COCODRILO ー ココドゥリーロ ー   作:明暮10番

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驚天動地のファニースト/HE we go

 人畜無害な人間であっても、極々一般的な市民にとって警察の存在を前に行動する事は畏怖を抱いてしまうものだ。法定速度は守っているのに、パトカーを前にしたならば余計に速度を落としてしまうし、路上に立つ警察官を見れば「何事か」とついつい警戒してしまう。

 

 

 そう言った感情は謂わば、その人物が罪を犯す事に対して恐怖を持っている事の裏返しでもあり、至って平和な人間である証拠でもある。警察は自己に対する警戒より『委縮か恐怖か』を判断できる人間が、理想的な警察官だと言える。故に、昨今では疎ましがられ気味の職務質問は、『自身に恐怖を抱く者』を見極められる警察官がやはり上手い。その能力がない警察官が手当たり次第に行う為、疎ましがられているのだ。

 

 

 怖い者無しの人間でも、あの群青の制服を見れば警戒を抱く。その警戒に後ろめたさや思惑が付随すれば恐怖を伴い、行動に整合性が取れなくなってしまう。隠し通そうとしても、ボロが出ると言う訳だ。口から吐く嘘よりも、行動で示す嘘は存外に見破られやすいのだ。

 結果、警察官を前にすると身体の中心線を背けたり、目を逸らしたり、不自然に道を変えようとしたり、肩を怒らせたりする。警戒が委縮である一般的ならば逆に警察官から目を逸らさないか、職務質問を心配してうんざりした顔になるか等の行動になる。

 

 

 制服は謂わば、警戒の判別装置だ。敢えて警戒を与える事で、正体を照らす松明でもあるのだ。

 最も、光から逃げようとする程に敏感な者を追う場合には、覆面警官が起用されるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、残念ながら、この効果が全員に当て嵌まるかと言われれば「否」と言わざるを得ない。

 もし、元から『恐怖が欠如』した人間がいれば?

 もし、自身の行いが『罪ではない』と信じ切った人間がいれば?

 もし、狂気的なまでに『恐怖と理性』を乖離させた人間がいれば?

 

 恐怖とは、社会生物故の自覚から発生する物であり、『狂気』はそれらを解き放つ翼だ。

 こう言った者らは松明を叩き割る、火を恐れぬヒグマを連想させるだろう。そう言う狂気を持つ者ほど、人間を凌駕した存在なのかもしれない。

 そして狂気を持つ者は、背後に『何もない』、底の人間に多いとされる。恐怖が生まれる原因に、立場の崩壊や社会からの排除が含まれているからだ。或いは、それらを捨て去る覚悟を持った人間も含まれる。

 

 

 

 

 そんな狂気を持つ者には何をすべきか?

 この国は『屠殺』を容認したのだ。

 敢えて、『狂気』を引き入れる事により。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここまで『正常と異常』なんて言葉を一句たりとも使用していない。

 法の下に従う者を「至って平和な人間」とは言ったが、正常なんて言っていない。

 何故なら人間には思想があり、一人一人の感情があり、一人一人の嗜好がある。その符号の連鎖に環境が入り込んで初めて『性格』が形成され、個人の倫理によって隠された『本性』も作り上げられる。

 

 自身の正常を他人に否定された事はないか? 

 正義と信じた行動が裏目に出た事はないか?

 正常に基づき異常と見做した者を排除した事はないか?

 正義の名の下、自身を痛め付けたりしてはないか?

 

 

 

 

 そろそろ気付くべきだ。

 我々は『正常故』なんて括りで行動する以上は『狂気』であると。

 我々は正義ではなく、その狂気に基づいて行動していると。

 

 

 我々は高知能的な存在である以上、『狂気のトリガー』を握り続けていると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この国の判断こそ、引かれたトリガーの結果。

 類は友を呼ぶと同様に、狂気は狂気を好む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カリカリカリ。

 

 

「『紅守黒湖』さん!」

 

 

 カキカキカキ。

 

 

「『屠桜ひな子さん!」

 

 

 カッカッカッ。

 

「総死亡者数二十二人と出ているんですよ!?」

 

 

 ズズーズズー。

 

 

「出来ました〜〜!」

 

『驚天動地のファニースト/HE we go』

 

「誰がラクガキしろって言いました!?」

 

 

 

