COCODRILO ー ココドゥリーロ ー   作:明暮10番

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マフィアをぶっつぶせ/Trail & Invade

 敵と誤認された幻徳ごと、黑社會の構成員らは一斉射撃を実行。

 何人かは撃たれ、もう何人かは応戦し、あと何人かは幻徳に続いてバンの裏に隠れる。

 

 銃弾の雨を抜け、一人のチンピラがバットを掲げた。

 だがそのチンピラを、奇怪なナックルを握った男が捉える。

 

 

「クソッ……!!」

 

 

 バットを振りかぶる。

 しかし男はナックルの側面より連なる、薬莢の束を鞭のように側頭へぶつけた。

 

 くらりと、軽い脳震盪。

 隙を見せた彼の鳩尾へ、男は拳を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ドガンッッ!!!!

 

 

 

 

『マフィアをぶっつぶせ/Trail & Invade』

 

 

 

 

 

 重い銃声が響き、チンピラは殴られた鳩尾から背中にかけ、大きな穴を開けて倒れる。

 血飛沫が舞い、贓物が散る。

 口から黒い血を吹き出し、苦悶の表情のまま彼は逝った。

 

 

 

「趣味の悪い武器だ……!」

 

 

 その様をバン裏より伺っていた幻徳。

 

 奴の持つあのナックルは、拳による攻撃力を上げるなんて代物ではない。あれは拳に嵌められるライフル銃だ。

 ナックルの持ち手が引き金になっている。

 引き金は普通に押しても、硬くてなかなか動かない。しかし勢いをつけ、殴る形で押し当てると作動し、発砲される。

 

 

 恐ろしい武器だ。

 だが使用者の彼も恐ろしい。重い薬莢の束がついた物を片手ずつで軽々振り回す上、発砲時の尋常ではない反動を意に介していない。

 殴りかかるモーションも、プロのボクサーを彷彿とさせる。

 俊敏と強靭、その二つを兼ね揃えているからこそ、あの武器が使える訳だ。でなければ本当に、ただ趣味の悪い武器なだけだった。

 

 

「あの女ぁ……!」

 

「なぁ、あんた! あんたは武器ねぇのか!?」

 

 

 隣にいた、同じくバンの裏に身を隠していた男が幻徳に聞く。

 完全に仲間扱いされていた。彼が持っている拳銃を撃ち、銃声を散らしている事もあり、幻徳は頭が痛くなる。

 

 

「俺は無関係だと言ったろぉ!?」

 

「こうなっちまったら共同体だろ!」

 

「ふざけるなぁッ!!」

 

 

 鳴り響き続ける銃声の中で、またあの重い銃声。誰かがまた、あの男の餌食となった。

 チンピラ集団は何とか数で応戦しているとは言え、武器の差で全滅するのは目に見えている。

 

 いつ、あの男が来るのか。

 幻徳のクロコダイルクラックフルボトルでも、ゼロ距離で受けるマグナム弾には耐えられない。

 

 

「分が悪過ぎる……! おいッ!! 逃げた方が良いだろ!!」

 

「逃げられるか! 莫大な金が入るんだ!!」

 

「何をするんだッ!? 今の首領を殺すつもりかあ!?」

 

「そうじゃねぇよッ!! あの『小娘』を捕まえんだよッ!!」

 

 

 殺し屋が布にくるみ、運んでいた女の事だろう。

 

 

「じゃあ、あの娘が……黑社會の跡継ぎか?」

 

 

 彼らが狙っている者は、死んだ黑社會の前首領の嫁で、つまりは現在の首領だ。

 という事は、殺し屋は今の首領を護衛しているのか。色々と事態が拗れているようだ。

 

 

 しかし幻徳は、少しだけ見えた現首領の顔を思い出していた。

 

 

「……跡継ぎにしては若過ぎるだろ。見た感じまだ十代の気が……」

 

「知るかよッ!! そうやれって、『女』に言われたんだッ!!」

 

「女ぁ? 誰だそりゃ?」

 

「ここでする話じゃねぇだろぉがよぉッ!?」

 

