---ALO ケットシー領 フリーリア前---
「それで?私が呼ばれたってことは、OK出たってことだよね?」
「そゆこと、ってかここまで先輩さっき言ってたけど?」
「まぁね、いちおうってことで。」
次の日、俺はALOにて一人の女性と名探偵を待っていた。
女性、鮮やかな銀色の髪を長く伸ばし、紅色の瞳をしていた。背中には自身の得物である長槍ーーー石突に布のリボンがつけられているーーーを背負い、最低限のプレストアーマーを着込む彼女の名前ーーーキャラクターネームーーーは『ヒミコ』。リアルで先輩と親友関係にある少女だ。彼女に協力をしてもらうかどうかで、あの探偵がどれほど悩んだかは想像に難くない。彼女本人は二つ返事だったそうだが。
ALO内での彼女の種族はプーカ。音楽に秀でた妖精であり、唯一歌を演奏することで戦闘支援が可能な種族である。彼女は歌を利用した援護に特化している。
ちなみにこちらは『ツクモ』という名前のレプラカーンとして活動している。レプラカーンは、素材の運搬や金装飾など、鍛冶や細工に関する能力に優れる鍛冶妖精だ。その性質上筋力が高めに設定されており、より重たい物や多くのものが持てる様、筋力値ーーこのVRゲームにおけるプレイヤーの筋肉量に相当するーーが高くなっている。その筋力値を利用した高重量の武器を振るい戦うスタイルだ。
そして俺たちの目の前にある街、【フリーリア】は、敏捷と、〈テイミング〉といわれるモンスターを仲間にするスキルを得意とする猫妖精、ケットシーの領地である。
本来なら領地アドバンテージーーー特定種族の領地では、その種族はほかの種族からダメージを受けないし、ペナルティ無しでダメージを与えられる仕様のこと。正式名称は知らないが俺が適当に名前を付けた。--ーの関係でそこまで近づきたくはない場所だ。
そんなところに何故俺たちがいるかというと、ALO初心者の直人先輩が現在フリーリアでチュートリアルをしているからに他ならない。
「ホントにケットシーで始めるとはね・・・夏の時を思い出すなぁ。」
「夏というと・・・愛meets絆フェスティバル?」
「あ、そっか、ツクモはあの時いなかったっけ、あれ。あの時、最初に衣装合わせやったんだけどさ、花村先輩がオオカミ男のコスプレし始めて、それに先輩がドラキュラでのっかっちゃって、そのままコスプレ大会になったの。その時に私が便乗して直斗くんn「何の話をしているんですか!」おっと、お疲れ『スクナ』」
そんな話をしていると、フリーリアから一人の女性がやってきた。よほど恥ずかしかったのか頬を赤らめていはいるが、それでも白さのわかる肌。青に近い黒色のショートヘアとそこから生えた耳と切れ長の目が黒猫を思わせ、ダークブルーを基調にしたスーツのような服を着込んでいた。
彼女こそが『スクナ』。何を隠そうわれらが白鐘直斗探偵である。
「お疲れじゃないですよ全く・・・」
「まあまあ。ネコミミ似合ってますよ、スクナさん。・・・ところで右腕のそれは何です?ハープ?」
「ハープだったら私の専売特許だけど・・・」
スクナさんの右腕に付いたなにかに目を向ける。それを一言でいうなら、極小のハープ、だろうか。某シーカー族の少年の持っている片手で扱えるハープが小さくなってガントレットに付いていた。
「あぁ、これですか?どちらかというとリラの方が近いと思いますが、これはですね・・・」
スクナさんは上機嫌にそういい、左手で右のガントレットをいじると、ガションという音とともにハープが変形した。手や腕で支える部分が左右に大きく開き、折りたたまれていた弦がピンと張られ、右腕を台座とするクロスボウに変化した。
「ギミック式のクロスボウです。ちょうど、遠距離への攻撃手段も欲しかったので助かりました。」
「そういうの好きだもんね。メイン武器は腰の直剣?」
「え、先輩近距離ですか、なんかそんなイメージないですけど。」
