COCODRILO ー ココドゥリーロ ー   作:明暮10番

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無痛のワンパンチ/Spider Instinct

 向けられた敵意が、一瞬で畏怖に変わる。『柳岡会』のネームバリューは流石としか言えない。

 

 

「や、柳岡会って……」

 

「あの、ヤクザだよな……?」

 

 

 三人は動揺している。

 しかしリーダー格の大倉と、その彼女には全く驚きと言った念は感じられない。

 

 

「柳岡会って、トシくんのオジさんの敵じゃん?」

 

「……そーだったな」

 

「やっちゃえば? なーんか調子乗ってるらしいし?」

 

 

 仲間を連れているかもしれないと言うのに、思考もせずリンチの指示。確かに一人とは言え、もう少し慎重になれと説きたくなった。

 

 

「でもミカさん。ヤクザやって、大丈夫なんスかね?」

 

「大丈夫っしょ。どーせ下っ端の鉄砲玉だし。それに一人倒されてるし、正当防衛じゃない?」

 

「へぇ。そっすね!」

 

 

 リーダー格は大倉らしいが、実質の司令塔は彼女らしい。彼女の発言に対し、全員が従っている。

 ミカの発破によって、当惑状態だった三人は奮起。金属バットをそれぞれ掲げ、幻徳に迫ろうとした。

 

 

「待て待て。俺に仲間がいるとは考えないのか?」

 

「じゃあ呼びなよおっさん」

 

「……まぁ、いないが」

 

 

 幻徳のおとぼけに、全員が笑い声を上げた。

 

 

「なんだぁおっさん? 本当にヤクザかおめぇ?」

 

「俺らは淳みてーに油断しねーからな」

 

「正当防衛だかんな、せーとーぼーえい!」

 

 

 完全に幻徳を舐めてかかっている。若気の至りと言うのか、浅い考えと言うのか。幻徳は思った以上の『不良』らであった事に、呆れ果てていた。

 

 

「俺はドラッグを渡している奴を聞きたいだけだ。別に戦う気はない」

 

「一人殴っといてそれはねーだろ?」

 

「……まぁ、そうだが」

 

 

 考えが浅かったのは自分もかなと、反省。

 

 

「こいつ寝惚けてんじゃねぇか?」

 

「んじゃ、俺が覚ましてやんよ!」

 

 

 先陣を切り、一人がバットを振り上げ迫る。

 

 

 

 

 人間は基本、恐怖から目を逸らす生物だ。

 身を縮こませ、視線を外し、心身ともに守ろうとする。

 襲い来る脅威を、何とか軽減しようとする。頭を下げ、心臓を遠くにし、腕や足といった末端を差し出す。

 

 

 

 これはあくまで、『脅威を迎えるだけ』。

 真の意味で己を守るのは、『脅威を迎え討つ』。

 迎え討つにはどうすれば良いか。

 

 

 

 

 

 第一に、冷静に見る。

 

 

 シュッ。

 

 

「軌道が分かりやすい」

 

 

 サッ。

 

 

 

 

 第二に、攻撃を惜しまない。

 

 

 ガッ。

 

 

「てめぇ、腕をつかッ」

 

 

 ゲシッ。

 

 

 

 第三で精神論となるが。

 

 

 

 

 

 

「己を見失ったりしない事。恐怖にせよ、力にせよ」

 

 

『無痛のワンパンチ/Spider Instinct』

 

 

 

 

 

 

 

 

 突っ込んだ一人のバットを避け、その腕を掴み引き態勢を崩させ、即座に腹へ蹴りを一発。

 青年はコンクリートの地面に叩きつけられた。気絶とまでは行かなかったが、内臓に入ったダメージに悶絶し、当分は立っていられない状態だ。

 

 

「あ、アキちゃん!?」

 

「おい、一緒にかかるぞ!!」

 

 

 残りの二人も突撃を開始。

 バットを握り締め、焦燥と怒気を孕ませ幻徳を狙う。

 

 

 

「勝負は一種、化かし合いだ」

 

 

 最初の一人による横殴りを屈んで避ける。

 屈むついでに走り出し、懐へ潜り込んだ。だが、潜り込んだ先にいた後続の一人は、バットを振り上げていた。

 

 

「馬鹿正直に攻めた場合」

 

 

 幻徳は最初の一人の襟を掴むと、一思いに引く。

 引かれた場所は幻徳の前となり、つまり振り下ろされたバットの餌食となる。

 

