COCODRILO ー ココドゥリーロ ー   作:明暮10番

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マスクを剥がすのは/Over the veil

 ポタ、ポタ、ポタ、ポタ。

 

 

「……ハァ……!」

 

 

 

 ポタ、ポタ、ポタ、ポタ。

 

 

 

「ハァ……ぐっ…………」

 

 

 

 ポタ、ポタ、ポタ…………

 

 

 

「……何者なんだ……何故なんだ……!?」

 

 

 

 

 ひたっ、ひたっ、ひたっ。

 

 

 

「…………………………」

 

 

 

 ひたっ、ひたっ、ひたっ。

 

 

 

 

 

 

 

「……浅葱凛子……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マスクを剥がすのは/Over the veil』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は、屋根の上からの襲撃者に斬られた。

 

 

 その人物こそが、浅葱凛子だ。

 バッグにしまっていたウサギのぬいぐるみは、頭部の綿が抜かれていた。綿を抜かれ、空洞の中に自身の顔を覆う。残りの身体は彼女の背後にぶら下がっている。

 両手には刃渡り四十センチに至る包丁が握られ、片方は血で濡れている。赤い滴が、地面に落ちた。

 

 

 

 

 幻徳は完全切断を免れていた。

 凛子の攻撃をいち早く気付き、後ろに仰け反る。だが包丁のリーチの差で、刃先で喉仏の少し上を削られた。

 

 

「……チッ」

 

 

 怪我は問題ではない。

 問題は、スクラッシュドライバーの入ったバッグと離れ離れになった点だ。

 

 

 

 回避時に、勢い余った包丁が持ち手を斬った。ボストンバッグは、凛子の足元に落ちる……幻徳の血の滴の、受け皿と成り下がった。

 

 

「……どう言う事だ……これは……」

 

 

 幻徳は信じられなかった。

 十代前半の幼けな少女が、明確な殺意を持って襲って来る事に。

 

 

 殺意だけではない、本当に殺す気で凶刃を振るった事に。

 

 

(操られているのか?……いや、そんな安易な物では断じてない。あの殺意は本物だ……こいつの意思だ)

 

 

 喉の傷を押さえながら、急いで立ち上がる。

 立ち上がった所で、逃げ道は彼女に塞がれた。彼女自身が壁となって。

 

 

「……何故、俺を襲う……!」

 

 

 喉の蠕動だけでも、痛覚が発生する。叫ばれない。出せる範囲の声で彼女に問う。

 

 

 

 

 

 

 凛子は顔をゆっくり上げる。

 

 

 

「……お父さんは」

 

 

 表情はぬいぐるみがマスクとなり、伺えない。

 

 

 

 

 

「お父さんは……『ヒトゴロシ』」

 

 

 血の臭いを掻き消さんばかりの薔薇の匂いが鬱陶しい。

 

 

 

「私も、『ヒトゴロシ』」

 

 

 刃が鈍く陽光を映す。

 

 

 

「たぶん、いけないこと」

 

 

 

 風が止んだ。

 

 

 

「でも私は、お父さんの子供だから」

 

 

 暫し静寂。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……『優しいお父さんだから』」

 

 

 

 雑に切られ出来たぬいぐるみの亀裂から、口が僅かに見える。

 荒い息を繰り返す口は、満面の笑顔だ。

 幸福の笑みだ。

 

 

 幻徳は、固唾を呑む。

 

 

 

(父親が人殺し……だと?)

