数々の世界を旅して来た青年、門矢士がこの世界で最初に見たものは不思議そうな表情でこちらを覗き込んでいる1人の少女とそのすぐ近くで彼に威嚇をしているリスとも犬とも言えないフワフワな毛の不思議な白い生物の姿であった
「そんなところで何してるんですか?」
「さぁな、それはこっちが聞きたい」
少女の問いに士はトンチンカンな返しをした。だが、これは彼の本心だ。士は自分が何故この場に倒れていたのかが全くわからないのである。
士にとっての異世界は何ら不思議なものではない。実際自分は星の数ほどの世界を旅し、そしてそれと同じ数だけ世界を救って来た。
だから、仮に別の世界に来たとしてもせいぜい思うことは今度は何の世界なんだ?くらいなものだろう。しかし今回はいつもと異なる点が二つほどあった。一つは、彼がいつも世界を移動する鍵?ともなっている背景ロールや写真館が無い、ということだ。それどころか、彼はいきなり見知らぬ世界の見知らぬ施設の中に倒れていたのだ。数々の世界を旅した士でもこんなことは初めてだった。
もう一つは、ここに来るまでの記憶が一部飛んでいる点だ。そもそも士はディケイドになる前に一度記憶喪失になっているのだが、今回は何も思い出せない訳では無い。かつて海東やユウスケ、そして夏海の事はハッキリと覚えているし、彼らとの旅のことだって昨日のことのように思い出せる。だがここに来るまでの事は一切思い出せない。ここは一体どこなのか。何故自分はこの場に倒れていたのか。そして何故自分は煤だらけのボロボロの格好で倒れているのか。ここに至るまでの過程が全く思い出せないのである
「あなたは一体…」
その少女の問いかけは士の背後から聞こえてくる沢山の足音にかき消され、士が腰をあげる頃にはこの施設の職員と思しき男達が彼の周りを取り囲んでいた
「随分と手の込んだお出迎えだな」
冗談っぽく笑った士はコートの中に手を突っ込むが、それと同時に彼の背中に冷たい銃口が押し当てられる
「手を挙げろ、少しでも怪しい行動を取ったら貴様の命はない」
背後からの脅しに彼はため息をつきながらも大人しく手を挙げる。すると間も無くして緑色のハットが特徴的な紳士のような出で立ちの男を引き連れた1人の女性がかなり苛立った様子で彼に詰め寄って来た
「あなた、一体何者?どうやってここの警備を潜り抜けたの?!」
「知るか、気が付いたらここに倒れてた、ただそれだけだ」
「とぼけないで!あなた、私のカルデアに一体何しに来たの?!答えなさい!!」
「ここはカルデアってのか、なるほどな」
「人を揶揄うのもいい加減にしなさい!!あぁぁぁ、もう!!何でよりによって今日侵入者が出るのよ!」
眉間に皺を寄せて怒鳴り散らす女性を前に面倒な奴に絡まれたと思いながら士は適当な受け答えを続ける。何としてもこの場を切り抜けてこの世界やこの世界の仮面ライダーについて調べなくてはならない。そんな事を士が思っている中、それまで穏やかな表情で黙っていた紳士風の男が口を開いた
「オルガ、君の気持ちはよくわかるが少し落ち着んだ。ここは一旦私に変わって貰えないか?」
「私とした事が少し取り乱してしまったようね…わかったわ、ここはあなたに任せる」
烈火の如く怒っていた女性をまるで子供をあやすように優しくなだめた男は彼女に代わって士の前に立つ
「すまない、突然の事で驚いただろう?私はレフ・ライノール、そして彼女はこの『人理継続保証機関カルデア』の所長、オルガマリー・アニムスフィアだ。君の名は?」
「…門矢士だ」
全く表情を変えずに話すレフにどこか胡散臭さを感じながらも士は答えた。
「門矢士君…か。では士君、一応確認しておくが君はここのマスター候補生かな?」
「悪いが俺はそのマスター候補生、とやらでは無い」
「ふぅむ…ということは君は紛れも無い侵入者ということか」
「…そういうことになるな」
こんなやりとりをしながら士はここが一体何の世界であるかを模索していた。『人理継続保障機関』や『マスター候補生』といった聞き慣れない単語を元に色々と考えてみるもここが何の世界であるかは皆目見当がつかない。
「士君、何であれ君はこのカルデアの侵入者だ。本来ならすぐにでも事情聴取をするのだが、今はそれどころではなくてね。この場で軽い身体検査をした後にしばらくは監視付きの部屋にいて貰うことにになるがどうか許してくれ」
「やれやれ…新しい世界に来て早々監禁か、とんだ歓迎だな」
「君に危害が無いと判断し次第、すぐに君を解放する。それまでの辛抱だ。」
「煮るなり焼くなり好きにしろ、どうせ今の俺に選択権はないだろうしな」
心底うんざりしながら士がそう吐き捨てるように言うとレフは周囲の職員らに士の身体検査を指示する。こうなってしまっては流石の士でも切り抜けることは出来ない。恐らくは彼の最強の装備であるアレも奪われてしまうだろう
「ん?」
「あっ、おい!それには触んな!」
首から提げているトイカメラ以外にこれといって怪しい物が出てくる事は無く、士も特に反応することも無かったが、しばらくして職員の内の1人が士のコートの内側から得体の知れない白い物体を取り出すとそれまで落ち着いていた士が急に声を荒げた
「これは…」
「何よこれ、白いカメラ?にしては変ね」
レフは職員から謎の白い物体を受け取ろうとするも、その前に割り込んできたオルガマリーが半ば強引に奪ってそれを怪訝な顔で調べ始めた。
一見するとカメラのような横長のそれは白い中心部のレンズの様な物の周囲に何かの紋章が刻まれており、そのさらに外側には赤・青・緑の模様と上部には「DECADE」という文字が刻まれている
「怪しいわね…ひとまずこれは私が預かっておくわ、あなたには後でこれについて詳しく説明して貰うから。それじゃあ後は頼んだわよ、レフ」
ため息をついて没収したディケイドライバーを上着のポケットにしまうと、オルガマリーは足早に去っていった。
「全く、今回はいきなりハードモードだな…おい、連れてくならさっさとしろ」
面倒くさそうに士が文句を言うと職員らが彼の両側に立って両腕をしっかり押さえ、そのままレフが指示した部屋へと連行していった