 

「ッ!?」

 

「うわぁ!? なんで!?」

 

 

 渾身の力で殴ったバットは、彼の背中に直撃。

 声にならない声をあげ、膝からストンと倒れ伏す。

 

 

 

 倒れた青年の後ろに、幻徳はいない。

 

 

「虚を突かれる訳だ」

 

 

 消えてなんかいない。

 青年を盾にした幻徳は、倒れ行く彼を目隠しとして、最後の一人の横まで回り込んでいた。

 仲間を殴って動揺した男は、気付くのが遅れただけだ。

 

 

 

 

「反省しろ」

 

「おッ」

 

 

 当て身で一発。

 一分足らずで、三人は行動不能に陥った。

 

 

「……マジで?」

 

「な、舐めやがって!!」

 

 

 傍観決め込んでいたリーダー格の俊秀が、ナイフを持って襲いかかる。

 

 

 

 

 

「省略するぞ。第一」

 

「うぉ!?」

 

「第二」

 

「ぐはぁ!!」

 

「第三」

 

「キュウ……」

 

 

 軽々と、幻徳はのめして終了。

 茫然自失のミカ以外の男たちは、全て床に伏させた。

 

 

 

 

 

 

「な、何者なのよ……?」

 

 

 自分を守ってくれる者らが、全滅。怯え、縮こまるミカを睨み付ける。

 

 

「柳岡会だ。分かったらさっさと行け。見逃してやるから真面目に生きろ」

 

「ひ、ひぃぃぃい!!!!」

 

 

 ソファーを倒し、腰も砕け砕けにミカは裏口から逃走。

 戦意のない人間を追うほど、幻徳は非情な人間ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻徳は己の身体能力に、改めて感心する。

 ネビュラガスの注入実験の後、素の能力も向上していた。

 

 管理職一筋、喧嘩とはほど遠い身体付きだったものが、逞しくなった。

 感覚の精度も向上し、それに伴う脳の情報処理もスムーズになった。

 ライダーシステムのスペックには到底及ばないが、昔の自分が生身で不良四人を相手取るなんて事は出来なかっただろう。

 

 

 戦いに有利な身体へ改造させられたとは言え、強靭な自衛力を得られた点は有り難い。

 

 

 

 

 

 

 あえて意識を残させておいた俊秀に、しゃがみ込んで話しかける。

 

「薬は誰から貰った?」

 

「し、知らねぇ!」

 

「知らない訳はないだろ。お前の叔父か?」

 

「そ、それは嘘なんだよぉ! そうすりゃみんなヘコヘコするから……」

 

「じゃあ誰だ?」

 

「知らねぇ奴にタダで譲って貰ったんだよ!!」

 

 

 まどろっこしくなる幻徳。

 

 

「そいつの特徴を言え。男とか女とかあるだろ」

 

「帽子を被った、金髪の若い男……あと、頬骨が出ていた」

 

「それだけじゃ分からん。名前は?」

 

「お、俺だって分からないってばぁ!!」

 

 

 面倒になってくる気持ちを抑える。

 

 

「……ヤクザ云々が嘘だとは、出鼻をくじかれたな……じゃあ、取り引き現場の場所と電話番号を教えろ」

 

「取り引き現場は……流々家駅近くの、ラブホの裏。電話番号は知らねぇ、いつも金曜日の昼に会ってた」

 

「それを先言え」

 

 

 つい言葉に棘が入るが、尋問は終了だ。金曜日の駅近、ラブホテル裏。

 金曜日となれば三日後になる。売人だとすればまだ終点ではなさそうだが、確実に近付いているハズだ。

 

 

 情報を得たなら、ここに用は無い。

 さっさと携帯で警察を呼び、全員を連れて行って貰おう。明らかに、この廃倉庫へは不法侵入。薬を売った事は警察に調べ切れるかは分からないが、現行犯の理由付けにはなる。

 

 

「……不法侵入云々は俺もだがな」

 

 

 要件は「溜まっている不良がいる」とだけにして、さっさと呼んで撤収しよう。

 そう考え、彼が携帯電話を取り出した時だった。

 

 

 

 

 

 

 ドサッ。

 

 

 

 重い物が、高い位置から落とされたような音が響く。

 波の音しか聞こえない、閑静で寂れた倉庫地帯だ。良く響き、何処からかも分かる。倉庫の裏手。

 

 