「僕だって扱ったことはないです。ですが、先ほどくじk・・・ヒミコさんに聞いてみたところ、どうやら敵を崩す役がいないとのことでしたので。」
「なるほど・・・っていうかいつの間に聞いてたんですか」
「さっきメールが来てね。」
確かにチュートリアル前にフレンド登録したけど、さっそく使ってたのか。
「そういえば先輩、随意飛行はできますか?」
「先ほど、親切な方に教えていただきました。コツをつかめば簡単ですね。」
「にゃはは、ずいぶん仲がいいんだネ~三人トモ?」
三人で話していると唐突に声をかけられた。振り返るとそこに、茶色の髪を持つ褐色肌のケットシーがいた。周囲には6人程のケットシーが、彼女を守るように立っている。
「そんな仲良し3人組に、ちょっとお願いがあるんだけど、いいかナ?」
「・・・ケットシーのハイプレイヤー6人も引き連れて」彼女の言葉に最初に反応したのは、ヒミコだった。「どんなお願いをしようっての?ケットシー領領主、アリシャさん。」
その言葉でやっと、彼女がケットシーのリーダー。アリシャ・ルーだと理解した。確か、領主システム導入後ーーつまりこのゲームが始まってすぐーーから一度も領主を変更したことのないという伝説を持つ人物だ。
「普段、自室でぐうたらしてるって噂の猫姫さんか、確かに何の用だ?」
「今から蝶の谷に向かうんだけど、ちょっと一役代われてくれないカナ?」
彼女のお願いは、要するに護衛だという。
曰く、これからシルフとの領主対談があるとのこと。
曰く、シルフ領主より護衛を三人連れていくと連絡が来たとのこと。
曰く、ナメられたくないからこちらも三人護衛を連れていきたいが、これる人がいない。
曰く、そこにいたのが俺たち三人組だった、とのこと。
「・・・護衛ってか、数合わせじゃん。」
ヒミコが言うのももっともである。
「そうともいうネ!・・・お願い!ワタシを助けると思ってサ!」
「あぁ・・・どうします?先輩。」
「・・・蝶の谷はどこにあるんですか?」
俺の問いかけに、珍しく疑問で返す直斗さん・・・スクナさんにさらに説明する。
「蝶の谷はケットシー領からまっすぐ東で・・・向こうですね。」
「アルンへ行く道の一つだね。ここから世界樹の根本に行くなら一番手っ取り早いよ」
フリーリアの反対方向を指さす俺に続けるようにk・・・ヒミコが言うと、探偵は普段より近い位置にある頭を頷かせてから、言った。
「ちょうどアルンへ行くところでしたし、僕たちで務まるのなら。」
「ダイジョーブダイジョーブ!いざとなったら全力で逃げていいカラ!」
と黒猫の手を取ってブンブンと振る茶色猫は、思い出したかのように唐突にストレージを開くと、その中から布のような物を取り出した。
・・・はたから見ると、急に手を放し指を動かしたかと思うと、急に発生した淡い光に包まれて布のような物が現れた。これが前述の行動だとわかるのは、俺を含むこのゲーム内のプレイヤーすべてがゲーム内で日常的に行っていることだからという事が大きい。
閑話休題
とにかく布ーーーよくよく見るとそれは全身をすっぽりと覆い隠すローブーーーを取り出したアリシャは、それを二人分手渡した。
「ハイコレ、着といてネ」
「え、ちょ、アリシャさん何これ?」
「・・・フード付きローブ・・・。おまけにコレは・・・ネコミミですか?」
「ダイセーカイ!ソレはネコミミフード付きローブダヨ!ソレつけとけばケットシー以外を連れてきててもバレないでショ」
「いや、飛んだら羽根の違いでバレるわよ。」
「そこは・・・ほら・・・ガンバって?」
あまりにも杜撰かつ見切り発車な隠蔽工作に唖然とし、ヒミコが小声で「あったなー・・・。深夜枠でこんな感じの意味の分からない無茶ぶり企画・・・」とつぶやき遠い目をしていた頃、スクナさんはお付きの1人と話をしていた。
「あなたたちも大変ですね・・・」
「いや、まぁ・・・慣れました」
その見張りの顔は、心なしかやつれているように見えた。