ユウキに転生したオリ主がSAOのベータテスターになったら   作:SeA

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キリトとユウキ(転生者)がおしゃべりするだけ。
ただ、それだけのお話。


本編
ユウキとキリト


「―――なんだかんだ長い付き合いになったね。ボクは正直途中で切れるかもって思ってたから、ちょっと意外だな」

 

「……そうだな。俺もすぐに接点がなくなるって最初に思ったよ」

 

「えー、ひっどいなキリトは。そんなにボクの事気に食わなかったの?」

 

「いや、そうじゃなくて。辛くなって途中で諦めるんじゃないかって思ってたんだ。なんたって見た目はすごい病弱そうに見えたからな。ユウキは」

 

 そう。最初にSAOの第1層で彼女を初めて見たときに思ったんだ。

 背も低く。

 腕も細くて。

 顔も少し痩せていて。

 こんな最前線にいるようなゲーマーっぽさもなくて。

 むしろ真逆な、病院の一室で眠っているような、そんな脆さを感じたんだ。

 だから、攻略組からはすぐリタイアすると思ったんだ。

 

「―――まあ、すぐにその印象も吹き飛んだけどな」

 

「なにさその言い方は? ボクそんな変な事なんかしたっけ?」

 

「……キバオウが『ベータテスター出てこい!』って言ったら、満面の笑顔で挙手してたろうが」

 

「あーあーあー。そうだそうだそんな事あったね。いやー、あれは本当に面白かったね。ボク的にあれはSAOで楽しかった出来事トップ5に入る出来事だったね」

 

「キバオウも思うところあってあんな事言ったんだろうけど、まさか出て来るなんて思ってなかったろうし。なにより出てきたのがよりにもよってあんな病弱そうな女の子で、言いたい事あるけど言えない、みたいな感じの表情してたぞ……」

 

 その直前までは俺自身がベータテスターって事でちょっとキバオウに思うところもあったけど。

 あの何とも言えない顔見て、少し同情したぞ。

 

「いやー。前々からあの場面で名乗り出たらどうなるのかなって思ってたから、実際に当事者として参加してみて結構ドキドキしてたんだよね。ほんとに面白かったよ、あのキバオウさんの表情。…………ふふっ、ダメだ、思い出したら笑えて来た」

 

 いや、ほんと。あの場面で楽しそうにしてたのお前だけだったからな。

 足元おぼつかない感じで歩いて、VR空間なのに咳しまくって

 これでもかってくらいに病弱アピールしてる癖に顔だけは思いっきり笑顔で。

 多分あの場にいた全員が思ったぞ。

 『なんだコイツ』って。

 っていうか、いい加減笑うのやめてやれ。

 

「あー、ごめんごめん。面白くってつい」

 

「まったく。本当に変わらないな」

 

「えー、全然前と違うじゃんか特に見た目。前は超絶プリティーって感じだったのが、今は超絶ラブリープリティーエンジェルって感じになったでしょ」

 

「そりゃSAOのデータ使ってないんだろうから見た目は違うだろうさ。一応今からでも運営に連絡すれば前の姿に戻れるはずだぞ。っていうかなんだよ、ラブリーでエンジェルって」

 

「無茶苦茶可愛いってこと。でも、前のデータねぇ……。それもいいっちゃいいけど、いいんだ。ボクのSAOはもう終わったし、なによりこっちの方がボクの好みだしね!」

 

「……そっか」

 

「うん。そうなんだ」

 

 やっぱり変わってないじゃないか。

 見た目は変わっても中身は同じだ。

 いつも明るくて。

 ムードメーカーで。

 気配りで。

 楽しい事が大好きで。

 そして、見た目に反して無茶苦茶強くて。

 みんな、頼りにしていた。

 

「いやー、それにしてもほんと楽しかったねSAO。いっぱい忘れられない思い出があるよ」

 

「―――そうだな。嫌な事も辛い事もたくさんあった」

 

 時には共に戦った相手と仲良くなって、その人が死んで。

 時には殺されそうになって、自分が生きる為に殺して。

 

「でも、楽しい事も嬉しい事もそれ以上にたくさんあった世界だった」

 

 頑張ってって応援してくれる人がいた。

 任せたって言ってくれる仲間ができた。

 帰ろうって言ってくれる友達ができた。

 ―――同じ未来を歩みたいって、そう思う事が出来る人ができた。

 

「あの世界は多くの人にとって忘れたい出来事かもしれないけど、俺は一生忘れない。忘れたくない。とても大切な、大事な思い出の世界なんだ」

 

 忘れたいって思ったことは確かにあった。

 自分が犯した罪を無かったことにしたいって。

 だけど、もうそんなことは考えない。

 あの世界のおかげで今の俺がある。

 あの世界のおかげで今の皆がいる。

 だから、忘れたいなんて思うことはもう二度と無いんだ。

 

「……忘れたくない、か」

 

「ああ」

 

「そうだね。ボクも忘れないよ。ずっと」

 

「…………」

 

「―――ボクとヒースが付き合ってるんじゃないかってキリトが勘違いしたことも、ずっと」

 

「うわぁーーーーーー!!!」

 

 うわぁーーーーーーーーー!!!!!!