 紅守黒湖と屠桜ひな子は、『仕事』を終えたその二日後には警視庁の取調室にいた。

 額に血管を浮かせるほどに激怒するスーツ姿の女性刑事を前にしているものの、屠桜は満面の笑みで描いたラクガキを見せ、隣の紅守は優しくそれを見守っていると言う、場に整合性がない珍妙な空間と化していた。

 

 

 

「ねーくーちゃん。お腹すいたよー……」

 

「そうだね、カツ丼ください」

 

 

 通常の人ならば委縮してしまう、無機質な取調室内にも関わらず、二人の態度は親戚の部屋に遊びに来たかのような朗らかさ。

 刑事こと『君原茶々』は正義感の強い女性だ。彼女らのその、無責任な態度がまた火に油を注ぐ。

 

「バカにしてるんですか!? あなた方には報告の義務があるはずです!!」

 

「怒っていると可愛い顔が台無しだよぉ〜?」

 

「いい加減に……ッ!!」

 

 

 怒りが振り切り、思わず殴りかかってしまいかけた。

 そんな時にチラリと見た、ひな子の描いた絵に注目する。

 

 

 

 

 

 今回の大量殺人事件の主犯と思われる巨漢の元レスラー『井々村 弼』が、首を吹っ飛ばされている様子が幼稚な絵で表現されていた。

 その背後にはキメ顔の紅守が立っており、「井々村は紅守が始末した」と一種の報告文になっている。君原にはそれはラクガキにしか見えないが、意味の全くない絵ではないとも気付けた。

 

 

 そして井々村の前には、「ワニに下から顔を噛まれているようにしか見えない黒い卵頭」の変なキャラクターが立っている。

 

 

 

「……あと、現場にいたらしい、この人物についても答えて貰いますよ!」

 

 

 彼女の質問に、紅守は困ったような表情を見せた。

 

 

「いやー答えるも何も、ソレに関してはあたしも分かんないんだよねぇ」

 

「分からない訳ないでしょ! 数人の警官が目撃しているんですよ!」

 

「いやホントホント」

 

 

 いつまでやっても平行線な取調が続くが、君原の背後で呆れたように眺めていた男性が電話を終えると、三人に介入して来る。

 

 

「……お前ら、もう帰っていいぞ」

 

 

 言い渡したのは、帰宅命令だった。

 

 

「つ、『ツルさん』? 帰すのですか?」

 

「上からの指示だ、従っとけ……」

 

 

 その声には諦念が込められており、察知した君原はそれ以上の言及を辞めた。

 男性こと『御剣燈悟』は、徹底的に嫌悪を表出させた目で二人を見遣る。

 

 

「さっさと帰れ。俺はお前のツラをできるだけ見たかねぇんだ」

 

「……まっ、帰って良いらしいし。ひな子、帰ろっか?」

 

 

 彼はツルさんと呼ばれているが、文字通り『鶴の一声』で取調は終了した。君原は納得し切れていない様子を見せながら、フラフラと去って行く紅守とひな子を後ろから黙って睨む。

 

 

 扉が閉じられ、二人は退室する。誰もいなくなった事を確認した後、君原は直談判を起こした。

 

「上からの指示って、説明になっていないです!! あの二人は何も言わないし、到底納得も出来ませんよ!」

 

 

 御剣は彼女からの質問を予想していたようで、疲れた顔を一瞬見せながら続けた。

 

 

「組織ってのはそういう場所だ……余計な詮索はするな。現場に関しては俺から報告はしている」

 

「しかし、『例の人物』は謎のままで……」

 

「……それに関しては、あっちにもこっちにも分からねぇ」

 

 

 御剣はふと、その『例の人物』が現れた、一昨日の出来事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一昨日の事件の際、御剣は『仕事』をする紅守のお目付役として、彼女らの動向を追っていた。

 GPSからの探知を目印に、何処へ行ったか何処へ行くのかを予想しておき、何とか二人の目的地に齧り付く。その時の彼は、ビルの五階から伺っていた。

 

 

 元レスラーであり、今回の大量殺人事件の犯人である井々村は、麻薬の過剰摂取により末期的な幻覚症状をきたし、幻覚上にある『超満員の白熱試合』と言う幸せな妄想に取り憑かれ暴走していた。

