ユウキに転生したオリ主がSAOのベータテスターになったら   作:SeA

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突発的年末企画。ご都合主義満載の番外もしもシリーズその1/3。

桐ヶ谷和人が色々と考えるお話。


番外編
IF


「あと1時間か……」

 

 日曜日の午後一時。

 親は仕事に、妹は部活に行って家には俺達一人きり。

 開始時刻まで、まだ時間はある。

 今さら特別やれることも特にはない。ないけども、落ち着かない心のままに自室で現状でわかっている数少ない情報を纏める。

 

――――――まだ時間あるんだし、もっとのんびりしたら? せっかくだしこの前のシューティングやろうよ。アレ楽しかったし。

 

「あるって言ってもあと1時間だけだろ。遊んでる最中に時間過ぎたら俺泣くぞ」

 

 俺が今日をどれだけ楽しみにしてたのか、それを一番知ってるだろうに。

 

――――――ぶぅー。

 

「拗ねるなって。もうちょっとなんだからいいだろオレ(・・)?」

 

――――――……もう、しょうがないから我慢してあげるよ。ボクに感謝してよね()

 

「へいへい。ありがとーございまーす」

 

――――――誠意を感じないぞー! 

 

 それじゃあ改めて、これから始まるSAOのベータテスト(・・・・・・・・・・)の情報の整理するかな。

  

 

 

 

  

 

『転生したら主人格が既にあった件』

 

 

 

 

 

 そいつとは気づいた時には既に一緒だった。

 多分、生まれた時から一緒だったんだと思う。少なくとも俺が憶えてる範囲では常に一緒だった。

 はっきりと憶えている中で一番古い記憶は、デパートでゲーム売り場に行きたかった俺と、アイスを食べたがっていたオレ(・・)とでエレベーターの前で喧嘩をしている記憶だ。

 今にして思えば、独り言を言いながらなぜか怒っている子供だったから周りから見れば相当不気味だったと思う。まあ、今でも気を抜くとついやってしまうが……。

 

 ともかく、そいつはずっと俺の中にいて、声も俺にしか聞こえなかった。

 小さい頃はそれがおかしいということに気付いてはいなかった。自分にいるんだから皆にも同じようなのがいると思っていた。

 だが周りの人に聞いてみても誰もが首を傾げるだけで理解はされず。

 そんな中で成長していくと少しずつコレが異常であるということを知った。

 

 そんなおかしな自分のことを怖くなったこともあり、親に相談したこともある。

 病院にも連れて行ってくれ、検査もして。一時期は通ってもいた。

 だがそれは、いつまでもいなくなることは無かった。

 

 幻聴?

 妄想?

 イマジナリーフレンド?

 

 表す言葉はたくさんあったが、どれもしっくりとはこない。

 他の誰にも聞こえず俺にしか聞こえない声ではある。

 俺が考えないような突拍子のない事を言うこともある。

 確かに病状に当てはまる部分は多々あったが、疑問も出てきた。

 

 そういった存在は普通謝るものなのだろうか?

 

――――――ボクのせいでキミを普通でいられなくして、ごめんなさい。

 

 確かに、自分が周りの人と違うことに恐怖は感じていた。

 はやく消えて欲しいとも思った。

 実の親だと思っていた人達が本当の親ではないと知って、これ以上余計な迷惑を掛けたくないとも思っていた。  

 

 だけど、別に謝ってほしいとは思っていなかった。

 

 最終的に、俺はオレ(・・)を認めた。

 そうしてからは周りの人に『もう何も聞こえてない。問題は解決した』と、そう言い張った。

 まあ、それでも両親にはバレてるみたいだったが。

 親は子供をよく見てるってことなのかもな?  

