敵と誤認された幻徳ごと、黑社會の構成員らは一斉射撃を実行。
何人かは撃たれ、もう何人かは応戦し、あと何人かは幻徳に続いてバンの裏に隠れる。
銃弾の雨を抜け、一人のチンピラがバットを掲げた。
だがそのチンピラを、奇怪なナックルを握った男が捉える。
「クソッ……!!」
バットを振りかぶる。
しかし男はナックルの側面より連なる、薬莢の束を鞭のように側頭へぶつけた。
くらりと、軽い脳震盪。
隙を見せた彼の鳩尾へ、男は拳を叩き込んだ。
ドガンッッ!!!!
『マフィアをぶっつぶせ/Trail & Invade』
重い銃声が響き、チンピラは殴られた鳩尾から背中にかけ、大きな穴を開けて倒れる。
血飛沫が舞い、贓物が散る。
口から黒い血を吹き出し、苦悶の表情のまま彼は逝った。
「趣味の悪い武器だ……!」
その様をバン裏より伺っていた幻徳。
奴の持つあのナックルは、拳による攻撃力を上げるなんて代物ではない。あれは拳に嵌められるライフル銃だ。
ナックルの持ち手が引き金になっている。
引き金は普通に押しても、硬くてなかなか動かない。しかし勢いをつけ、殴る形で押し当てると作動し、発砲される。
恐ろしい武器だ。
だが使用者の彼も恐ろしい。重い薬莢の束がついた物を片手ずつで軽々振り回す上、発砲時の尋常ではない反動を意に介していない。
殴りかかるモーションも、プロのボクサーを彷彿とさせる。
俊敏と強靭、その二つを兼ね揃えているからこそ、あの武器が使える訳だ。でなければ本当に、ただ趣味の悪い武器なだけだった。
「あの女ぁ……!」
「なぁ、あんた! あんたは武器ねぇのか!?」
隣にいた、同じくバンの裏に身を隠していた男が幻徳に聞く。
完全に仲間扱いされていた。彼が持っている拳銃を撃ち、銃声を散らしている事もあり、幻徳は頭が痛くなる。
「俺は無関係だと言ったろぉ!?」
「こうなっちまったら共同体だろ!」
「ふざけるなぁッ!!」
鳴り響き続ける銃声の中で、またあの重い銃声。誰かがまた、あの男の餌食となった。
チンピラ集団は何とか数で応戦しているとは言え、武器の差で全滅するのは目に見えている。
いつ、あの男が来るのか。
幻徳のクロコダイルクラックフルボトルでも、ゼロ距離で受けるマグナム弾には耐えられない。
「分が悪過ぎる……! おいッ!! 逃げた方が良いだろ!!」
「逃げられるか! 莫大な金が入るんだ!!」
「何をするんだッ!? 今の首領を殺すつもりかあ!?」
「そうじゃねぇよッ!! あの『小娘』を捕まえんだよッ!!」
殺し屋が布にくるみ、運んでいた女の事だろう。
「じゃあ、あの娘が……黑社會の跡継ぎか?」
彼らが狙っている者は、死んだ黑社會の前首領の嫁で、つまりは現在の首領だ。
という事は、殺し屋は今の首領を護衛しているのか。色々と事態が拗れているようだ。
しかし幻徳は、少しだけ見えた現首領の顔を思い出していた。
「……跡継ぎにしては若過ぎるだろ。見た感じまだ十代の気が……」
「知るかよッ!! そうやれって、『女』に言われたんだッ!!」
「女ぁ? 誰だそりゃ?」
「ここでする話じゃねぇだろぉがよぉッ!?」
銃弾が車の窓を割る。
幻徳らに降りかかり、頭を抱えて窓ガラスから防御する。
ここで隠れていられる時間は少ないと悟った。
「クソッ!! 俺は付き合わんぞ!! 何とか街から出れば……!」
バンがまだ銃弾に耐えられている内に、と動き出す幻徳。
だが、前方からやって来る応援のチンピラたちを見て、顔を顰めた。
「おい、加勢に来……あッ!?」
「……嘘だろ」
幻徳が先ほど見逃したチンピラ連中が帰ってきた。
何か言われる前に動く……前に、彼らは幻徳を指差し喧伝する。
「そいつ敵だぞぉッ!! 仲間が何人かやられたッ!!」
幻徳は思わず呟く。
「……最悪だ……!!」
仲間の報告を聞き、隣にいたチンピラが敵意と銃口を向ける。
「てめぇ!? 騙しやが」
引き金が引かれる事はなかった。