 

「あれはっ! お互いに忘れるって話になった筈だろ!?」

 

「え~、だって~、キリトが~、忘れたくないって~、言うから~」

 

 体をくねらせながら言うな!

 

「いやー、まさかただ一緒にご飯食べてるとこを何回か見られただけで、そういう発想になるとは思わなかったよ。ほんと予想外だったねアレは」

 

「マジで勘弁してください」

 

 しょうがないだろ。行く先々でなぜか二人一緒にいて、楽しそうに会話してるとこ何度も見たらそう思っても不思議じゃないだろ。

 いや、変か……。

 ただ友達と一緒にいただけだしな。

 俺もアスナとまだ付き合ってない頃に一緒に行動した事何度かあったしな。

 本当になんで俺はあんな早合点してしまったのか…………。

 

「あの時はほんとに笑ったね。もう大爆笑。珍しくヒースも顔崩して笑ってたし」

 

「―――ヒース、も?」

 

 ちょっと待て。

 

「あ」

 

「内緒にするって言ったよな! レアアイテムあげるから黙っててくれって頼んだよな俺!」

 

 わかったって腹抱えながら言ったじゃないか!

 

「いやー、ごめんごめん。ついうっかり」

 

「頼むぜほんとに……。他には漏らしてないよな?」

 

「大丈夫大丈夫。ボクを信じなさいって」

 

 どの口で言うんだコイツは。

 

「それにその話したのもSAOの最後の時だったし。あの時は二人っきりで他に人はいなかったから、安心していいよ」

 

「…………そうか」

 

 最後、か。

 

「なあ、聞いてもいいか?」

 

「んー?」

 

「二刀流、ほんとは俺じゃなくてユウキの物になるはずだったんじゃないのか?」

 

「……どうして?」

 

「あいつは、茅場は言ってた。二刀流は全プレイヤー中最大の反応速度を持つヤツの所にいくって。なら、俺が二刀流を持っていたのはおかしいだろ」

 

「なんで? キリト凄いじゃん。銃弾バァーって切ったりとかさ」

 

「ああ、出来るよ。今ならな」

 

 そう。今なら出来るさ。

 あの2年があったから、その積み重ねがあったから。

 飛んでくる銃弾でも切れるような反応速度を手に入れたんだ。

 でも、それは今の話だ。

 

「ユウキは俺よりも速かった。そしてそれを完全に自分のモノにしてた。なら二刀流が俺のところに来たのは不自然だろ」

 

「んー、そっかそっか。……まいったな。今日は楽しくおしゃべりするだけのつもりだったんだけど」

 

「…………」

 

「そんなに知りたい……?」

 

「―――ああ」 

 

 あの世界の事はちゃんと知っておきたいんだ。

 きっと、とても大事な事だと思うから。

 

「……はぁ、しょうがないか。んじゃまあ突拍子も無い話するけどちゃんと聞いてね」

 

「……わかった」

 

「二刀流は確かにボクのとこに来たよ。でもアレはボクじゃ駄目だから文句言いに行ったんだ。『返品させろー』って」

 

「駄目? っていうか文句? どこに?」

 

「ヒースに」

 

「は……?」

 

 な、それは、つまり。

 

「ちょ、ちょっと待った。ユウキが早い段階で気付いてたのは知ってたけど、そんな早い時期に気付いてたのか? ヒースクリフが茅場晶彦だってことに」

 

「知ってたよ。最初っからね」

 

 最初からって、それは

 

「……どこからが最初なんだ?」

 

「んー。ナーヴギアが出た頃?」

 

「……は、はぁ? ナーヴギアが出た頃ってまだSAOが発表された頃だろ?」

 

「そ。だからその時に気付いたんだ。ボクがユウキだって。まったく我ながら鈍いよねボク、そりゃ自分の名前に変な既視感があるわけだよ」

 

「ユウキ……?お前何言って」

 

「んで、気付いたんだけどSAOは別に関係無いって思ってたら姉ちゃんが懸賞でナーヴギア当てちゃってさ。そしてSAOのベータテスターの抽選まで当てて、姉ちゃんすっごい喜んでるのにボク一人で冷や汗かいてたよ」

 

「……ユウキ」

 

「まあ、問題があるのは製品版でベータ版は問題ないからいいかなって、それで姉ちゃんと一緒にかわりばんこでプレイしてる間に家族が製品版予約してるし。姉ちゃんに危ない事させたくなかったからボクが無理矢理順番替わってもらって、そしてSAOに、あの世界に行ったんだ」  

 

「……なら、帰ってきたらお姉さん、泣いてたんじゃないか?」

 

「お、よくわかったね。もう大号泣。ずっと『ごめんねごめんね』ってそればっか。慰めるの大変だったんだよ。泣いてほしかったわけじゃないんだけどね……」

 

「そうだな……。でも嬉しかっただろ? 泣いてくれる家族がいるって」

 

 母さんが、父さんが、スグが泣いて迎えてくれて、申し訳なく思ったけど、俺はそれ以上に嬉しかったからな。

 