 

 それからは二つの意識で一つの体という、奇妙な共同生活の始まりだ。

 俺がゲームで遊びたい時に、外で遊びたいと言い。

 剣道を辞めると言えば、絶対に続けろと一昼夜言い続け。

 泳げないから怖いと叫ぶ声を無視して、俺は水の中に飛び込み。

 お化け屋敷にお互いにビビりながら入り。

 一緒にあーだこーだ言いながら夏休みの自由研究に勤しんだ。

 

 どこにもいない。だけど、ここにいる。

 いつしか、俺にとってオレ(・・)は他の誰よりも近しい存在となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

――――――ねー、ずっと画面見てて飽きないの? ボクはもう見飽きたんだけどー。

 

「もしかしたら直前に更新されるかもしれないだろ」

 

――――――いや、無いでしょ。だってあと10分だよ。こんな変なタイミングでHPの更新は無いって。 

 

「……もしかしたらあるかもしれ」

 

――――――無いって。 

 

「…………無いか」

 

――――――ないない。っていうか少しは落ち着きなよ。昨日も全然眠れてなかったしさ。そんなに楽しみ?

 

「当たり前だろ。世界初のVRMMOのベータテストだぞ。ゲーマーなら普通滾るだろ」

 

 待望のVRでのMMORPG。

 しかもたった千人しか参加できないベータテスト。これに興奮しないゲーマーがいるはずがない。間違いなく。絶対に。

 

 これまでに発売されたナーヴギア対応のVRゲームはどれもオフライン限定のもの。

 全世界のゲーマー達がどれだけこの時を待っていたことか。

 

――――――いや、ボクは別にゲーマーじゃないし。

 

「よく言うよ。そうは言ってもゲーム好きだろ?」

 

 対戦ゲーだったら、だいたい勝つまでやるくせに。

 

――――――いや、確かに好きだけどさ。でも、ボクそっちより体動かすほうが好きだし。だからまたマラソン大会出ようよ。この前のも楽しかったでしょ?

 

「しばらくはマラソンはもういい………あれは楽しいよりも疲れたイメージしか残ってないって」

 

 いや、本当に。

 ゴールに辿り着いた時はぶっ倒れるかと思ったし。

 すぐにドリンク持ってきてくれたスグが天使に見えたくらいだぞ。

 なので、しばらくは勘弁。

 

――――――えー、楽しそうだったのに。ゴールした直後にスグちゃんのこと抱きしめるくらいにテンション上がってたじゃんかー。

 

「それは言わない約束だろうがっ!」

 

――――――なにさ、まだ恥ずかしいの()? いいじゃん別に。かわいい妹抱きしめただけでしょ。恥ずかしいことなんてなにもないじゃん。 

 

「恥ずかしいに決まってるだろ! あんな大勢の前で、しかもなぜかクラスの皆もいたし……」

 

――――――あ、それはボクが前日にメールで連絡してたからだね。

 

「おまっ!? 何してんだよ勝手に!?」

 

――――――寝てる間なら体軽く動かしてもいいって言ったの()じゃん。

 

「軽くって言っておいただろうが!」

 

――――――軽くですー。右腕一本しか動かしてないですー。

 

「……頼むから、次からはやめてくれよ」

 

――――――おっけー。

 

 あー言えばこう言いやがって。

 なぜ俺はこうもオレ(・・)に口で勝てないんだろうか。

 学力は絶対に俺の方が上のはずなのに。一体なぜだ。

 

――――――ねえ。ところで()

 

「今度はなんだよ……? マラソンも自転車レースも水泳大会もしばらくは出場する気はないぞ」

 

 これからの1カ月は早朝ランニングと、週2の剣道の稽古で勘弁してくれ。

 ゲームに集中したいんだよ。

 

――――――時間いいの?

 

「時間……? ちょっ!? 今何時だ!?」

 

 まずい! 

 ベータテスト開始時刻は午後2時からだ!

 そろそろナーヴギア被って待機しないと丁度に間に合わない! スタートに乗り遅れる!

 今何時だよ!? 

 

 慌てて壁掛けの時計を見る。時計の針は長針がほぼ真上で、短針が2の位置に

 

――――――3、2、1、ポーン。ボクが午後2時をお知らせいたします。

 

「ちょっ!?」

 

 嘘だろお前っ!?

 

――――――さあ、さっさとナーヴギア被ってベッドに横になろうか。

 

「言われなくても!」

 

 そうするっての!

 急いで、ギアを掴み、被って、寝転がる。 

 

「行くぞ」

 

――――――いつでもどーぞ。

 

「――――――リンク・スタート!」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――いやあ、キャラメイクは強敵だったね。

 

「まさか、ベータからあんなに細かく設定できるとは思わなかったな」

 

 おかげで無茶苦茶時間かかったからな。

 俺とオレ(・・)の好みが微妙に違くていつも時間かかるから、今回は事前に相談しておいたってのに。

 たった千人しかプレイヤーいないのに、あそこまでやるのか普通?

