「見捨てる。助ける価値も無いからな」
そう言ったのは、全身を人目見ただけで高価だと分かるもので包んでいる骸骨であった。その名はモモンガ。またの名を鈴木悟。本来、唯のゲームキャラクターの1つであったその姿は今現在、現実の肉体として存在している。何故、ゲーム内のキャラクター出会ったモモンガが、横に控えている執事と会話が出来ているのか、それは100年ほど昔に流行った所謂異世界転生という物だった。現在分かっている事はモモンガが所属し、長を務めているギルド、『アインズ・ウール・ゴウン』のメンバーである41が作成して全てのNPC達が自我を持ち、ゲームでは表す事の出来ない声、表情などを表現していること。プログラムでしかなかったNPC達は魂を持っていること。ゲーム内では存在したコンソール等が消滅し、自身のHP、MP等は自分自身の内側に意識を向けると確認出来ること。更に魔法などの技術も問題無く使用可能─モモンガは
「畏まりました」
モモンガを向きながら、セバスは返答した。
そのセバスの表情をみたモモンガには、セバスの製作者であるたっち・みーを、セバスの背後に感じた。そして思い出す、かつて弱きものだった自分を救ってくれたたっち・みーが使った言葉
「困ってる人がいたら助けるのは当たり前」
そう思わず呟いたモモンガは、現在行っていた
「これよりこの村の救出に向かう。アルベドに完全武装でこちらに昔様に伝えろ」
「はっ」
指示すべきことをしたモモンガは、右手を掲げ、魔法を発動した。
転移門《ゲート》
黒い闇の空間が魔法の発動に合わせて出現した。その闇は蠢いており、何もかにもが吸いこまれそうな深い色をしていた。その闇へ向かって躊躇い無く進むモモンガ。その闇を超えた先に広がっていたのは、先程まで遠隔視の鏡で見ていた、騎士に剣を振り被られている2人の幼い姉妹のいる場所だった。闇から出現した骸骨であるモモンガに、今にも襲いかかろうとしていた騎士は掲げていた剣を下ろし、ほかの騎士達も突如闇から出現したモモンガに対して、理解できないと、怪訝な表情をしている。そして襲われていた2人の姉妹は騎士達に向ける恐怖ではなく、モモンガに対して恐怖を向けていた。この場にいる全ての人間から視線を向けられながら、モモンガは1人の騎士に手を向けた。
掲げた手に現れる心臓と思われる物。それはモモンガはのんの躊躇いもなく握りつぶした。手を向けられていた騎士は、突如糸の切れたあやつり人形の様に膝なら崩れ落ちる。先程モモンガの手に出現していた心臓は、崩れ落ちた騎士の心臓だというのは、火を見るより明らかだろう。
モモンガは内心ほっとしていた。自身の得意とする第九位階魔法が効かなければ、逃げるしかないと思っていたのだが、なんの問題も無かった。
ただ、この魔法は即死魔法であり。モモンガは
そして次にモモンガが唱えたのは先の魔法よりも威力を格段に落とした魔法である第五位階魔法である
逃げれるはずもないが、逃走しようとしていた騎士へと雷撃が直撃したその時、またしても白き輝きを放っていた。ただでさえ恐ろしい程の電力をもった龍が、金属の鎧で身を纏っていた騎士へと襲いかかったのだ。普通の人間ならば即死であろう。しかし、モモンガとしてはこの程度で死ぬとは思ってはいなかった。それでも、モモンガの期待を大きく裏切り、騎士は黒い煙を上げながら地面へと倒れていった。
「弱い……こんなに簡単に死ぬとは……」
敢えて威力を落としていたとはいえ、モモンガからすればこの五位階魔法とは弱すぎる魔法だ。ユグドラシルプレイヤーで、尚且つ一00レベルの者達からすれば、適正魔法は大抵が八位階魔法以上─魔法は第一位階から第十位階間であり、さらにはその上位に超位魔法が存在する─である。結論。この騎士達は、モモンガが警戒する程の力など有していなかった。
