Fate/Class Card 作:絵符字王大好
そう、これは異なった世界。
聖杯を求め殺しあうこのがなかった、夢のような世界であるのに、それは全て現実。
【人類焼却】を魔神より救った普通な少年、藤丸立香に襲い掛かった次の問題は、クラスカードによる大戦を防ぐものだった……。
※
「……ぱい…………せん………………せん、ぱい…………先輩!」
その声に、藤丸立香はすぐに脳を覚醒させた。
「先輩。その、おはようございます」
「マ、マシュ……?」
「は、はい。マシュ・キリエライト。ここに居ます」
少し困ったように笑うその少女に、藤丸はそれだけで安心感を覚えてしまう。
「あれ? ここは、なんか一般家庭な男の子が住んでいそうな部屋になってるんだけど……」
「そのですね、先輩。あの……焦らず聞いてもらいたいのですが……」
またしてもマシュの困ったような顔で何かを話そうとしていると、仄暗い部屋からこぼれる、懐かしい感覚に襲われる。
これは、
カルデアにくる前まで、当たり前のように見ていた光景。
朝起きて、確かめるように、自然と足が窓に向かう。
これにマシュは『あ、せんぱい……』と止めることもなく、藤丸を窓に行かせる。
そして手を伸ばし、カーテンを開けると、そこには、
「……町がある」
そこには、坂の上に建てられた家の特権というべき、素晴らしき見晴らしが良い光景が広がっていた。
木々の間に民家が広がり、道路があり、大きなビルも建っていて、あの吹雪しかなかった場所のカルデアとは思えなかった。
そして聞こえてくるのは、学校に向かう生徒たちの声。
日本のありふれた光景がそこにあった。
藤丸は振り向いてマシュを見ると、そこにあるのはやはり困惑の顔だった。
「ここはどうやら、日本のようですね」
「………えぇぇぇぇぇぇぇ!!」
起きたばかりだが、元気の良い声が広がっていった。
※
「カルデアと繋がってるって?」
「はい。文字通り……繋がっているんです」
マシュによって案内されたのは、藤丸が眠っていたあの家だった。
二階の寝室……というより、藤丸の部屋扱いとなっているあの場所から、一階に居りると、そこには笑顔で出迎える
「あらあら、遅いお目覚めですよ。マスタ~♡」
「……ら、頼光さん」
「母と呼んでくださいまし~」
いつも戦装束の服ではない、現代に合わせた服を着て、笑顔で迎えてくれたのはバーサーカーのクラスなのに会話が成立できてしまう系サーヴァントの真名、源頼光がそこにいた。
しかし、頼光だけがそこに居たのではなく、
「おかあさん! おはよー! 一緒にご飯たべよう!」
「それよりお外で遊びたいわ。ってジャックはそのナイフしまいなさい」
「ナーサリーもその大きな本どこかにおいてご飯たべてね~」
「おいクソ髭! お前はカルデアに残ってろよ! なんでテレビ独占してんだ!」
「ふん! なんでござるかなんでござるか、反逆でござりまするか? 拙者はジャパァンのアニメが見たいのですぞ!」
「二人とも静かにしなさい! 外に声まで聞こえたらどうするの!……それはそれとして私もテレビが気になるのでどきなさい」
「「横暴だ、この聖人」」
他にも何故か既にカルデアにて召喚されたであろう世界の
頼光の作りたての和食をカルデアキッズのジャックとナーサリーと共に朝から舌鼓を打っていると、マシュが丁寧に説明していく。
「それは突然のことでした。朝、先輩の部屋に向かい、少し緊張しながらも先輩の『おはよう』をもらいたく、朝一番にドアを開けると、そこはこの家に繋がっていたのです。
「なんですと?」
「戸惑いを隠せない私、しかし先輩の安否を確かめないといけない使命感を噛みしめながら、一階を探し尽くした私は二階へと向かうと、あの部屋で先輩は熟睡していらっしゃったのです」
「いらっしゃってたのか俺は……まったく身に覚えがない」
「カルデアに帰れるか不安だったのですが、この通り、他の方々も次々と興味津々にこの家にやってきました。どこでも行けちゃうドアみたいな気軽さです。いつでもカルデアに戻れます」
「そうなの?」
ずずず、と味噌汁を飲む。うますぎる。マシュはふわふわ卵焼きに夢中だ。内容は結構な内容なのに平和に話している。マシュは真剣に話を途切れさせない。
「頼光さんは何故か……」
「朝食を作ってあげたくなりまして……勝手ながらこの家の食材を使ってしまいました。母の朝食を食べさせたくなりまして……」
「えっ! あ、そういえばここの家の人とかいないのに当たり前にくつろいで朝ごはんを食べているだと!?」
「そ、そこは調査済みです!」
そうマシュが言いながら、どこからともなく藤丸立香の保険証のカードを取り出してきた。
「えっ?」
「この家にありました。当初は先輩自身のご実家かと思い、遠慮していたのですが、そうではないことが分かり……」
「私の探偵としての実力が発揮されたというものだよ」
「いきなり出てくるなぁ、この名探偵」
突如として名探偵たるシャーロック・ホームズが優雅にコーヒーを片手に藤丸たちと同じ卓の席に座った。いつの間に居たのやら。
「ついさきほど、近所を探索してきたばかりなんだ」
「行動力がすごい」
「そして、実に興味深いことが分かった」
今回はもったいぶることもせず、この家のどこかに仕舞ってあった物であろう、町内会で配っているような『ゴミ出し変更配置場所一覧』という紙を広げてみせてみると、そこは、因縁あるあの場所だった。
「えっ」
藤丸はつい声が出る。
マシュは口を両手で覆い、驚きを隠せないでいた。
「ダ・ヴィンチ女史から話は聞いていたのだがね。ここはどうやら、『冬木』という場所らしい。とても平和的な、冬木に」