◯1-1 元凶は問題児三人組
最近大人しいと思っていたから油断した。
リムルはスライムの姿でありながら深い深い溜息を吐いた。肺など存在しないのに。
なんで気付かなかった。あいつらが大人しい時は嵐の前触れ、良からぬ事を企んでいる前兆。最近魔物や人間間で起こる騒ぎもなく、以前の天使襲来のような戦いが起こるでもなく穏やかな平和を享受していたから平和ボケしていたのだろうか。
ああ、そうだろうな。縁側でシュナの膝の上で日向ぼっこしている場合じゃなかった。
これは、目を離せば碌なことをしない問題児を放っておいた保護者(?)監督責任問題だ。
見上げる空は己の体の色と同じ青色だ。テンペストから見える美しく澄み渡った空の色。
見渡す街の景色も変わらぬ、平和で調律の取れた自慢の美しい街だ。
そう、別段普段と変わらぬ光景に見えるだろう。"普通"ならば。
「(シエル、どう思う?)」
《現在確認できるテンペストの街、
街に展開している結界の方も問題ありません。また、その周囲に脅威と成り得るエネルギー体の存在は感知されておらず、現状の危険はないと思われます。
知覚範囲外については別途調査の必要があります。また、周囲の酸素濃度から生物が生息できる環境は整っていると推察できます。魔素濃度がやや低いですが問題はないでしょう。その他解析結果により……》
ーーー異世界に転移したと思われます。
その一言に内心で俺は「(ですよねー)」と溜息にも似た呟きを零す。
あの時、シュナの膝の上から感じた空間の揺らぎ。異常事態に膝から転がり落ちるように地面に降り立った時には収まっていた。いや、"終わっていた"。
「さて、反省及び言い訳があるなら聞こうか」
現実逃避していた視線を戻し、眼前で地面に直接正座している件の元凶"3人"(種族がバラバラな上人でないが、面倒なので"人"と表記する)に言い放つ。
「むぅ、今度こそ成功したと思ったのにな。どこで間違えたのやら」
「師匠が範囲をどれだけ広げられるか試したいって言い出した所からじゃない?」
「お前だって賛成していたではないか。まぁ、大人数の方が楽しいしな!フレイ達も連れてくればよかったな」
駄目だコイツら。全くこれっぽっちも微塵も反省してねぇ。前科ありの2人に関してはまたかという怒りよりももはや脱力しか感じない。
「(ヴェルドラとラミリスだけでも手がかかるのに、今回はミリムも便乗してるからなぁ〜。こうなるのはまぁ予想通りといえばそうなんだが……)はぁ」
「リムル様、一体何が起こったのでしょうか?」
そういえば、緊急事態だからと集めるだけで何の説明もしていなかったな。シオンだけでなく住民達や、訪れていた人達もヴェルドラ達やその前に立っている俺に注目していた。
「あ〜……先に説明した方が良さそうだな。おい、まだお前らの説教は残ってるから動くなよ」
「え〜!ちょっとリムル、可憐でか弱いこのアタシにいつまでこの体勢続けさせる気よ〜」
「正座、というやつよな。これ以上は流石に我も足が痺れそうだな」
「地面に直接このような座り方をするなど初めてだ!」
文句を言う阿呆共は放っておいて。広場に集まった大衆を前に、俺は「招集した緊急事態の内容だが」と話をし始める。
「
シエルが警告を発した時には既に遅かった。揺らぎが生じそれが収まった時には既に周囲丸ごと異世界に転移してしまっていた。
「異世界……ですか。そんな感じはしませんがね」
まぁ、環境も特に変わってないし見慣れた街の光景の中じゃここが異世界ですと言われてもピンと来ないか。
説明されるまでそんなこと気づきもしなかった、という周囲や首を傾げるベニマル達幹部連中(ディアブロやハクロウ辺りは神妙な顔してるので、雰囲気で"違う"と感づいたのかもしれない)。
「環境としてはそう変わらないみたいだな。魔素量も元の世界よりは少ないみたいだが問題ない。問題なのは……」
「元の世界に戻れるか?ですか」
シュナが少々不安げな表情で見つめてくる。確かに、こんな展開になるなど予想外だし無事元に戻れるか不安だよな。周りも同様の表情だった。