その事実にモモンガの中から緊張感が薄れていく感覚があった。確かにこの騎士達は驚くほどに弱かった。だからといって、この村を襲っている騎士全てが弱いと言う訳ではない。油断して敗北したなど、笑いものである。しかもこの世界で死に、蘇生魔法やアイテムがしっかりと機能するという保証は何処にもない。よって、モモンガは再度警戒心を高めつつも、魔法の他にも
中位アンデット作成─
特殊技術を発動すると、黒い靄のようなものが、騎士の死体から溢れだす。それは徐々に騎士の体を覆っていき、覆い尽くすと姿を変えていく。体長は2mを超え、右手にはフランベルジェ、左手には体の4分の3はある盾、タワーシールドを持っている。そして全身を覆っているのはくろいよろい。さらにその鎧は、血管でも通っているのか、赤黒い線が全身に広がっており、棘も無数に生えている。これだけでも異常な変化だが、最も注目すべきはその顔だろう。頭には悪魔の角を模したものを生やした兜を頭、顔の部分は何も覆ってはいない。その為、その異常な顔は剥き出しだ。肉はただれ落ち、肌の色は死者のそれだ。その名に相応しい、騎士のアンデットである。これはモモンガのお気に入りのアンデットでもある。レベルは40レベル程で、攻撃力はは低いが、防御力はピカイチ。余程の事が起きなければこの村で倒される事はない。ただ、モモンガは驚いていた。というか引いていた。ユグドラシルでは召喚スキルを発動させた時、その場に召喚モンスターは出現する。その為、先のように死体に乗り移ったりしない。そもそもユグドラシルに死体という概念は無い。全てがデータである為、HPが尽きればその場で消滅する。運が良ければドロップアイテムを残して。
この世界では死体があれば、その死体を媒介として召喚スキルが発動されるようだ。モモンガも村の姉妹もドン引きはしていたものの、モモンガはこの世界とユグドラシルの違いを発見した事には満足していた。
「デス・ナイトよ、この村を襲っている、そこの死体と同じ鎧を着た者達を殺せ」
モモンガは早速、デス・ナイトへと命令を下した。命令を受けた死の騎士は了解したとばかりに咆哮を上げ、守るべき対象である姉妹を置き去りに、村へと走り去っていった。
「え〜。守るべき対象の元を去ってどうするよ……そう命令したのは俺だけどさ」
またしてもユグドラシルとの違いを見せつけられたモモンガは力なく呟く。しかし、過ぎたものはしょうがない。タイミングよく完全武装であるアルベドも現れ、流石に姉妹を殺そうとした事には焦ったが、お陰で姉妹の姉が傷を負っている事を思い出したモモンガは姉へと語りかける。
「傷を負っている様だな。これを飲め」
モモンガはそう言い、懐から赤い液体の入ったガラス瓶を取り出す。ガラス瓶は一目見ただけで高価なものであると分かるほどの装飾が施されていた。この赤い液体の正体はポーションであり、HP、体力を回復することが出来る物だ。
─────────────
村人であり、騎士から襲われ、その背中を妹を守る為に騎士から傷を負わされていた姉、エンリ・エモットは今、さらなる窮地へと立たされていた。目の前にいるのは豪華なローブに身を包み、黄金の杖を携えている骸骨である。自分を襲っていた騎士達は呆気なくこのが骸骨、アンデットにより殺された。騎士達が襲われている時、微かな希望を感じた。確かにこの骸骨はアンデットではある、けれども、自分達は助かるのでは無いかと思っていたのだ。だが、その希望も今はない。何故ならこのアンデットは、自分へと血が入ったガラス瓶を差し出し、血を飲めと言っているのだ。覚悟を決めなければならないだろう。自分が飲まなければ、妹が飲まされるかもしれない。どれくらいの時間が経ったのだろう。それ程経っていないのかもしれない。それでも決心はついた。にもかかわらず
「か、下等生物がぁぁぁああ」
怒り狂う女騎士。そこから溢れ出した殺気を、ただの村人であるエモット姉妹に受け止めろというのはあまりに酷なことだろう。しかし、またもやエンリを救った─救ったのかは疑問だが─のは骸骨のアンデットだった。