「そうだね。嬉しかったよ。本当に。ギリギリ間に合ったんだから」

 

「間に合った? 何にだ?」

 

「―――姉ちゃんとのお別れ、かな」

 

 ―――それは、

 

「パパとママには間に合わなくてね。ほんと悪い事しちゃったな……。ボク、ユウキの家族はマザーズロザリオの1年前って間違った覚え方してたからさ。ほんと親不孝者だよねボク」

 

「……そう、か」

 

「ちょっとー、ここは肩を抱きしめて慰めるとこだよ。……まったく、そんなんじゃアスナにそのうち捨てられちゃうぞ」

 

「それはない」

 

「うわぁ、真顔で断言したよ、この元自称コミュ障」

 

 アスナが俺を手放すことも、俺がアスナを手放すこともないから大丈夫だ。問題ない。

 

「って、話いつの間にか脱線しちゃったね。どこまで喋ったっけ?」

 

「ヒースクリフに文句言いにいったとこ」

 

「そうそう、それそれ。んで、言ってやったんだよ。『多分大丈夫だと思うけど、ボクいつリアルの事情でリタイアすることになるかわからないから、コレいらない。だから違うのちょーだい』って」

 

「ちょっと待て、もしかしてユウキが持ってたあのユニークスキルって……?」

 

「この時にもらいましたー。きゃはっ」

 

 コイツは、本当に……。

 

「まだ40層越えたばっかでバラされたくないだろっておど、お願いしたらくれたんだよ」

 

「今、脅したって」

 

「そんでね」

 

 聞けよ。

 

「まあ、そのあと色々あって仲良くなって、ごはん食べに行ったりとか、レベリング一緒にしたりしてたんだ。楽しかったよ、SAOの製作裏話とか聞けて」

 

「なあ、なんでバラさなかったんだ?」

 

「ん?」

 

「その時にヒースクリフの正体が露見してたんなら、もっと早く帰って来れたかもしれないだろ?」

 

 俺が75層でやったような方法で、なんとかできたかも知れない。

 今思えばあの時対峙したヒースクリフはちゃんとプレイヤーだった。

 ボスエネミーじゃなく、プレイヤーだったんだ。

 プレイヤーの何倍もあるHPがあったわけでもなく。

 ものすごく高いステータスだったわけでもなく。

 ただ、神聖剣ってスキルがあっただけのプレイヤーだった。

 なら、その時点でデュエルに持ち込めればユウキの両親の最期にも間に合ったかもしれない。

 

「あれはね、キリトだからヒースも乗ったんだよ。魔王を倒すのは勇者って決まってるじゃない? だから、ボクじゃ駄目だったんだよ」

 

「……俺に勇者が務まるなら、ユウキでもいい気がするけどな」

 

「残念。ボクヒーローじゃなくて攻略される系ヒロインだから出来ないんだな」

 

「よく言うぜ。……それで、ちなみに誰に攻略されるんだ?」

 

 仲良かったヒースクリフか?

 それとも、まさか、俺、とか?

 

「んー、アスナだね」

 

「アスナ!? なんで!?」

 

 まさかの女同士!?

 禁断の友情ってやつか!?

 いや、なんだかんだ仲良かったけど!?

 

「あはは、ボクもなんでって思った。まさかの主人公交代かよって」

 

「なんの主人公だよ……」

 

「まあ、そんな感じでずっと黙ってたんだ。ごめんね」

 

「……その、なんだ。辛くなかったのか? 知ってるってのは」

 

「うーん。ちょっとだけね。最初はあまりそういうの感じなかったんだけど、30層過ぎたぐらいからもっと何かした方がいいんじゃないかって思うようにはなったけどね」

 

「あー、あのなんか妙に張り切ってた時か」

 

 これでもかってくらい突撃しまくって、すぐボロボロになって後ろに引っ込むってのを繰り返してたあの頃か。

 周りから『ヘイト管理大変になるから止めろ』って怒られて、すぐ終わったけど。

 

 

「いやー、その節はご迷惑お掛けしました」

 

「どうも、迷惑掛けられました」

 

「ひっどいなー。人が珍しくちゃんと謝ってるのに」

 

「いつもはもっと有耶無耶にするもんな」

 

「もー」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……いいの?」

 

「なにが……?」

 

「聞きたいこと、もっとあるでしょ? 結局なんで知ってたのかとか、ボクこのままはぐらかしちゃうよ? いいの?」

 

 ―――そうだな。

 気になってるし、知りたいと思ってる。

 でも、

 

「―――いいさ。言わなくても」

 

「……どうして?」

 

「友達だろ。俺達」

 

「―――っ」

 

「なら、言いたくないなら言わなくていいさ」

 

「…………そっか」

 

「ああ、そうだ」

 

 そうさ。

 友達だったら、そいつが言いたくない事まで聞きたいなんて思わないさ。

 友達ってそういうものだろ、きっと。

 

「…………ふふ」

 

「どうした……?」

 

「いや、これがリアルハーレム野郎の実力かって思っただけ」

 

「ハーレム野郎!?」

 

「残念だったね。ボクルートのフラグ立つまであとちょっとだったのに。これはアスナに報告案件だね。間違いないボクは詳しいんだ」

 

「今のどこにそんな要素があったんだよ!?」

 

 ただ普通に喋ってただけだろ!? 

