COCODRILO ー ココドゥリーロ ー   作:明暮10番

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偏愛なるヴァイオレンス/BE tween the two

 警察が客を保護した所で、事件はあっけなく終結した。

 実行犯を全員逮捕の他、一般人に一人の負傷者もなく、かつスピード解決であった事も含めて多大な評価を得られるだろう。

 

 

 しかし、パトカー内のドライブレコーダーや、数多の人々の声からは警察ではなく、一人の存在が全てを解決させたと主張する。

 正体を隠し、仮面を纏った孤高の戦士。

 彼は己をこう呼んだ。

 

 

 

 

『仮面ライダーローグ』。

 彼の活躍と逸話は着実に、この日より町中へ伝播して行く事となる。

 混沌を迎えた流々家町の、真っ当なヒーローとして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現行犯と証言者多数と言う状況証拠から、あの五人は犯人として何の障害もなく裁かれるハズ。

 故に被害者全員を警視庁に集めて話を伺う事はされず、事件解決として客らは普通に帰宅を許可された。

 

 

「……宿題の休憩に来ただけなのに、なんか凄い濃い時間過ごしたな」

 

 

 そう呟く八葉の両隣に、ひな子と幻徳が並ぶ。

 

 

「……まぁなんだ。無事で済んだから良かっただろ」

 

「……えー、まぁ……お陰様で……」

 

「………………」

 

 

 八葉にとっては妙な感覚だ。あの事件を解決させたヒーロー本人と、殆ど他人事のように会話している現状に果てしない違和感を覚えていた。本当ならば彼へ色々と質問をしたいのだが、本人が非常に気まずそうな空気を醸し出している為に聞くに聞けないのだ。

 

 

 この三人組で言うのならば唯一、ローグの正体を知らないひな子はと言うと、非常に上機嫌にヒーローを語っていた。

 

 

「正体を隠し、ただ悪を倒す為だけに戦う孤独のヒーロー、『ロープ』……決して表に現れず、影に徹す孤独のヒーロー……か、カッコいい……!」

 

「……ひな子、ロープじゃなくて『ローグ』だってば」

 

 

 八葉は八葉で、必要以上に幻徳を意識している為に、さっきから遠方から来た親戚をもてなすような余所余所しさを見せていた。それがまた、フレンドリーに接したい幻徳にとっては辛いのだが。

 

 

「……そろそろ俺はお暇する」

 

 

 ひな子と八葉との空気の差異に耐えきれなくなった幻徳は、自分の境遇を無視して別れようとした。

 いや、と言うよりもこのまま付いて行った所で自分に救いが訪れる訳はない。

 

 

「え?」

 

「食事の恩は忘れない。何か困った事が起きたら是非、相談してくれ」

 

 

 それだけ言い残し、次の三叉路で別れようと決心する。

 彼女らへの恩は感じているが……だが、次会う頃には生きていられるのかも不安だ。不安ではあるが、ローグに至るまでの二週間と比べればと変な自信だけはあった。

 次に身体が動かなくなるまでに元の世界への帰る方法を得なければならない事が、彼を懊悩させ焦燥させてはいるのだが。これから家無しだがどうしようかと、彼は思考し続けた。

 

 

 

「……失礼ですけど、幻徳さん……家、あるんですか?」

 

 

 唐突に放たれた八葉の追求に、幻徳は思わず面食らう。

 

 

「……どうしてだ?」

 

「いや、だって、その……辞めさせられたとしても、何も食べられないほどに困窮するかなぁって、思いまして〜……」

 

「………………」

 

 

 その理由付けだとしても、実家に帰るやら行政の保護を受けるやら次の職を探す等と出来るハズだ。それが出来ないと言う事は、住所がないから履歴書や書類が書けないか、本人にその意思がないかだ。幻徳の様子を見るならば後者は考え難く、家すらも失っているのではないかと八葉は推理した限りだった。

 

 若いと思って半端に見ていた。思いの外、頭の回る娘だ。

 

 

 

 

 だが幻徳にとって、この世界の現状と、元の世界との現状は変わらない。もう帰る場所はないのだ。

 

 

「……確かに家無しだ……そして、親もいない」

 

 

 脳裏に巡るは、忌まわしき記憶。

 慢心と野心に溺れ、幾多の人間を死地に送った時。

 全てが白日の下に晒され、父親に絶縁を言い渡された時。

 正気に戻ったものの、新たな使命の為に影に徹する覚悟を決めた時。

 再開した時の、父親の慈愛に満ちた目が合わさった時。

 

