※ウルベルトさんのデミウルゴスへの愛情は、創造物に対するものです。
後日、ウルベルトさん視点を追加する可能性が高いです。
改ページのやり方がわからないので、新規投稿するよりは、と完結のつもりのコレに追記。
「この地に転移してきて、まだ一ヶ月足らずだが……お前は本当に良く私に仕えてくれたな」
自室で、デミウルゴスと二人きり。他の警護は外へ出し、俺はデミウルゴスに話し掛ける。
「もったいないお言葉です、ウルベルト様。私は貴方様の僕として当然の事をしただけです」
「当然の事?まるでメイドのように甲斐甲斐しく私の世話をやくのもか?」
表情一つ変えずそう言い切る悪魔に、更にそう言うと。
「勿論です。私にとって一番大切な仕事は、ウルベルト様をお守りすることです。それ以上に大切な仕事などございません」
……と、返って来た。
「そうか。……この一ヶ月、お前と過ごして思ったことがある。お前は、実に器用に何でもこなしてしまうから、お前だけで良いのではないか、とな」
そう言って、デミウルゴスの反応を伺う。デミウルゴスは、誇らしげな表情をしていたが、口は開かない。
「お前は本当に最高の悪魔だな、デミウルゴス」
目の前で跪き、俺の命令を待っているデミウルゴスに続けてそう言うと、デミウルゴスは嬉しそうにゆらゆらと左右に尻尾を揺らす。
「ウルベルト様のご期待に応えられたのであれば、これに勝る喜びはございません」
室内の光を受けてキラキラと輝く宝石の瞳。デミウルゴスは、目を開いて俺を真っ直ぐに見つめながらそう言った。
「……人間を堕落させる事が上手いのは知っていたが……悪魔の私にまで仕掛けるとはな」
小さく笑いながらそう言うと、デミウルゴスの尻尾はピタリと動きを止める。
「……気付いて、いらっしゃったのですか」
切なげな顔でそう言われて。俺は、デミウルゴスの心情をほんの僅かに知ることが出来たような気になる。
「当たり前だ。あんなに甘い、夢のような日常を過ごしていたら誰だって気付くのではないか?なぁ、デミウルゴス」
今まで腰掛けていたソファから立つと、俺は跪いているデミウルゴスの横に立つ。緊張したように躯を強張らせるデミウルゴスの肩に触れると、その耳元で優しく囁く。残酷な、言葉を。
「お前は、俺が創った最高の悪魔だ。だから、今回のお前の行動を咎めるつもりはない。お前は私が望んだように、上位の悪魔としての振る舞いをしただけなのだから」
そう言って、俺はデミウルゴスから距離を取り、再びソファに腰掛ける。
「ウルベルト様!私は……!」
俺の動きに、捨てられるとでも思ったのだろうか?悲痛そうな表情で、デミウルゴスが叫ぶ。だが、今の俺にはそれすらも心地良く響く。……随分、人間離れして来たものだ。
「私は?何だ、デミウルゴス?言いたい事があるのなら、言うがいい。お前を罰するつもりはないから、安心して全てを私に曝け出せ」
心底楽しそうに笑いながらそう言うと、デミウルゴスは縋るような目で俺を見る。
「隠し事をするな、とは言わない。私だって、お前に隠し事くらいしているからな。だが、今、この機会を逃したなら、私はもう二度とお前に心情を吐露しろ、などと言わないかもしれないぞ?せっかくのチャンスを、賢いお前は逃したりはしないだろう?」
デミウルゴスがどう答えようと、多分俺は愉しいのだろう。これからデミウルゴスがどう出るか。それを考えるだけでワクワクしてくるのだ。
「……ウルベルト様を、もう二度と失いたくないと、思いました。ナザリックでお過ごしになる時間が快適な物であれば、外になどお出にならないと、浅慮致しました……」
まるで、懺悔をするかのようにデミウルゴスは俺にそう告げる。今までの献身的な態度は、やはりそういった意図があったのか、と腑に落ちる。
「賢いお前にしては、随分と浅い考えで行動したな?」
「……はい。今はただ、恥じるばかりです……」
項垂れているデミウルゴスに、笑みが止まらない。幼子のような思考と行動が、知恵者として創られたはずのデミウルゴスとはあまりにもかけ離れていて。それだけ、周りが見えなくなっていたのか、と思うと愛しさと愉悦が混じり合ったような奇妙な感情で胸が一杯になる。
「私が人間なら、全てをお前に任せ堕落した一生を過ごしたかもしれないな。お前は私が望むことを察する能力にも長けているし、終いには名を呼ぶだけで全てが用意されるのではないか、と思ったぞ?」
茶の支度や娯楽の供給など。何もかもが、先回りされて用意され。不足を知らないまま過ごした一ヶ月。俺が異形の悪魔でなかったら、完全にデミウルゴスに依存していたに違いない。
(そういや、この一ヶ月性欲は感じなかったが……俺が言ったら、誰か攫ってでも来たんだろうか?)