 あと、それはそれとしてアスナに言うのはやめて下さい。

 

「いやー、やっぱ久しぶりにキリトからかうのは楽しいね。アスナとくっついてからはちょっと自重してたからさ」

 

「……自重って言葉の意味を調べなおした方がいいぞ」

 

 俺は忘れてないからな。

 面白そうだからってSAO内で俺とアスナのキス画像ばら撒きまくった事。

 おかげで本当にアスナのファンに殺されるかと思ったんだからな。

 絶対に忘れないからな。俺は。

 

 ―――そう。絶対に忘れない。

 

「…………」

 

「いやー、やっぱいいね。反応が面白いよキリトは」

 

「…………なあ」

 

「なにー?」

 

「…………なんで俺なんだ?」

 

「なにが?」

 

「……………最後に、会うのが」

 

 

 

 

 

 

 

 SAOが終わった後、ユウキとはしばらく連絡が取れなかった。

 アスナに、エギルやクライン、リズベットにシリカといった面々は総務省の役人に確認を取ったら連絡先を教えてくれたんだが、ユウキに関しては先に本人から『誰にも自分の事を教えるな』と一足先に起きて言われたらしく、俺たちがユウキと再会することはできなかった。

 

 ユウキと再会したのはALOのゴタゴタを片付けて、GGOでの殺人事件を解決した後。

 SAOがクリアされてから実に1年以上経過した頃。

 ALOで俺が一人でアスナ達を待っていた時の話だ。

 

『あのー、キリトさん、ですか?』

 

『え、あ、はい。そうですけど……』

 

『良かった。本人だった。あの、お願いがあるんですけど、今お時間大丈夫ですか?』

 

『え、ええ。今はフレを待ってるだけなんで、それまでなら大丈夫ですけど』

 

『よかった。あの、ワタシとデュエルしていただけませんか?』

 

『デュ、デュエル? 俺が、あなたと?』

 

『はい! ワタシ、友達と一緒にこのゲーム始めたばかりなんですけど弱くって、すっごく強くなったとこ見せてビックリさせたいなって。それで強い人とPVPしたら強くなれるかなーって考えまして。他のプレイヤーさんに聞いたらキリトさんがALOで一番強いって聞いたので』

 

『あー、えっと、一番強いかはわからないですけど、そういう事なら相手するよ。初心者からの折角の頼みだしな』

 

『本当ですか! ありがとうございます!』

 

『それじゃあ、ルールはありあり、えっと、魔法とアイテム自由のほうがいいかな。勿論俺は剣だけでいくし』

 

『本当ですか!? はい! 全然オッケーです! じゃあ申請しますね』

 

『……名前はユウキ、さんか』

 

『はい。そうです。名前がどうかしましたか?』

 

『いや、友達と同じ名前だなって思っただけ。それじゃあ始めようか。スタートのタイミングはそっちの好きな時でいいよ』

 

『本当ですか!? それじゃあ―――――行きますね』

 

『えっ―――――ちょ、速』

 

 そして、俺は負けた。

 

 圧倒的なスピード。

 卓越した技量。

 剣に身を晒す度胸。

 巧妙なフェイント。

 どれもが初心者とは思えない熟練の剣士のものだった。

 ―――というか、とてもよく知ってる剣だった。

 姿かたちは違っても、その剣筋は同じだった。

 なんたって、2年も一緒に肩を並べて戦ってきた剣なんだ。間違いようがなかった。

 

『な、あ、え』

 

『イッエーイ! ユウキさん大勝利ー!! いやっほー!』

 

『お、おま』

 

『「スタートのタイミングはそっちの好きな時でいいよ」っかー、かっこいいなー。負けたけど。これでもかってくらい負けたけど。いやー、さすがだなー。かっこいいなー。「勿論俺は剣だけでいくし」って、いやー、キリトさんパネっすわー』

 

『おま、おまえ』

 

『はーい。超絶プリティーガールのユウキちゃんですよー』

 

『ユ、ユ、ユウキーー!!!』

 

『ふふん。久しぶり、元気にしてた? キリト』

 

 そんな、とてもユウキらしい再会だった。

 その後、合流した他のみんなに対してもアバターが違うことを活かしたドッキリを仕掛けて、おもいっきり怒られてた。

 なぜか俺も黙ってたからと、ユウキの隣で一緒に怒られた。

 アスナがとても怖かったです。

 

 

 それが2025年の12月末。

 

 

 そこからは怒涛の日々だった。

 ユウキはこれでもかってくらいにALOを楽しんでいた。

 西へ東へ、浮遊城へ地下世界へ。

 俺達皆を連れまわした。

 

 ギルドメンバーも紹介された。

 SAOが終わった後に他のゲームで出会った友達らしい。

 俺と同じでずっとソロだったユウキがギルドに入って、しかもリーダーまでやってるって言うんだから驚きだ。しかもそこそこリーダーシップを発揮してたことにさらに驚いた。

 その能力は是非SAOでも発揮して欲しかったな。

 