 

 

 

 

 彼女は、何らかの形で、父親の殺害風景を見た。

 観察学習……善悪の区別が曖昧な彼女は、『彼女にとって優しいお父さん』の行動を模倣した。

 模倣し、実行し、覚えてしまった『殺しの味』。

 殺しの味は、人間を依存させる厳酷な味。

 

 

 だが、彼女の中には「殺しはいけない事」と認識もある。

 快楽と良心のアンビバレンツ。

 依存と抵抗のジレンマ。

 血筋と自我の二律背反。

 その半端で幼い心は『劣等感』を生み、自分がこうなった原因を消したがる。

 

 

 だけど、大好きな父親は消せない。

 だから消すのだ。『父親の代わり』を。

 

 

 

 彼女の殺意は、後戻り出来ない一本の線上に半端に留まった、結果である。

 

 

 

 

 

(……父親が人殺し……)

 

 

 場違いだが、苦笑いを零す。

 

 

 

 

「……俺の逆か」

 

 

 その自嘲は、凛子には聞こえない。

 

 

 

 

 

 

 ワンツーステップで、彼女は再び幻徳に斬りかかる。

 

 

「ぐぅッ!?」

 

 

 一気に距離を詰めたと思えば横に飛び、壁を蹴って跳躍する。軌道が読めない。

 

 

「なんて身体能力だ……!!」

 

 

 跳躍した凛子は、回転しながら幻徳の首を狙って迫る。

 常人では反応出来ない凛子の人外じみた攻撃。

 

 

「……ッ!!」

 

 

 だが幻徳は、一般の人間よりも身体能力に恵まれていた。

 凛子の攻撃に何とか反応し、刃が喉を搔き切る前にしゃがみ込んだ。

 

 

「はっ!?」

 

 

 幻徳の反応に、凛子も反応。

 彼が回避に成功したと一瞬で理解し、そのまま包丁を斬り下げる。頭頂部に斬り込みをつけるつもりだ。

 

 

「うおぉおお!?」

 

 

 急いで身体を地面に伏せる。

 だが、前に出していた左手に刃が入る。所謂、手刀と呼ばれる箇所に食らったが、本物の刃に人体が敵う訳がない。パックリ割れた手の側面部より、血飛沫。

 

 

「…………」

 

「うぅ……!」

 

 

 痛がる余裕はない。避け切った恩恵でチャンスが生まれた。

 幻徳から見て前方が空く。その方向には出口と、血の付いたボストンバッグ。

 

 

「ぐぅぅ!!」

 

 

 逃げ切る事は不可能だ。

 ここは人のいない薔薇園。袋小路から出られた所で、逃げ切ったとは言えない。本当に逃げ切る時は、薔薇園から出た時だ。

 現状、とても無理だ。凛子はもはや、『怪物』。寧ろ、この場から出る前に仕留める力量がある。

 

 つまり逃走は不可能。無謀。悪手。『BAD』だ。

 

 

 

 

 

 

 

 ならば生き残る道は一つ。『戦わねば』。

 

 

 

「バッグを……!!」

 

 

 落としたボストンバッグを拾えば、変身して戦う事が出来る。

 あの刃を凌ぐ、無敵の鎧が手に入る。

 

 

「……回収しなければ……!!」

 

 

 彼は無様に、犬のように這った後、態勢が整ったと同時に立ち上がり走る。

 バッグ目掛け、無我夢中だ。

 

 

 

 

 だが、それを待ってくれる相手ではない。

 凛子は仕留め切れていないと判断し、幻徳を追う。

 跳んでいた状態から地面に着地したと同時に、また跳び上がる。

 

 

「もう少しだ……ッ!!」

 

 

 手を伸ばせば届く。

 血だらけになった左手を、彼は必死に突き出した。凛子は背後にまで迫る、迫る。

 

 

 

 

 

 

 いや、それは幻徳の一瞬の勘違い。背後に気配はない。

 

 

 気配は、上だ。

 

 

「ッ!!」

 

 

 突き出した手を急いで引っ込め、背後に倒れ込む。

 そのコンマ一秒の後、凛子は空から降って来た。

 跳躍した彼女は倉庫の屋根を伝い、先回りをした。

 

 

「あんな一瞬で屋根にッ!?」

 

 

 幻徳は肝を冷やす。

 凛子の刃が、後退した自分の鼻先を掠めたからだ。

 

 

「………………」

 

 

 希望のボストンバッグを踏み付け、凛子は静かに佇む。

 血で濡れた包丁を、一度上から下へ素振りし、露払い。

 またもや幻徳は、袋小路に戻された。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………最悪だ」

 