 彼の目には様々な物が試合関連の物に見え、人間ならば対戦相手と見做して襲い掛かる……そのどうしようもない凶暴性から、国は彼の人権を排除し、屠殺を命令した。

 

 

 

 

 

 その命令を受けたのが、『紅守黒湖』であった。彼女は公的『スローター』な訳だ。

 

 

 

 

 御剣の眼下では、ひな子を運転手とした『ランボルギーニ・ムルシエラゴ』の前に、件の井々村が待ち構えている。今の彼には、横幅の広い車の正面部でさえ、筋骨隆々の対戦相手と見えてしまっていた。

 

 

 車は二ドアオープンの為、天井のない座席から紅守が不吉な笑みを浮かべつつ、井々村へ注視している。何を考えているのか分からないが、取り敢えずは「どう殺すのか」と言う思考のみが巡っているのだろうなと考えると、御剣の嫌悪感は増大して行く。

 何故こんな奴に頼むのかとも考えたが、『こんな奴だからこそ頼まれるのか』と、いつも自身の中で質問と納得が始まる。だが、どうしても納得出来ない場所があるのだから、彼は決まり切った質問がふとした瞬間にいつも出現しているのだと思っている。

 

 

 

 

 

 そんな思案はさておき、紅守は何処から持って来たのか、ゴングを木槌で叩いて『試合開始』を井々村に錯覚させた。

 同時に彼は手を差し出し、指を前後に動かして『挑発行為』を行う。『打たせて返す』がレスラーの本領……特に、『正義と悪』と言う括りで試合までのストーリーを展開するお約束が多い『アングラ』の『ベイビィフェイス(正義の味方)』のやり方だ。

 

 

 紅守はひな子に何かを言った後、彼女はアクセルを目一杯に踏み込み車を井々村目掛けて猛進させる。ここまで来れば御剣でも何を起こすのかが予想出来る、『レスラーを轢き殺す』のだ。

 だが相手は銃弾を物ともせず、分厚いコンクリートさえぶち壊す怪物……通常の車より幾分か軽いであろうスポーツカーが彼を轢死させるなんて到底思えない。スピードを出るとしても車とレスラーの距離は三十メートルもない、井々村を吹き飛ばせるほどのスピードが出せるものなのか。

 

 

 

 いや、車は囮だ。『打たせて返す』……衝突する車を受け止めさせ注目させ、紅守が始末するつもりだ。

 

 

 そんな彼女の思惑なんか察知する理性など存在しない井々村は、馬鹿正直に迫るランボルギーニを待ち構えている。勝負は決していた、御剣は既にこの後の処理や報告諸々をどうするかに思考をシフトさせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、ここで『乱入者』の登場だ。

 紅守は存在に気が付き、ひな子に停止を求めて車を急停止させた。

 

 止まったランボルギーニと、待ち構えるレスラーの間に……『例の人物』は空から降って来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地面を割り、粉塵を巻き上げ、そいつはゆっくりと佇んでいた。

 次に彼はハッキリと聞き付ける。まるでレスラーを熱く紹介し観客を扇動する司会のような、その音声を。

 

 

 

 

 

『クロコダイル・イン・ローグッ!! オォォォウラァァァァアッッ!!!!』

 

 

 

 

 謎の人物の登場は、全てを見透かしたような紅守の表情にさえも、驚きを与えている。

 御剣は自身の目を疑った。煙の中から現れた人物は、厳密に言えば人間と捉えられなかった。

 

 

 

 紫を基調とした身体、胸を晒したようなデザインのスーツに、黒い身体にヒビらしき模様が浮いている。腰にはオモチャのようなベルトが装着しており、紫色の棒らしき物が赤い光を漏らしていた。

 そして『ワニに下から顔を噛まれているようにしか見えない黒い卵頭』と言う表現以外見つからない頭部に、エメラルド色の丸い目が付いている。

 

 

 

 

 そこにはヒーローショーで見るようなスーツ姿をした怪人がいた。

 

 

 

 

「…………見た感じでは、麻薬の症状に見えるが」

 

 

 怪人は構え、臆する事なく井々村へ戦う意思を見せた。

 紅守とひな子の乗るランボルギーニを対戦相手と見做していた井々村は、標的をその怪人へと変更した。何故ならば、彼の目には『ヒールの覆面レスラー』が写っていたからだ。

 

 

 

「ちょっとちょっと!? いきなり横槍は困るんだけど!?」

 