 さらにユウキはギルメンだけでボス討伐したいとか言い出して、俺達にギルドの仲間に対して『ボスの攻略方法を叩き込んでくれ』なんてお願いをされた。

 もちろん全力で協力した。

 クラインが仮想敵として戦って、エギルがアイテムを仕入れてくれて、リーファが上手な飛び方を伝授して、リズベットが武器を作って、シリカがダンジョンの注意事項を教えて、アスナが後衛職の立ち回りを伝え、俺が「好き勝手に動くユウキの背中の預かり方」なんてのをわざわざ文書データにして配ったりした。

 ユウキには『なに小っ恥ずかしいモノ作ってんだー』って怒られたけど、たまには普段の仕返ししないとな。やられっぱなしは性に合わない。

 

 剣士の碑で見せた笑顔は今までの付き合いの中で見たもので一番きれいなものだった。

 あの時のことはとてもハッキリと覚えてる。

 あんなに嬉しそうに――――泣いてる顔を初めて見たからだろう。

 

 仲間が死んでも、人を殺すことになっても、暗い顔を見せたことはあったが、泣いたところを見たことは一度も無かった。

 いつも笑顔で楽しそうに明日を語るユウキは、皆にとっての心の支えの一つでもあったんだ。

 

 そんなユウキが泣いていた。

 嬉しそうに楽しそうに、時間が過ぎていくのが勿体ないというように。

 その日はずっと、打ち上げの間も笑いながら泣いていた。

 ずっと。

 ずっと。

 

 再会してからずっと違和感を覚えていた。

 それは俺だけじゃなく、アスナ達も、攻略組として付き合いが長かったメンツは特にそう感じていたみたいだ。

 明るくて、元気なユウキ。

 でもどこか、それが空元気に見える時がある、と。

 

 当然ユウキに聞いてみた。

 ただ何度聞いても『もうちょっとしたら教えてあげる』と誤魔化すだけ。

 ユウキのギルド―――スリーピングナイツに聞いても、答えは返ってこなかった。

 ただ彼らはその理由を知っていたみたいだった。

 どれだけ問いただしても彼らの口から真実を聞くことは出来なかった。

 結局そのままずるずるとただ時間が過ぎていった。

 みんなで集まって走って、飛んで、戦って。

 そんな日々を漫然と過ごしていった。 

 

 ある日俺は我慢できなくなって、ユウキに強く問いただした。

 

『なにがあったんだ?』

『なにか困ってることがあるなら手伝う』

『俺だけじゃ無理かもしれないけど、話してくれれば皆手を貸してくれる』

『俺達はそんなに頼りないか?』 

 

 観念したようにユウキは言った。

 

『もうすぐ死ぬんだ。ボク』

 

 ユウキは―――ただ笑ってそう言った。

 

 

 それが2026年の3月末。

 今から1週間前の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

「…………なんで俺なんだ?」

 

「なにが?」

 

「……………最後に、会うのが」

 

「あはは。なにキリト、そんなこと気にしてたの?」

 

「…………」

 

 1週間前のあの日、ユウキは詳しい説明をしてくれなかった。

 ただ病院の名前と、「紺野木綿季」という名前を告げてログアウトしていった。

 

 俺は病院に走った。

 ただ行かなくちゃいけないとだけ思って走った。

 あんなに慌てたのはアスナを探してたころ以来だった。

 

 病院では倉橋という医師が待っていた。

 ユウキとは長い付き合いだという。

 先生は教えてくれた。

 ユウキの身体のこと。

 病気のこと。

 ご家族のこと。

 残りの―――時間のこと。

 

「くっらいなー。いつもそんなまっくろくろすけみたいな服ばっか来てるから暗くなるんだよ」

 

「……ユウキもいつも暗い装備ばっかだろ」

 

「ボクのは紫色だからいいんですー。アクセントに赤とか入ってるから問題ないの」

 

「……そうかよ」

 

 俺は当然アスナ達にもこの話をした。

 ユウキも『キリトだけに教えるのは不公平だから皆にも言っていいよ』と言っていた。

 皆、戸惑って、絶望して、怒っていた。

 当たり前だ。

 なんで話してくれなかったんだ。

 もっと早く言ってくれれば、たくさん色んなことができた。

 なのに、なんで今さら。

 

「もー、ほんと暗いなー。今日で最後なんだから笑って送ってやるって気持ちはないもんかね」

 

「こんな時に、どう笑えってんだよ」

 

「そんなのいつもみたいに、だよ。ボクがからかってキリトが怒る。んで、たまに仕返しされる。ボク達はそうだったでしょ?」

 

 今日ユウキからメールが届いた。

 件名は「最後にお別れの挨拶がしたいです」

 中身はただ「待ってる」とだけ。

 

 ふざけるな。

 なにが、最後だ。

 なにが、お別れだ。

 本当にいつもいつも自分勝手にもほどがある。

 

 俺はそう言いに来たんだ。

 ―――そのはず、だったのに。

 

「…………」

 

 ―――言葉が出てこない。

 

「―――前はね、友達もいなくてひとりぼっちだったんだ」

 

「……ユウキ?」

 

「病室で一人でずーっと過ごしてた。大部屋ではあったんだけど、なかなか他人と溶け込めなくてね。いっつも本の世界に逃げ込んでた」

 

 あのユウキが?