 

 幻徳は行き止まりの奥へ走る。

 厳密に言えば、行き止まりではない。錠前のかけられた、従業員用通路だ。

 

 

 先程、パトカーのサイレンが聞こえた。この奥は駐車場。来客、帰宅客、係員、警備員……薔薇園よりは人がいるハズ。

 

 

「おおお!!」

 

 

 扉に体当たりするが、頑丈だ。

 ならば錠前をと無造作に掴み揺するが、やはり頑丈だ。

 

 

 

 

「……スゥゥ……」

 

 

 凛子は浅い呼吸と共に、鳥の翼のように両手の包丁を広げる。

 彼女にとって予想外は、幻徳が思いの外身体能力が高かった事だろう。僅かに苛立ちが起きていた。

 

 

 

「開け……!! 開けぇぇ……ッ!!」

 

 

 だが、幻徳は彼女以上に取り乱している。出口を求め、無様に錠前を引き千切ろうとしている。素手で壊せる訳はないのに。

 人間、自分以上に狼狽える人間を見ると、落ち着くものだ。凛子は冷静になる。

 

 

 

 冷静になった上で、最後の一手にするつもりだ。

 

 

「ッ」

 

 

 膝を屈めた後、一直線に幻徳へ突進。そして幻徳の十歩後ろで飛びかかる。

 豪快なのに、全くの無音。優雅な一撃、必殺の刃。

 

 

「開くんだ……開いてくれぇ……ッ!!」

 

 

 刃が、幻徳の頸を狙い、突き刺さろうとした。

 今の彼は、パニック状態。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし。『開いた』!!」

 

 

 錠前は動いていない。

 凛子が反応するより先に、幻徳は突然大きく旋回した。

 

 

 

 彼の着ていたパーカーが、脱げる。そして遠心力で投げる。

 開いたのは、『パーカーのチャック』。

 

 

 

 

 凛子から見れば、視界一面がパーカーに染められた。

 

 

「ッ!!」

 

 

 そのまま視界を奪われるだけの彼女ではない。

 飛ばされたパーカーごと、幻徳を斬ろうとその場に身体を捻り、コマのように横回転。頭部と下半身が逆転する勢い。

 

 安いポリエステルが包丁を防げる訳はない。寧ろこの行為は、幻徳からも凛子の姿を見えなくしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 パカッと、真っ二つ。刃は十分、幻徳の左頰から右側頭部まで貫く長さ。墓穴を掘ったのは彼だった。

 

 

 

 

「……?」

 

 

 しかし、人を斬った事のある彼女には分かる。『感触がない』。

 

 

 

「……!?」

 

 

 斬ったパーカーより、小銭や札束が宙に飛び出した。お金の雨の中、従業員用出口の前にいた幻徳は、いなくなっていた。

 

 

 

「ッ!?!?」

 

 

「ふぅッ……!!」

 

 

 彼は跳躍途中の凛子の下を擦り抜け、再びバッグへ整ったフォームで疾走する。

 

 

 

 

 彼がパーカーを投げたのは視界を奪う為ではない。凛子の態勢を変えさせ、真下を通り抜けやすくする為だ。奥まで逃げたのは、凛子に直線的な攻撃をさせる為でもある。

 勿論、デコイの役割も含め。凛子は完全にパーカーと、飛び散ったお金に注意を向けられていた……反応が遅れた。

 

 

 

 

「……頼むッ!!」

 

 

 今度は届く。ズタボロのゴミ状態と化したボストンバッグを、彼は右手で掴んだ。

 

 

 

 

 掴んだが、やっと掴めたそれを離してしまう。

 手に、何かがぶつかった。

 

 

「がっ……!?」

 

 

 錠前だ。

 高速で飛んで来た錠前が彼の手にぶつけられ、衝撃と痛みで離してしまった。

 

 

 

 

