女魔術師と解毒剤の水薬   作:ダラ毛虫

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描写はカットしていますが、内臓臭い消しや要救助者保護は、原作通り進行しています



なお、作中の《矢》の魔術に関しては独自解釈ですので、ご了承ください



小鬼以下の人食い鬼

「…………」

 ふう、と息を吐き、汗を拭うが、音は立たない。

 女神官の《沈黙(サイレンス)》の奇跡による、無音の空間。

 そんな中、鉱人道士の《酩酊(ドランク)》で爆睡中のゴブリンどもを、拾った粗末な槍で喉を突き突き、永眠させていく。

 

 単調に作業的に屠殺を繰り返しながら、女魔術師は、もし自分が《眠雲(スリープ)》を修得していたら、と考えるが、すぐに呪文の回数に思い至り、状況に変化なしと結論する。

 普通に使えるのは2回、無理をして3回。

 4、5回使えるという鉱人道士から呪的資源(リソース)を消費するのは、考えるまでもなく当然だ。同様の魔術を覚えたからといって、仕事が振られる可能性は低い。

 そうなると、この一党(パーティー)において、女魔術師が負うべき役割とは何だろうか。

 予備の呪文遣い(スペルスリンガー)ではなく、自分だからこそ、の役割とは。

 

 

 思考する。思考する。思考する。

 

 どんな呪文も使い方次第。

 

 魔女の言葉を思い出し、更に深く思考する。

 

 

 血脂にまみれた槍を捨て、次を拾い、体重をかけて、ゴブリンの喉を突く。

 こういった単純な作業の繰り返しは、考え事をするには、都合が良い。

 

 

 

 

 

 

 

「……人食い鬼(オーガ)……!」

 

 妖精弓手の呟きが、音の戻った世界に木霊する。

 予想もしていなかった強敵の出現に、一党の顔に緊張が色濃く滲む中、唯一、ゴブリンスレイヤーだけは、心底面倒臭そうな態度を崩さない。

 憤怒と共にオーガが巨大な《火球(ファイアボール)》を放ち、女神官の《聖壁(プロテクション)》を突き破る。

 一党が連携し反撃を開始するが、戦況はじり貧。

 

 オーガの足の腱を狙ったゴブリンスレイヤーの一撃も、岩のように硬い皮膚に弾かれる。

 

 姿勢を崩した戦士目掛けて、オーガが戦鎚を振りかざしーー……。

「《トニトルス(雷電)……オリエンス(発生)……ヤクタ(投射)》!」

 女魔術師が咄嗟に放った《稲妻(ライトニング)》の魔術に穿たれ、刹那にも満たない時間、その動きを止めた。

 

「ちょこざいなぁっ!!」

「が……ッ!?」

「オルクボルグ!?」

「ゴブリンスレイヤーさんッ!?」

 

 それでも、回避する隙を生むまでには至らない。

 強引に振り抜かれた掬い上げるような一撃で、ゴブリンスレイヤーの身体は宙を舞い、石の柱に叩き付けられた。

 

 

 

 

 

 

 足元の石を拾い、投石紐(スリング)を巻き付け、投げる。

 敵の注意(ヘイト)を集めすぎないようにしつつ。攻撃の余波を受けないようにしつつ。

 

 

 並行して、思考を高速で巡らせる。

 今、自分が何をすべきか。

 

 考えろ。

 思考を止めるな。

 発想を狭めるな。

 想像力は武器だ。

 考えなければ、死ぬだけだ。

 

 

 女魔術師が得意とする《火矢(ファイアボルト)》と、攻撃呪文の基礎である《力矢(マジックミサイル)》は、術を構成する3つの呪文のうち、1つ目と3つ目が共通している。

 

 2つ目の呪文に、《点火(インフラマラエ)》のように属性を表す呪文を入れれば、その属性の《矢》に。《必中(ケルタ)》のように、機能を表す呪文を入れれば、その機能が付与される。

 

 現在の状況。

 敵の情報。

 

 考えろ。

 考えろ。

 