 初めて会った相手ともすぐ仲良くなって、そのまま一緒に冒険に行くようなユウキが?

 いや、それより『一人で過ごしてた』?

 先生が言うにはいつもお姉さんと一緒だったって話なのに?

 

「家族はいたんだけど、あまり会いに来てはくれなくてね。疎まれてたんだよ。早く死ねばいいのにって直接言われたこともあったけどね」

 

 いや、違う。この話は。

 この話は『ユウキ』の事じゃなくて

 

「ほんとどうかと思うよね。今ならともかく、当時のボクはそれはまあショックを受けてさらに読書に励んだってわけ。まあ、ただの現実逃避だよ。我ながらかっこわるいね」

 

「……別にかっこわるいなんて事はないだろ。辛い事を言われて何かに逃げるのは普通の事だ。なにもおかしくなんてないさ」

 

「そう? でもそっか。そう言ってくれるなら嬉しいよ。まあ、そんなこんなで一人寂しく過ごしていって、そのまんま一人寂しく終わりを迎えたのさ。ただそれだけの話。あっ、SAOはそこらへんで知ったんだ」

 

「…………」

 

「だから、ボク頑張ったんだ。『ユウキ』は友達いっぱい作って、寂しいなんて思わないようにしようって。そんな風に過ごしてたらナーヴギアがドーンって感じで家に来ちゃって。そのあとは、さっき話したね」

 

「…………そうか」

 

「うん。そうなんだ」

 

「…………」

 

「ねえ、キリト。一つ聞いていい?」

 

「…………なんだ?」

 

「キリトから見てボクは、寂しそうだった?」

 

「―――いや、ユウキはいつも笑って、明るくて、そのまま周りも明るくするようなやつで。寂しさなんて感じたことないんじゃないかって思うくらい皆の中心にずっといたさ」

 

 ずっと、その笑顔が絶える事はないって皆信じてたんだ。

 

「……そっかそっか。なら、よかった」

 

 だから、

 

「―――なんかしたいことあるか?」

 

「え、どうしたのいきなり?」

 

「もう、最後なんだろ? ならなんかやり残したこととかないのか? 今ならなんでも聞くぜ」

 

「なんでも?」

 

「おう、なんでも」

 

「そっか、そっか。ふふっ、あははっ、ははははは」

 

「……なんでそこで笑うんだよ」

 

「もう、なんていうか、キリトだなって思ってつい笑っちゃった」

 

「いや、だからなんでそこで笑うんだよ」

 

 キリトだなって思ったら笑うって、俺普段どんなイメージなんだよ。

 

「それにしてもしたいことか、いっぱいあるなー」

 

「例えば?」 

 

「海外行きたい」

 

「えっ」

 

「エアーズロックとかピラミッドとか、凱旋門とかなんかそういうの見てみたい」

 

「いや、そういうお金かかるのはちょっと」

 

 見るだけならなんとかなるか?

 学校で作った視聴覚双方向プローブを使えば、でも、結局誰かは現地に行かないといけないし。

 みんなでカンパすればなんとか? いや、でも海外なら結構かかるよな。

 

「あとは友達の家でお泊り会とか、遊園地で遊ぶとか」

 

「それくらいなら、なんとか」

 

 それこそ、プローブを使えばなんとかなるはずだ。

 まず、病院に話を通して、専用の仮想空間を用意してそれから―――

 

「生身でって言ったらどうする?」

 

「―――それ、は」

 

 無理だ。

 現状のユウキの体で外に出るのは無理だ。

 それはただの自殺行為に他ならない。

 ただでさえ短い時間を削るだけだ。

 

「ふふ、ごめんごめん。いじわるだったね。あとはそうだね、うーん。あっ、結婚式とか。アスナの結婚式行きたい」

 

「なら、呼ぶよ。ちゃんと席も用意する。披露宴で友人代表としてスピーチだって頼むさ」

 

「え、ボクは別にキリトの結婚式には興味ないけど?」

 

「……? アスナの結婚式だろ?」

 

「あ、うん。ふざけたつもりだったんだけど、まさか本気でそう言い返してくるとは」

 

 アスナは俺以外と結婚しないから、アスナの結婚式はつまり俺の結婚式だぞ。

 

「でも、いいねスピーチ。いいなあ、やりたかったな」

 

「―――やれるさ。やろうと思えばいくらでも」

 

 だから、そんな顔で言うなよ。

 

「――――うん。そうだね。じゃあやろうか、今から!」

 

「えっ、今から?」

 

「そう。今から。キリト、映像記録用のアイテム持ってたよね。それ起動して」

 

 確かに持ってるけど、ちょっと待て。

 そんな今撮ってどうするんだよ。

 

「じゃあ、いくよ。ほら、はやくはやく」

 

「あ、ああ。わかった」

 

「すぅーはぁー、よし――――和人君、明日奈さん。ご結婚おめでとうございます。私は二人の出会いから結ばれるまでを隣で生暖かく見守ってきました。二人がぶつかり合い喧嘩をした時には油を注いで炎上させ、仲良く食事に出かけたところを見れば冷やかし、二人が結ばれたと知るや、すぐさま新聞に載るように情報をリークしました」

 

 あの号外はお前の仕業か!