 

 銃弾が車の窓を割る。

 幻徳らに降りかかり、頭を抱えて窓ガラスから防御する。

 ここで隠れていられる時間は少ないと悟った。

 

 

「クソッ!! 俺は付き合わんぞ!! 何とか街から出れば……!」

 

 

 バンがまだ銃弾に耐えられている内に、と動き出す幻徳。

 

 だが、前方からやって来る応援のチンピラたちを見て、顔を顰めた。

 

 

「おい、加勢に来……あッ!?」

 

「……嘘だろ」

 

 

 幻徳が先ほど見逃したチンピラ連中が帰ってきた。

 何か言われる前に動く……前に、彼らは幻徳を指差し喧伝する。

 

 

 

 

「そいつ敵だぞぉッ!! 仲間が何人かやられたッ!!」

 

 

 

 

 幻徳は思わず呟く。

 

 

 

「……最悪だ……!!」

 

 

 仲間の報告を聞き、隣にいたチンピラが敵意と銃口を向ける。

 

 

「てめぇ!? 騙しやが」

 

 

 引き金が引かれる事はなかった。

 車の反対側から撃ち込まれた弾丸を受け、男は脳漿をぶちまけ死んだ。

 

 

「……ッ!?」

 

「あぁ? 裏でコソコソなにやってンだ?」

 

 

 あの男だ。あの男が放った弾丸だ。

 バンを隔ててもう、近くまで迫っている。

 

 

「離れな……あぁ、そうだった……!!」

 

 

 離れたいが、前方のチンピラたちは幻徳の敵となった。見逃したツケが、よりによってこんな場所で回ってきた。

 武器を構え、迫って来る。内の何人かは拳銃を取り出し、幻徳に狙いを定めている。

 

 現在、彼は二つの勢力から狙われるハメになった。

 

 

 

「だから裏社会は嫌いなんだッ!!!!」

 

 

 バンの扉を急いで開き、中へ入る。

 同時にチンピラたちは銃を撃つ。

 

 弾丸はバンの扉を貫通し、襲い来た。何とか身を屈め、座席を盾にして凌ぐ。

 

 

「うおっ!?」

 

 

 だが奴らが発砲した事により、ナックルの男がバンより離れてくれた。

 外からマグナム級の弾薬を撃ち込まれる危険は、ほんの僅かの間だがなくなる。

 

 幻徳は考えもなしにバンに入った訳ではない。

 

 

「そうだ……! 確か、武器はあった……!!」

 

 

 使うつもりのなかった、グローブボックスの拳銃。

 急いで彼はそれを開き、中にある拳銃を手に取った。

 

 

 

「……は?」

 

 

 だが、手にとってみて、違和感を覚える。

 拳銃を幾度も握ったことのある彼にとって、その違和感は確実なものだった。

 

 あまりにも軽い。

 幻徳は天井に銃口を向け、引き金を引く。

 

 

 

 

 

 軽い音が鳴り、飛び上がったのはBB弾。

 

 

 

 

 

「オモチャ渡しやがったな紅守黒湖ぉッ!!……うおぉッ!?!?」

 

 

 

 

 

 銃声が鳴り、持っていたエアガンがバラバラに弾ける。

 幻徳のいる場所目掛けて、男がナックルを打ち付けた。発射された弾丸が、エアガンを破壊したようだ。

 

 

「危ねぇ!?」

 

 

 幻徳に直撃は免れたが、エアガンを握っていた右手がビリビリと震えている。

 かなりの衝撃だ。身体のどの箇所に直撃しても、致命傷になり得る。

 

 

「クソッ!! 車から出るしか……おぉ!?」

 

 

 反対側からは、チンピラたちの集中砲火。

 ライフルほどの直進力ではないが、銃は銃だ。バンの薄い車体を貫き、幻徳の頭上を飛び交う。

 窓ガラスが割れ、あちこち穴だらけだ。

 

 

「袋の鼠じゃねぇか……!!」

 

 

