女魔術師と解毒剤の水薬   作:ダラ毛虫

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収穫祭前日の段階で千字超えたので、とりあえず投下!

祭り当日の描写をどうするかは、未だにうだうだ悩んでいますが (´д`|||)



祭りの前

 収穫祭の前日。

 彼は珍しく休みで、ゴブリン退治の依頼は無し。

 

 ゴブリン退治の依頼は無し。

 冒険者ギルド受付のコルクボードに、ゴブリン退治の依頼が、1つも無い。

 受付に居た職員、昇級審査の監督官に尋ねてみたが、誰かが請けた、という事もない。

 

 本当に、1つも、ゴブリン退治の依頼が無い。

 

「……気に入らないわね」

「何がだ」

 定位置の長椅子で唸る女魔術師の独り言に、ちょうど奥の工房から出てきたゴブリンスレイヤーが応じる。

 わざわざ声をかけてくるなんて珍しい。もしかしたら、昨日妖精弓手から言われていた、仲間への挨拶を気にしたのだろうか。

 そう考えると、偏屈な割に妙に素直なところが、何だか微笑ましく思える。

「おはよう。工房で買い物?」

「ああ」

 円匙(スコップ)を肩に担ぎ、荷物を引っ掻けたまま、ゴブリンスレイヤーが言葉を続ける。

「それで、何が気に入らないんだ」

「ゴブリン退治の依頼が1つもなくて、昨日の無事に助かった人たちの件と併せて、何だかきな臭い、って思ったのよ」

 女魔術師の発言に、ゴブリンスレイヤーもまた、小さく唸った。

 ゴブリン退治の依頼が無い。ゴブリンに動きが無い。

 つまりゴブリン共は、息を潜めているという事だ。

 

 

 これらの事柄が、関連しているかは、分からない。

 何らかの原因や、企みがあるのかも、分からない。

 

 情報が不足している。

 考えねばならない事はいつだって多すぎて、手がかりは少なすぎる。

 何かあるのか、単なる偶然か。

 

 現状では、まだ何も分からない。

 

 そう結論し、2人はそれぞれ、首を横に振った。

 

 

 

 女魔術師と別れ、受付で昨日の報酬を受け取った後、外から駆け込んできた、やけに恥ずかしげな様子の女神官と少し話し、彼女の分の報酬を渡して、ゴブリンスレイヤーは去っていく。

 

 慌てていた女神官は、隅に居た女魔術師には気付かず、工房へ向かった。

「……ああ、奉納舞の衣装、ね」

 工房から響いた老翁の大笑いに、道理で彼と出くわした時に顔を赤くしていたはずだ、と女魔術師は頷く。

 

 明日は収穫祭。

 女神官の舞台は、なかなか楽しみだ。

 

 微かに頬を緩めて、女魔術師は長椅子から立ち上がった。

 

 

 

「…………そういえば、明日の午前中の予定、聞きそびれたわね……」

 ふと思い出して、独りごちる。

 もっとも、ゴブリンスレイヤーの予定は既に埋まっているので、余計な傷を負わずに済んだ、とも言えるが。

 

 

 さて、これからどうするか。

 ゴブリン退治の依頼は無いし、そもそも後衛1人では、下水道も危うい。

 街の近くの林ででも軽く訓練して、火の秘薬とメディアの油(ペトロレウム)を配合した壺に金属片を混ぜてみてーー……。

「ーーその後は……そうね……」

 

 天灯でも、(こしら)えてみようかしら。

 

 収穫祭の風物詩の1つ。

 善き魂を導き、悪い魂を放逐する。死者を招き、帰す道標。

 死者を悼むために生者が拵え、空へ舞わせ、やがて火が消え落下し、地に還る物。

 

 

 訓練は怠らない。

 装備も用意する。

 その合間に、1つくらいなら。

 

 祭りを前に賑わう街で、女魔術師は、(コリウエ)から削り出されたひごと、色とりどりに染められた薄手の紙、そして油紙を、買い揃えた。

 

 




誰に向けての鎮魂かは、読み手の皆様それぞれの受け取り方にお任せします

ゴブスレさんが祭り前日の夜更けまでゴブリン対策に費やし天灯を拵えなかったことに、僅かばかりの後悔を滲ませるなら、女魔術師は天灯を飛ばすしかあるまい
とまあ、そんな感じの今話でございます
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