そこはカラッとした暑さに噎せ返る様な腐臭、錆びた鉄に捨て置かれた死体の山であった。そして植民地時代のアフリカを想起させる風景であり、自分とキャスターの服装だけが異端で、先ほどまでの暗い夜道が懐かしいほどに太陽が燦燦と広野を照らしていた。
――固有結界。ある一種の伝説であり、歴史に名を刻む大英雄だけが持ち得る、己の心象風景の具現化。つまるところ、ランサー、シャカ・ズールーが大英雄であり、それほどに有名であることを意味している。
「ふむ、固有結界か。珍しいじゃねえか。まあ、おめえさんがシャカ・ズールーってんなら手の打ちようは如何様にもあるんだけどな」
「…シャカ・ズールーって何をした英雄なんだ?」
「そうだな…。新しい戦闘スタイルを持ち出し、英軍と戦った革新的なアフリカ救国の英雄…って言えば聞こえはいいが、そいつの伝説はほとんどが恨みつらみに塗れている」
「へえ、じゃあ、ランサーは軍の大将ってところか」
「いや、間違ってはいないが、奴はなあ、狂王だよ。ズールーの王だ」
王か…。狂った王の乱政を受けたことのない自分にとっては、狂王といえば、愚王のイメージがある。民から思い税収を毟り取り、自分は毎夜浪費に尽くす、誰の目から見ても悪。そんな王だ。だが、彼は違う。この世界の主たる彼は、決してそんな王ではない。そんな愚の骨頂たる者が、英霊足りえるはずもなく、固有結界を持っている筈もない。
「俺は、俺は、未来のため、誇りのために戦い続けてきただけなのに…何故、殺されねばならなかったのか…。何故、母上も妻も誰も彼も、俺を愛さないのだ…」
屍の丘に佇む彼は絶望と狂気に塗り替えられた顔で、キャスターをただ一点、見つめていた。
「愛が、欲しくて戦ったのか?手前は…」
「当たり前だ。俺は…忌子だった。それでも努力して、戦ってきて、認められて、王になったのだ。それなのに、それなのに…どうして誰も俺を愛してくれないんだっ!?」
国を救った王の問いは激しく、しかし、人が持って当たり前の疑問だった。
「母上でさえ、俺のことを愛しはしなかった。父上は俺を蔑視した。許せぬ。俺が、間違っていたとでもいうのか。俺は、生まれてきてはならなかったのか?」
その声は時に激しく、抒情的な熱を孕んでいた。狂人と呼ぶには、あまりに同情に足る…そんな英雄とは思えない、自らと同じ人間だとさえ、錯覚した。
「だからッ!俺は聖杯に問う!俺は何がいけなかったのかをッ!どうすれば、愛を手に入れられるのかをッ!!負けてはならない。俺が王として生きた意味を得る為にッ!!!」
「…そうか。手前は…寂しかったのか?それでも、槍を、振るうのか?」
「当たり前だ!だからまずは貴様が俺の礎になれ。キャスタアアッ!『雄牛のォ腰ィ』」
一瞬で、キャスターの前に下級の霊が出現した。
「っつ!?」
それはキャスターの懐からバッジを奪うと、ランサーに手渡した。カチャリと、手に握る音が響く。
「手前ェ…」
「これで、防ぐことはできまい。では、これで死んでくれるな?」
大量の霊がランサーの周りに出現する。無数の霊は皆、槍と盾を持ち、戦闘態勢に入っている。
「『雄牛の角』の神髄を見せてやろう。突撃!!」
全ての霊が一斉にキャスターに突っ込んでくる。それは、防ぐ手立てのない、所謂詰みに等しい状況だと言えよう。七日かけても数えきれないほどの槍が目前まで、迫っている。
「…手前は、その願いで満足なのか…?」
手が、止まる。
「どういう…意味だ」
「手前は、死んだ後に人生に意味を求めてるって、ことだよッ!手前の考えは実に正しい。俺が同じ境遇だったなら、絶望のどん底で、手前みたいに這い上がろうともしないだろうよ!だがなあ、だがなあ、英霊なら願うとこは其処じゃねえ!意味なんて手前で考えやがれ!暗い顔して人を殺そうとするんじゃねえ!」
「っ!貴様だから言えるのだ!貴様は知らないだろうが、我々の部族は元々戦いを好む質じゃない!先進国の鬘付きどもが、植民地にしようと、我々を隷属させようとしたから、武器をとったのだ。戦い方を変えたのだ。裏切りなど起きぬよう、反逆の芽を潰し続けたのだ!規則を強くし、最善を尽くしたのだ。だが、民は俺を恨んでいた。仕方なかったのだ。欧州の禿どもに隷従していろとでも言うのかっ?」
彼の問いは彼の苦悩は、きっと正しい。暗殺されたのは気の毒なことだ。
「そういうことじゃねえ!やっぱり手前は気付いてさえいねえ!ンな事、昭義でも分かることだぞ!」
え?何が?
「…いや、もういい。埒が明かん。貴様を殺して俺の正しさを証明する!」
再び、ランサーの霊達が、突撃準備に入る。
――キャスターのマスターにでも分かること、だと?……いや、俺は王だ。惑わされてはならない。どうせ、奴の言葉は意味のない時間稼ぎに他ならない。魔術師とは、そういう生き物なのだと知っている。俺の願い、愛を求めることは人間として、否定される筈のない真っ当な願いなのだから。
「キャスタアアア!!!」
殺めることは簡単なこと。ただ霊に命令をすればいい。王自ら彼奴の臓腑を貫くでもいい。負けるはずがない。意味を求めて何が悪い!!
今回は鯖紹介はありません。アーチャーとアサシンは今後の彼らの話で紹介する予定です。あ、感想とかお待ちしてまーす。