「……仲間がいるのか?」

 

「知らねぇよぉ……!」

 

「逃げても良いが、お前の免許証は控えたからな」

 

 

 彼の財布から免許証を抜き、釘を刺した上で、幻徳は立ち上がり音の発生源を見に行く。

 自信がある、何者であろうとも自分を倒す者はいないと……一部例外を除き。ただフラッと道を逸れたような人間に、負ける気は全くない。

 

 

 

 

 細心の注意を払い、裏口へ向かう。確かここから、ミカが逃げた。

 

 

「……誰かいるのか?」

 

 

 角からの不意打ち、多勢による一斉攻撃、飛び道具。あらゆる可能性を視野に入れつつ、気配を探りながら裏口から顔を出した。

 

 

 

 

 

 考えうる全ての可能性が破綻する。

 裏口より数メートルの位置で、逃げたハズのミカが死んでいたからだ。

 

 

「なっ!?」

 

 

 彼女は脳の破片を血溜まりに散らかしながら、その中に溺れるように俯せになっている。

 

 狙撃されたのか。

 

 

「どう言う事だ!?」

 

 

 自身が撃たれる可能性もある。咄嗟に顔を引っ込め、倉庫内に逃げる。

 

 

 

 

「おいッ!! お前ら、誰かに狙われ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間は基本、恐怖から目を逸らす生物だ。

 だが突然現れた脅威へは、なるだけ情報を得ようと凝視する。

 事故の寸前、通り魔の不意打ち。

 しかし、恐怖を把握しようとする前に、その行為自体が『虚』となり突かれてしまう。

 

 

 

 今の彼のように。

 

 

 

「ぬうぉぉ!?」

 

 

 死角から現れた腕に叩き付けられ、彼は吹き飛ばされる。

 尋常ではない威力だ。人間の腕だと分かっているが、だとすればこの痛みは異常だ。

 幻徳は四メートルも横に吹っ飛び、壁にぶつかる。最低限の受動姿勢を取ったおかげで、頭部や内臓へのダメージはないものの、骨が軋むほどの激痛に支配された。

 

 

 まるで車にぶつけられたようだ。認知した人間の腕が、見間違いかと思ったほど。

 

 

 

 

 壁から落ち、床に伏す。視覚を外してはならないと、大急ぎで顔を上げた。

 

 

 

 彼に虚を与えた刺激は、『三人の死体』。

 幻徳に金属バットで挑んだ三人が、顔面を無残に潰され死んでいた。良く見れば見張り役のもう一人も死んでいる。

 

 

 それを見たばかりに、幻徳は動揺。視野が狭まった時、攻撃をみすみす受けてしまった。

 

 

 

 

「……貴様かぁ……!?」

 

 

 悠然と立つ、男が目に入る。

 フードを深々と被り、腹部のポケットに手を突っ込んだままこちらを眺める大男。

 上着の右手袖には腕が通っておらず、それが倉庫の隙間風ではためく。

 

 

 

 新たな襲撃者のお出ましか。

 

 

 

「何者だ!」

 

「……あんたこそ何者だ?『同業者』だったか?」

 

「同業者……?」

 

「違うのか」

 

 

 啜り泣く声がすぐ真横で聞こえた。

 向けば、俊秀が壁に凭れ、恐怖の表情でへたり込んでいる。

 

 

「し、死にたくねぇよ……! なぁ! 助けてくれよぉぉ!! 俺もう、真人間として生きるからさぁぁ!?」

 

 

 彼のこの様子。

 あの襲撃者が、四人を殺したと見て正解のようだ。恐らく、外のミカも殺害している。

 

 

「来てみれば四人ばかし、行動不能になっていた。おかげで仕事を楽に終えられた」

 

「たかが不良たちだった! 殺すのはやり過ぎだ!」

 

「……薬を売っている奴らを、『たかが』と捉えるのか」

 

 

 幻徳は身体を起こした。

 縋り付き助けを乞う俊秀を、引き剥がす。

 

 

「お前は行け」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「裏口は使うな。あっちの窓から逃げろ」

 

 

 仲間が忍んでいる可能性がある為、表口と裏口は使わせられない。

 

 一目散に逃げ出す俊秀を、フードの男は即座に追跡しようとした。

 だが、立ちはだかるは幻徳。

 

 

「……妙な男だ。襲撃した癖に、今度は守るのか」

 

「俺はクレームに来ただけだ。それに死を以て断罪するほどには思えん」

 

