ユウキに転生したオリ主がSAOのベータテスターになったら   作:SeA

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別名、ノリと勢いの蛇足編。


いーえっくす

 太陽が輝き、青空が広がっている。

 風が吹き、鳥が鳴いている。

 眼下に見える街が、とても小さく見える。

 この展望台から見える景色はいつも変わらない。

 ここに変化はない。

 ここに進化はない。

 なのにボクはまだ、ここで街を眺めている。

 

「ボクはなんで、まだここにいるんだろう?」 

 

 日が昇り、展望台に行き、街を眺めて、日が沈む頃に帰る。

 日が昇り、展望台に行き、街を眺めて、日が沈む頃に帰る。

 日が昇り、展望台に行き、街を眺めて、日が沈む頃に帰る。

 何度も何度も、同じことを繰り返す。

 なぜボクは、こんなことをしているんだろう? 

 なぜボクは、未だこの街にいるんだろう?

 

「……ボクは一体、なにがしたかったんだろうね」

 

 日が昇り、展望台に行き、街を眺めて、日が沈む頃に帰る。

 日が昇り、展望台に行き、街を眺めて、日が沈む頃に帰る。

 日が昇り、展望台に行き、街を眺めて、日が沈む頃に帰る。

 いつもと一緒。

 目的もわからないのに、ひたすら同じことを繰り返す。

 

「……ボクも『次』に行こうかな」

 

 思っても無いことを口にしてみる。こういうのは口に出してみたら、本当にそういう気持ちが湧いてくるらしいと、なんかの本で読んだ気がする。

 多分。

 もう、あんまり『前』のことは覚えていない。

 なのに、ボクはまだこの街にいる。

 

「ボクも姉ちゃんについていけばよかったのに……」

 

 なんで、一緒に行かなかったんだっけ?

 もう、その理由も朧気だ。

 

 そうしてまた、一日が終わる。

 

 日が昇り、展望台に行き、街を眺めて、日が沈む頃に帰る。

 日が昇り、展望台に行き、街を眺めて、日が沈む頃に帰る。

 日が昇り、展望台に行き、街を眺めて、日が沈む頃に帰る。

 いつもと一緒。

 同じことの繰り返―――

 

「――こんにちは、お嬢さん」

 

「――――え?」

 

「ここで、なにをしていらっしゃるんですか?」

 

 今日は、いつもとは違うらしい。

 

 後ろを振り向く。

 そこには一人のお爺さんがいた。

 白い髪と白い髭の生えた元気そうなお爺さん。

 すぐに『次』に行きそうな感じの、あまり、この街には似合わない人だ。

 

「ここで、お嬢さんはなにをしていらっしゃるんですか?」

 

 さっきと、同じことを尋ねられた。

 

「……別に、ただ街を眺めてただけだよ」

 

「ほう。街を」

 

「そ。それだけ」

 

「楽しいのですか?」

 

「まさか。ボク同じところでずっと同じ景色見るの嫌いだもん」  

 

 ずっとベッドの上で窓の外を見るのは嫌いだった。だから本に逃げたんだ。

 文字の中なら、ボクはどこにだって行けたから。

 

「ふむ……では、なぜ街を眺めていたのですか?」

 

「さあ? なんでだろうね」

 

「自分でも理由がわからないのですか?」

 

「うん。それはもう置いていっちゃったみたい」

 

「……置いていった。何をですか?」

 

 不思議な事を聞くお爺さんだな。そんなこと、この街にいたら皆知ってるのに。

 

「―――思いを、だよ」

 

 この街は『次』に行く前の休憩所だ。

 『前』が終わった人がこの街にやってくる。

 この街には全部がある。

 望んだことを全て叶えることができる街。それがここ。

 金が欲しいと思えば手に入る。

 ただ暴力を振るって回りたいと願えばそれが叶う。

 女が欲しいと言えば目の前にいる。

 ここはなんでも叶う場所。

 全てがある街。

 そうして『前』の思いを置いていって『次』に行く。それが決まり。

 

 まあ、正確には別に置いてかなくてもいいらしいけど。

 どっちにしても『次』に行く時に全部なくなるらしいし。

 