 幻徳は勢い余って転び、バッグの上を通り過ぎて盛大に地面に倒れる。

 倒れた状態で見た凛子の姿に、戦慄さえ覚えた。執念を感じたからだ。

 

 

 

「ぐあぁ……!」

 

 

 

 凛子は包丁の柄で錠前を殴り、折損させた。

 取った錠前を上に投げ、バットのように、包丁の側面で叩き付ける。

 錠前は彼女の狙い……不慣れな事なので頭部とは大きく外れてしまったが、幻徳の伸ばした右手に当てられた。

 

 

 

 

 

(あのバッグに執着している……)

 

 

 思えば出会ってから電車、駅から遊園地、そして園内においても彼はボストンバッグを手放していなかった。

 凛子は気付く。なにかがバッグの中にあると。勿論、彼女なりの想像ではあるが、武器や連絡手段だろう。

 

 

 いずれにせよ、危険要因は潰すまで。袋小路から出さないよりも、バッグに近付かせない事に目的をシフトさせた。

 

 

 

 幻徳は間に合わなかった。バッグは、チャックすら開けられていない。

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 幻徳はその場に、情け無い呻き声を上げつつ這い蹲っている。バッグへの執着が消せないのか、気力が尽きたのか、諦めたのか。

 しかし、次に彼がバッグへ手を伸ばそうとするならば……いや、伸ばす事も出来ない。凛子にとって、その行動は彼の隙だ。

 腕を切断し、悲鳴をあげる寸前で喉を斬り、静寂のまま事を済ませる算段が出来ていた。

 

 

 

 詰みだ。幻徳はどう足掻いても、次で死ぬ。

 彼女の、本当の、最後の一手が、彼を殺す。

 

 

 

 

 

 凛子は跳躍する。地面を蹴り、壁を蹴り、刃を振り上げ幻徳を狙う。

 彼は立ち上がろうとする。遅い、もう遅い。

 

 

 

 幻徳が見上げた頃には、刃は目前に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウサギには一度、コテンパンにやられたが」

 

 

 彼は左腕を上げる。

 

 

「……救われた点では、良く似ている」

 

 

 ガキン。

 肉の柔い衝撃ではない、硬い無機物の衝撃。

 

 

 

 

 

 

「俺のバッグの上で『露払い』をした時に、図らずも救われた」

 

 

 凛子は動揺した。

 

 

 

 

 

 

『スクラッシュゥドライバー!!』

 

 

 

 

 蛍光色の、何とも言えない、オモチャのような物に刃を止められたからだ。

 幻徳の左手から流れる血が付いたそれは、バッグの奥に仕込んだハズの『スクラッシュドライバー』。

 

 

 

 ハッと、凛子はバッグを一瞥する。

 ボストンバッグに、大きな切れ込みが出来ていた。

 

 

 

 幻徳ではない、自分だ。幻徳の行く手を遮った時に行った、包丁の露払い。刃先がバッグに当たり、切り開いた。

 彼はその開いた口に左手を突っ込み、一瞬でスクラッシュドライバーを抜き取れた訳だ。

 

 

 

 

 頑丈なスクラッシュドライバーは包丁を防ぐのに申し分ない強度を持っている。

 フォームを崩され、次の一手が出せない彼女をドライバーで弾き、距離を作った。

 

 

 逃げ切れる距離ではない。まだ彼女の可動範囲内、手の平の上。

 だが、幻徳の勝利でもある。

 

 

 

 

 

「……新聞は見るか?」

 

「……!?」

 

 

 バッグの切り口より、新聞がこちらを覗いていた。

 

 

 

 

 

『謎のヒーロー!? 正体は誰だ!』

 

 

 

 

 今朝の新聞。幻徳は、新聞は普通に捨てて良いのか迷った挙句、やっぱりゴミ箱から回収していた。

 それは一週間前に流々家町を騒がせた、謎のヒーローの考察記事。

 

 

 

 

 

「似顔絵が似ていなくてな……」

 

 

 ドライバーを腹部に当てると、自動的にベルトが射出され、巻かれる。

 その技術に凛子は驚かされた。

 