 今の状況を客観視して、幻徳は自分が情けなくなる。

 銃弾飛び交うバンに隠れ、今は助手席の座席下に身体を埋めている状態だ。

 こんな事したのは、子供の時以来。なおさら情けない。

 

 

「紅守めぇえ……!! 絶対に許さんぞぉぉ……!!」

 

 

 黒湖への呪詛を吐きながら、何か突破口はないかと車内を見渡す。

 

 

 

 彼の目の前に、ヒラヒラと何か落ちて来た。

 

 

「……あ?」

 

 

 銃弾により破壊された、助手席上のサンバイザーからだ。

 それはグローブボックスにある武器のことを知らせた、黒湖からのメッセージカード。

 

 

「……何が困ったら引っ張れだ……!!」

 

 

 車が大きく揺れる。

 天井に何者かが乗ったようだ。

 そしてチンピラたちのいる反対側へ渡った。ナックルの男だ。

 

 助手席から伺えば、そこは彼による一方的な殺戮。

 チンピラの攻撃を人間離れした身体能力で回避し、ナックルを打ち込んでいる。そして発射された弾丸によって、無惨に肉を撒き散らして絶える。あまりに惨たらしい。

 

 

「車の中を覗かれたら終わりだ……! どうにかして……」

 

 

 行動を起こそうとした幻徳は、何かに引っかかりを感じ、黒湖のメッセージカードを見やる。

 

 

 

『困ったらグローブボックスを引っ張ってねぇ〜げんとくん。ヒッパレーヒッパレー!』

 

「……引っ張れ?」

 

 

 グローブボックスの開閉は、レバーを引く事で行われる。

 確かに引っ張る。だが、レバーではなく中にある物を示すのなら、「引っ張れ」よりも「開けろ」の方が自然ではないか。タンスやクローゼットを「引っ張れ」なんて言わないのと同じだ。

 

 それに文章を見る限り、「ヒッパレーヒッパレー!」と、引く事を強調しているようにも思える。

 

 

 

 

「……まさか」

 

 

 幻徳は開きっ放しのグローブボックスを掴み、引いた。

 

 何とボックスごとパコッと、引き抜けてしまった。

 

 

「なんだと!? この車どうなってんだ……?」

 

 

 ボックスが抜けた後にある空洞を、幻徳は覗く。

 

 そこにあった物に、目を疑った。

 

 

 

「…………どこまでも……悪魔の女だ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごあ……ッ!?」

 

 

 血を吐き、倒れ臥す。

 その眼前に立つは、黑社會の幹部。名前を『(フー)』と呼ぶ。

 血まみれのナックルからは、硝煙が立ち昇っていた。何発も何発も撃ち放った為、引き金を握る手に熱気が当たっている。

 

 

「えぇ、どうしたぁ!? 俺を殺せねェようじゃ、姫にゃ辿り着けねぇぞぉ!?」

 

 

 この男一人で、十人近く死んでしまった。

 規格外の強さと狂気を誇るフーを前に、チンピラたちは戦意を喪失しつつある。

 

 

「ケッ! 骨のねぇ奴らだなぁオイッ!?」

 

 

 ナイフを構え、フーへ突き刺そうとする。

 勿論、そんな読みやすい軌道の攻撃を食らう彼ではない。

 刃が心臓に突き刺さる前に、それを握る腕を殴ってへし折る。そのまま逆にナックルを心臓へ打ち付け、撃ち抜いてやった。

 

 

「チンケなハッタリで生きてきたようなてめェらと俺じゃあ、潜った修羅場の数が違ェんだよ」

 

 

 背後を一瞥する。

 黑社會の構成員が、バンの中を調べようとしていた。

 

 

「そういや、誰か中に」

 

「う、うおおおおお!!」

 

「いたンだったな」

 

「ぉッ」

 

 

 後ろを見たのが隙だと思ったチンピラは、襲いかかったところで頭部を打ち砕かれた。

 この男、フーに隙がない。もはや、距離を取るしかチンピラたちは出来なくなっていた。

 

 

「おぉ? まだかかってこれンのかぁ!? いいぜェ、死にてェ奴はかかって来いよぉッ!!」

 

