魔法少女リリカルなのはVampire Blood ~真祖となった少女~ 作:アリヤ
満天の夜空のある日、私は私の家の屋根の上で、座りながら空を見上げていた――
このように夜に夜空を見上げることはよくあることだ。最初のころは特に意味もなく屋根の上から見上げることが多かったが、今となっては私の日常の中でする一つとなってる。屋根の上で夜空を見上げることが私の中で意外と落ち着くようになっていたからだった。
「今となっちゃ、一人でいたい場所になりつつあるけどね……」
「元々は今のようになっちゃったときに来る場所だったからね」
誰に向けて話したわけでもないただの独り言を呟いた……はずだった。
聞き覚えのある声が聞こえてきて、私は聞こえてきた背後へ顔を振り返る。その場に居たのは黒いドレスをきた長い黒髪で紅い瞳――その姿は私にとって幾度かみた方だった。
「……久しぶりだね。最近姿を現していなかったのに」
「今のうちになのはに話しておかないことがあってね」
私の名前を呼んだ女性――ノキア・エスティミナ・アンデュメイルという名前ではあるのだが、私にとってのすべての元凶と言ってもいい。彼女のせいで私は今みたいにこの屋根の上で夜空を見上げるようになり、人生を狂わされたような原因でもあったから――
しかし、彼女が私の前に現れるなんて今となっては珍しいことだった。最後に会ったときは当分の間日本を離れることを報告してきたときだが、いつの間にこちらに戻ってきたのだろうかと思いつつも、私は一体何の用で彼女が私の前に現れたのかという理由を聞く事を優先にし、顔を前方に戻すことにした。
「それで、一体何の用で日本に戻ってきたの? 前回は突然と一言言って海外へ言ったのに戻ってきたということは、かなり重要な話なんでしょ?」
「相変わらず鋭いわね。見た目の年齢のくせしてまるで大人にしか見えない」
「そうしたのはあなたでしょうに」
「ふふっ、確かにその通りだなんだけど」
彼女は私の返答に笑い出したが、私にとっては不愉快にしか思えなかった。
生まれてからまだ六年しか経っていない私ではあるが、思考が同年代の子と比べてあまりにも大人すぎてることは自覚していた。これから小学校に入学する私としては、正直こんな大人っぽい性格で友達なんか作れるのかなという心配はここ最近思っていることでもあった。
「さて、話がまた脱線する前に話しておきましょうか」
「…………」
「私がここに来た理由として一つ挙げるならば、なのはに会うのが今日で最後だと思うから」
「最後……? それってどういうこと?」
「簡単に言えば寿命よ。多分私は一年も生きていることはできないだろうね。海外に出かけることにした理由は実は生きている間の最後の思い出として出かけただけだから」
「……まさか、あなたが帰ってきた理由って――」
思わず私は顔を彼女の方へと振り向けていた。彼女が私に話して起きたことがあって戻ってきた理由がすぐに理解でき、次に彼女が言おうとしている言葉が理解できてしまった。寿命がもう近いなんていうことは今初めて知った事ではあったが、彼女が亡くなるという意味がどういうことを指しているのか私には解ってしまった。解りたくなかったけども解ってしまった。
今の私は他の人間と特殊な存在であったりする。そうなった原因を言えば、今私が向いている彼女――ノキア・エスティミナ・アンデュメイルのせいだが、これから私は特別な存在として囁かれるだろう。彼女が亡くなるとしたらなおさら私は
「私が亡くなれば、唯一の眷属であるなのはがノキア・エスティミナ・アンデュメイルの跡取りとなる。それが何の意味を指すがわかるよね?」
「……
私は吸血鬼だ。ノキア・エスティミナ・アンデュメイルに血を吸われ、眷属としてなった唯一の吸血鬼――それが私だ。