 

「私のサポートのおかげで二人は恋の障害を粉砕していき、今では切っても切れない縁で結ばれ、たとえ死んだとしても切る事ができない存在となりました。私ほんと恋のキューピッド、さすがだね。サポート成功率100%は伊達じゃないね。えっ? クラインのサポート? あれは最初から脈無しだったからノーカンで」

 

 あの時やる気なかったのはそれが理由か。

 普段は人の色恋沙汰に首突っ込むくせに、妙に騒がないと思ったら。

 まあ、俺もアレは無理だと思ったけど。

 

「まあつまり何が言いたいかと言うとですね。二人が結ばれたのは私のおかげなので、二人は私に感謝しなくちゃいけません。これでもかってくらい感謝しないといけないのです。なので二人は私の言うことを聞かなくちゃいけません。絶対厳守だね」

 

 なんかすごい恩の押し売りが始まったんだが。

 基本ユウキのせいでアスナに怒られたり、ファンに追っかけまわされたり、クラインに妬まれたりした記憶しかないんだけど。

 

「私は友達が大好きです。友達が泣いてたら泣かせた相手をぶん殴ってやると決めてます。そして二人は私の大事な大事な友達です。だから」

 

 

 

「―――だから、二人は幸せにならないといけません」

 

 

 

「ボクは友達思いなので友達を殴りたくありません。なので二人はお互いを一生泣かせてはいけません。ボクの為にね。キリトもアスナもお互い愛が重いからなんか今は上手くいってるけど、それに胡坐をかいて相手の事を疎かにというか、縛り付け過ぎちゃだめだからね。あ、ちなみに子供産む時とかそういう感極まった時は泣いてもいいからね。嬉し泣きはオッケー。悲し泣きはNGだからね。そこは勘違いしないでよ」

 

「ユウキ……」

 

「さて、あとなに喋った方がいいかな? なんか結構今のでボクはスッキリしたけど、多分これだけじゃあ短いよね。きっと二人のエピソードとかがいいよね。二人のとなるとそうだなぁ、キリトが爆笑ギャグとか言ってやった激寒ギャグ5連発の話とかしようか?」

 

「ユウキ……」

 

「あれは確か、SAOの66、7層くらいだったかな。ボスのLA取った人は攻略組の皆の前でギャグをするっていうのが丁度流行ってた時期があってね。キリトがいつものようにLA掻っ攫っていって『考えて来るから時間をくれ』って言い出して、そしたら―――――ってキリトどうしたの? 大丈夫?」

 

「なにがだよ……」

 

「なにがって、泣いてるよキリト。おなか痛い? このすごい微妙なバフかかるグミ食べる? 10秒間与ダメージプラス5とかいう使いどころがよくわからないやつだけど、さらにラーメン味とか言ってすごいまずいけど。というか今ボク友達泣いたら殴るって言ったばかりなんだけど、こういう時は誰殴ればいいの? キリト?」

 

 ああ、泣いてるのか俺。

 道理で景色が霞んでるわけだ。

 

「なんで俺が殴られるんだよ。俺を泣かしたのはユウキだ。こういう時はどうすんだ?」

 

「えっ、ボクぅ? じゃあ、仕方ないからこの微妙なグミはボクが食べよう。これで殴られたのと同等ということにしよう。そうしよう」

 

 本当にコイツは、相変わらずだな。

 

「っていうかキリトそれまだ撮影中でしょ。どうするのさこのグダグダな感じ。ボク撮り直しって嫌いなんだけど」

 

「本当におまえは―――ならこのまま流すさ。それでいいだろ」

 

「マジ!? イエーイ! キリト、アスナみってるー? リズ、シリカ、リーファ良い男見つかったかーい。ユイちゃんボクみたいないい女になるんだよ。エギル奥さん美人ってほんと? 一度くらい写真見せてくれてもいいじゃんかー! クラインは、えー、相変わらず一人でかわいそうですね同情します頑張ってください応援してます5分くらい」

 

「―――じゃあ、そろそろ切るぞ」

 

「ちょ、あとちょっとだけ! えっと、ボク幸せだったよ! 辛くて苦しかったけど、もっとたくさん楽しかったよ! みんないたからボクほんとに楽しかったよ! だから、えっと、つまり、みんなボクの友達なんだから幸せになるんだよ! もし誰かに泣かされたらボクに言うんだよ! 絶対に相手ぶん殴りに行ってあげるから! だから、みんな元気でね。ボクとの約束だからね! 絶対だからね!!」

 

「守ってないやつがいたら俺が守らせるよ。約束だ」

 

「お、言ったなキリト。ボクとの約束は破れないんだからね―――ではでは改めまして、桐ケ谷和人君、結城明日奈さんの友人代表、紺野木綿季でした。二人の道に幸福が訪れることを願っています。約束破ったら末代まで祟っちゃうからね」