車の反対側から撃ち込まれた弾丸を受け、男は脳漿をぶちまけ死んだ。
「……ッ!?」
「あぁ? 裏でコソコソなにやってンだ?」
あの男だ。あの男が放った弾丸だ。
バンを隔ててもう、近くまで迫っている。
「離れな……あぁ、そうだった……!!」
離れたいが、前方のチンピラたちは幻徳の敵となった。見逃したツケが、よりによってこんな場所で回ってきた。
武器を構え、迫って来る。内の何人かは拳銃を取り出し、幻徳に狙いを定めている。
現在、彼は二つの勢力から狙われるハメになった。
「だから裏社会は嫌いなんだッ!!!!」
バンの扉を急いで開き、中へ入る。
同時にチンピラたちは銃を撃つ。
弾丸はバンの扉を貫通し、襲い来た。何とか身を屈め、座席を盾にして凌ぐ。
「うおっ!?」
だが奴らが発砲した事により、ナックルの男がバンより離れてくれた。
外からマグナム級の弾薬を撃ち込まれる危険は、ほんの僅かの間だがなくなる。
幻徳は考えもなしにバンに入った訳ではない。
「そうだ……! 確か、武器はあった……!!」
使うつもりのなかった、グローブボックスの拳銃。
急いで彼はそれを開き、中にある拳銃を手に取った。
「……は?」
だが、手にとってみて、違和感を覚える。
拳銃を幾度も握ったことのある彼にとって、その違和感は確実なものだった。
あまりにも軽い。
幻徳は天井に銃口を向け、引き金を引く。
軽い音が鳴り、飛び上がったのはBB弾。
「オモチャ渡しやがったな紅守黒湖ぉッ!!……うおぉッ!?!?」
銃声が鳴り、持っていたエアガンがバラバラに弾ける。
幻徳のいる場所目掛けて、男がナックルを打ち付けた。発射された弾丸が、エアガンを破壊したようだ。
「危ねぇ!?」
幻徳に直撃は免れたが、エアガンを握っていた右手がビリビリと震えている。
かなりの衝撃だ。身体のどの箇所に直撃しても、致命傷になり得る。
「クソッ!! 車から出るしか……おぉ!?」
反対側からは、チンピラたちの集中砲火。
ライフルほどの直進力ではないが、銃は銃だ。バンの薄い車体を貫き、幻徳の頭上を飛び交う。
窓ガラスが割れ、あちこち穴だらけだ。
「袋の鼠じゃねぇか……!!」
今の状況を客観視して、幻徳は自分が情けなくなる。
銃弾飛び交うバンに隠れ、今は助手席の座席下に身体を埋めている状態だ。
こんな事したのは、子供の時以来。なおさら情けない。
「紅守めぇえ……!! 絶対に許さんぞぉぉ……!!」
黒湖への呪詛を吐きながら、何か突破口はないかと車内を見渡す。
彼の目の前に、ヒラヒラと何か落ちて来た。
「……あ?」
銃弾により破壊された、助手席上のサンバイザーからだ。
それはグローブボックスにある武器のことを知らせた、黒湖からのメッセージカード。
「……何が困ったら引っ張れだ……!!」
車が大きく揺れる。
天井に何者かが乗ったようだ。
そしてチンピラたちのいる反対側へ渡った。ナックルの男だ。
助手席から伺えば、そこは彼による一方的な殺戮。
チンピラの攻撃を人間離れした身体能力で回避し、ナックルを打ち込んでいる。そして発射された弾丸によって、無惨に肉を撒き散らして絶える。あまりに惨たらしい。
「車の中を覗かれたら終わりだ……! どうにかして……」
行動を起こそうとした幻徳は、何かに引っかかりを感じ、黒湖のメッセージカードを見やる。
『困ったらグローブボックスを引っ張ってねぇ〜げんとくん。ヒッパレーヒッパレー!』
「……引っ張れ?」
グローブボックスの開閉は、レバーを引く事で行われる。
確かに引っ張る。だが、レバーではなく中にある物を示すのなら、「引っ張れ」よりも「開けろ」の方が自然ではないか。タンスやクローゼットを「引っ張れ」なんて言わないのと同じだ。
それに文章を見る限り、「ヒッパレーヒッパレー!」と、引く事を強調しているようにも思える。
「……まさか」
幻徳は開きっ放しのグローブボックスを掴み、引いた。