 

――――――それこそ、カヤバーンのこだわりってやつじゃないの?

 

「……確かに記事とか読む限りだと色々こだわる方っぽいから、そうだったとしても不思議じゃないけどよ」

 

 でも、さすがに茅場晶彦ではないと思うけどな。

 今までの発言を確認する限りだと世界観の方を重視してるんじゃないかって予想してるんだが。

 

「それにしても……すっげえ、面白かったな」

 

――――――うん。楽しかった。ソードスキルも思った以上に簡単だったしね。

 

「もうちょっと難易度高いかと思ったんだけど、すぐ出来るようになったもんな………でも、オレ(・・)が一発で成功したのは納得いかないけど」

 

――――――ふっふっふ。センスというものがあるのだよ、少年。

 

「俺が成功した感触を真似たからだろ、それ」

 

 こういう時ずるいよな、一緒の体使ってるってのは。

 成功した時の感触も丸々伝わるから、それを真似したらいいだけだし。

 

「明日はどうする? 今日はほとんど俺が動かしたけど、明日はオレ(・・)メインでやるか?」

 

――――――うーん……いや、いいよ。明日も()がメインで。

 

「いいのか?」

 

――――――うん。あれだけ楽しみにしてたの知ってるし、1カ月しかないからね。あっ、でもたまには貸してくれると嬉しいな。戦闘以外もやってみたいし。

 

「おう、了解。なんか悪いな」

 

――――――なに言ってるのさ。ボクと()の仲でしょ?

 

「はいはい。そうだな、俺とオレ(・・)の仲だもんな」

 

 でも、普段の悪戯はあんまり許さないからな。

 特に羞恥系は。

 本当に。

 

――――――さてさて、今日のごっはんはなんだろな~。

 

「匂いからしてカレーじゃないか。きっと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時間はあっという間に過ぎていった。

 

 

 ある時は、

 

「うぉおおおおおお!! 絶対生き残ってやるからなっ!」

 

――――――叫んでないでさっさと回避! 右奥からさらに3体接近中!

 

「ちくしょう! 普通あんな弱点みたいに実がなってたら攻撃するだろうが!」

 

――――――バーカバーカ! ()のバーカ! アホ! スカポンタン!

 

オレ(・・)だってきっと弱点だって言ってたくせに!」

 

――――――実行したのはそっちでしょ! ギャー! 後ろから足音ッ! 多分2体!

 

「ちっくしょうっ! 花つきさっさと出てこいよぉおおおおお!」

 

 

 

 ある時は、

 

――――――甘くておいしい~。ゲームでもこんなケーキが食べれるとは、SAO恐るべし。

 

「うまかったな。サイズもショートケーキなのにすごくでかくて喰い応えあったし」

 

――――――このお店はチェックだね。ボク的SAOランキング上位に躍り出たよ。

 

「まさか、こんなに食い物系が充実してるとは思わなかったな」

 

――――――デザート系は結構食べたから次はお肉だね。ドラゴンステーキとか。

 

「まだ2層なのに、そんなの出す店があるとは思えないけどな」

 

――――――願うだけなら自由だからね!

 

 

 

 ある時は、

 

――――――ふぁいと~。

 

「…………ぐっ…………あと、ちょっと……」

 

――――――右手をもうちょい上。あーそっちじゃなくて、ちょい左の出っ張りの方。

 

「こっち、だな……」

 

――――――そーそー、そっちそっち。いやー、にしても頑張れば登れるもんなんだね。多分今のとこプレイヤーの中でも最高記録なんじゃない?

 

「聞く限り……だと、そうっぽい、な……」

 

――――――まさかこんな崖まで登れるように出来てるとはSAOってすごいね。あっ、そこ左ね。

 

「ちょっ、言うの遅―――あ」

 

――――――あ

 

「落ちるぅうううううう!?」

 

――――――ギャアアアアアア! 怖い怖い! 早く目つぶってよぉおおおお!!