「(シエル、全てを元の場所に戻すのは可能か?)」
《問題ありません》
即答か。本当に頼もしい限りだ。
俺はまっすぐに彼らと向き合うと、不安を払拭させるよう堂々と、笑みすら(スライムなりに)浮かべて宣言する。
「それは心配ない。転移してしまった周囲も街の中にいる人達もきちんと元の世界に戻せるさ。そうだな……どのくらいかかるかは改めて発表しよう。周囲の状況がまだ未確認のため、街の外に出るのは厳禁とする。安全が確認できても元の世界に戻るまでは極力街の中で生活してくれ。その他また通達事項ができた際はその都度連絡する」
とりあえず、戻れる保証はしっかりあるので心配は不要だと落ち着かせれば、リムル様がおられるのだから大丈夫だ、リムル様がそう仰るのなら何も問題はないのだと皆それぞれホッとした表情をした。
そのまま解散させ、その場に残ったのは俺と元凶3人組、幹部連中だ。
「報告と相談の為この後緊急会議を開くぞ。ミョルマイルくんとリグルドは街の様子を調べてくれ。シオン、会議にカイジンやべスター達も呼んできてくれ。その際ベレッタとトレイニーさん達に迷宮内に異変が無いか調べるよう伝えてくれ。あと、会議の前に少しでも周辺の情報がほしい。ソウエイ、頼めるか?勿論、どんな危険があるかわからないから分身体を遣わし、何かあれば即座に撤退しろ」
「「承知しました」」
それぞれが頷き、シオンが迷宮の方へと向かう。ソウエイも頷くと影に潜っていった。
皆が集まるまで少し時間がかかるだろう。その間、俺は…と。
「待たせたなお前ら。説教…の前に、どうしてこんなことをしでかしたか話してもらおうか」
ずっと正座していた元凶共の方へ振り返り、シオンからシュナに手渡された状態で見下ろした。
「うむ……以前我とラミリスが使用した際よりもより正確になった異世界への門がどれほどのものか試したくなったのだ」
「また俺に内緒で?」
「うぐっ……それは悪かったと思ってるさ。でもでも、最近暇…平和だしちょっと刺激がほしかったというかさ?ほら、リムルもなんか面白いことやりたいな〜って言ってたし」
「俺のせいにするんじゃない」
「
「それがなんで街ごと転移に繋がる」
続いた会話に俺は頭を悩ませる。いや、ホント、どうしてそうなった⁉
「異世界への門は魔法陣の中の者を転移させるだろう?しかし、その範囲はどれくらい広げられるのかとふと疑問を抱いてな」
「別にアタシ達だけでもいいんだけどさ、気になって……」
「ならちょっと試してみよう!ということになったのだ」
うん、だいたいの理由は把握した。つまり、またしてもコイツらの我儘と好奇心に巻き込まれて被害を被ったわけだ。
《魔法陣の範囲拡大、対象物の増加。それに伴い門を開く魔素量も増加し魔法陣の構成もより緻密になり本来なら不発で終わる筈が、ヴェルドラ様やミリム様など魔素量が過分にある方がいたせいで不可能も可能としてしまい発動してしまったかと。しかしエネルギーは足りていても魔法陣の構成までは不完全だったのでしょう。膨大なエネルギーが暴発して周囲を巻き込み飲み込んだ、というのが予想されます》
3人の話からそうシエルは判断した。なるほど、やっぱり今回の事件もヴェルドラ達のせいだ。なまじ力も知恵もある分ほんと厄介なんだよなぁ〜。できちゃうからしてしまうってのはもうほんと厄介極まりない。
「お前らだけ、もしくは最悪俺も巻き込まれる形ならまだ良い。俺一人ならどうにでもできるだろうしな。だがな、今回は以前のように簡単に許すわけにはいかないぞ」
魔王覇気を開放して、3人を見下ろす。普段こんなことしないし、結構本気で出している為驚いているのだろう、3人はピクリと肩を震わせた。
「なぁ……俺はこれでも、相当怒ってるんだ」
「「「っ……」」」
ここで初めて彼らから笑みが消えた。シュナへはオーラを向けていないから何ともないはずだが、彼らの雰囲気から察してしまったのだろう、固唾を呑んで固まっている。
「俺が怒っているのはな、街の皆やテンペストに訪れていた人、なんの関係もない一般人まで巻き込んだ事だ」