 

 挑発しつつも、彼からチンピラへ近付く。フーはまだまだ戦えた。

 その後ろでは、銃を構えた四人ばかりの構成員が、バンに入り込んでいる。

 

 

 

 

 

「くぉ!?」

 

「ゲエッ!?」

 

「うおおッ!?」

 

「ぐあッ!!??」

 

 

 だが突然、全員がバンの中から吹き飛んだ。

 予想外の事態だ。フーは誰にやられたのかと、瞬時に振り返る。

 

 

 途端、車が爆発。

 発生した爆風を身体で受け、顔を腕で隠してカバーする。

 

 

「なにッ!?」

 

 

 腕をどけ、炎上する車の残骸を睨み付けた。

 

 

 

 

 その鋭い目は、愕然としたものへ瞬時に変わる。

 炎の中に立っていた者は、異様な姿をしていたからだ。

 

 

 

 

 

『割れるッ! 食われるッ!! 砕け散るッ!!!!』

 

『クロコダイル・イン・ローグッ!! オォォォウラァァァァアッッ!!!!』

 

『KYAAAAAAAAA!!!!』

 

 

 

 全身をスーツに纏わせた、暗い紫の存在。

 そこにいた存在こそ、『仮面ライダーローグ』だ。

 

 

 

 

 

「どういう訳か知らんが……」

 

 

 ローグの青い目は、フーを捉えた。

 グローブボックスの裏に隠されていた物とは、黒湖に預けたハズの『スクラッシュドライバー』だ。

 

 

「……背に腹はかえられん。使わせてもらう」

 

 

 その声には何処か、失望の念がこもっているようにも思えた。

 

 

 ローグを目の前にし、フーは素早く臨戦態勢を取る。

 幾度も修羅場を抜けて来た彼だ、ローグの醸す異様な雰囲気を察知したのだろう。

 

 

「ンだてめぇ!? 何者だッ!?」

 

 

 問いただす彼に対し、ローグは何も言わない。

 だが代わりに答えた者は、あまりの展開に呆然と立ち尽くしていたチンピラたちだ。

 

 

 

「あ、あいつ、『紫のヒーロー』だよな……?」

 

 

 紫のヒーローの呼び名に、フーは反応する。

 

 

「紫の……『ヒーロー』ぉ?……ジェットコースターぶっ壊したテロリストってのは聞ィーたぜぇ」

 

「……俺はヒーローではない」

 

「それよりも、だ……お前も梁浩然(リャンハオラン)の雇われか?」

 

「誰だか知らんな」

 

「……んまぁ、その仮面ごと口を割らせればイイだけか」

 

 

 フーは一息の内に、ローグとの距離を詰める。

 身を屈め、下から彼目掛けて飛びかかる姿はまさしく「虎」。

 

 

 

 

「フッ!!」

 

 

 フーの拳はローグの脇腹を捉える。

 少しばかり、全治一年分の怪我をしてもらう。

 戦闘不能にし、尋問する。殺すのはそれから。

 

 

 ナックルは数ミリで、彼と接触する。

 だがその刹那、フーの頭に疑問が掠る。

 

 

(避ける素ぶりがない?)

 

 

 棒立ちのローグにナックルが直撃。

 引き金が押され、撃鉄が弾丸の尻を弾く。

 

 

 重厚な銃声と共に、発射された凶弾がローグのスーツを貫き、胃を掠って肉を抉る…………

 

 

 

 

 

「知らんと言っただろ」

 

 

……ハズだった。

 弾丸は、彼の身体を貫いていやしなかった。

 

 

「なにッ!?」

 

「ふんッ!!」

 

「ッ!?」

 

 

 ローグの手刀が、フーに目掛けて振り下ろされる。

 しかし嫌な予感がしていた彼は、すかさず身を落としてローグの腕を蹴った。

 

 これにより軌道がズレ、フーへの直撃は免れる。

 その上で彼は、蹴りによる体勢の変化を利用し、ローグで自分の身体を押すようにして距離を離す。

 

 

 