何とボックスごとパコッと、引き抜けてしまった。
「なんだと!? この車どうなってんだ……?」
ボックスが抜けた後にある空洞を、幻徳は覗く。
そこにあった物に、目を疑った。
「…………どこまでも……悪魔の女だ……!」
「ごあ……ッ!?」
血を吐き、倒れ臥す。
その眼前に立つは、黑社會の幹部。名前を『
血まみれのナックルからは、硝煙が立ち昇っていた。何発も何発も撃ち放った為、引き金を握る手に熱気が当たっている。
「えぇ、どうしたぁ!? 俺を殺せねェようじゃ、姫にゃ辿り着けねぇぞぉ!?」
この男一人で、十人近く死んでしまった。
規格外の強さと狂気を誇るフーを前に、チンピラたちは戦意を喪失しつつある。
「ケッ! 骨のねぇ奴らだなぁオイッ!?」
ナイフを構え、フーへ突き刺そうとする。
勿論、そんな読みやすい軌道の攻撃を食らう彼ではない。
刃が心臓に突き刺さる前に、それを握る腕を殴ってへし折る。そのまま逆にナックルを心臓へ打ち付け、撃ち抜いてやった。
「チンケなハッタリで生きてきたようなてめェらと俺じゃあ、潜った修羅場の数が違ェんだよ」
背後を一瞥する。
黑社會の構成員が、バンの中を調べようとしていた。
「そういや、誰か中に」
「う、うおおおおお!!」
「いたンだったな」
「ぉッ」
後ろを見たのが隙だと思ったチンピラは、襲いかかったところで頭部を打ち砕かれた。
この男、フーに隙がない。もはや、距離を取るしかチンピラたちは出来なくなっていた。
「おぉ? まだかかってこれンのかぁ!? いいぜェ、死にてェ奴はかかって来いよぉッ!!」
挑発しつつも、彼からチンピラへ近付く。フーはまだまだ戦えた。
その後ろでは、銃を構えた四人ばかりの構成員が、バンに入り込んでいる。
「くぉ!?」
「ゲエッ!?」
「うおおッ!?」
「ぐあッ!!??」
だが突然、全員がバンの中から吹き飛んだ。
予想外の事態だ。フーは誰にやられたのかと、瞬時に振り返る。
途端、車が爆発。
発生した爆風を身体で受け、顔を腕で隠してカバーする。
「なにッ!?」
腕をどけ、炎上する車の残骸を睨み付けた。
その鋭い目は、愕然としたものへ瞬時に変わる。
炎の中に立っていた者は、異様な姿をしていたからだ。
『割れるッ! 食われるッ!! 砕け散るッ!!!!』
『クロコダイル・イン・ローグッ!! オォォォウラァァァァアッッ!!!!』
『KYAAAAAAAAA!!!!』
全身をスーツに纏わせた、暗い紫の存在。
そこにいた存在こそ、『仮面ライダーローグ』だ。
「どういう訳か知らんが……」
ローグの青い目は、フーを捉えた。
グローブボックスの裏に隠されていた物とは、黒湖に預けたハズの『スクラッシュドライバー』だ。
「……背に腹はかえられん。使わせてもらう」
その声には何処か、失望の念がこもっているようにも思えた。
ローグを目の前にし、フーは素早く臨戦態勢を取る。
幾度も修羅場を抜けて来た彼だ、ローグの醸す異様な雰囲気を察知したのだろう。
「ンだてめぇ!? 何者だッ!?」
問いただす彼に対し、ローグは何も言わない。
だが代わりに答えた者は、あまりの展開に呆然と立ち尽くしていたチンピラたちだ。
「あ、あいつ、『紫のヒーロー』だよな……?」
紫のヒーローの呼び名に、フーは反応する。
「紫の……『ヒーロー』ぉ?……ジェットコースターぶっ壊したテロリストってのは聞ィーたぜぇ」
「……俺はヒーローではない」
「それよりも、だ……お前も
「誰だか知らんな」
「……んまぁ、その仮面ごと口を割らせればイイだけか」
フーは一息の内に、ローグとの距離を詰める。
身を屈め、下から彼目掛けて飛びかかる姿はまさしく「虎」。
「フッ!!」
フーの拳はローグの脇腹を捉える。
少しばかり、全治一年分の怪我をしてもらう。
戦闘不能にし、尋問する。殺すのはそれから。
ナックルは数ミリで、彼と接触する。
だがその刹那、フーの頭に疑問が掠る。
(避ける素ぶりがない?)
