女魔術師と解毒剤の水薬   作:ダラ毛虫

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戦じゃー!

宴じゃー!



戦と宴

「稼ぎ時だ! かっ飛べ!」

 雄叫びと共に、冒険者たちが突撃する。

 敵味方入り乱れての乱戦。

「これじゃ、味方を巻き込みかねない呪文は使えないわね……。はぁ……仕方ない、か。

 《サジタ()……サイヌス(歪曲)……オッフェーロ(付与)》」

 魔女も使っている《矢避(ディフレクト・ミサイル)》の魔術だが、銀等級の彼女であっても、味方全員を呪文の効果範囲に入れることはできない。

 で、あるならば、より前線に近い位置で同じ魔術を使い、穴を埋める役目が必要だ。

「前衛組は、しっかり守ってよ、っと」

 その役目を請け負った女魔術師は、《矢避》の術を維持しつつ、振り回した投石紐(スリング)から放った石礫で、味方の隙間を縫いゴブリンの頭蓋を砕く。

 日頃から魔術と併せて練習し、実戦でも幾度となく用いてきたその精度と威力は、黒曜等級の後衛としては、なかなかの完成度だ。

 

 

 

「ライダーだ!! 狼に乗ったゴブリンが来るぞ!!」

「ライダーが来たぞ!!」

「所定の位置まで戻れ!!」

 

 目まぐるしく変わる戦場。

 

「おぐぁああっ!?」

「あ"……っ」

 

 ゴブリンスレイヤーの戦術が尽く型にはまり、極めて有利に進んでいるものの、それでも、味方にも被害は出る。

 

「何かとんでくるぞ!! 気をつけろ!」

 どちゃ、と湿った音を立てて、捻り潰された(・・・・・・)死体が、陣地まで投げ込まれた。

 

「今度は田舎者(ホブ)か!」

「……いや」

 小鬼英雄(チャンピオン)

 ゴブリンでありながら、オーガの如き巨体の、強大な敵が、増援のゴブリンを率いて出現した。

 対する冒険者たちの先頭に立つのは、『大物喰らい』の重戦士。

 同じく銀等級の蜥蜴僧侶や女騎士と共に、並みの只人(ヒューム)より巨大なゴブリンの群れと向かい合う。

 

「……田舎者(ホブ)……先祖返り、か……」

 

 その戦列の中に、女魔術師の姿もあった。

「別に、『あの時』の奴とは関係ないし、敵討ちなんて訳でもないけれど……」

 かつて、初めての冒険の際、女武闘家を下したゴブリンと、同じ種類。

「呪文がまだ2回残っているから……1匹、貰うわよ」

「好きにしな」

 

 重戦士の返事の直後、1匹の田舎者(ホブ)の頭が、《火矢(ファイアボルト)》で消し飛んだ。

 

 

 

「…………経験さえ積めば、『私たち』の敵じゃないわよ」

 再びの乱戦と化した戦場から一旦下がり、小休止に水を1杯飲み干して、女魔術師は、誰に聞かせるでもなく呟いた。

 ふん、と鼻を鳴らすと、彼女はまた、杖と投石紐を手に、戦場へと戻る。

 1匹でも多く、ゴブリンを仕留めるために。

 

 

 

 

 

 

 

「私たちの勝利と、牧場と、街と、冒険者(わたしたち)! それから、いっつもいっつもゴブリンゴブリン言ってる、あの変なのに!」

 合戦の返り血も乾かぬまま冒険者ギルドに集った、傷だらけの冒険者たち。

「かんぱーい!!」

 誰もが、妖精弓手の音頭にわっと歓声をあげて、次々に杯を掲げ、中身を飲み干す。5度か6度目の乾杯でも、勢いはまるで衰えない。

 

 怪我人は居るし、帰って来られなかった戦死者も、幾人か居る。

 それでも……だからこそ、弔いも兼ねて、明日は我が身と理解した上で、冒険者たちは大いに騒ぐ。

 笑いながら、酒を飲み、肉を食い、余興を囃し立て、宴を盛大に盛り上げる。

 

 

 大騒ぎの片隅、定位置の長椅子に、彼の姿があった。

 ゴブリンロードとの戦いで傷めたのか、左腕を肩から吊っているが、庇うような様子は見られない。大事はないのだろう。

 先程まで、幼馴染みと聞いた牛飼娘と話していたようだが、今は目を覚ました女神官と、何やら会話している。

「……結構、モテるのよね」

 女神官に妖精弓手に受付嬢に牛飼娘に、と、指折り数えた女魔術師は、5本目の指を曲げようとして、眉をしかめて停止する。

 

 眉間に皺を寄せて、しばらく唸り、はあっ、と息を吐いて宴へと視線を戻した直後。

「あぁーーーッ!! オルクボルグが兜はずしてるー!?」

 真っ赤な顔で長耳をふるふる揺らして、叫びながら指を突きつける妖精弓手につられ、再度ゴブリンスレイヤーたちの方を向いた。

 途端に、なんだなんだとざわめき彼に詰め寄る冒険者たち。

 フハッ、と勢いよく立ち上がる受付嬢に、きょとんとした顔の牛飼娘。

 トトカルチョ表まで持ち出して、寄ってたかって、騒々しく、賑やかで、無遠慮で。

 

 そんな中で、彼は微かに、笑った。

 

 

 その笑顔を見た女魔術師は、俯いて、顔を隠すように、普段なら頼まない上酒を、ちびちびと飲む。

 何となく、今の自分の顔だけは、誰かに見られたくなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は、ほんの少し才能と素質に恵まれただけの、決して特別ではない、どこにでもいる、神々の駒の1つでした。

 

 ほんの少しサイコロの出目が悪ければ、そこでもうお仕舞いです。

 生まれとか能力とかチートとかクソ喰らえな、神々にサイコロを振らせようとしない、どこぞの彼とは違いました。

 策を練り、考え、行動し、鍛え、機転を利かせても、彼のように徹底的とはいきません。

 最後はどうしても、運任せ(サイコロ次第)です。

 

 

 彼女はこれからも、神々に翻弄されるでしょう。

 サイコロ次第で、彼女の運命は転がされるでしょう。

 彼女はどこにでもいる、駒の1つに過ぎないのですから。

 

 それでも、彼女は冒険者です。

 

 これからも彼女は冒険をし、時に勝ち、時に負け、いつかは死んでしまうでしょう。

 

 

 それでも、彼女は、冒険を続けます。

 

 生きている限り、今日も、どこかで。

 

 

 




ゴブスレさんと女神官は原作通りの立ち回りです


色々駆け足で進んだはずが、ようやく小説1巻部分まで終了
次回からは、いよいよ2巻へ突入です
エロイン大司教様の登場……は、次の次くらいかな?
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