「……誰だ?」

 

「いやいやあんたが誰よ?」

 

 

 互いに困惑し合う怪人と紅守だが、運転席にいるひな子は目をキラキラ輝かせている。

 

 

「ふおぉぉぉ!! カッコイイのキターーーッ!!」

 

 

 純粋にこの怪人の姿を賞賛しているようだ。怪人は声に反応し、ひな子を見遣る。彼女がいる席が運転席だと気づいたようだ。

 

 

「……未成年じゃないのか? 車の運転は二十歳からだと……」

 

 

 この状況で気にする所はそこなのかと、思わずツッコミが出てしまいかけたのだが……ベイビィフェイスとは言え、いつまでも待つ相手ではない。煮えきった井々村は雄叫びをあげ、怪人目掛けて突進を始めたのだ。

 

 

「あー、先制許したー。あんたが責任取りなさいな」

 

 

 井々村の標的は怪人だが、紅守は彼を助けるつもりはないらしい。

 

 

「……下がっていろ」

 

「あたしの台詞なんですけど」

 

「アレは人間には止められん」

 

「それもあたしの台詞なんですけど」

 

 

 邪険に扱う紅守だが、怪人の目線がレスラーに向けられたと同時にその表情には悦楽が含まれている事に気づく。

 彼に仕事を任せたのではない、『お手並み拝見』だ。彼女は既に、この謎の人物の異質さに気が付いていたようだ。

 

 

 

 

 

 両手を掲げ、怪人に摑みかかろうとするレスラー。あの腕に捕らわれれば、四肢を断裂させられる未来しかない。

 だが怪人は後退りなど一歩もせず、同じく腕を広げ待ち構えた。自分より巨大な存在に対し、一縷の恐怖を抱いていないようだ。

 

 

 

 

 

 レスラーの腕が怪人に注がれる。

 怪人はその手を……受け止め、暴走列車が如くの彼を停止させたのだ。細身でスラリとした体格で、自身より大柄な存在の力に対抗出来ていたのだ。

 

 

 

 

「……『ライダーシステム』は人間を凌駕する」

 

 

 いや、対抗だけではない。寧ろ『上回っている』。

 分厚い壁のような井々村の手の平を押し込み、なんと逆に後退りさせた。怪人が一歩踏み込む毎に、井々村が一歩下がるのだ……御剣は目を疑った、紅守でさえ不可能な事を突然現れた怪人が成し遂げた。

 

 

「おぉ! 意外や意外! 上出来以上!」

 

 

 紅守から賞賛の声が掛けられるが、怪人にとって背後から投げかけられるべきその声は、真上から響く。

 御剣からは紅守の行動が見えていた。助手席からフロントガラスの縁を土台に飛び上がり、綺麗な軌道を描きながら怪人と井々村の頭上を舞っている。

 

 

 怪人は彼女に気付くが、井々村は目の前の好敵手に夢中で目を向けようともしない。

 

 

 紅守の手に握られていたのは『拳銃』。彼女は二人の真上をターニングとして、井々村の背後へ真っ逆さまに落ちる。その過程の途中にて、後頭部に銃口をゼロ距離で突き付けた。

 

 

 

 

「お前!? やめろ!!」

 

 

 怪人の声はなんと、紅守を止める声だった。

 だが彼女にそんな制止は通用しない。引き金を握り、満面の笑みで『試合の幻想』を楽しむ井々村へ最後の言葉を送る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バイバイ、ベイビィフェイス」

 

 

 引き金を引いたと同時に、甲高い発砲音が木霊する。

 いくら銃弾を食らわないほどの肉の鎧に守られたと言えども、頸椎まで鍛えている訳はない。放たれた銃弾は延髄を切り、井々村の頭部を吹き飛ばした。

 

 

「よっと」

 

 

 井々村の背後でもう一回転し、紅守は華麗に着地する。

 同時に彼の無くなった頭部からは、栓が抜けたかのように鮮血が噴出した。

 

 

 飛んで行った頭部は紅守が五秒前にいた、ランボルギーニの助手席に収まる。ひな子からピーッと悲鳴があがる。

 

 

 

「フィニッシュは、延髄斬り……いや、延髄撃ちか」

 

 

 