「そう――本来ならば一人になるまで同じ眷属に属していたものと殺し合いを行い、生き残った勝者が真祖となるが、私はなのはしか眷属を作らなかった。元々アンデュメイル家は寿命でしか死ぬことができないから、最低でも一人だけ眷属を作ればいいだけだったし」
ノキア・エスティミナ・アンデュメイルの名前にあるアンデュメイルは吸血鬼の一族の名字を指しており、ノキアが日本でいう名前となり、エスティミナが人間の時からの名字に当たる。要するに私はアンデュメイル家の眷属という立ち位置となるわけだ。
また、吸血鬼と聞いて思うことの一つとして、吸血鬼の弱点についてどうなのか気になるところだろう。ファンタジーの中では吸血鬼は諸説あるかもしれないが、本来の吸血鬼の弱点などについては、実はすべてが当たっていたりはする。しかし、すべてが同じ弱点を持っているわけではなく、仕えている真祖によって弱点が変わるらしい。らしいというのは、私がノキア・エスティミナ・アンデュメイル以外の吸血鬼に会ったことがなく、彼女の言葉から吸血鬼のことを聞いたからだ。
どうしてこのような話をしたのかと言えば、先ほど彼女が寿命が来るまで死ぬことがないと言った。アンデュメイル家の真祖と眷属は、吸血鬼としての弱点が何一つなく、さらに言うと、吸血鬼としての血を吸わないと生きていけないという弱点すらなく、かなり特殊な吸血鬼である。そのため、アンデュメイル家は昔から血を吸うことが次代のアンデュメイル家の真祖にする一度だけしか真面目に血を吸うことはしなく、それ以外は遊んで血を吸ったりする程度だったりする。そのため私は一度も誰かの血を吸ったことはなく、吸血鬼としての力や再生能力が身に付いたみたいな感じなのだ。
もちろん、吸血鬼になったことに最初は受け入れられなかったことは事実だった。そのため私の真祖になるノキア・エスティミナ・アンデュメイルを恨んだこともあったし、自棄になったことも何度もあった。しかしその割に彼女は私を放任していたため、私は吸血鬼になったことを受け入れることができた。さすがに吸血鬼になったことを家族に言えることではなかったし、話してはいないが、自分の家の屋根の上に上がることは家族も知っている。ゆくゆくは話さないといけないことなんだけど、その時までには決意を決めておこうと、私は考えていた。
「……それを伝えるために、日本に戻ってきたのですか?」
「えぇ、私はなのはを基本的放任していたが、最低限の情報は教えたはずよ。まぁ、アンデュメイル家の真祖は今まで自由な奴ら多かったらしいから、あまり吸血鬼ということを気にする必要もなんだけどね」
「…………」
「さて、要件も終えたことだし、私はこの場から去ることにしましょうか。なのはにとって私はあまり会いたくないだろうし」
「……居なくなる前に、一つだけ聞いていいですか?」
本当に彼女と会うのは最後だろうと思った私は立ち上がって彼女の方へ体を振り向いた。吸血鬼にしてから今までずっと思っていたことを彼女に聞きたいと思ったからだ。今まで彼女には吸血鬼に関する最低限度の事しか聞いていなかったし、私から話すことなんて一度もなかった。だって私は、彼女を避けていたから――
「ん? 一体なにかしら?」
「どうして私を眷属にして、次のアンデュメイル家の真祖にしようとしたのですか? それが、吸血鬼になってから気になっていたというか」
「……言われてみれば、一度も話したことがなかったかもしれなわね。もう会うこともないだろうから話しておきましょうか」
そして、彼女は私に向けて吸血鬼にした理由を私に話してくれた――
「私がなのはを初めて知ったのはあの公園で初めて見かけた時よ。偶然に通りかかっただけだったのだが、あの時のなのはの姿をみて、正直驚かされたわ」
「…………」
何となくその辺については予想できた。まだ吸血鬼になる前、あの時の私は一人ぼっちの事が多く、よく家の近くにある公園に居ることがあった。その時に私を見かけたのあろう。
