黒山羊さんの日常   作:赤紫蘇 紫

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27万文字チャレンジが始まったので、とりあえずストックから一本。正義の味方であるたっち・みーが、悪魔であるウルベルト・アレイン・オードルに唆されて"正義"を見失う話の出だしのみ。この話の次の更新は未定です。(アイレベ優先の為)


正義と、悪と。【たっち・みー&ウルベルト】

sideたっち・みー

 

「アンタがシてたロール、気付いてないとでも思ってたのかよ?」

 そう言うのは、黒山羊頭の異形。同じギルドに所属している、悪の大魔法使い(自称)、ウルベルト・アレイン・オードルそのヒトだ。

「……何の事か、私にはさっぱりわかりませんよ、ウルベルトさん」

 彼の言葉に、一瞬ギクリ、としてしまったなんて……どうしても、知られる訳にはいかない。全身鎧を纏っていて本当に良かった、と思う。……まぁ、脱いでいたとしても、蟲の異形種である私の表情など、異種族の彼に読むことは出来ないだろうけど。

「たっちさん。こっちに転移して来て……もう、半年です。その間に、皆どんどん人間らしさを失って……ある程度、折り合いを付けて来たじゃないですか?」

「……えぇ、そうですね。タブラさんも、ぷにっと萌えさんも……種族らしく振る舞われるようになりましたね」

 アインズ・ウール・ゴウンでも知者として知られているこの二人。彼らはその種族もあって、カルマ値がマイナスに振り切っていて。更には、主食が知的生命物の脳味噌に、人間種だ。彼らも、当初は飲食不要の指輪を装備していたが……。

「そりゃあ、そうでしょう。だって、もう俺たちは人間じゃないんですから。どう足掻いても、異形種ですし……人間に、嘗てのように共感なんか出来っこないんですし」

 そう言うウルベルトさんは、酷く愉しそうで。元々悪の大魔法使いとしてのロール回しをしていたからか、転移前も今も、彼の発言は変わっていないように思えた。

「それは、そうかもしれませんが……」

 彼の言っていることは、正しい。私だって、そうなのだから。

 私のカルマ値は、プラスの方向にカンストしている。それは、聖騎士を目指したからこその設定だった。だが、私はNPCのセバスのような完全な善人には成れていない。……ウルベルトさんだって、そうだ。彼は私とは逆に、マイナスにカンストしている。ギルマスのモモンガさんと一緒だ。だけど、モモンガさんも特に残虐行為を好む訳でもなく、現地住民とも友好的に過ごしている。それは、ウルベルトさんも同じで。悪魔なのに、人間を甚振ったりしているのは見た事がない。……ひょっとしたら、私の見えない場所でしているのかもしれないが。少なくとも、私に気付かせるような事は、していない。

「今の貴方は、酷く歪です。欲求の全てを殺して……帰る方法を探して。精神は、摩り切れる直前だ。違いますか……?」

「……」

 悔しいが、彼の言う通りだ。こちらに転移して、ずっと元の世界に帰る方法を探して……それでも、手がかりさえも見つからず。体の奥底から湧いてくる、原始的な欲望……"食欲"をも見て見ぬ振りをして。それを抑える為に、好みでもないナザリックの食事を食べて……。

「たっちさん。貴方は、別に悪くない。だって、そうでしょう?誰だって、転移するなんて想像もしてなかったでしょうし……其れを見据えて種族なんて選んでない。貴方は、単に憧れの正義の味方を模しただけだ。でしょう……?」

 そう言うウルベルトさんの声が、やけに甘く耳に残る。彼の声は、甘さとはほど遠い辛辣な物であったように記憶していたが……。

「そう、ですね……。私は、ずっと憧れていました。悪の組織に改造手術をされた、悲劇のヒーロー。彼と同じ、蟲の異形種があると知って……フレーバーテキストも気にせず、カルマ値と職業を決めた」

 私がそう答えると、ウルベルトさんは小さく笑う。そうだろう、とでも言うかのように。

「……ユグドラシルでは、実際の蟲とは食べる物が違いましたからね。蔦系植物のヴァインだって人食いですし。其れが、動ける蟲なら尚のこと。それに……異形種は中立か悪に偏った種族が多いですからね、デフォルトですと」

 彼の言葉に、頷く。それは本当の事だったから。

「えぇ。それでも私は……彼の姿で、彼のように赤いマフラーをはためかせ……正義を、行いたかった」

 そう心情を吐露すると、ウルベルトさんは悪魔らしい邪悪な笑みを浮かべる。黒山羊の顔でそんな風に嗤えるとは思っていなかったので、ちょっと驚く。何と言うか……リアルの山羊、というよりは人めいた山羊、と言った方が良いのだろうか?表情筋の動きが、動物のそれとは異なっていて。彼が普通の山羊とは違い、"山羊頭の悪魔"であると思い知らされる。

「彼方なら、問題無かったんでしょうね。俺みたいに、貴方の偽善者ぶった態度が鼻についていたヤツも出たでしょうけど……ただ、それだけですし。でも、今は……」

 彼はそう一度言葉を切ると、ゆっくりとペストマスクを外す。マスクの下には、煌めく紫水晶の輝き。そう言えば、彼は厨二病だったな、とそのオッド・アイを見て思い出す。

「……今は、何です?言いたい事があるのでしたら、ハッキリと言ったらどうですか?ウルベルトさん」

 ほんの少しだけ苛立ちながらも、彼よりも年長者である自覚はあったから、なるべく感情を抑えつつそう言えば。ウルベルトさんは紫水晶の瞳を金の瞳と同じ様に笑みの形に変えて口を開く。

「現実から目を逸らした貴方の正義程、軽く白々しい物はありませんよ。貴方が此方でも正義を名乗るのなら。覚悟を決めるべきだと俺は思いますね」

「……覚悟を、決める……?」

「えぇ、そうですよたっちさん。貴方が目指していた正義の味方も、覚悟を決めて正義を行っていたでしょう?だから、貴方もそうすべきなんですよ。此方の現実を、きちんと見据えた上で」

 そう言った彼の声は、驚く程甘く私の耳朶に残った。

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