女魔術師と解毒剤の水薬   作:ダラ毛虫

12 / 20

何だか勢い余って仕上がりました
書き溜めなしだと自己最速記録かもですね

漫画版既刊分を過ぎてしまったので、この先は小説版準拠でございますです




小鬼英雄再び

「扉が破られた!」

「《矢避(ディフレクト・ミサイル)》は使う?」

「……いや、ここは《聖壁(プロテクション)》で防壁を作る。頼んだ」

「はい! わかりました!」

 地下墳墓(カタコンベ)の玄室に閉じ込められ、噴出した毒気を混凝土(コンクリート)で塞ぎ、迎撃する構えをとった一党(パーティー)へ、ゴブリン共が襲い掛かる。

小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)……か」

 その群れの中で、ひときわ大柄な存在。

 ゴブリンロードとの戦いでも、重戦士と女騎士、銀等級の前衛2人がかりで仕留めた、強敵だ。

「《眠雲(スリープ)》!」

 それがどれほど危険か、ゴブリンスレイヤーは勿論、あの戦いに参加した内の1人、女魔術師も知っている。

 だからこそ、その行動に迷いは無かった。

「GORAORARO!!」

「……浅い、か」

 《眠雲》の直後、ゴブリンスレイヤーが投擲した剣が、ゴブリンチャンピオンの右目に突き刺さる。

 致命の一撃(クリティカル)には届かなかったものの、眠りの魔術で動きを鈍らせた隙を突いた、回避や防御をさせない攻撃。

 初撃(ファーストアタック)としては充分だ。

「奴の攻撃を封じろ。タイミングは任せる」

「わかったわ」

 ゴブリンチャンピオンに率いられた、雲霞の如く押し寄せるゴブリンの群れを前に、いつも通りの淡々とした指示。

「切り込む」

「おう、一の太刀は任されよ!」

 蜥蜴僧侶と竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)、そしてゴブリンスレイヤーの背に、後衛の4人は、ほんの一瞬視線を投げて、戦場へと向き合った。

 

 

 

 17匹目のゴブリンを仕留めたゴブリンスレイヤーが、ゴブリンチャンピオンの背後に回り、不意打ち(バックスタブ)を狙う。

「む……!」

 しかしその切っ先が貫いたのは、盾にされた他のゴブリン。

 自らの片目を潰した存在を、薄汚い黄色の左目で捉えた小鬼英雄は、口元に歪な笑みを浮かべる。

「《眠雲》!」

 その剛腕が棍棒を振りかざし、掬い上げるように振るわれる寸前、再びの眠りの魔術が放たれる。

「19」

 それを、ゴブリンスレイヤーは読んでいた。

 必ずこの瞬間に、《眠雲》が使われると。

 だから彼は、防御を捨て、小鬼英雄の懐に飛び込み喉を穿つ。

「GROOOOORB!!」

 だが、敵はチャンピオン。

 様々な巣を渡り歩き、様々な冒険者との戦いを経た、小鬼における英雄。

 《眠雲》を受け、喉に長剣を突き立てられようと、無抵抗に死にはしない。

「……が、ッ!?」

 咄嗟に棍棒を捨て、肉体各部の旋回運動を集約した、至近距離への(フック)

 死に際の小鬼英雄が放った打撃に、金属と肉、骨がひしゃげ、砕ける嫌な音が響き渡る。

 咄嗟に構えた盾ごと打ち飛ばされたゴブリンスレイヤーは、そのまま玄室に幾つも並ぶ石櫃へと叩きつけられる。

「ゴブリンスレイヤーさんッ!?」

「オルクボルグ、やられた……ッ!?」

 叫び声をあげる女神官と妖精弓手。

 

「《サジタ()……サジタ()……ラディウス(射出)》!」

 

