黒山羊さんの日常   作:赤紫蘇 紫

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前の話の直後の話。

※魔法捏造有り、ルビ無し。心の目で読んで下さい。


2DAYS

「……俺ね、ウルベルトさんが最初に目を覚ましてくれて本当に嬉しかったんです。それに、貴方はちゃんと気付いてくれた。……ねぇ、ウルベルトさん。俺と話、しませんか?」

 モモンガは、自室で自分の影を見つめてそう言うと。愉しそうに、笑った。

 

 

 

sideウルベルト

 

「……あー……モモンガさん、気付いてたか。抜けてるってのは訂正しないとな」

 夜、影の悪魔から報告を受けて。俺は頭を抱えた。

(……愉しそうに笑う、か。あっちのモモンガさんからすると想像も出来ないが……一日とはいえ、先にこっちに来て……人間を殺して。何か、モモンガさんの中で変化があったんだろうな)

「ウルベルト様、モモンガ様に対しての今後の行動はいかが致しましょう?」

 影の悪魔に訊かれ、俺は一瞬悩んだ後に口を開く。

「昨日の私の指示通りにしておけ。私はこれからモモンガさんと直接話してくる」

 そう言うと、俺は<伝言>を起動しモモンガさんへ繋ぐ。

(あー、やっぱり専用回線はまだ使えないか。早めに習得しないと内緒話が出来ないな)

「モモンガさん。今すぐ行きたいんですが……傍に、誰か居ますか?」

『あぁ、ウルベルトさん。待ってましたよ、あなたから連絡が来るのを。こっちはあなたの配下の影の悪魔だけです。誰にも部屋に入らないよう言いつけますので、五分後に来て下さい』

「わかりました、では五分後」

 <伝言>を切り、溜息を吐く。

「さて。我が敬愛するギルマスはどう出るんだろうな?……デミウルゴス。私に何があっても取り乱すな。冷静に事を運べ。お前なら、何がモモンガさんの為になるかわかっているのだろう?」

「……はい。ウルベルト様、お気を付けて」

 俺の言葉にデミウルゴスは一瞬尻尾をピクリ、と反応させたが静かにそう答える。

「そんなに不安そうな顔をするな。あの優しいモモンガさんが、不穏な真似をする訳ないだろう?……私の言葉は、まぁ単なる保険だ。どうにも心配性でな、手を打っておかないと不安でならない」

 そう言って、少し冷めた紅茶を口にする。ほんの少し苦みを増したそれは、どことなく今のモモンガさんを思わせた。

 

 

 ジャケットから取り出した懐中時計を見ると、約束の時間まであと三十秒ほどだった。

「……そろそろだな。では、行ってくる。<転移>」

 そう唱えると、あっという間にモモンガさんの私室の前に着く。

「……モモンガさん、俺です。入って良いですか?」

「あぁ、ウルベルトさん。お待ちしてました。さぁ、入って下さい」

 そう、扉の中から声がした。……いつもと変わらない、穏やかな声だ。俺はそっと扉を開くと音をさせないように中へ入る。滑り込むように。

「ウルベルトさん、念の為<静寂>掛けてくれません?一応、内密にしたいので」

 穏やかに、モモンガさんがそう言った。俺は素直に従う。

「わかりました。……<静寂>」

「ありがとうございます。じゃあ、<施錠>。これで、とりあえずは安心ですかね?ウルベルトさん、こちらへどうぞ。一応、コーヒーとケーキを用意して貰いましたので、それでも召し上がって下さい」

 俺はモモンガさんに案内された席へ座る。そこには、まだ熱々の淹れたてに見えるコーヒーが置かれていた。それと、ケーキ。種類はガトーショコラだ。

「ありがとうございます。では、いただきますね」

 幸いにして、さっきは紅茶だけで茶菓子は無かったから、余裕で入る。髭に付きそうでちょっと面倒だが、優雅な悪の大魔法使いウルベルト・アレイン・オードルとしては見事に食べきらないといけないだろう。

「美味しいですね。ケーキ単品だと俺には甘過ぎますけど……コーヒーとだと、丁度良い」

「お口に合ったようで良かったです。俺は見ての通り食べられませんから……」

 淋しそうにそう言ったモモンガさん。その様子は、以前の彼と変わらないように見える。

「……モモンガさん。いつ、気付きました?」

 ケーキを半分ほど食べ終えた頃、そう口を開く。すると、目の前のモモンガさんが小さく笑ったような気がした。眼窩の赤い炎が、小さく揺らめく。

「そうですね……ウルベルトさんが、影の悪魔に命令を下した時から、ですかね」

 小さく首を傾げてそう言うモモンガさんは、何処か無邪気で。子供のような可愛さがあった。

「最初からじゃないですか。嫌だなぁ、言ってくれたら良かったのに」

 コーヒーで口直しをしつつそう言うと、モモンガさんは笑顔で答える。骸骨は表情が変わらないが……俺にはそう見えた。

「言う暇、無かったじゃ無いですか?でも、最初に目が覚めたのがウルベルトさんで本当に良かったです。影の悪魔にも気付いてくれたし、ちゃんと『使って』くれましたしね」

「……俺が気付かなかったら、モモンガさんがそのまま『使う』つもりだったんでしょう?全く、俺、酷い道化じゃないですか」

「そんな!俺、ウルベルトさんにはすごく感謝してるんですよ?悪魔のウルベルトさんがああやって話を運んでくれたから……明日、皆を納得させられるんですから」

「……そうですか。納得、『させられる』ですか」

 俺の大切なギルマスは。どうやら、思っていた以上に曲者だったようだ。あっちに居た時には気付けなかった。その、柔和な態度に隠されて。いや、隠されて、と言うよりは……あえて、隠していた、のか?

