歓声が上がる。
素晴らしい戦いに、そしてそれに打ち勝ったスプリガンの青年に、シルフ、ケットシー、そしてサラマンダーからも拍手が送られた。
歓声の中央にいた青年は、どーもどーもと一礼すると、こちらに向かって言った。
「誰か、蘇生魔法頼む。」
「分かった。」
答えたのはサクヤだった。【蘇生魔法】、キャラクターが死亡状態ーーゲーム内用語ではリメインライトというーーの時に使用し、即座のリカバリーを行う魔法。オンラインゲームにおいてはーーかのデスゲームでもない限りーー定番となっている魔法である。
サクヤによって使われた蘇生魔法によって、ユージーンが復活し、交渉の続きが行われた。
「・・・見事な腕だ、貴様は俺が見た中で最強のプレイヤーだな。」
「そりゃ、どうも」
「貴様のような男がスプリガンにいるとはな・・・」
先ほどのような一触即発のような空気ではないが、ユージーンはまだ、彼のことを信じられないようなーー実力は認めるが、スプリガン・ウンディーネ同盟そのものが耳に入っていないからだろうーー目線を送っていると、サラマンダーの部隊から一人ーー武器から見てランス使いーーが来て、言った
「ジンさん、ちょっといいか」
「カゲムネか、どうした」
そのサラマンダー・・・カゲムネが言ったことをまとめると、こうなる
・彼のパーティを全滅させたスプリガンこそ、彼ーーキリトである。
・その際にはウンディーネの連れがいた
・“エス”が追わせていた人物もキリトである。
三つ目の“エス”が何を示しているのかはわからなかったが、ユージーンはソレを聞くと、納得したかのように頷きながら言った。
「そうか・・・そういうことにしておこう。
ここでウンディーネとスプリガンに対立する考えは俺にも領主にもない、この場は引こうーーだが、貴様とはもう一度戦うぞ。」
「望むところだ!」
そういったキリトの突き出す右拳に自分の拳を突き当てると、ユージーンはスクナさんの方を向いて言う。
「貴様ともだ、そこのレプラコーン」
「先輩はケットシーですよ。」
「いや、ツクモ君のことでしょう。」
「ここにレプラカーンは君しかいないから。」
訂正したらほかの二人に突っ込まれた、なぜだ。
ユージーンも呆れている、解せぬ。
ユージーンがサラマンダーの一団を引き揚げさせると、キリトがリーファに話掛けた。
「サラマンダーにも話が分かるヤツがいるじゃないか。」
「・・・キリトくんってホントに無茶苦茶だよね。」
「よく言われるよ。」
「話の途中すまないが、」二人の会話を遮ったのは、シルフの領主だった
「状況を説明してくれないか。」
「お疲れさん。ナイスガッツだったぜ」
キリトが状況を説明している間、護衛に入っていたシルフが声をかけてきた。ブロンズカラーの短髪と、首から下に纏ったニンジャ衣装が特徴的な青年だ。腰の後ろにナイフーーどちらかというと苦無だろうかーーが二本収められている
「俺は『ジライヤ』だ、よろしく。」
「ツクモです、よろしく。」伸ばされた手をつかみながら言うと。彼が納得したような顔で頷いた「・・・何かありますか?」
「いや、あいつもすみに置けねえなって思っただけだ。」
「炭?」
「いや、ちげぇってかぜったい分k「何を言っているんですか、『花村』先輩」ちょっおま・・・!」
彼ーージライヤの話を遮るようにスクナさんが入ってくると、ジライヤは目にも止まらない速さでーー比喩表現ではなく、本当に目で追えなかったーースクナさんの前まで行き、何やらひそひそと話し出した。
・・・詳しい話は聞き取れなかったが、わずかに聞こえた「タブー」や「ごまかせない」等の会話から、どうやら先ほどの花村発言についてのようだ。どうやらジライヤのリアルネームを口走っていたらしい。しばらくそうしていると。後ろーー領主やキリト達がいた方ーーから声がかけられた。