 自分の《稲妻》も、鉱人道士の《石弾(ストーンブラスト)》も、効果は薄かった。

 妖精弓手の矢や、前衛組の刃が与えた傷も、すぐに再生している。

 潰れたはずの眼球が瞬く間に癒える、呆れた治癒力だ。

 鉱人道士ならともかく、女魔術師の魔力では、《火矢》でも決定打には届かない。

 《力矢》の威力では、『必ず(あた)る』としても、ダメージにはならない。

 

 自分の魔術では、この敵は倒せない。

 そして、『自分がこいつを倒す』必要なんて、無い。

 

 時間を稼ぐ。

 次で呪文は2回目。

 更にもう1度使おうと思ったら、それこそ、《聖壁》を超過祈祷(オーバーキャスト)で重ねた女神官のように、限度を上回り『身を削る』つもりでやるしかない。

 

 

 それでも、迷うな。

 

 

 

 

 視界の隅で、ゴブリンスレイヤーが身を起こしたのが見えた。

 盾と革鎧は大きくひしゃげ、鉄兜はへこみ、明らかに満身創痍。

 

 だが、彼が立って、何かをしようとしている。

 

 

 

 

 呪文や奇跡の使用は節約して、必要な時は躊躇わない。

 

 この瞬間の時間稼ぎこそが『必要』なタイミングだ。

 

 

 

 これで自分が役立たずになっても、稼いだ時間で、あの男が『きっと何かやらかす』のだから。

 

 

「《サジタ()……サジタ()……》」

 

 属性は要らない。

 必中であっても今は意味がない。

 

 《(サジタ)》に《(サジタ)》を重ね、とにかく数を増やし、

「《ラディウス(射出)》!」

 敵がいる方向へと、解き放つ。

 

 

 一斉に飛び立つ魔力の矢は、しかし、オーガの強靭な肉体に弾かれる。

 

「鬱陶しいわ! 小娘がぁ!

 この程度で我を殺せるとでもーー」

「思っていないわよ。当たり前でしょう?」

 

 それでも、女魔術師は、オーガの威圧に対してすら、不敵に笑った。

 

「あなたを倒すのは、あの人の仕事だもの」

 

 あの男なら、『この程度』のこと、きっとどうにかしてしまうのだから。

 

 

 

 

 

 そしてオーガは、深海の水圧で《転移(ゲート)》の巻物(スクロール)から撃ち出された海水の刃に両断され、名前も覚えられずに死んだ。

 

 

 

 

 

 

 疲れきって、遺跡の入口まで迎えに来ていた馬車に乗り込み、各々が身体を休める。

 

「彼、いつもあんなコトばかりやってるの?」

 妖精弓手が、女神官と女魔術師に問う。

 2人の少女は顔を見合わせて、互いに困ったような表情を浮かべ、答える。

「いっつも、こんな感じです」

「そうじゃない時がないくらい、ね」

「……でも、ああ見えて、結構、周り見てるんですよ。この人」

「…………疲れている時に惚気(のろけ)ないでくれる?」

「惚気てないです」

「はいはいごちそうさまごちそうさま」

「まったくもう……」

 眠っている面々を気遣い、小さな声で、囁くように笑い合う少女たち。

 

 妖精弓手は、そっか、と呟いて、いつか必ず、彼と、この2人の少女も一緒に、『冒険』をさせてやろうと、心に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女魔術師が放った、術者の能力に応じて本数を増やす《力矢》の魔術の、更に倍の弾幕。

 

 横殴りの矢雨が如し、つい先ほど生まれた名もなき魔術は、今回のような『大型の難敵の足止め』や、或いは、『大量の雑兵の制圧』に、極めて有効だった。

 

 

 

 彼女が、変幻自在に《矢》の魔術を操る『射手』と呼ばれるようになるのは、まだまだ何年も、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の称号を得る少し前くらいに、先の話。

 

 いくつもの『冒険』の、後のお話。

 




話の展開的に、「この呪文アレンジのために書き始めたんじゃ?」と思われそうですが、違います

このシーン思い付いたの、魔女さんの回を書いた後です←安定の行き当たりばったり



ついでに、ここまで書いてきて思ったのは、うちの女魔術師にとってゴブリン退治は、「非常に悪質な害獣駆除」とかそんな認識かな、と

ゴブリン相手に「戦争」しているゴブスレさんとは、またスタンス違いますね
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