「一人ぼっちなのに公園の椅子に座り、泣きもせず悲しそうな顔もしていなかった。まるでそれが普通だったかのように……」
「…………」
実際その通りだ。あの時の私はお父さんが重症の事故にあったためにそれぞれが忙しく、一人ぼっちの事が多かった。最初のころは寂しいとも思っていたが、途中からそれが普通だと思い込んでしまい、一人でも大丈夫なように自分から努力していた。後でそれが違うと周りを見て気付いたけども、多分その姿を彼女に見られたのだろう。
「それを見たとき、彼女の家族を見てみたいと思い、密かに家の近くで監視していたわ。まさか夜もなのはが一人だったとは思いもしなかったけどね。そしてそれを見て思った。君なら次の真祖として任されるとしてね」
「……そう思った理由は?」
「まずはたとえ吸血鬼になったとしても自棄になって死ぬことはないだろうという点。まぁ、アンデュメイル家の吸血鬼は弱点がないから寿命まで死ねることはないけどね。とにかく、次の真祖として自暴自棄にならないような人間を探してたわけ」
「……たったそれだけ?」
「他にもあるわよ。あなたを変えてあげたいと思った。あまりにも不憫で、私と同じくらい辛い人生を幼いころから送っていたということを見て、私は吸血鬼にすることであなたを救いたいと思った」
「……そう」
私は、彼女に対して怒ろうともしてなかった。私が吸血鬼になった頃、彼女は自分の過去について勝手に話し始めたことがあったからだ。
彼女は私と同じように当時のアンデュメイル家の真祖に救われた人間だった。彼女は私くらいの年齢に両親が何者かに殺されたらしく、一人になってしまったときに会ったのが当時のアンデュメイル家の真祖だったらしい。
だからこそ、私は彼女が同情もあって吸血鬼にしたのかもしれないと思って、怒るつもりはなかった。こんな年齢で一人でなんとも思わないような人間は珍しいと今の私ですら思うし、吸血鬼になっても大丈夫な人としては私が一番よかったのだろう。
「……さて、そろそろ私は行きましょうかね。あなたも、これ以上私と一緒に居たくないだろうし」
「…………」
彼女は私がいる反対の方へと体を向け、私は何も言わなかった。止めるという考えはなかったし、彼女がどうなろうが私には関係ないと思っていた。どのみち、私は真祖の吸血鬼となるのだから――
「真祖になるかどうかというのは伝えてあるわよね。アンデュメイル家が継いできた力を受け継ぐこととなる――そしてそれは、私が亡くなった時だと」
「……うん、分かってる」
「吸血鬼について、何か分からないことがあれば夜の一族に聞きなさい。夜の一族にはあなたの事は伝えてあるから、なんでも答えてくれるわ」
「うん、分かったよノキア」
「相変わらず、真祖に対する敬意は示さないのね……まぁいいわ。それじゃあ、私は行くことにするわ。さようなら――高町なのは」
最後に私の名前を言い、彼女は私の目の前から一瞬にして姿を消した。もう、彼女に会うことはないだろう。そして私は、これから吸血鬼の真祖として人生を送ることとなるのだから――
と、私も屋根から降りて自分の部屋へと戻ろうと移動しようとするときに、ふとあることに気づいてため息を吐きたくなった。
「……夜の一族が暮らしている場所……聞いてないのだけど」
まぁ、夜の一族がこの辺に暮らしているということは彼女から前に聞いたことがあるため見つかるとは思うが、肝心なことを伝え忘れていることに呆れていた。
とりあえず私は、屋根から降り、窓から私の部屋へと入っていった――
――数週間後、私は突然と真祖の力を手にすることとなり、そしてそれはノキア・エスティミナ・アンデュメイルが亡くなったことを意味していた。
そしてこれは、すべての始まりにすぎない。私の物語は真祖になったことからすべてが動きだし、様々な事件に巻き込まれていくこととなるということを、この時の私は知らなかった――