(あっちだと、ここまでモモンガさんが色々手を回さなきゃいけない案件は無かったしな……それに、ぷにっと萌えさんとかタブラさんがその辺は対応してくれてたし、俺も協力してたしな)

「えぇ。……そう言えば、ウルベルトさんは俺がもう手を汚している事……知ってたんですか?」

 そう訊かれて、首を振る。

「いいえ。流石の俺でも、着いて早々そこまではわかりませんよ。……でも、まぁ、可能性の一つとしては考えてましたよ。何せ、俺たちは異形種で……カルマ値がヤバイ者同士ですからね」

「あぁ、そこからの推測でしたか。ウルベルトさんはやっぱり凄いなぁ。本当に頼りになりますね」

 楽しそうにそう言う声は、いつものモモンガさんだ。だけど、何故だろう。何かが、決定的に違う気がして。俺は、確認の意味を込めて口を開く。

「モモンガさん、人を殺した事、全然後悔なんてしてないでしょう?」

「やっぱりウルベルトさんはお見通しでしたか。してませんよ、全然。人を殺す人は、殺されても仕方が無いと思いませんか?」

 キッパリとそう言い切るモモンガさんは、やっぱりかつてのギルマスとは違っていた。

(……あぁ、そうだよなぁ。転移してすぐの俺でさえ、デミウルゴスを連れて外に行きたい、とか思っちまうんだ。一日早く来てて、同行者がカルマ値マイナスのヘロヘロさんなら……そりゃ、そうなるよな)

「そうですね。どうやらこの世界は弱肉強食のようですし。……それにしても、モモンガさん。大好きなたっちさんによくあんな事言えましたね?俺、そのシーン生で見たかったですよ。そしたら腹抱えて笑えたのに、心の中で」

 モモンガさんの変容を、悦んでいる俺が居る。かつて、モモンガさんが憧れた自称正義の騎士。アイツを、ギルド内の不和を防ぐためとはいえ騙すなんて。あっちに居た時なら絶対にしなかったであろう行動。それを、おかしいとも思わずサラッとやってしまえる所。モモンガさんが、確実に変わってしまったという証拠だ。

「あぁでも言わないと、揉めるでしょう?俺は、せっかくギルメンが全員こちらに来てるのであれば……ギルドの平和を守りたいだけですよ。ウルベルトさんは違うんですか?」

 そう問われて。俺は、ニヤリと笑う。悪魔らしく。

「違いますよ。俺は、俺が生きやすいようにするだけです。……でもまぁ、モモンガさんは好きですし、モモンガさんが幸せに過ごせるよう協力はしますよ」

「ウルベルトさん、それってツンデレって言うんですよ?」

 俺の言葉を聞いて、モモンガさんは楽しそうにそう言うけど……断固否定したい。

「ツンデレって。俺、モモンガさんにツンなんてした記憶無いんですけどね?まぁ、良いですけど。何かあったら、影の悪魔を使って下さい。で、明日どうするんです?」

「あぁ、それはヘロヘロさんと話を合わせてますし、完全不可視化が出来る人か人型の人しか村には行けませんから、問題は無いと思いますよ?俺、あの村の恩人ですしね。この世界の人間の語る世界観を知れば、表立ってどうこう言う人は出ない筈です。……まぁ、影で言っても、俺とウルベルトさんには筒抜けなんですけどね」

 モモンガさんは、笑顔でそう言う。人としては色々とおかしいのに、多分本人は気付いていないんだろう。

「そうですね。あぁ、モモンガさん。俺も明日は行きますよ。俺、人化出来ますし。上位の悪魔ですから」

「そうなんですか!いいなぁ、人化。種族特性ですか。確かに上位悪魔っぽいですよね、それ。俺なんて幻術ですから、見破られるとマズイんですよね。だから、嫉妬マスク被ってるんですけど」

「は!?嫉妬マスク!?何考えてるんですかモモンガさん!滅茶苦茶胡散臭いじゃないですか」

「いえ、顔を隠せる物が咄嗟にソレしか浮かばなくてですね……」

 モモンガさんはそう言って、俺にカルネ村の件を詳細に教えてくれた。これでまた、知識が増えた。今後はよりモモンガさんの役に立てるだろう。

「一日で大冒険ですね、モモンガさん。俺も冒険したいなぁ。ちょっと落ち着いたら、デミウルゴスと遊びに行っても良いですか?」

 ウキウキとそう言うと、モモンガさんは苦笑する。

「ウルベルトさん。昨日言った事忘れたんですか?無闇に人間は殺さないんじゃないですか?」

「無闇には殺しませんよ。殺人犯とかの罪人を玩具にしたいだけです。死体は食材になりますから、無駄にはなりませんよ?」

 スルリ、と俺の口から零れ落ちた言葉。……どうやら、俺もかなり染まってきているみたいだ。

(……ロールのつもり、だったんだがな……)

「あぁ、それなら良いですね。一石二鳥です!」

 俺の言葉に、モモンガさんはすごく嬉しそうだ。

「モモンガさん、俺とモモンガさんの繋がり……今バレると面倒なので、今日はこの辺でお暇しますね。では、何かあったらまた連絡して下さいね」

 綺麗にコーヒーを飲み干し、ケーキも食べきってからそう告げる。すると、モモンガさんは名残惜しそうな顔をしていたが、小さく頷く。

「わかりました。では、また明日」

「えぇ、また明日、モモンガさん」

 俺はそう言って一礼すると、部屋の外に出てから転移して自室に戻った。……これからの展望に、胸を躍らせつつ。

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