「……妙だ。そして変な男だ」

 

 

 男が構える。腰を低く落とし、左手はゆらりと持ち上げる。

 

 そこで幻徳は気付いた。袖を通していないだけと思っていたが、この男は右腕が欠損している。

 ならば右側が奴の虚になるのではないかと、冷静に観察。恐らく打撲したであろう身体のあちこちが熱を帯びたように痛むが、修羅場を潜り抜けて来た彼には、取るに足らない痛みを無視出来るようになっていた。

 

 

 

「生憎、あんたはターゲットではない。が、邪魔をするなら痛い目を見て貰おうか」

 

「………………」

 

 

 更に幻徳は観察を続ける。

 次に見たのは、死体。

 

 

 皆、顔面が潰れていたが、一人だけ腹部に大きな風穴が出来ていた。

 どうやって潰し、どうやって開けたのか。男が武器を持っている素ぶりはない。

 

 

 だが推察は出来る。腹部の穴の形状が決め手だった。

 

 

(……靴の形? 踏み付けた……?)

 

 

 内側へ緩い曲線を描く、丸っこく瓢箪のような形。靴底の物と一致する。

 ならば武器は『靴』だろうか。靴底に何か、特殊な仕掛けが施されているのだろうか。

 

 

 幻徳は靴に注意し、足による攻撃を警戒する。

 勿論、腕よりの攻撃も。さっきはそれで、壁に叩き付けられたからだ。予想外の怪力を持っているらしい。

 

 

 

 

「待っている暇はない。早々に終わらせる」

 

 

 男は宣言し、一歩踏み込んだ。

 

 

 

 

 たったの一歩で、幻徳の眼前までやって来る。

 

 

「……ッ!?」

 

 

 摑みかかる彼の左手の二の腕を取り、捕獲を回避。

 しかし男の腕は常軌を逸したパワーを有しており、一瞬止めて、一瞬で脇の下から回避する事が精一杯だ。

 

 

 

 

「なんてはや……うぐっ!?」

 

 

 彼の腕を止めた、幻徳の手が痺れ出した。

 受け止めきれなかった衝撃が、右手から肩にかけてダメージを与える。

 

 

(馬鹿な!? 人間の身体じゃないぞ……まるで鉄骨で殴られたように……!!)

 

「今のを避けるのか。やるな」

 

 

 右足を軸とし、背面蹴りをかます。

 

 

「ッちぃ!!」

 

 

 危惧していた足による攻撃。

 更に幻徳はバックステップを行い、彼から距離を取った。

 場所は逆転し、幻徳のいた場所に男が、男のいた場所に幻徳が立つ。惨殺死体が足元にある。

 

 

「手加減はしている。安心して受けろ」

 

「安心出来るかぁ!!」

 

 

 避ける事に息も絶え絶えな幻徳と違い、あれだけの運動量に反し男は一切の呼吸の乱れが伺えない。このままでは明らかに、こちらが押される。

 

 何より恐ろしいのは、彼には俊敏な動きに強力な破壊力、強靭な身体が揃っている事。もう一撃受ければ、幻徳の肉体は保たない。

 

 

 

「俺はサイボーグとでも戦っているのか……」

 

 

 そんな感想が妥当な表現だ。

 サイボーグと聞いた男は、少し考え込む仕草を取る。

 

 

「……サイボーグか。一理あるな」

 

 

 自負してやがると呆気が出る。ともあれ、彼に対抗する手段を探さねば。

 

 

 

 

 いや。一つある。対抗出来る力が。

 

 

「……これを単体で使うのは久しぶりだな」

 

 

 男が異常な強さを持つと認識し、彼も『コレ』を使う事は相応の正当防衛だと捉えた。

 

 

 

 ポケットから取り出したのは、『クロコダイルクラックフルボトル』。ドライバーに差し込み、ローグに変身する成分を流す、要のアイテム。

 

 だがフルボトルの特性として、もっと言えば変身出来ない特殊な状況下で生存する為の、『もう一つの使用方法』がある。

 

 

 

「……それはなんだ? 酒か?」

 

「奥の手だ」

 

 

 フルボトルを勢い良く振る。シャカシャカと、内部にある成分が炭酸を噴き出すような音を立てた。

 三回振った後、意を決して男へ殴りかかる。

 

 

「あんたを殺すつもりはないぞ。無駄な覚悟とは思うが」

 

 

 邪魔者は邪魔者だ。次の一撃で眠って貰おうと、馬鹿正直に突入する彼目掛け、下から拳を飛ばす。

 

 

「『抜く』つもりはない。ただ、一ヶ月入院願おう」

 

 

 拳は幻徳の腹部へ。

 回避する素ぶりはない。

 

 

(……さっきまでの慎重がない?)