「や、やめろ!アルベド!なにか勘違いしているようだが、これはポーションだ。飲めば背中の傷も治るだろう」
ポーションと言われたからには飲まない訳にはいかない。静かに、けれどもしっかりとポーションを受け取ったエンリは、蓋を開け、一思いに飲み干す。
アンデットとからすれば当然の結果なのか、ウンウンと頷くアンデット。しかし、ただの村人であるエンリからすれば信じれない程の現象。思わず呟いてしまう。
「う、嘘……」
アンデットはどうやら会話をするつもりらしい。その恐ろしい口から発している声は人間に近い声であり、幾らか緊張感も減っていく。
「痛みは無くなったな?」
「は、はい」
続けて質問を重ねるアンデット。
「お前達は魔法というものを知っているか?」
「え?」
「魔法を使う存在を知っているか、と聞いているのだ」
「使っているところを、み、見た事はありません……」
「ふむ」
最後にそう言うと、アンデットは顎へと手を添えて、思案している。しかし、それも極わずかな時間だ。直ぐにアンデットは次の質問をして来た。
「使っているところを見た事は無い、と言ったな?」
「は、はい」
緊張から上手く言葉を紡ぐ事が出来ないエンリ。
しかし、この場にそれを咎める存在もいなかった。
「魔法という存在はあるということだな?それに、知り合いに魔法使いがいるな?」
先程の会話の中から知り合いの魔法使いの事まで辿り着かれていた。
その事実に驚愕しながらも、エンリはしっかりとした口調へと直し、答える。
「は、はい。私の知り合いに魔法を使える人がいます」
「ふむ、ならば話は早い。私は魔法使いだ」
アンデットはそう言うと、魔法を唱え始めた。
─────────────
先程助けた姉妹から何故か怯えられて、疑問を感じていたが、無事にポーションを飲んでくれた事には安堵していた。
それに、魔法の存在がこの世界にもあるという事実は大きな収穫だ。
もし、魔法が存在しない世界ならば、自分たちナザリックの住人は、この世界では完全なる異端者となる。簡単には魔法を使う事が出来なくなるからだ。
ひとまずモモンガは、姉妹へと防御魔法を展開する事にした。
|矢守りの障壁《ウォール・オブ・プロテクションフロムアローズ》
姉妹の周りから半透明の蜘蛛の糸の様なものが現れ、半径2m程のドームを作り出す。続けて唱えた魔法では、目に見える変化は無いが、明らかに風の動きが変わった。本来ならここにもうひとつ、魔法から守る魔法を唱えるべきだろう。しかし、この世界の魔法がユグドラシルと同じ魔法とは限らない。もし違った場合はMPの無駄遣いということだ。もし仮に魔法で攻撃されたのなら、運がなかったと言うことだ。
「生命を通さない守りの魔法と、矢を防ぐ魔法だ。ガス類の攻撃や魔法が使われない限りは大丈夫だろう。」
それと、と続けモモンガは懐へと手を入れ、あるアイテムを姉妹へと投げ捨てる。投げ捨てられたアイテムは、角笛のような物だ。
「もしその身に危機が訪れたら、その角笛を吹くがよい。そのアイテムはゴブリンというモンスターを召喚し、使役するものだ」
そう告げると、モモンガは村へと足を進める。
そこに、姉の方から声がかかる。
「あ、あの……お名前はなんとおっしゃるんですか……?」
モモンガは直ぐに自分のプレイヤーネームを告げようとし、やめる。
モモンガというプレイヤーネームは、ギルド長としての名前だ。
では、今の自分の名前は?ナザリックの主人である自分の名前は……
モモンガは思う。
あの誇りある名前をたった1人が独占することを皆はどう思うだろうか。喜ぶだろうか。それとも眉を顰めるだろうか。
ならばここまで来て、言って欲しい。その名前はお前1人の名では無いと。そのときは快くモモンガに戻ろう。