「スクナー!さっき言ってたの分かったよー!」
「ヒミコさん、さっき言ってたのとは・・・サラマンダーに情報が漏れる可能性ですか。」
「そう、シグルドって人がサラマンダー側のスパイだったんだってさ。」
「シグルドってシルフ領の重役じゃね?そんな人がスパイだったのか。」
「あ、はい・・・そうですけど・・・あなたは・・・?」
そこまで言ってようやく、ヒミコはジライヤを認識したようだ。彼は一瞬微妙な顔ーー呆れたような、落ち込んだようなーー顔をすると、すぐに笑顔で自己紹介を始めた。
「ジライヤだ、よろしくな。」
「あ、はい、ヒミコです・・・ん?ジライヤ?」ヒミコは彼の名前を聞いて首を傾げたと思えば。両手で口元を隠すように驚いた。
「え、もしかしてルサンチマン先輩!?」
「ルサンチマン先輩ってなんだよ!」ヒミコのあんまりなあだ名ーールサンチマンは強者への嫉妬を意味する言葉だーーに突っ込むジライヤ、明らかな友人の雰囲気を見て、あの片田舎に住んでいる直斗さんの仲間だと頭の中で確定させる。口調的にヘッドフォンをつけていた彼だろうか。
「それで?何かあったのか?えっと・・・スクナか、スクナがこういうのやるの珍しいな。」
話題をそらすようにジライヤが言った。確かにスクナさん・・直斗さんはこの手のゲームをあまりやらない。やるのはやる必要がある時だ。
「ちょっとした情報収集です、これから中央の方へ行こうかと。」
「そういうことか。深くは聞かないでおくぜ。」
「助かります。」
わずかな会話でこちらの事情をいくつか察したのか、そんな会話をしている二人を眺めていると。遠くから、声をかけられた。かけられた方向を見ると、さっきまで注目を集めてたスプリガンとさっきまで横にいたシルフが一緒になって歩いてきた。
「此処にいたのか、さっきは助かったぜ」
「いえ、こちらもありがとうございました。」スプリガンが話しかけて来たため、受け流しつつ直斗さんを促す。
「スクナです、こちらはヒミコさん、それとツクモ君です、あなたがあと少し遅ければ、彼がやられていました。」
「あれ、俺は?」
彼女の紹介にすっ飛ばされたジライヤが声をあげると、探偵はあ、っといわんばかりの顔をした。どうやらほんとに忘れていたようだ。
「おいっ!・・・全く・・・ジライヤだ。よろしく。」
「あんたも、苦労してるんだな・・・。」
スプリガンは自ら名乗ったジライヤに同情すると、気を取り直すように話始めた。
「キリトだ、あんたたちも世界樹を目指してるのか?」
「そうですね」こちら側から会話のーーもしくは交渉ーーの席に上がったのはスクナさんだった。「あんたたちも、ということは、あなた達もですか。」
「あぁ、そこで提案なんだが、俺たちと一緒に行かないか?途中まででも」
キリトの提案は、簡単に言えば共闘だった。確かに目的地が同じ以上、一緒に行った方がいいだろう、道中の敵を倒す時間が早くなる。弾いて倒すを繰り返す戦いを行うこちらは、他に二人入れても柔軟に対応できる。
・・・倒すべき敵が道中にいれば、だが。
このアルン近郊ともいえる区域には敵が出ることがない。そのために領主対談の地として選ばれるほどだ、そのため、この提案には利が薄い。それぞれの秘密ーー向こうは知らないが、直斗さんからしたら、依頼のことになるーーが漏れてしまう可能性の方が高いだろう。選ぶのは先輩だが、はたして。
「・・・アルンに入るまで、」スクナさんが口を開く「加えて、お互いの目的に干渉しない、の条件付きで、どうですか」
どうやらスクナさんは、デメリットを軽減しつつ、共に行く選択をしたようだ。
「あぁ、いいぜ。」
キリトはスクナさんの提案に二つ返事で返すと、彼女と握手を交わした。