 

 

「…………きっちり、記憶に焼き付けてやる」

 

 

 

 幻徳は立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

『最強の秘密兵器。補欠』

 

 

 

 

 

 

 何故か彼の着るTシャツには、堂々とそんな文句が書かれている。

 そんな事はどうでも良い。彼は徐にポケットから、ボトルを取り出した。ボトルは、ずっとポケットにしまっていたようだ。

 

 

 

 

 

 フタを回す。

 

 

『DANGER……!!』

 

 

 音声の後、迫り来るような音楽が鳴る。凛子はその、間抜けながらも異端な状況に、警戒していた。

 

 

 次にボトルを間髪入れずに、ドライバーの中心部にある窪みに挿入。

 ワニが、水面から出現したかのような意匠のネオンが、ボトルより飛び出る。

 

 

『クゥロコダイルッ!!』

 

 

 一気に音は禍々しさを放出。

 心臓の鼓動のように明滅を繰り返す、ボトルの光。

 危険を察知した凛子は、何かが起こる前に幻徳を殺そうと構えた。

 

 

 

 構えは一瞬。飛びかかる。

 

 

 

 

 

 

「……変、身……」

 

 

 

 

 

 青痣のついた右手で、スパナのようなレバーを押し込む。

 連動し、ボトルの左右から棒が飛び出し、挟む。

 

 

 

 

 

 

 その前に凛子は幻徳に斬りかかる……が、しかし、何かが下から迫り上がり、彼女を吹き飛ばした。

 態勢を整え着地に成功するが、目の前に広がる光景に絶句する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は理科室で見る、実験用ビーカーの中に、収まっていた。彼女はその、ビーカーの淵に叩き付けられた。

 その中に、紫色の液体が満ち、幻徳の身体を浸している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫し静寂。

 次の瞬間、それを壊す音声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『割れるッ!』

 

 

 幻徳の身体は、液体が凝固した物に包まれた。

 

 

『食われるッ!!』

 

 

 ビーカーの左右にワニの口が地面から現れる。

 

 

『砕け散るッ!!!!』

 

 

 口がビーカーを噛み、圧砕。

 

 

 

 液体とビーカーの破片が散乱し、思わず凛子は腕で防いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 再び、幻徳の方へ視線を向けた時、彼の姿は面影もなく変貌している。

 

 ビーカーは消えた。あるのは黒い、ジェット石のような頭の、紫を基調としたスーツの人影。

 

 

 

 最後に、そのジェット石が、顎の部分から伸びていたワニの口に挟まれる。

 白いヒビが入り、青い目が表出。

 

 

 

 

 

 

 

『クロコダイル・イン・ローグッ!! オォォォウラァァァァアッッ!!!!』

 

『KYAAAAAAAAA!!!!』

 

 

 

 

 

 凛子にとって、見覚えのある存在が目の前にいた。

 いや。彼女の見た物より、目は丸く、ワニの部分は短い。

 

 

 新聞で見た、あの似顔絵の主……『仮面ライダーローグ』。

 それが自分たちと一緒にいた、何処か情け無さのある男、氷室幻徳だった。

 

 

 

 

「紫の……ヒーロー……!?」

 

 

 

 沈黙を、凛子は破る。己を隠せないほどの、動揺が身体を巡っていた。

 

 

「あなたが……!?」

 

 

 何者なんだ、アレは一体なんだ、何が起きた……幾多に巡る不確かな思考の中でも、一つだけ確かな事がある。

 

 

 

 この男、危険だ。

 

 

 

 

 

 

「……お互い、マスクをしている」

 

 

 今までと一気に変わった彼の雰囲気。

 ドスの効いた声には、明確な闘志が含まれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さぁ。マスクを剥いでみろ」

 

 

 幻徳は……ローグは自身の仮面を指先で突き、挑発。

 

 

 凛子は何振り構っていられない。自分で作り乗せた土俵だ、戦わねばならない。

 この、異形の戦士と。

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