それまではこの名において最高峰の存在を維持してみせる。スカスカになった遺物ならば、中身を詰めて再び伝説とする。
この世界においても俺達のギルドを伝説のものとする。
「我が名を知るがいい……そう、我こそが、アインズ・ウール・ゴウンだ」
─────────────────
そこでは狩る側と狩られる側が逆転していた。
「オオオォォアアアアアア!!!!」
ビリビリと大気が震える。
それを発した存在、デス・ナイトは一歩前進する。
それに合わせて向かい合っていた騎士達は一歩後退する。誰もが恐怖で震えている。周りからは震えで鎧の音がなっている。その音の発信源は1つではない。周りを囲む、18名全ての騎士からだ。
その後はお約束の蹂躙である。
どれだけの時間が経ったのだろうか。
18名もいた騎士達は半分にまで減っていた。
勿論ただただ殺されていた訳ではない。抵抗もした。反撃した。逃げようともした。それでも負けた。蹂躙された。圧倒的な力の前では、人間では抵抗できない事を思い知らされたのだ。
ロンデス・ディ・グランプは、絶望を見た。信仰している神には一生分の罵倒を浴びせた気がする。蹂躙は続き、騎士達は啜り泣き始めた。
「神よ……お助け下さい」
「ああ、神よ……」
もはや神に祈るしかない。
先程まで自分達のしていた行いを忘れて、死の恐怖に怯える。
それは勿論、ロンデスも例外ではない。
泣いているか泣いていないかの違いしかないのだ。
ロンデスの、その後の記憶は自分の体を見ている後継だった。
デス・ナイトに首を切り落とされ、死んだ。
ロンデス達騎士達が嫌っていた隊長とは名ばかりのカスも、滅多刺しにより死んだ。ロンデスはデス・ナイトに適わないと分かりながらも挑んだのは、連絡を取りあうための笛を鳴らす時間を稼ぐためだ。
ロンデスはしっかりと自分の務めを果たし、死んだ。
もし、ロンデスがほかの騎士へとその役目を押し付けていたら、生き残っていたかもしれない。なぜなら……
«ホーリー»
デス・ナイトに天から光が降り注ぐ。
それは余りにも神々しい光であった。
まだ無様にも生き残っていた騎士達の思考は同じだった。
─神からの救済だと─
それはこの場では正解と言えただろう。
しかし、将来的に見れば、神罰と捉える方が正しかった。
騎士達が気付けるはずもないのだが。
───────────────
村の方から聞こえた笛の音に、モモンガ─アインズは、顔を上げた。
村の騎士達の掃討をデス・ナイトへと任せたアインズは、他の騎士達で実験をしていた。
己の体に刺さったけんを抜き、投げ捨てる。
ユグドラシルでのスキルやパッシブスキルが問題なく発動していることも、わかった。まぁ多少変化している事もあるようだが、それは追々検証すればいいだろう。
アイテム・ボックスへと手を伸ばし、仮面とガントレットを取り出す。
それを即座に装備する。
今のアインズは肌を晒している部分が無い。
全ての装備で完全に肌を─骨しかないが─覆い隠すしているのだ。
自分の姿を確認していると、デス・ナイトとのリンクが途切れるの─召喚したモンスターとは見えない回路が通っている─を感じた。
「デス・ナイトが死んだ?」
元々アンデットである為、生きていると言うのが正しいのか怪しいが、先の騎士達のようなLvの敵にデス・ナイトが負ける道理がない。
ならばどういうことか。デス・ナイトを倒せるほどの騎士がいたのか、それとも、プレイヤーがいたのか。
アインズはすぐ様アルベドと自分に魔法─
─────────────
アインズは目を疑った。
そこにいたのは黒い二対の翼を背に持ち、頭上には黒い天使の輪が浮かんでおり、肌は恐ろしい程に白い。顔は非常に整ってはいるが、若干目の鋭さが気になる程度だ。
見るからに天使、いや、堕天使だ。何故このような存在がこの場にいるのか。ユグドラシルにはこのような堕天使は存在しない。しかし、それはモンスターとしての場合はだ。なら、まさか、プレイヤー?