 ナックルから垂れ下がる、薬莢の束に当たる。

 バキンッ、と鈍い音を立て、呆気ないほど簡単に割れた。

 

 

「おい、嘘だろ……!?」

 

 

 無理な姿勢で距離を離した為、地面に背中から倒れる。

 しかし今度は、ローグに飛びかかられる番だ。

 

 

 

 

「今のを逃げ切ったか」

 

「……ッ!!」

 

 

 跳躍し、足を大きく天へ振りかざしていた。

 そのまま、フーへ踵落としを食らわせるつもりだ。

 

 

「チィッ……!!」

 

 

 気付くのが遅れた……いや、向こうが速すぎる。

 回避のタイミングが遅れた彼は、避けるよりも衝撃を緩和する方法を模索。

 

 

 

 傍らに、破壊されたバンのドアがあった。

 フーは片手のナックルを捨て、ドアを引き寄せて盾にする。

 

 

 

 

「ウァアッッ!!!!」

 

 

 断頭台の刃のように振り下ろされた、ローグの足。

 踵がドアに当たった瞬間、厚い鉄板がベシャリとへこむ。

 

 

「ンなッ……ぁ!?」

 

 

 へこんだドアがフーを圧迫し、彼を中心にアスファルトがヒビ割れる。

 受け止めきれないダメージが容赦なく襲い、口から血が吐き出された。

 

 

 虎は、鰐に食われる。

 

 

「ガフッ……!?」

 

「安心しろ。死にはしないよう、威力は調整している」

 

「どう……安心しろってンだ……!?」

 

 

 ギリギリと、力を込めるローグ。

 このままではドアとアスファルトに押し潰される。フーは渾身の力を込め、ドアごとナックルを殴りつけた。

 

 ナックルから放たれた二発の弾丸はドアを貫き、ローグの顔面に直撃する。

 

 

「む……!」

 

 

 少し、力が緩む。

 その僅かな隙に、フーはドアとアスファルトの隙間から脱出する。

 次の瞬間、ドシンッとドアがくの字にひしゃげた。

 

 

「ググ……! 残念だが、俺を殺したところで姫はもう、秘密のアジトだぜ……!」

 

「殺す気はない……が、俺も仕事でな」

 

「は……?」

 

 

 ローグはフーに、突撃を開始する。

 すぐに回避しようとするが、先ほどのダメージはかなりのものだ。動かした膝がガクンと、地に落ちる。

 

 

「クソ……!!」

 

 

 振りかぶられた彼の拳が、フーを捕捉。

 彼は役目を果たしたと納得し、覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 ローグの拳はフーのコメカミを掠め、外れた。

 

 

「ヒャハアッ!!」

 

 

 気付けば横に、外した自分のナックルを握ったチンピラがいた。

 ローグの拳は、自分の顔面に当たろうとしたナックルの先に添えられる。

 

 

 

 

 彼の腕にナックルが当たる。

 銃声が鳴る。

 チンピラの腕に鈍い音が鳴り、骨が外れて後方へ振り飛んだ腕より、ナックルが離れた。

 

 

 弾は貫通していない。ローグの腕の上で、ぺしゃんこになっていた。

 

 

「ぎ……ィ、ギャァアァアアアッ!?!?」

 

「常人に耐えられる反動な訳がないだろ」

 

 

 すかさず裏拳をかまし、チンピラを沈黙させる。

 その様をフーは、呆然と見ていた。

 

 

「……殺さねェのか?」

 

「殺す気はないと言っただろ……なんだ? 中国語で話すべきだったか?」

 

「そうじゃねェよ……」

 

 

 ローグが睨みを効かせる。

 一連の流れを見て、「勝てない」と踏んだチンピラたちは一目散に逃げ出した。

 

 

 

 今この場で意識を保っている者は、ローグとフーだけだ。

 

 

「ほれ。俺はお前を助けてやったぞ」

 

「……いや。テメェが出てこなきゃ俺の圧勝だったじゃねェか。恩人ぶんな、マッチポンプがよォ」

 