「―――思い残しって言うでしょ? この街はそういうのを残さずに置いてく為にあるんだよ」

 

「なるほど……」

 

「お爺さんも好きな事したら? ここならなんでもできるよ。若返って酒池肉林ってのも出来るらしいし」

 

「……ならば、『次』に行かない人もいるんじゃないですか? この街には全てがあるというのなら」

 

「……ほんとにお爺さんはなんも知らないんだね。この街に来た時に全員言われてるはずなんだけど」

 

「あー、ちょっと気になることがあって、聞き流しまして」

 

 変わったお爺さんだな。

 なぜかちょっと懐かしい気がする。

 

「まあ、いいけど―――で、『次』に行かない人がいるんじゃないかって? いないよそんな人は」

 

「なぜですか?」

 

「思いを置いていくってのはね、自分の意思でやることじゃないんだよ。勝手に置いていっちゃうんだよ。この街にいる限り、勝手に思いが自分から離れて行くようになってるんだ」

 

 そう。ここは思いを置いていく街。

 速やかに『次』へと進む為の休憩所。

 『前』から進む為の場所。

 なにかをしたいという思いも。

 もっと欲しいという思いも。

 もっともっとと、さらに求めてるその思いも、そのうち置いていかれる。

 この街にいる理由が無くなっていく。

 無くなっていく。『前』のことは全て、ここで失っていくんだ。

 

「―――だから皆、この街からいなくなる」

 

「『前』を全て失う、ですか……」

 

「うん。だから全部置いて行っちゃう前に『次』に行く人もいるんだよ。忘れないまま『次』に行こうってね」

 

「思いを持ったまま『次』に行けるんですか?」

 

「まさか、最初に言ったでしょ。『次』に行った時に全部消えるんだよ。自分も思いも、全部ね。だからそれを選ぶ人はどんどん『前』が無くなっていくのが恐ろしいと感じる人。『前』の思いを持ったまま消えたい人。どっちにしても結果は変わらないんだけど、結構多いんだよ」

 

 ここに『前』の思いを全部置いていって『次』で消えるか。

 『前』の思いを持ったまま、『次』で全部消えるか。 

 この街にはその二択しかないんだ。

 

「では、あなたはどちらなんですか?」

 

「え……?」

 

「生憎ですが私には、あなたがそのどちらにも見えません。この街には全てがあるのに、あなたはそれを求めているようには見えない。そのくせ『次』に行こうとしているわけでもない――――――あなたはなぜこの街にいるのですか?」

 

「ボクが、ここにいるのは……」 

 

 ボクがここにいる理由、それは、なんだったっけ?

 わからない。

 わからない。

 わからない。

 それはボクがもう置いていってしまったもの。

 ボクが手放してしまったもの。

 無くしたはず、それなのに未だボクがここにいる理由。

 それは、なんだったんだろう?

 

「ボクの……理由は……」 

 

 でも、いつか誰かがそれを教えてくれたはずだ。

 ボクが忘れたその理由を教えてくれたんだ。

 アレは、確か―――――そうだ。姉ちゃんだ。

 ボクの姉ちゃんが教えてくれたんだ。

 

『私、「次」に行こうと思うの』

 

『え、姉ちゃん……?』

 

『ごめんね。いきなり勝手な事言って。でも、決めたんだ』

 

『え、いや、なんで』

 

『……この街で色んな事したね。パパとママと私達姉妹の家族4人で遊園地に行って、水族館に行って、プールに行って。「前」できなかったことを、家族でたくさんやったね』

 

『うん……楽しかったよ……』

 

『でも、この楽しかったって思いもそのうち置いていかれる。だからその前に、私は「次」に行こうって思ったの』

 

『……そっか』

 

『うん、そうなんだ……ごめんね』

 

『なんで姉ちゃんが謝るのさ! ボクが変なだけなんだよ!? なにも無いのにここに残りたいって思ってるボクが変なだけなんだよ!?』

 

『ううん、変じゃないよ。それはきっと正しい事なんだから』

 

『姉ちゃん……』

 

『あなたが置いていっても忘れていないその理由、それはとてもキレイなものなんだから』

 

『キレイな、もの……?』

 