他にと色々と候補はあったはずだ。それでも転移してこんなにも直ぐに、プレイヤーらしき存在を見つけたアインズは、少し冷静では無かった。それも、精神を抑制されることのない、弱度の興奮状態だ。
「あの騎士の使役者はお前か?」
堕天使はアインズへと視線を向けながら問う。
「如何にも。あれは私がスキルで生み出したデス・ナイトだ」
アインズは相手に警戒心も持たせる意味も含めて、力強く肯定する。
デス・ナイトを生み出せる、要するにスキル、中位アンデット作成を使えると警告すると同義。カンストプレイヤーからすれば足留めにしか使えないだろう。それでも足留めさえ出来れば逃げ帰るのには十分の時間が稼げる。
アインズは会話を展開しようと思った。しかし、堕天使の反応はあまりにも予想に反した反応だった。
「デス・ナイト?何だそれは」
ユグドラシルプレイヤーならデス・ナイトぐらい知っているだろう。にも関わらず、知らないと反応する。とりあえずこちらも相手の情報を探らなければならない。
「そんな事よりも、その騎士達をどうにかするのが先じゃないかね?それと、殺すぐらいならそいつ等は返しやってくれないかね?そいつらのじょう、飼い主に私達の事を伝えて貰わねば困るんだよ」
堕天使の周辺に転がっている騎士達を指さし言う。
騎士達は涙を浮かべながら、壊れていた。
「ふん。いいだろう」
意外にもあっさりと堕天使は騎士達を解放した。
しかし、騎士達の中には下半身を壊され、動けない者もいた。
アインズは動けるものだけ返してやればいいと思っていて、当然堕天使も動けない者は殺すか情報を抜き取るのに使うと思っていた。
その為、堕天使の行動には唖然とした。
「«フルケア»」
動けなかった騎士達は全員漏れなく、回復していた。
堕天使から魔力の力は感じだ。魔法を使ったというのは分かる。
しかし、なんだあの魔法は!聞いたこともない見たことも無い発動の仕方だった。
アインズの中で、堕天使に対する警戒Lvが何段階も上がる。
チラリと、横を見てみれば、どうやらアルベドも未知の存在に警戒しているらしい。ハルバードを何時でも扱えるように姿勢が戦闘態勢だ。
騎士達は一目散に逃げていく。
救いへの神へのお礼も無しに逃げていく。
所詮その場しのぎの信仰なんだ。無理もないだろう。
今この場にいるのは、アインズ、アルベド、謎の堕天使、そして処刑されるはずだった村人達だ。
この広場には、不穏な空気が流れていた。
堕天使とアインズの圧力の掛け合い。
どちらも無言で争っていた。
村人の村長らしき人物が2人へ問いかける。
この空気の中で行動できた村長は、ある意味人間を止めているかもしれない。
「あ、あの、貴方様達は?」
先に答えはのはアインズだ。
「この村が襲われているのを発見してね。助けに来たものだ」
「おお!」
村人からはざわめきが。しかし、まだ懐疑的な雰囲気もある。
それがなんなのか理解したアインズは続けて言う。
「とは言っても、勿論ただという訳では無い。生き残った村人に掛けただけの金貰いたいのだが?」
村人からはホッとした空気が溢れ出す、しかしそれも僅かな時間だ。
払える報酬が無いことを理解している村長はアインズへと無理だと告げた。それに対するアインズの答えは後で話し合おうだ。どうやら助けた姉妹─村長は直ぐにエンリとネムだと分かった─を連れてくるらしい。
アインズは村長へと顔を近づけ、お願いをした。
「あの堕天使を会話をして、つなぎ止めてくれないか?そこの女騎士は置いていく。もし何かあれば頼るがいい」
「わ、わかりました」
アインズは«伝言»は発動するとアルベドとリンクを繋げた。
(アルベド。私はあの姉妹を連れてくる。お前はこの村の者達をあの堕天使から守っていてくれ)
(アインズ様!この村にそこまでする価値があるのですか?)