 

 

 

 そんなこんなで、1カ月。

 

「今日が最終日、か……」

 

 長かったような、短かったような。楽しい1カ月だったな。

 だいたい騒いでばっかだった気がするけど。

 

――――――……そうだね。これで、ベータテストも終わり、だね……

 

「お、なんだよ、オレ(・・)も残念なのか? もっと遊びたかったって?」

 

――――――まあ、ね。結構楽しかったし。

 

「安心しろって、ベータテスターには製品版の優先権貰えるらしいから発売したら思う存分遊べるって。それまで楽しみにしてようぜ」

 

――――――…………製品版、か。

 

「ああ、戦闘も探索も充実してたし、生産系は今回は手出さなかったけど面白そうだったし。今度はそっちをやってみるのも楽しそうだな」

 

 せっかくだから、製品版の方ではオレ(・・)用のキャラデータを別に作ってみるか。

 2キャラ目からは課金しないと作れないみたいだけど、それぐらいの金はあるしな。

 ただそうなると、俺のプレイ時間が減ることになるから攻略組は難しいかもしれないけど。

 まあ、たまにはいいだろさ。そういうのも。

 

――――――…………うん。

 

「なんだよ、大丈夫か? 元気ないぞ?」

 

――――――ねえ、()? 一つ質問してもいい?

 

「……? なんだよ急に。別にいいけどさ」

 

 珍しいなオレ(・・)がこんなに沈んでるのは。 

 前にこんなに元気なくなった時はUFOキャッチャーで財布の中身が尽きた時以来か?

 基本的にいつも楽しそうに過ごしてるのに。

 

――――――……もし、もしもゲームの中で死んだら本当に死んでしまう。そんなゲームがあるとしたら、()は……………いや、桐ヶ谷和人はそのゲームをやる?

 

「はぁ?」

 

 なんだその質問?

 

「そんなゲームやらないに決まってるだろ。だって死んだら死ぬんだろ? それなら誰だってやらないだろ普通」

 

 いや、現実に嫌気が差してとか、生粋のゲーマーだったらもしかしたらやるのかもしれないけどよ。

 少なくても俺はプレイしないな。そんな危ないゲーム。

 家族の命がかかってる、とかなら俺もやるかもしれないけどさ。

 

――――――…………ただし、

 

「ただし?」

 

――――――ただし、やらないと1万人が死ぬとしたら?

 

「え、はぁ……? なんだよその設定。無茶苦茶にも程があるだろ」

 

――――――お願い、答えて。

 

 答えろって言ってもよ。

 

「えーと、なんだ? そのゲームを俺がやれば1万人は助かるのか?」

 

――――――ううん。多分最低でも千人は死ぬ。

 

「千人も死ぬのかよ」

 

――――――……うん。最低、というか確定で、かな。多分もっと増えるはずだけど。

 

 やらなかったら1万人死ぬ。

 やっても千人死ぬ。しかも最低で。

 しかも途中で死んだら俺も死ぬ。なんだよそのハードモード。

 ただの男子中学生が背負う問題じゃないだろ。漫画かアニメの主人公かよ。

 

 ……いや、二重人格モドキという漫画かアニメみたいな設定はあるけども。

 

「……その1万人にスグは入ってるのか?」

 

――――――いないよ。

 

「父さんと母さんは?」

 

――――――家族は誰も含まれてないよ。

 

「クラスのみんなは?」

 

――――――それは…………わからない。もしかしたらいるかもしれないとしか。

 

「……俺が知ってる範囲で含まれてるのは他にいるのか?」

 

――――――……多分、いないと思うけど……今のぼ、和人には友達いっぱいいるから、わからない。

 

 なんだよ今の(・・)って? 意味わからねえよ。

 ってかなんで今さら名前で呼ぶんだよ。

 お前も桐ヶ谷和人だろうが。

 まるで他人みたいに言うなよ。俺達は一緒じゃないのかよ。

 

「……オレ(・・)はどうしてほしいんだよ?」

 

――――――……わかんない。

 

「1万人見殺しにしてほしいのか? それとも最高で9千人助けられるかもしれないけど、俺が死ぬかもしれないゲームをプレイしてほしいのかよ」

 

――――――わかんないよ! 全然わかんないっ! ボクもどうしたらいいかわかんないんだよっ! だからこうして聞いてるんだろ!?