 崩れる。

 そう直感した刹那、女魔術師は3回目(最後)の魔術を使った。

 狙いをつける暇は無い。

 ゴブリンの群れに飛び込んだ蜥蜴僧侶まで被害を受けないよう、辛うじて制御するのみ。

「《聖壁》を! 立て直して!」

「……ッ! はい!」

 乱れ飛ぶ《矢》に射殺されるゴブリン。

 振り絞るような女魔術師の声。

 それらが、恐慌状態に陥りかけた女神官に、前を向かせる。

 崩れかけた心で、再び、《聖壁》の奇跡でゴブリンの群れを食い止める。

 

 判定は(ダイスロール)成功。

 

 一党(パーティー)頭目(リーダー)である人物が脱落して尚、冒険者たちは踏み留まった。

 

 

「ん、なろっ! おら、引っ込め、小鬼ばら!」

 鉱人道士の投石紐(スリング)から放たれた石礫が、ゴブリンの群れの最中、竜牙兵を潰され今や1人となった蜥蜴僧侶を囲もうとしたゴブリンの頭蓋を砕く。

「落ち着いて、集中を……!」

 間断なく、一瞬の隙も与えぬ妖精弓手の矢は、ゴブリンを寄せ付けない。

「イィーアァアァッ!」

 父祖を讃える戦の雄叫びと共に、蜥蜴僧侶の牙の小刀が鱗の両腕によって嵐の如く吹き荒れ、ゴブリンたちを尾で潰し、牙で噛み砕く。

「《いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守りください》!」

 震えながら、恐れながら、それでも錫杖を握り締める女神官の祈りが、三度(みたび)、ゴブリンの群れを阻む奇跡の障壁をもたらす。

 

 

 時間は、充分に稼げた。

 

「…………これで、19」

 ぐしゃり、と、血泡を吹きながらも立っていた小鬼英雄の頭に、石櫃の欠片がめり込む。

 巨体に相応の轟音と共に、付近のゴブリンを巻き込み、チャンピオンが倒れる。

「……次は、どいつだ」

 棺桶の釘のように、死へ進む、谷底を吹き抜ける風のように冷たく、無機質で、淡々とした声。

「お前か……?」

 小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)が、そこに居た。

 

 ゴブリンへの殺意が人の形をしている。

 子供程度の知恵でも、理解できた。

 ゴブリンですら、例外なく感じ取った。

 

 これ(・・)と戦えば死ぬ。

 

 

 群れを率いる英雄は死んだ。

 最早、ゴブリンに戦意は残されていない。

 悲鳴を上げ、脇目も振らず、泣き喚き、叫びながら、次々に入口へ殺到し、脱兎の如く逃げ出すゴブリンたち。

 

 

 それらを追撃する余力は、冒険者たちには残っていない。

 それでも、彼は動こうとする。

 

「……私がやっとくから、少し休んで」

 よろよろと足を引きずりながら、死体を確かめようとするゴブリンスレイヤーから、女魔術師が手槍を奪う。

「ゴブリンスレイヤーさん……!」

「オルクボルグ……!」

 バランスを崩しかけた彼を、両脇から支える女神官と妖精弓手。

「無事か」

 頭陀袋のような体から、ぼたぼたと滴り落ちる血が、2人を塗らす。

「はい……!」

「そっちの方が、無事じゃないでしょう……!」

「やれやれ……どうにかこうにか、つうところじゃのぅ」

「一先ずは回復を。拙僧の祈りでも、気休め程度にはなりましょう」

 

 

 満身創痍で、サイコロの目が悪ければ、あわや全滅という危機であったが。

 

「……1度、退く」

「当たり前です!」

「当たり前でしょ!」

 

 彼ら一党は、切り抜けた。

 

 




状態異常無効じゃない大物に初手睡眠
空を飛んでいても睡眠
初見に挨拶代わりの睡眠

よし、普通だ(確信




正直な話、書き始めた時は「《眠雲》連打でチャンピオン封殺いけるくね?」とか思っていましたが、「英雄舐めんな」とばかりに勝手に動かれました
立て直し判定も、もしもリソース尽きていたら失敗していましたね


私の脳内GMがクソ外道であかん (ー_ー;)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。