 生命が喪失され、それはただの『物』となった井々村の身体は一気に重くなった。怪人はその重量さえ耐え抜き、彼の死体をゆっくりと寝かせた。

 

 

 死体を置いた後、彼は拳銃をクルクル回して平然と立つ、紅守へ詰め寄った。

 

 

「どうして殺した!?」

 

 

 表情は見えないが、肩を怒らせて歩く様は声色から憤怒は読み取れる。

 

 

「なにも殺すまでしなくては良かっただろ!?」

 

 

 彼の発言に対し、紅守はまず答えない。

 

 

「いやぁ〜、少し予定は狂ったけど結果オーライ! 寧ろ車壊さなかったからハッピーエンド?」

 

「俺の話を聞けッ!! 人を……殺したんだぞ!!」

 

 

 怪人の怒りは義憤であった。そこにまた、御剣は驚く。

 あの怪人は井々村に対峙したものの、殺すつもりは毛頭も無かったらしい。状況を詳しく知らないようだ。

 紅守は近くまで寄った彼へ、興味半分呆気半分の表情で迎え入れた。

 

 

「あんた、表見た? 十人単位の人間が、そこの筋肉怪獣に殺されたんだよ? もう善悪の区別のつかない猛獣を処理しただけ。人間じゃない」

 

「麻薬で自我を見失っていただけで……!」

 

「あーー……おたくさん、何も知らずに首突っ込んだの。寧ろ尊敬するわ」

 

 

 紅守は彼を通り抜け、死体に足を乗せた。

 

 

「コレは、現代医学じゃあ処理しきれないほど麻薬の汚染されちゃった訳。大量殺戮者で更生の余地ナシ、ブレーキもない止め様もない暴走列車を止めるにはどうするかって、死で以て止まるしかないじゃん?」

 

 

 絞首台か自分の銃弾かの違いだとも、主張しているようだ。罪悪感の光のない、冷ややかな目で死体と怪人へ視線を行ったり来たりさせている。

 怪人は憤怒から腕をワナワナ動かし、今にも彼女へ殴りかからんばかりだ。

 

 

「……お前……本当に何者なんだ……?」

 

 

 御剣は心の中で、この怪人が紅守へ攻撃を加える事を期待してしまっていた。

 そうだ、そいつこそ怪物だ。倒せ、殺せ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがそれは、連絡を聞き付けた警官隊によって制止させられる。

 奥から詰め掛けて来る警官隊は連絡のない怪人の姿を見た途端に銃口を向け、警戒し出した。

 

「怪しまれてるけどぉ? 戦う?」

 

「……チッ」

 

 

 怪人は何処から取り出したのか、紫色の妙な銃を見せた。

 

 

「おっ? なにそれなにそれ?」

 

 

 

 銃撃戦でも行うのかと、御剣も身を乗り出し警戒したが、その銃口からは銃弾ではなく煙が出現した。煙は辺り一面を覆い、警官隊の恐怖を煽ったものの、消え去った後には怪人の姿が消失していた。

 

 

 紅守も含めて全員が四方八方を確認するも、何処にもいない。煙に紛れて逃げたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ……ベイビィフェイスはまだいたの」

 

 

 その相貌は、何処か楽しげだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追憶が終わり、彼は廊下に立っていた。君原は書類作業か何かで席を外した。

 彼自身も、紅守の存在と処遇に不満を抱く一人の人間だ。だからこそ、あの紅守へ対抗心を明確に見せたあの怪人に同意した。

 全く素性の不明な仮面の男……だが、彼こそがもしかしたら、この鬱屈を打破する光となり得るのかもしれない。

 

 あの怪人は、自分が追い求め待ちに待った『ヒーロー』なのかもしれない………………

 

 

 

 

 

 

「……買い被り過ぎだ。希望なんかねぇ」

 

 

 懐からタバコを取り出し、火を灯し吸い込んだ。

 

 

 

 

「……また禁煙失敗だ」

 

 

 そうぼやきながら、紫煙を吐く。

 

 

To NEXT……




感想のほど、非常に感謝します。まさかムルシエラゴを知っている方がいるとは驚きでした。
全ての感想に目は通すつもりですが、メモ帳で本文を書くのであまりマイページを覗きません。返信しなかったりが多いとは思いますが、善処願います。

メールボックスに来た場合は、それなりに返信するつもりです。希薄な私ですが、どうぞよろしくお願いします。
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