 

「―――切ったぞ」

 

「うん……。ありがとう」

 

 それだけ言ってユウキは崩れ落ちた。

 もう限界だったんだろう。

 撮影中も足元がふらついていた。

 途中からずっと壁にもたれかかりながら話していた。

 撮り直しなんてできる体力はもうどこにもないんだろう。

 

「おい! 大丈夫か!?」

 

「あー、もうギリギリだったね。キリトがあそこで切ってくれなかったら倒れるとこまで入っちゃうとこだったよ。やっぱり相手を見極めるのはキリトに敵わないね」

 

「そんなことはどうでもいいっ! 早くログアウトしろっ!」

 

「そんなこととはなにさ、そんなことって。人が一生懸命頑張ったことをそんなこと扱いって、さすがにユウキちゃんどうかと思うよ?」

 

「何言ってるんだよ! このままじゃ本当に」

 

「―――倉橋先生にお別れはもう言ってあるんだ。多分、今日だと思ったから」

 

「―――――ぁ」

 

「虫の知らせってやつ? スリーピングナイツのみんなにはキリトが来る前にメール送っておいたんだ。ボクがみんなと過ごしたのはたった1年だったけど、それでも、みんなとても良くしてくれた。さすが姉ちゃんが集めた仲間だよね。これが俗に言うさすおねってやつだね」

 

 

「アスナ達にはキリトに伝言頼もうかと思ったんだけど、今撮ったから大丈夫だね。ちなみに今のは披露宴以外で再生することは禁止だからね。つまり、みんなにボクがなに言ったのかを伝えたかったら、さっさとアスナと結婚しないといけないって事だからね。ふふん、キリト君は一体いつご両親に挨拶しに行くのかなあ?」

 

 

「ふっふっふ、まあボクの最後のキューピッドとしてのお仕事だね。アスナ、この前いつになったら家に来てくれるんだろうって愚痴ってたよ。ま、友達思いのキリト君ならこうやって発破かければすぐ行くでしょ。もうこのボクの天才的発想にはホレボレしちゃうね」

 

 

「あとは、いっぱいあるけど、言いたいことは言ったからいいかな。キリトはなにかある?」

 

「―――俺は、」

 

 

「俺は、アスナを幸せにする。アスナだけじゃない、皆もだ。10年経っても20年経っても、皆で集まってバカやって、いっぱい笑って、そんな風に過ごせるようにする。絶対に。ユウキが殴りに来る要素なんてないように、誰かが泣いてる余裕なんて作らせてやらない。そうやって過ごしていって、人生を走り終わったら、そしたら」

 

 

「また、皆で一緒にゲームをしよう」

 

 

「だから、それまでおとなしく待ってろ。俺達放って勝手にどっかに行くんじゃないぞ。ユウキとの約束は、絶対なんだろ?」

 

「あはは、ははははは」

 

「……なんだよ」

 

「いいや、やっぱりキリトはキリトだねって。いいよ、約束ね」

 

「ああ、約束だ。絶対行くから待ってろ」

 

「うん、待ってる。お土産期待してるからね」

 

「はいはい。余裕があったら持ってってやるよ」

 

「うわ、冷たいなー」

 

「うっせ」

 

「…………」

 

「…………」

 

「ボクが最後にキリトを選んだ理由はね」

 

「…………ああ」

 

「好きだったから、じゃないよ――――親友だと勝手に思ってたからだよ。だから最後はキリトが良かった。一度も言わなかったけどね」

 

「俺も、親友だと思ってたさ。俺は男で、ユウキは女だったけど。ずっと一緒にバカやれる友達だって思ってた」

 

「ほんと? それは、うれしいなぁ。これが相思相愛ってやつ?」

 

「友愛、だけどな」

 

「そりゃそうだ。じゃないとアスナに刺されちゃう」

 

「ぞっとしないこと言うなよ。たまにユウキとのことで疑われてたんだから」

 

「あはは、ははははは」

 

「本当にお前ってヤツは…………」

 

「…………キリト」

 

「なんだ?」

 

「約束、守ってね」

 

「ああ、絶対守る。だから安心しろ」

 

「よかったぁ。じゃあ大丈夫だ」

 

「ああ、お姉さんによろしくな」

 

「ふふふ、あることないこと吹きこんでおくね」

 

「あることだけにしてくれ」

 

「キリトは我がままだなー」

 

「おまえがいうな」

 

「あはは」

 

「…………」

 

「……約束だよ」

 

「……約束だ」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………また、みんなであそぶの、たのしみだなぁ」 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………さようなら、ユウキ」

 

 また、会おうな。

 

 

 

 2026年4月。

 俺の大事な友達が、この世を去った。

 

 

 

「…………アスナの家に挨拶行かないとな」

 

 いい加減覚悟決めないとな。あんなこと言われたし。

 お母さんにはあまりいい印象持たれてないから、なんとかしないとな。

 

「っよし! 頑張るかー!」

 

 とりあえずは、あいつが羨ましくなるようなゲームを作ることを目指すとするかな。

 

 

 




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