『そう。あなたがここにいる理由、それはね』

 

『それは……?』

 

『――――――』

 

 そうだ。ボクがここにいる理由。

 それは―――

 

「―――約束だから」

 

「約束……?」

 

「そう、約束。待ってるって約束したんだボクは」

 

「待ってる、ですか」

 

「そう……ただ、なにを待ってるのか憶えてないから、困っちゃうよね」

 

「それでも、待つのですか?」

 

「うん。待つよ」

 

「なにを待っているのかも、わからないのに?」

 

「うん。待つって約束したから」

 

「なるほど」

 

 お爺さんに背を向けて、街を見渡す。

 そうだ。ボクはここで待ってたんだ。

 街を一望できるこの場所で、いずれ来る『なにか』をすぐに見つけられるように。

 毎日毎日、日が昇って沈むまで、ここで探していたんだ。

 ボクは憶えていなかったけど、ボクの心は憶えてた。

 無意識だったけど、約束を守ろうとしていたんだ。

 

 やっと、思い出せた。

 ボクがここにいる理由。

 

「では、お嬢さんはその『なにか』が来るまで暇ということですか?」

 

「暇って……いや、間違ってないけどさ。まあ、確かに『なにか』が来るまで待ちぼうけなわけだから暇だとは思うけど、それがどうかした?」

 

 というか、地味にそのお嬢さん呼びされると、背筋がぞわってするから止めてほしいんだけど。

 

「なるほどなるほど、暇ですか。それは良かった。それなら―――」

 

 人が暇で良かったって言い方、ボクどうかと思うけ―― 

 

 

 

 

「―――なら、一緒にゲームしようぜ」

 

 

 

 

「――――――」

 

 なぜか、言葉が出てこなかった。

 

「暇なんだろ? 一緒にゲームでもしようぜ」

 

 ゆっくりと後ろを振り向く。

 そこにいたのはさっきまでの白いお爺さんじゃなくて、もっと若い、十代後半くらいの男の子が立っていた。

 

「これでも、俺『前』は色んなゲームに関わっててさ。おもしろいゲームいっぱい知ってるんだ」

 

 ボクよりも、多分少し年上で、線が細くて、ちょっと女の子っぽくも見える。

 

「口出しさせてもらったゲームも多くてさ。結構世間の評価も良かったんだ」

 

 でも目は力強くて、自分の意思を強く伝えていて。

 そんな男の子が、そこにいた。

 

「俺以外にも何人かいてさ、まだ全員はいないけど、きっと楽しいさ」

 

 憶えてない。

 わからない。

 見覚えなんてないはずなのに、それなのに。

 胸が張り裂けてしまいそうなほどの嬉しさが、どんどん心の奥から溢れてくる。

 

 ああ、不思議だ。

 不思議で不思議でたまらない。

 なんでボクは今、こんなにも泣いているんだろう。

 

「――また、みんなでゲームをしよう。どうだ?」

 

「――――いいよ。でもボク、ゲームの天才だから対戦ゲームにしたら君きっと泣きべそかいちゃうと思うけど、大丈夫?」

 

「へ、へー。まあいいさ。女の子には優しくしてあげないといけないからな。最初は花を持たせてやるさ」

 

 かっちーん、ときた。

 この野郎言わせておけば。

 

「ふーん、なに? 今から負けた時の言い訳? 大変だね男の子ってやつは」

 

「いやいや、思いっきり実力差を示して泣かせたら大変だろ? 女の子はさ」

 

「あはは、あははははは」

 

「はは、ははははははは」

 

「……………」

 

「……………」

 

「やるかこのヤローッ!」

 

「上等だオラーッ!」

 

 ボッコボコにしてやるぜー! 覚悟しろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ……」

 

「なんだ?」

 

「……会いに来てくれて、ありがとう」

 

「そりゃ来るさ。なんたって、約束破ったら殴られそうだからな」

 

「なにさそれ…………バカキリトのくせに」

 

「バカって言う方がバカなんだぞ。バカユウキ」

 

  




ただ二人を喋らせたかっただけ。
ただそれだけのための蛇足編。

これで本当におしまいです。
約2週間お付き合い下さり、本当にありがとうございました。

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