(ある。この村はこの世界で初めて友好的に関係を結べるかも知れない場所なのだ。丁寧に扱え。それにあの堕天使からは色々と話を聞かなければなるまい)
(……かしこまりました)
アインズは即座に«伝言»を切る。
そしてアインズは村の外へと向かっていった。
村長に拒否するという選択肢は無い。
自分達も堕天使の正体は気になるのだ。
──────────────
村長が堕天使へと問いかける。
「あ、貴方様もこの村をお救い下さるのですか?」
少しの希望を持って言った言葉だ。
まぁ堕天使からの返答には絶望したが。
「違う」
とても短い返事だった。
それでも明確な拒否である。
またこの村が襲われるのかも知れない。そんな恐怖を抑えながらも村長は堕天使へと問いかけるしかない。
「で、ではどのような目的でしょうか?」
「お前達はゲートというものを知っているか?私はそれを探している」
堕天使からの返答は探し物らしい。
この村ぎ目的ではないと分かった村長はホッとしていた。
村長の横にいた女騎士が堕天使に問いかけた。
自分としてはもう聞くことが無かった村長は少し驚く。
「そのゲートとはどういうものかしら?まさか魔法の事では無いのでしょう?」
女騎士の質問にも堕天使はしっかりと答えている。
意外と律儀な堕天使なのだろうか?
「当たり前だ。ゲートとは転移門だ。勿論、ただの転移門では無い。モンスター、召喚獣と呼ばれる者が際限なく溢れ出す兵器だ。元々はこの世界には存在しなかったもので、どれ程の数がこの世界へと流れ込んだかも分からない。でもこの秘宝が反応している事から、この世界にゲートが存在している事だけは確かだ」
堕天使の懐から緑色の薄く輝く宝石を取り出した。綺麗な菱形で、角にあたる部分は丸みを帯びていた。
堕天使の返答にはさすがのアルベドも驚愕するしかない。
ゲートという名前ならばユグドラシルにも存在する。
正しく転移門であり、展開した場所に即座に移動出来るどこでもドアだ。
しかし、堕天使が言ったゲートとは、ユグドラシルには存在しない物であり、更にはこの世界には存在しなかったものであると言う。それは、自分達似ているのでは無いだろうか。自分だけでは判断出来ず、アルベドはアインズへと報告することに決めた。
黙りこくってしまったアルベド達を見て、堕天使はガッカリする。
ここもハズレっと。
する事も無くなり、ゲートも知らないというので堕天使は帰ろうとした。
しかし、運がいいのか悪いのか、先程の変な悔し泣きしたような仮面を被った男が帰ってきた。
そのタイミングで女騎士はさらに問う。
「貴方の探し物は分かったわ。それで貴方の名前は?」
先程までの空気はなんだったのだと問いたくなるほど、普通の質問だった。先程も思ったが、とても心地よい声だ。
ここはカッコつけて答えてやる。
「俺の名は……いろはすだ!」
ローブの男から伝わってきた残念な空気は、とても印象にのこりました。