ここで一区切りいれて俺は事の重大さを理解していないこいつらにもわかるように言葉を続ける。
「数年前の天使の一件、その後発展した技術とその共有。俺達の努力により人も魔物も以前のような諍いや偏見は少なくなった。それは一重に俺やこいつらが頑張ってきたからだ」
そう、俺や皆、テンペストの人達、たくさんの人の協力があって成功してきた。そこには信頼と信用があった。
「それを、お前たちは壊しかけたんだぞ。俺達の努力を水の泡にしようとしたんだ」
はっ、と息を飲む声が上がる。今更理解したというように目を見開いた彼らからさっと血の気が引いていく。
「今テンペストの街にいるのは俺達だけじゃない。街の住民以外にも、各国から訪れたお客様だっている。無事元に戻ったとしても、今回の事が各国にどういうふうに伝わると思う?俺達をよく知る所からはまたお前たちの悪戯か、と苦笑で済むかもしれない。だが、未だ魔物をよく思わない連中や俺達を妬む連中だって少なからずいる。そいつらに伝われば良い攻撃材料になるだろう。別の視点から見ればこれは立派な拉致監禁、最悪命の危険だってありえる。場合によっては俺の力を持ってしても元に戻れる保証もなかったかもしれない。そうなったら、どうなる?」
そう、問題はそこなのだ。もし戻れなかったら元の世界はどうなる?戻れたとしても今まで築き上げてきた信用と信頼が一気に崩壊する…とまではいかないだろうが、確実にどこか揺らぎが生じる。手を取り合ってはいるが、一枚岩ではないのだ。どこから崩れるかわかったもんじゃない。
国を守護するものとして今回の件は軽く水に流すじゃ済まないのだ。
「き、記憶を消せば……」
「街にいる全員をか?不可能じゃないが、膨大な上繊細な作業になるぞ。お前らにできるのか?」
「…………。」
「それに、都合の悪い事はなかったことにしてしまえばいい…なんて、人間からしてみればなんて勝手なんだ、これだから魔物は…ってならないか?」
「…………。」
「お前たちの仕出かした事の重大さ、理解したか?」
「…………。」
こくり、と頷きそのまま俯いてしまった彼らに俺は再度溜息を吐く。ぴくりと体を震わせながらも頭を上げない彼らは、俺の様子を伺っており、どうすればいいのかと途方にも暮れていた。
そんな彼らを見て、仕方ないなぁなんて苦笑を零してしまう所が彼らに甘い証拠だろう。
「俺がいるんだ。確実に戻れる手はあるから最悪な結果にはならない。でも、事が済んだら各国に詫びと経緯を詳細に伝えないとな」
「す、すまんリムル。そこまで考えが及ばなんだわ。その時は我も一緒に謝るぞ!そもそも言い出したのは我だ」
「ごめんなさいリムル!アタシも悪ノリして悪かったわ。師匠だけの責任じゃない、アタシも謝る!」
「軽率だった、すまないリムル。フレイからいろいろ教えられていたのに、リムルにとんでもない迷惑をかけてしまった……。これでは親友失格だ。謝罪は勿論ワタシも同席する。どんなお詫びもする!」
バッ!と顔を上げた彼らは口々にそう言った。今後こんな事がないようにちゃんと反省もする!と言うし、仕方ないからこれで許すとするか。
「当たり前だ。頼むから、もうこんな面倒なこと起こさないでくれ」
「「「ごめんなさい」」」
うむ、よろしい。魔王覇気が消えたことでシュナもホッと一息をつき、タイミングが良い事にディアブロから全員が集まった事とソウエイが無事帰還した事が伝えられた。
「会議の準備が整ったみたいだ。先ずはそこでもちゃんと謝ってもらうからな。元に戻るまで俺の言う事は絶対に守れよ」
大人しく頷く彼らを引き連れて、シュナと共に皆が待つ部屋へと向かう。これからの方針をどう決めるべきか頭を悩ませながら。
こんな経緯からオバロ世界に転移してきます。
後々アインズ様達と交流予定なので、是非とも街や迷宮などを見てもらいたかったので街ごと転移させてます。街が収まる土地があるのか?というツッコミは無しで……。
世界は、きっと自分が思ってるよりも広いんだよ……(遠い目)