 

 目の前で、父親が崩れ落ちた時………………

 

 

 

 

「……いや。何でもない。俺の事は気にするな」

 

 

 決して消えやしない罪の意識。それを実感したならば、自分を矮小化してしまう。他者と比較し、自分を貶める事が癖になりつつあると本人は思っている。

 だからと言えど、罪を償う機会を抜き取られた彼には、こうするしか自分を肯定化出来ない。正直に言えば彼は、未だ現世に這い蹲っている自分を許せないのだ。

 

 

 

 三叉路で別れよう。幻徳はそう決めると、束の間の四メートルを彼女らと歩む。

 

 

 

 

 

 

 

 ツカツカツカツカ……

 

 

「な、なぁひな子。黒湖さんに何とかして貰えないもんか?」

 

「え? くーちゃんに?」

 

 

 ツカツカツカ……

 

 

「あの人、人脈広いんだろ?」

 

「……もう良い。あまり世話になる訳には……」

 

 

 ツカツカ……ツカッ。

 

 

 

 

「良いよ! おじさん、とっても良い人だし! くーちゃんに聞いてみるね!」

 

 

 

 ブゥゥゥウウン…………

 

 

「……大丈夫なのか?」

 

「多分!」

 

(あれ、この人って素直なのかな?)

 

 

『偏愛なるヴァイオレンス/BE tween the two』

 

 

 

 

 幻徳は三叉路で……別れる事なくひな子らの後を付いて行く。

 そうだ。罪を償うまでは死ねない。

 

 

 

 

 

 

 ひな子に付いて行くと、ビジネス街の無機質な雰囲気が消え、段々と瀟洒な家々が目立つようになる。

 

 到着した場所は、綺麗なマンション。大型ガレージ付き、入口はオートロック式。なかなか良い場所に住んでいる。

 

 

「……高そうなマンションだな」

 

「この子の保護者が警察の人らしくて。しかも結構稼いでいる人なんです」

 

「ここまでとなると……キャリア組か?」

 

 

 今の自分には地位はない。身分不詳の自分と対等に接してくれるのかと、不安になって来た。

 

 

(と言うか、警察だと?)

 

 

 幻徳は焦り出す。警察ならば余計に面倒なのではないのか。

 この世界では恐らく戸籍も何もない。警察に連行されたりしないだろうか。

 

 

「やっぱ俺は……」

 

「じゃ、付いてきて!」

 

「…………あぁ」

 

 

 不安がる幻徳を前に、ひな子と八葉はズンズンと先を行く。彼もまたそれに押し切られた。

 励ますように八葉が彼を一瞥する。幻徳は一回深呼吸してから、琥珀色のライトが眩しいマンションのエントランスへ足を伸ばした。

 

 

 

 

 エレベーターを上り、九階。廊下を少し歩いた先の『九○三号室』が彼女の家だ。表札には『紅守』とある。

 ひな子が持っている鍵を差し込み捻り開錠するが、ドアは開かない。

 

「あれ? 鍵開いてた」

 

「ひな子、ちゃんと鍵閉めてたよな?」

 

「むむむ……もしや、またもや泥棒か……!」

 

 

 幻徳は辺りを見渡す。

 

 

(一端のマンションよりもセキュリティは厳重か。階層も九階の上、鍵は壊れている様子はない……空き巣とは思えないが……)

 

 

 ならば答えは単純だ。

 

 

「保護者が帰っているんじゃないか?」

 

「あ、そっか。くーちゃんか!」

 

 

 そう合点し、早速鍵を開け直す。

 開け放たれると同時に、一声が一同に浴びせられた。

 

 

 

 

「黒湖!?」

 

 

 リビングから颯爽とやって来たのは、赤い髪の女性だ。やけに焦った様子。

 

 

「あ、『ちよちゃん』」

 

「あ……ひな子ちゃん……と、」

 

 

 後ろの八葉に目線が行く。

 

 

「八葉ちゃんもいたの!」

 

「お邪魔してます、千代さん」

 

「あはは……私の家じゃないけど……」

 

 

 笑顔で二人を出迎える千代。

 しかし、その八葉の後ろからヌッと現れた幻徳を見て笑顔は消える。

 

 

「………………」

 

「……お邪魔します」

 

「……え、誰?」

 

 