棒立ちのローグにナックルが直撃。
引き金が押され、撃鉄が弾丸の尻を弾く。
重厚な銃声と共に、発射された凶弾がローグのスーツを貫き、胃を掠って肉を抉る…………
「知らんと言っただろ」
……ハズだった。
弾丸は、彼の身体を貫いていやしなかった。
「なにッ!?」
「ふんッ!!」
「ッ!?」
ローグの手刀が、フーに目掛けて振り下ろされる。
しかし嫌な予感がしていた彼は、すかさず身を落としてローグの腕を蹴った。
これにより軌道がズレ、フーへの直撃は免れる。
その上で彼は、蹴りによる体勢の変化を利用し、ローグで自分の身体を押すようにして距離を離す。
ナックルから垂れ下がる、薬莢の束に当たる。
バキンッ、と鈍い音を立て、呆気ないほど簡単に割れた。
「おい、嘘だろ……!?」
無理な姿勢で距離を離した為、地面に背中から倒れる。
しかし今度は、ローグに飛びかかられる番だ。
「今のを逃げ切ったか」
「……ッ!!」
跳躍し、足を大きく天へ振りかざしていた。
そのまま、フーへ踵落としを食らわせるつもりだ。
「チィッ……!!」
気付くのが遅れた……いや、向こうが速すぎる。
回避のタイミングが遅れた彼は、避けるよりも衝撃を緩和する方法を模索。
傍らに、破壊されたバンのドアがあった。
フーは片手のナックルを捨て、ドアを引き寄せて盾にする。
「ウァアッッ!!!!」
断頭台の刃のように振り下ろされた、ローグの足。
踵がドアに当たった瞬間、厚い鉄板がベシャリとへこむ。
「ンなッ……ぁ!?」
へこんだドアがフーを圧迫し、彼を中心にアスファルトがヒビ割れる。
受け止めきれないダメージが容赦なく襲い、口から血が吐き出された。
虎は、鰐に食われる。
「ガフッ……!?」
「安心しろ。死にはしないよう、威力は調整している」
「どう……安心しろってンだ……!?」
ギリギリと、力を込めるローグ。
このままではドアとアスファルトに押し潰される。フーは渾身の力を込め、ドアごとナックルを殴りつけた。
ナックルから放たれた二発の弾丸はドアを貫き、ローグの顔面に直撃する。
「む……!」
少し、力が緩む。
その僅かな隙に、フーはドアとアスファルトの隙間から脱出する。
次の瞬間、ドシンッとドアがくの字にひしゃげた。
「ググ……! 残念だが、俺を殺したところで姫はもう、秘密のアジトだぜ……!」
「殺す気はない……が、俺も仕事でな」
「は……?」
ローグはフーに、突撃を開始する。
すぐに回避しようとするが、先ほどのダメージはかなりのものだ。動かした膝がガクンと、地に落ちる。
「クソ……!!」
振りかぶられた彼の拳が、フーを捕捉。
彼は役目を果たしたと納得し、覚悟を決めた。
ローグの拳はフーのコメカミを掠め、外れた。
「ヒャハアッ!!」
気付けば横に、外した自分のナックルを握ったチンピラがいた。
ローグの拳は、自分の顔面に当たろうとしたナックルの先に添えられる。
彼の腕にナックルが当たる。
銃声が鳴る。
チンピラの腕に鈍い音が鳴り、骨が外れて後方へ振り飛んだ腕より、ナックルが離れた。
弾は貫通していない。ローグの腕の上で、ぺしゃんこになっていた。
「ぎ……ィ、ギャァアァアアアッ!?!?」
「常人に耐えられる反動な訳がないだろ」
すかさず裏拳をかまし、チンピラを沈黙させる。
その様をフーは、呆然と見ていた。
「……殺さねェのか?」
「殺す気はないと言っただろ……なんだ? 中国語で話すべきだったか?」
「そうじゃねェよ……」
ローグが睨みを効かせる。
一連の流れを見て、「勝てない」と踏んだチンピラたちは一目散に逃げ出した。