 

 

 男の出方を伺っているばかりだった幻徳が、突然の特攻。違和感は拭えないが、拳は彼の腹へ何の障害もなく、ぶち当たる。

 

 

 

 

 逆に驚く羽目になった。

 拳が入らない。まるで腹部に鎧でも入れているかのように。

 

 

「……なに?」

 

「やっと『虚』を見せたか」

 

 

 動揺。

 男が見せた隙を突き、幻徳はボトルを握った右手で容赦無しに顔面を殴る。

 

 

「ッ!」

 

 

 幻徳の拳が頰に当たった瞬間、紫色の煙がフワッと漂う。

 それよりも驚くべきは威力。身体がパンチの衝撃の方向に従い、浮かび上がった。

 

 

 

 今度は彼が吹き飛ぶ番だ。

 少し宙を舞い、横へ飛ぶ。だが意識は手放しておらず、受け身を取り視線を離さない。

 

 

 

「……一ヶ月入院するのは、どっちか」

 

 

 幻徳はボトルを構えながら、挑発した。

 

 

 

 

 

 

 

 フルボトルの中には、生物や機械のエレメントが濃縮されている。ライダーシステムはその濃縮されたエレメントの特性を利用し、戦闘技術にまで昇華した兵器だ。

 しかし、ライダーシステムにとって無くてはならないフルボトルが、単体では無用の長物と言う訳ではない。ボトルを振る時、内部の成分が活性化し、エレメントが滲み出る。

 

 その滲み出たエレメントにも効果はある。特性に則った効果が、所持者の身体に短時間だけ現れる。

 

 

 

 彼の持つボトルのエレメントは『クロコダイル』。

 銃弾さえ通さない強靭な皮膚と、恐竜に近いとまで言われる噛み付く力の攻撃力。

 エレメントが鎧となり、そして力となった。

 

 

 

 

 

 

 

「……今のは、なんだ……?」

 

 

 男はスッと立ち上がる。

 さっきの一撃は、身体に大きなダメージを与えたハズだ。痛みを無視出来るとしても、不気味なほど表情と声が涼しげだ。

 

 

「良く立っていられるな……」

 

「今のはなんだと聞いている」

 

「説明した所で分からないし、信じやしない。所でお前、もしかしてだが……」

 

 

 

 幻徳が次の言葉を言おうとした。

 

 

 

 

 その考えも言葉も、空気を裂くような銃声に掻き消されるが。

 

 

 

「……ッ!!」

 

 

 左頬に鈍痛。

 手を当たれば、擦り傷。血がたらりと、落ちる。

 

 

「……………」

 

 

 正面にいる男も同様に、左頬から血を流していた。

 刹那、何が起きたのか理解が出来なかった。幻徳の左斜め後ろより銃弾が発射され、耳朶の下を縫って頰を通過。更にそれは、真っ直ぐとフードの男の左頰をも掠め、甲高い音を立てて壁の金属部に着弾する。

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 男は既に、無表情で幻徳の背後を見ていた。

 彼もまた、ゆっくりと振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………なにしてるの?」

 

 

 

 

 良く聞かなければ流してしまいそうな、小さな声。それでも、一気に静寂に満ちたこの場所では、何よりも通る声に思えた。

 乱れた髪、赤いシャツと黒いコート、それよりも目立つのは、片手で構えたスナイパーライフル。そして二人もろとも射抜くような、冷酷な眼光。

 

 

 

 

「ボス……」

 

 

 傷を拭いながら、男は狙撃手をそう呼んだ。

 その人物は彼の仲間であり、幻徳にとっては挟み込みの形になった。

 

 

 

 

「………………アンタ誰?」

 

「『男』がもう一人……!?」

 

 

 銃弾、もう一度。

 

 今度は右頬を掠めた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………『男じゃないわ』」

 

 

 吸い込まれそうな瞳で、どんよりと睨む。

 幻徳は今、危険な状況に立っている。今、『蜘蛛』の巣の上に立っている。




555のクロスを書きたい。
活動報告にて。
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