 花の女子高生組と相反する、全体的に黒い髭男に警戒するのは当たり前だろう。そもそも、見知らぬ人間だ。

 説明に困るのは幻徳もだが、八葉もそうだ。何て切り出そうか考えあぐねている間に、幻徳は彼女への既視感に気付いた。

 

 

「…………交差点で、ぶつからなかったか?」

 

「…………あ」

 

 

 千代は思い出したようだ。

 ながらスマホの最中、交差点前でぶつかった男だ。

 

 

「なんでその人が……」

 

「このおじさん、良いおじさんなんだよ! わたしの財布を届けてくれたんだ!」

 

 

 八葉も「そう言えば、財布を届けてくれたんだった」と思い出す。

 ここに至るまでに起きた出来事の情報量が多く、すっかり忘れていた。

 

 

「ひな子が落とした財布をわざわざ……話を聞いたら困っている人らしくて、黒湖さんに相談をと」

 

「そうなの……黒湖だったらいないみたいね。昼過ぎから電話かけてるけど、繋がらないったら……」

 

「黒湖さんなら、パーティーに行ったとかで……」

 

「パーティぃ……? あの招待状の……はーん、成る程……女に釣られたわね、あいつ」

 

 

 下足場から玄関に上がるひな子と八葉に続き、幻徳も。キチンと靴を揃えていた。

 

 

「成り行きでこうなったが……よろしく願う」

 

「ど、どうも……えと、お名前は……?」

 

「氷室幻徳だ」

 

「氷室さん、ですね。『柳岡 千代』と言います……お昼の時はどうも、すいません」

 

 

 ぶつかった件について、再度の謝罪。

 

 

「こっちも不注意だった、結構だ」

 

「言い訳ではないのですけど、なかなか相手が電話に出なくて……」

 

「黒湖って人に?」

 

「四十五回もかけてんのにメール一本。本当にあいつは……」

 

「………………」

 

 

 良く良く考えてみれば、その『黒湖』と言う人物の不可思議さに気付ける。

 高校生の保護者であり、キャリア組と思わしき収入の警察関係者であり、目の前の二十代行くか行かないかの女性と親密な関係にある。

 警察関係者にしてはやけに、若い人間と交友しているのだなと感じた。キャリア組ともなれば難関大学、大学院を出る上に超難関の試験を突破せねばならず、必然的に年齢層は若くても二十代後半となる。

 

 人間の交友と言うのは、優先順位が発生するものだ。つまりは大抵、仕事仲間や古くからの友人を優先する傾向にある。親密な関係ならば更に優先順位は狭まるし、年齢層も個人と合致する。前述のキャリア組の事情を鑑みるに、些か交友関係者の年齢層が若すぎやしないか。

 

 

 

 

「……少し聞きたいが」

 

 

 ひな子と八葉は既に別の部屋に行ったようだ。

 

 

 

「その、黒湖って人物はどんな人だ? 女性のようだが……」

 

 

 そうは言ったが、名前の印象でしか女性と断定出来ない。

 下駄箱の上に飾られた百合の花を見やる。

 

 

「どんな人って言われましても……うーん……一言で表せられないって言うか……」

 

「警察関係者と聞いたが」

 

「そうですよ」

 

「なら、階級は。警視とか、警視監とか……」

 

 

 

 

 ドアノブが捻られたが、その瞬間はまだ二人は気付いていない。

 

 

「あー……そう言うのではないんですけど……なんて言うのか」

 

「それほど凄い人物なのか?」

 

「凄いと言えば凄いですけど」

 

「釈然としないが……」

 

 

 そして、ドアは開かれた。

 

 

 

 

「近いのなら、『エージェント』でしょうか……って」

 

 

 千代の目が、幻徳から背後に向く。

 

 

「黒湖!? やっと帰って来たわね!!」

 

 

 彼女の形相が一気に厳しくなる。

 幻徳は件の人物が帰って来たとあり、振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ!?」

 

 

 忘れもしない、されど予想外の人物だった。

 彼の二日前の記憶が蘇る。躊躇なく、人頭に引き金を引いたあの女。

 満月を背に、あの不気味な笑みがフラッシュバックする。

 

 

 

 

 眼鏡と、やけに胸が開かれたスーツ姿ではあるが、目の前にいたのはあの、『人殺し』。

 

 

 

「え。誰、このオッサン?」

 

 

 氷室幻徳は、図らずも『紅守 黒湖』と接触してしまった。




遅れ馳せました。
ビルドは終わりましたので、この作品を続けて参ります。
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