今この場で意識を保っている者は、ローグとフーだけだ。
「ほれ。俺はお前を助けてやったぞ」
「……いや。テメェが出てこなきゃ俺の圧勝だったじゃねェか。恩人ぶんな、マッチポンプがよォ」
「何にせよ、お前は俺に事情を話さなければならない」
「俺は何も言わねェ」
荒い呼吸を繰り返し、地面に片膝ついたフー。
予想以上のダメージだ。もう自分はリタイアだと実感している。だがそれでも、媚びるつもりはない。
拷問されようが決して、口は割らないつもりだ。
ローグは膝を曲げて腰を下ろし、フーと目を合わせようとする。
「『裏切り者』は、あっちの方なんだろ?」
その言葉に、伏せていた彼の顔が上がる。やっと、ローグと目が合った。
「なンだテメェ……? ここまでやって、黑社會に味方しようってか?」
「俺の仕事は、変な動きをしている黑社會の調査……だったが、事情が変わった」
「事情だぁ?」
「どうやら俺は、この騒ぎを止めなければならないらしい」
黒湖に、自ら渡したスクラッシュドライバーが、どういう訳かアッサリと戻って来た。
なぜ黒湖は自分にベルトを返したのかを考えていたが、どうやら「力ずくでも喧嘩を止めろ」と言うことらしい。
「ここは日本で、平和な街だ。隣国のマフィアに面倒を起こされたら、たまらん」
「…………だからってテメェを信用しろできるか? 俺をこんなにした奴をよぉ」
「この騒ぎが止んだら別に良い。黑社會を潰すつもりはない」
「……………………」
フーはまた顔を伏せ、閉口する。
「…………そうか」
これ以上の尋問は無理かと踏んだローグは立ち上がり、その場を離れようとする。
ならば別の人物から聞き出すかと、考え直したからだ。
血と硝煙で混沌とした湾岸から、さっさと出たかった。
彼は海の方へ歩く。
「
ローグは足を止め、振り返る。
「よくよく考えりゃあ、姫は無事に逃げたし……別に裏切り者のアジトを言っても構わねェか」
「そいつを止めれば良いんだな」
「出来るンならなァ」
「余裕だ」
ついでに質問する。
「それと、だ……その姫とやらを運んでいた『スナイパー』……あれは誰だ?」
倉庫での因縁もある。
誰にでも手をかける殺し屋を、野放しには出来ない。
「こっちの事は言わねェぜ」
「……だろうな」
「知り合いか?」
「個人的な恨みがあってな」
「何があったンだ……」
向こうも裏切り者を追っているのなら、会えるだろうと考え直す。
そして最後に、一つの質問をする。
「それで、だ。その……浩然ってのは、女か?」
フーが訝しげに、顔を顰めた。
「あ? 浩然は男だ」
「そうなのか? あのチンピラども、女から指示を受けたって言っていたもんだから、てっきり……」
「女だぁ? 浩然に女がいる情報はねェが……」
次に言ったフーの憶測から、食い違いが発生する。
「いずれにせよ、前首領を殺し、『姫さえも殺そう』としたんだ。間違いなくクロだろ」
「は? お前、なに言ってんだ? こいつらはその、『姫ってのを誘拐する』つもりだったぞ?」
「……は? 浩然は首領を殺し、自分が成り上がるつもりなンだろ? 奴は暗殺者も雇っているって話で……」
「あ? ならなんで、こいつらに誘拐を命じた?」
「………………」
「………………」
ローグとフーは一斉に、路上で気絶するチンピラへ顔を向けた。
ナックルによる反動で腕の骨を外してしまった、哀れな男だ。
「……聞く必要があンなぁ?」
「お前は手を出すな。俺が尋問する」
「動けねェよ」
そのまま寝ているチンピラを、ローグは叩き起こしてやった。