「日本ッスか」
魔法による連絡が入る。そこから聞こえてきたのは聞き慣れた上司の──レイナーレの声だ。
「ええ。拠点を置く場所が決まったのよ。今からその情報を送るから、先日伝えた準備が整い次第、そこへ向かいなさい」
「合点承知の助~」
「やる気のない声ね……まあ、いいわ」
フリードからすれば、その準備とやらは数日前に終えてしまっていて、特に指令もなかったのだから当然だろうという気持ちだった。時々悪魔や魔獣の類いを勝手に狩ってはいたが、あまり目立つ行為もできずに数日だらだらし続けたのである。
部屋のテーブルには映画のレンタルDVDのパッケージがいくつも転がっていた。
「それと、もう一つ」
「そりゃもういくつでも俺ちんがお相手しますとも。ええええ、存分にこき使ってください。でもできればもうちょいちょちょいっと悪魔なんぞをぶっ殺すお仕事が良かったりなんてしちゃったりして?」
「……。今送った情報の中に、神器所有者の人間の名前があるはずよ。その娘と明日の朝に空港で合流して、日本へ向かいなさい」
レイナーレのお前はうんざりだと言わんばかりのため息を聞きながら、魔法陣で送られてきたデータを開く。写真には金髪ロングの、丁度同い年くらいのシスターが写っていた。
あらまあ美人さんだこと、と呟くフリードにレイナーレが言葉を続ける。
「確認した?頼んだわよ?その後の行動は、向こうの拠点に到着してから説明するわ」
「あいあーいさー」
通信が切れる。
どうやら、今日のうちに荷物をまとめて明日には日本へ向かわなければならないらしく、フリードは明日行こうと思っていた食事の店のことを思いながらわざとらしく肩を落とした。
「うちのボスってばお仕事くれるから嬉しいけど、なんつーか……報連相ってーの?できてないよねぇ……やんなっちゃうよねぇ……」
窓には強い雨が叩きつけられている。
それをちら、と確認すると再び溜め息をつき、よっこらせと呟いて立ち上がった。
+++
次の日。空港の入り口で空に飛び立つ飛行機を適当に見送っていると、大きな荷物を引きずりながら歩くシスターの姿を見つけた。
長い金の髪がなびいている。歩くだけでもたおやかに揺れる髪を人は美しいと表現するのだろうな、とフリードはふと思った。
「やあやあシスターちゃん、だーれを探していらっしゃるのかな?かなかな?」
「あっ、あの、ここで神父さまと待ち合わせを──」
「はいはいはーい、僕ですよ。僕ちんでございますですよ!」
声をかけられたシスターは、緑の瞳をぱちくりさせた。そしてはっとした顔をして、洋服を細い手で整えた後に丁寧なお辞儀をしてみせる。
フリードからすると、きちんとしていて大人しい立ち振舞いの人間というものはなんだか久し振りで、少し妙な違和感さえ感じた。
もちろん元いた教会にはそういう者もいたが、まあ、嫌な雰囲気の奴も多かった。
「アーシア・アルジェントといいます。ここの空港で神父さまと合流しなさいということで来たのですが……遅くなってすみませんでした」
言葉遣いまで丁寧そのものだった。
いやいや腐りきったご時世にもこんなTHE・シスター様なんているもんなんだねえ……とフリードはよくわからない方向に感心してしまう。同時に気が合わない気配を察知して少し苛立ちも覚えた。
「今から飛行機で日本へ向かうのですよね?」
「そうよん、俺らには残念なことに魔法陣でジャンプできるとかなんとか悪魔の便利ツールはありませんからなあ。羨ましいことこの上ないよね!
ああ、アーシアたんのぶんのチケットも買ってあるから、さっさと向かおうぜ」
「たん……?」
「アダ名にいちいちつっこんでんじゃねーっスよ」
はい、と困ったような顔でうつむくアーシア。
そういえばこのシスターは、持つ神器のために一人でいることが多かったようだ……とフリードは聞いている。
(要するにコミュ障なんだな、うん)
だからといってどうするわけでもないのだが。
「あ、あの」
「はーあい?」
荷物を預け終わったところで、アーシアからぎこちなく話しかけてくる。フリードはそれの苛立ちを靴のかかとから空港の床にぶつけていた。
「その……神父さまのお名前をうかがってもいいですか?どうお呼びすればいいのか、わからないので」
「あー、なるへそ」
普段はほとんどフリードのほうから名乗るので、名乗り忘れていたことにも気付かなかったらしい。
後ろでうつむくアーシアに近寄り、胸に手を当てて『挨拶らしいようなポーズ』になってみせる。
「俺の名前はフリード・セルゼン。要するに神父、要するにエクソシスト!今日も元気に極悪悪魔どもをぶった斬る素敵に無敵な悪魔祓いでございます」
「フリード神父さま……ですね!ありがとうございます」
アーシアは、名前を聞くと嬉しそうに繰り返す。
フリードは思わず顔をしかめたが、アーシアはあまりわかっていない様子だった。
「もういいかい?」
「すみません、呼び止めてしまって。飛行機の時間に間に合わなくなってしまいますね──きゃっ!」
慌てて搭乗口に向かうアーシアだったが、シスター服の長いスカートに足がもつれた……と思った瞬間、ドテン!と大きな音と共にこけた。しかも顔面からだ。
まだ慌てているのか、両手をわたわたともたつかせた後「はぅぅ……」と鼻を抑えながら起き上がる。
「す、すみませんっ」
「ドジっ子美少女ちゃんはおパンツも清純なホワイトってことね~ふむふむ」
「へ?きゃっ!」
その後は何事もなく、飛行機の中で日本に到着するのを待つこととなった。
アーシアは機内食の珍しさに目を輝かせ、フリードはその隣で昨晩見た大人しい女性が襲われるDVD(R指定)の内容を思い出していた。
フリードとアーシアの組み合わせは結構好きです。
このさき、本格的に進んでいく間に設定ミス起こしそうな気がしてなりません……。