ウルベルト様は、至高の方々とお話しになる時は御自身のことを「俺」と仰って、砕けた口調でお話しになる。我々僕が居る場では、至高の方々とお話しになる際も「私」と仰って、丁寧な口調で話されるのだ。
「悪魔を統べる者として、それなりの話し方をしないとな。その方がお前たちも良いんじゃないか?」
と、そう仰ったウルベルト様だが、僕に命じる時はまた口調が違う。ただ、それでもウルベルト様の威厳は損なわれたりはしない。第七階層の者たちは全員ウルベルト様に忠誠を誓っているし、ウルベルト様が御命じになったなら皆即座に命を差し出す事は間違いない。
……それでも、ナザリックがこの地に転移してきたばかりの時は、ウルベルト様は我々の忠誠を信じて下さらなかった。非常事態で予想外の事態が重なった事もあるので、聡明なウルベルト様のお気持ちは理解出来なくもなかったが、それでも苦しくて。私は誠心誠意ウルベルト様にお仕えして、私の忠誠を信じていただこうと努めたのだ。
……純粋に、それが目的だった筈なのだ。それなのに、私は。ウルベルト様を、この地に縛りたいと思ってしまったのだ。ここで全ての用が足せるのであれば、外界などに行く必要は無いと、そう思って欲しかったのだ。そして、他の僕が居なくても、私が居れば良いと。そう思って欲しかったのだ。
何年、ウルベルト様と離れていただろうか。ウルベルト様がお造りになったこの第七階層には、ウルベルト様の深い愛が込められていることは間違いなく。ここに居ると、心が満たされていた。ウルベルト様がお造りになったこの地は素晴らしく、我々が過ごしやすいよう各所に配慮があった。ウルベルト様の想いが詰められたこの地で、我々はずっとウルベルト様のお戻りを待っていたのだ。
モモンガ様は頻繁にお戻りになっていたから、ウルベルト様もいつかきっと……そう思い待ち続けて。今、ウルベルト様はこの地にお戻りになった。
……そうなったら、今度は欲が出たのだ。本当に、浅ましいことだけれど。
何処にも、行かないで欲しい。
ずっと、ここに居て欲しい。
そう思ってしまったのだ。単なる僕の分際で、主人の行動を阻害する権利などない。ある訳が無いのだ、そんなものは。なのに、ウルベルト様の望みを叶え続け……私は、真綿で首を締めるがごとく、緩やかに彼の方の興味をナザリック以外には向けないように仕向けた。そしてついには、『最高の悪魔』というお褒めの言葉を頂いた。
……だが。聡明なウルベルト様が、私の児戯にも等しい行為に気付かぬ筈もなく。御不興を買ってしまったかと思っていたのだが、慈悲深いウルベルト様は私をお許し下さった。それだけでなく、永久に仕えるよう御命じ下さったのだ。僕として、これほど名誉なことが他にあるだろうか?
思わず涙を零してしまった私を、ウルベルト様は叱るでもなく優しく眼球を舐めて慰めて下さったのだ。その寛大なお心に感謝しつつ、私はウルベルト様に改めて忠誠を誓った。
……万が一の時、絶対にウルベルト様を探し出す。その命に従うべく、私は行動を開始したのだった。ウルベルト様が、私の前で「俺」と仰ったことに幸福を感じながら。