もし俺が酒池肉林を望んだなら、コイツは簡単に用意しそうだったから思わずそんなことを考えてしまった。
「ウルベルト様には、何不自由なく過ごしていただきたかったのです。ナザリックこそが最高だと、そう思っていただければ、下らない些事が多い外界になど行かれない、と……」
「……馬鹿だな、お前は」
笑いながら呟いたその言葉に、デミウルゴスはその顔色を蒼白にする。褐色の肌が青褪める所なんて、初めて見た。
「ウルベルト様!ご不快にさせて申し訳ありません……!今すぐ自害を……!」
(……ナザリックの者たちって何ですぐに死のうとするんだろうな……)
「良い。私の事を想うなら、自害など許さん。お前は永久に私の僕だろう?デミウルゴス」
静かに語りかけると、デミウルゴスがこちらをジッと見て叫ぶ。
「勿論です!私は永遠に、ウルベルト様だけの僕です」
「……では、私の所有物が勝手にその命を捨てるなど、この私が許す訳などないだろう?」
再度ソファから立ち上がり、跪いたままのデミウルゴスの頬に触れる。感じる、体温。デミウルゴスが、生きている証。単なるNPCが、一個の生命体となった証。その体温を、愛しく思う。異形と化したこの身でも、自らが創ったモノに関しては情が残るのだろうか。
「ウルベルト、様……」
「安心しろ、デミウルゴス。モモンガさんが居る限り、俺はここに居る。消えたりなんか、しない。……もし、俺が消えたとしたら、それは俺の意志ではない。だから、その時は」
シルバーのイヤーカフと、プラチナのピアスの填まった耳元で、続けて囁く。
「お前が、俺を見つけろ。どこに俺が居ても、必ず探し出せ。……誓えるか?」
「……!誓います!何があっても、ウルベルト様を探し出すと!!」
涙の滲んだ瞳は、先程よりも輝きを増していた。
(……あぁ、本当に、綺麗だ)
そう思ったら、衝動的に舌を伸ばしていた。この身になって変わったのは、精神だけじゃない。肉体も、悪魔のそれに変化していて。宝石の瞳に伸ばした舌は、異形のそれ。長い舌でデミウルゴスの宝石の瞳を味わうと、表面の水分が舌に触れる。透き通るような透明な味。デミウルゴスは、大人しく俺に眼球を舐められている。
(舐めといてなんだが、デミウルゴスは目を舐められても痛みは感じないんだろうか?そもそも、カットされた宝石って視界がどうなってるんだろうな……)
そんなことを考えながら、デミウルゴスの瞳の涙を綺麗に嘗め取る。
「泣くな、デミウルゴス。お前は私が創造した、最高の悪魔だろう?なら、もっと堂々としないとな」
頭を撫でると、ツンツンとした感触。セットされた僅かに固い髪。整髪料を落とすともっと柔らかになるのは、既に知っている。
「はい……ウルベルト様」
まだ涙を滲ませる、俺の理想の悪魔。
知恵者の筈なのに、精神的にはまだ幼さを見せるアンバランスな悪魔を愛しいと思いつつ、俺は今後のことに頭を巡らせたのだった。