交えた俺の説明を受けて、直人さんが考え込む。

「兄ちゃん結構知ってんだな・・・この鳥籠の中、ちょっとよく見てくれ」

 ミルズさんが呆れるように言いながら その鳥かごを指さす。

 

 

 その鳥籠の中には、妖精がいた。

キレイな栗色の髪を長く伸ばした妖精のシルエットは、先ほど見た令嬢・・・結城明日菜のように見える。

 

「これは・・・」

直斗さんもそう見えたのだろう。その額には汗がにじんでいた。

 

 

「オレにはこれがアスナちゃんにしか見えない。」ミルズさんは真剣な顔で言った。

「オレが手に入れたのはこれだけだ。嬢ちゃん、俺からもなんか出す。アスナちゃんを助けてやってくれ。」

 

「・・・最初に」直斗さんも真剣な顔で返した。

「あなたから何かをもらう事は出来ません。それは報酬の二重取りになります。・・・ですが、僕には依頼を完遂させる使命があります。必ず、彼女を助け出して見せます。」

 

 ダイシィ・カフェを出てからの彼女の行動は早かった。車に乗るなり、鞄からタブレットを取り出し、

「僕の分のアミュスフィアを用意しましょう。それと、先ほどのゲームも」

そういう先輩の指示に従い、タブレットに記録していた病院に向けて車を走らせる。

「先輩のって・・・自分で行くんですか。」

車を運転しながら直斗さんに聞くと、当然というように返してきた。

「僕の受けた依頼ですから。もちろん、彩君も協力してください。向こうについてはわからないことだらけなので。」

「真面目ですねぇ・・・わかりました。情報収集のあとでゲームショップに行きましょう。専門店なら安く買えます。」

 赤信号に止めた車内で、続けて言う。

「仲間も連れてきますよ。」

その言葉に、直人さんは顔をしかめた。

「彩君・・・これは仮にも“仕事”です。部外者を入れるわけにはいきません。遊びじゃないんですよ。」

「いや、直人さんもよく知ってる人ですし、口も堅いですよ?オレも、ALOで超強いってわけじゃないので、人がいた方が楽です。」

「それでもです。部外者に手伝わせるのは・・・

 

 

 

 

 

僕の知っている人?」

 

「あ、はい。仕事でやったときにハマってしまったらしいですよ・・・

 

 

 

 

 

久慈川りせさん。」

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