 

「こっちだって意味わからねえよ! いきなり1万人死ぬだの、千人以上死ぬだの言われて簡単に答えれるわけないだろっ! ちゃんと説明しろよ!?」

 

――――――説明なんてできるわけないでしょ! 詳しく話したら、()、和人は絶対に気にするに決まってるんだから、そんなの言えるわけないじゃんっ!

 

「なんでだよっ!? わからねえよっ!」

 

――――――なんでもだよっ! わかってよ!!

 

 お互いに声を張り上げ、怒鳴り合う。

 久しぶりだ、こんな風に喧嘩したのは。

 喧嘩して機嫌が悪くなろうが結局同じ体だから、どうしても意識してしまう。だからいつの間にかお互いに喧嘩にならないように気遣って生活してきたのに。

 

「ハァ……ハァ……」

 

――――――はぁ……はぁ……

 

「……なあ」

 

――――――……なに?

 

「とりあえず、名前で呼ぶの止めろよ」

 

――――――なっ、なにさ突然。

 

「突然なのはそっちだろ。慣れないからいつも通りに()って呼べよ。落ち着かないからさ」

 

――――――それは……そう、だね。ごめん…… 

 

「別に謝らなくていいって」

 

 ただ、今さら他人扱いされるのが嫌なだけだからな。

 

「……なあ、オレ(・・)?」

 

――――――なに、()

 

「……その死ぬゲームってのが、SAOなのか?」

 

――――――うん……製品版のSAOの初回販売数は1万。それを買って参加するプレイヤーはみんな、デスゲームに囚われる事になるんだ。 

 

「デスゲーム……」

 

 世界初、待望のVRMMOがデスゲームになる。そんなこと到底信じられる事ではない。 

 だけど、俺はオレ(・・)が嘘を吐いているとは思えない。

 確かにオレ(・・)は嘘を吐くし、冗談も言う。

 だけど決して悪質な嘘を言わないのを、俺は知っている。

 

「……未来予知ができるなんて知らなかったぞ俺は」

 

――――――極々限定的な事しかわからないからね。しかも本当にそうなるかわからないし。

 

「確信があるわけじゃないのか……?」

 

――――――色々言っておいてなんだけど、確信は無いんだ。ボクが知ってるのはデスゲーム開始以降の事ばっかりだから。

 

「なるほど……だから、どうしていいかわからないってことか」

 

 本当かどうかは起こってみないとわからない、ね。

 

「……犯人は?」

 

――――――茅場晶彦。

 

「動機は?」

 

――――――夢の世界の創造、だったはず。

 

「それがなんでデスゲームになるんだ?」

 

――――――リアリティの追求、だったかな? ごめん。結構うろ覚えだから違うかもしれない。

 

「なんとも迷惑な話だな」

 

――――――ほんとにね。

 

 一人で勝手にやってろとしか言えねえな。

 そんなことに1万人も巻き込むなっての。

 

「それで、俺はどういう役割なんだ?」

 

――――――英雄。

 

「は……? 英雄?」

 

 誰が? 俺が? マジで?

 

――――――うん、英雄。あるいは勇者。ビーター、二刀流、黒の剣士。あとはブラッキーだったかな?

 

 英雄に勇者。残りのはよく分からないけど、全くもって似合わない。

 俺はただの中学生だぞ。大役に過ぎる。

 

「俺が、1万人救うのか?」

 

――――――ボクが知ってる最終的な数は6千だか7千だかだった気がするけどね。

 

 大して変わらないっての、そんなの。

 重すぎて吐きそうだ。

 

「……俺がやらないとダメなのか?」

 

――――――……わかんない。キリトだったからってのは確かにあると思うけど、もしかしたらアスナとかが代わりになるのかもしれない。でも、そうなる確証はなにも無いから、なんとも。

 

「そのアスナ? ってのは、えっと、なんだ、勇者パーティの一員的な人か?」

 

――――――えっ、いや、まあ、そうっちゃそうかな、うん……

 

 なぜ言い淀む。

 

「警察とかは……無理だよな」

 

――――――証拠とかはなにもないからね。悪戯扱いされて終わりじゃない?