「何にせよ、お前は俺に事情を話さなければならない」

 

「俺は何も言わねェ」

 

 

 荒い呼吸を繰り返し、地面に片膝ついたフー。

 予想以上のダメージだ。もう自分はリタイアだと実感している。だがそれでも、媚びるつもりはない。

 

 拷問されようが決して、口は割らないつもりだ。

 ローグは膝を曲げて腰を下ろし、フーと目を合わせようとする。

 

 

 

 

 

「『裏切り者』は、あっちの方なんだろ?」

 

 

 その言葉に、伏せていた彼の顔が上がる。やっと、ローグと目が合った。

 

 

「なンだテメェ……? ここまでやって、黑社會に味方しようってか?」

 

「俺の仕事は、変な動きをしている黑社會の調査……だったが、事情が変わった」

 

「事情だぁ?」

 

「どうやら俺は、この騒ぎを止めなければならないらしい」

 

 

 黒湖に、自ら渡したスクラッシュドライバーが、どういう訳かアッサリと戻って来た。

 なぜ黒湖は自分にベルトを返したのかを考えていたが、どうやら「力ずくでも喧嘩を止めろ」と言うことらしい。

 

 

「ここは日本で、平和な街だ。隣国のマフィアに面倒を起こされたら、たまらん」

 

「…………だからってテメェを信用しろできるか? 俺をこんなにした奴をよぉ」

 

「この騒ぎが止んだら別に良い。黑社會を潰すつもりはない」

 

「……………………」

 

 

 フーはまた顔を伏せ、閉口する。

 

 

 

 

「…………そうか」

 

 

 これ以上の尋問は無理かと踏んだローグは立ち上がり、その場を離れようとする。

 ならば別の人物から聞き出すかと、考え直したからだ。

 

 血と硝煙で混沌とした湾岸から、さっさと出たかった。

 彼は海の方へ歩く。

 

 

 

 

 

浩然(ハオラン)のアジト、教えてやる」

 

 

 ローグは足を止め、振り返る。

 

 

「よくよく考えりゃあ、姫は無事に逃げたし……別に裏切り者のアジトを言っても構わねェか」

 

「そいつを止めれば良いんだな」

 

「出来るンならなァ」

 

「余裕だ」

 

 

 ついでに質問する。

 

 

「それと、だ……その姫とやらを運んでいた『スナイパー』……あれは誰だ?」

 

 

 倉庫での因縁もある。

 誰にでも手をかける殺し屋を、野放しには出来ない。

 

 

「こっちの事は言わねェぜ」

 

「……だろうな」

 

「知り合いか?」

 

「個人的な恨みがあってな」

 

「何があったンだ……」

 

 

 向こうも裏切り者を追っているのなら、会えるだろうと考え直す。

 そして最後に、一つの質問をする。

 

 

 

 

 

 

「それで、だ。その……浩然ってのは、女か?」

 

 

 フーが訝しげに、顔を顰めた。

 

 

「あ? 浩然は男だ」

 

「そうなのか? あのチンピラども、女から指示を受けたって言っていたもんだから、てっきり……」

 

「女だぁ? 浩然に女がいる情報はねェが……」

 

 

 

 次に言ったフーの憶測から、食い違いが発生する。

 

 

 

 

「いずれにせよ、前首領を殺し、『姫さえも殺そう』としたんだ。間違いなくクロだろ」

 

「は? お前、なに言ってんだ? こいつらはその、『姫ってのを誘拐する』つもりだったぞ?」

 

「……は? 浩然は首領を殺し、自分が成り上がるつもりなンだろ? 奴は暗殺者も雇っているって話で……」

 

「あ? ならなんで、こいつらに誘拐を命じた?」

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 ローグとフーは一斉に、路上で気絶するチンピラへ顔を向けた。

 ナックルによる反動で腕の骨を外してしまった、哀れな男だ。

 

 

 

「……聞く必要があンなぁ?」

 

「お前は手を出すな。俺が尋問する」

 

「動けねェよ」

 

 

 そのまま寝ているチンピラを、ローグは叩き起こしてやった。

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