 

「だよな」

 

――――――だね。

 

 どん詰まり。

 結局のところ、俺が行くか、行かないかしかないって事か。

 ひどい話だな。

 

――――――確証はないから、実際にはなにも起こらないかもしれないよ。一応。

 

「本当にそう思ってるのか? オレ(・・)は」

 

――――――…………思ってない。桐ヶ谷和人の実親は亡くなってしまったし、義理の妹の名前は直葉だったし、剣道についておじいちゃんは厳しかったし。

 

「よく分からないけど、知っている状況と合致してる事が少なからずあって俺に質問してきたんだろ、オレ(・・)は」

 

――――――……うん。

 

「そして、行った方がいいとも思ったんだろ?」

 

――――――な、なんで

 

「死にたくないとか、俺を死なせたくないとかだけ思ってたら絶対にオレ(・・)は行かせようとしないだろ。そうせず、『わからない』『どうする』って言うことは、行った方がいい、行きたいって少なからず思ったってことだ」

 

 そもそも、他人の生き死に関して人一倍うるさいのがオレ(・・)だ。

 おそらくだが、今と同じような状況で自分だけの体があり、自身の意志でどうするか決められる状態なら迷うことはあっても、なんだかんだ行くだろうしな。

 大切な誰かの代わりにとかだったら迷いもせずに突っ込むだろうし。

 

 まあ、とにかく決まりだ。

 

「じゃあやるか」

 

――――――えっ、な、なんで!?

 

「それしかないだろ、実際。じゃないと大量虐殺が起こるらしいし」

 

――――――でも、死んじゃうかもしれないんだよっ!?

 

「かもな。だけど、オレ(・・)の知ってる桐ヶ谷和人は生き残ったんだろ?」

 

 ハッキリと断言はしてなかったが、多分そうだろう。

 なら大丈夫だ。

 

――――――それは! そう、だけど……ボクがいることでもう世界は既に変化してるんだよ! 死なない保証なんてどこにも

 

オレ(・・)がいるから死ぬかもしれない? ないよ、そんなことは」

 

――――――なんで言い切れるのさ!?

 

 なんでもなにも、そんなの決まってるだろ。

 

「ただの桐ヶ谷和人より、俺達二人の桐ヶ谷和人の方が強いからに決まってるだろ」

 

――――――な、

 

「だから大丈夫だ、心配するなって。なんとかなるさ、きっと」

 

 一人より二人の方が強い。当たり前の話だろ。

 だからなにも問題なんてないっての。

 

「だから助けようぜ、1万人。俺とオレ(・・)の二人で」

 

 一人の俺が、英雄で勇者なら。

 二人の俺達は、大英雄で超勇者で。

 1万人だって軽く救ってみせる。そのぐらいできる。

 そうだろ?

 

――――――………………なんていうかさ。

 

「おう」

 

――――――()ってバカだよね。

 

オレ(・・)にだけは言われたくないっての」

 

 

 

――――――じゃあ、やろうか()

 

「おう。やってやろうぜオレ(・・)

 

 これが始まり。

 二人で一人な俺達で1万人を救うなんて馬鹿げた事を成そうとした瞬間。

 

 そうして、俺達の無謀な戦いの幕は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、そうは言ったがどうするよ? ベータ終わったけど」

 

――――――……製品版が出るまで剣道頑張る、とか?

 

 

 切って落とされたのだった。多分。

 

 




作者「二人の勇気が人々を救うと信じて!」

キリト「救えるのか、この俺?」

作者「一応君よりリア充スペックは高いんだぞ。友達たくさんいるし」

キリト「お、俺だって友達くらいいたし……」





今回は、頭にはチラッと浮かんだけど本編には書かなかったシリーズになります。
冒頭にも記載しましたが、本編を越えるレベルでのご都合主義満載の話ばかりですので、どうかご注意下さい。

あと今さらにはなりますが。
この話を投稿後の集計でランキングからは消えますが、短編ランキングの日刊、週間、月間、四半期、年間、累計とそれぞれ日は違いますが1位になっていた事があったり。
SAOカテゴリ短編の総合評価順検索で1番目だったり。
SAOカテゴリの総合評価順検索で4番目だったりと。
読んでくれた皆様の感想、評価、お気に入り、誤字報告のおかげです。ありがとうございました。
この感謝の気持ちをお伝えするのも大変遅くなってしまいましたが、本当に嬉しかったです。ありがとうございました。


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