魔導王と魔王   作:波美

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お待たせしましたー!
始めはナザリックでのアインズ様+守護者達での会議です。


冒険者になったら問題児が暴走した件
●3-1 ナザリックの動き


 

その日、アインズはナザリック地下大墳墓へと戻ると階層守護者ーーガルガンチュアとヴィクティムは除くーーを招集するようアルベドへ指示を出した。調査を頼んでいたアウラにも戻ってくるよう〈伝言(メッセージ)〉を送る。

守護者統括のアルベドを除く者達が程なくしてソロモンの小さな鍵(レメゲトン)に集まり、ナザリック地下大墳墓の最終防衛の間…心臓部とも呼べる玉座の間へと通じる扉の前に並んだ。五メートル以上もあるだろう巨大な両開きの扉には右扉は女神が、左扉には悪魔が今にも動き出しそうな程繊細かつリアルな彫刻が施されていた。その重厚な扉を開けて中へと入れば、何度訪れようとも目を奪われる程の圧倒的かつ神聖な存在感に感嘆の溜め息が漏れる。

最奥のワールドアイテムでもある玉座と、その背後に壁にかかるギルドサインが施された真紅の旗を見上げ、最敬礼を以て崇拝と忠義の念を示した後、彼らは下階段前に一直線に並び立つ。

主人が指定した時間までまだ時間がある。アルベドもまだ来ていない。自然と高まっていた緊張につめていた息を誰ともなく吐き出して、ふとシャルティアが来る前から抱いていた疑問を口にした。我らが至高の御方は何故自分達を呼び出したのか?と。

しかし、それに対して明確な答えを出せる者はいなかった。計画の為ナザリックを空けているデミウルゴスや蜥蜴人(リザードマン)の集落に出向いているコキュートスは勿論のこと、調査等でナザリックを離れたりもするアウラやマーレも首を傾げていた。

 

「誰も何も聞かされていないんでありんすか?」

「その事についても、アインズ様からお話があるだろうさ」

 

デミウルゴスが肩を竦める。何故呼び出したのか、その理由を考えようともしないシャルティアにそっと溜め息を零して。

 

「もしかしたら、昨日アインズ様に頼まれた件が関係してるのかな?」

「厶?何カアインズ様カラ命ヲ受ケタノカ?」

 

ポツリ、と独り言にも似た言葉を落としたのはアウラで、それに反応したコキュートスが詳細を聞いてきた。

 

「それが、トブの大森林にホブゴブリンの村が無いか探してほしいって……。以前調査した時はそんな種族見つからなかったんだけどなぁ」

「それはチビスケの調査不足というものでありんせんか?」

 

首を傾げるアウラに、シャルティアが鼻で笑うように嘲った。アウラはそれにムッと顔を顰めた。

 

「確かにまだ未調査の箇所はあるけど、でも、なんでホブゴブリンなんて低俗な種族を探すのよ」

「そ、それは……!」

「え、えっと……でも、アインズ様の仰った事だから……その、何かお考えがあったんだと思うよ?お姉ちゃん」

 

アウラの噛み付くような言葉にシャルティアは言葉を濁すも、マーレはアインズ様は何かお考えがあるのだろうと返す。

 

「アインズ様がお考えになる事だから、当然だろうね。しかし、ホブゴブリンか……。他には何も聞いてないのかい?」

「トブの大森林の北の、アゼルリシア山脈麓付近を調査しろって」

 

それだけを言われたアウラは急いで動ける配下達を放って捜索させた。アウラもフェンに乗って駆け回ったが、やはりそんな村は見つからなかった。

 

「一旦、守護者達を集めるから戻れって言われて帰ってきたけど……」

 

その続きを話そうとしたアウラの耳に、コツリと高く鳴るヒールの音が聞こえた。

 

「間もなくアインズ様が来られるわ。お喋りはそれまでになさい」

 

玉座の間に現れたアルベドがそう注意する。アルベドは自身の位置で歩みを止めるとその場に片膝を付き、濡れ羽色の髪を垂らしながら頭を下げて静かにその時を待つ。アウラ達も口を閉じると同様に彼の御方が現れるのを待った。

そして、転移により音も無くその場に現れたアインズは微かな足音と杖が床を叩く音を響かせて玉座に近づき、漆黒のローブをバサリと翻すとゆったりと腰掛けた。

眼下に頭を垂れて敬意を表し、彼の御方の言葉を待つ彼らにアインズは重々しい声をかけて頭を上げさせた。

 

「急な呼びかけにも関わらず、よくぞ私の前に集まってくれた。デミウルゴス、コキュートスも、外から呼びつけてすまないな」

「何をおっしゃいます、アインズ様!謝罪などとんでもありません。お呼びとあれば即座に参るのが当然の務めであります」

「デミウルゴスノ言ウ通リデゴザイマス。アインズ様ニ与エラレタ役ヲ務メル事モ重要デスガ、一番ハナザリックト、ソノ支配者タルアインズ様ニオイテ他ナリマセン」

 

本来なら何事もなく統治は進み、外に出向かせた二人を呼び戻す事もない筈だがそれが叶わなくなった。謝罪するアインズだが、当の二人は首を振ってアインズに呼ばれこの場にいる事が何よりも大切だと告げた。

 

「んん……それとアウラ、頼んだのにも関わらず調査の途中で呼び戻してすまないな」

「いいえ、アインズ様!それと途中経過ですが報告は……」

「ああ、いや。報告は少し待て。先ずはお前達を呼び集めた理由を話そう。アルベド」

 

アウラの言葉を遮り報告を一旦保留にすると、アルベドを呼ぶ。静かに立ち上がったアルベドはアインズの傍らに立つと守護者達に向けて口を開いた。

 

「先日、アインズ様が統治なさるエ・ランテルに3人の人間が入国したわ。黒髪の女、青銀髪の少女、そして執事服の黒髪の男よ」

 

アルベドの話に、守護者達はなぜ人間の事など報告するのだろうか?と思いながらも主人やアルベドの表情が固い事から黙って話の続きを聞いた。

 

「彼らはアインズ様も知らない未知の狼モンスターを従え、この国にはない馬車に乗ってやってきたわ。彼らの所属国も南方の遠国とだけで詳細は不明」

 

その内容にアルベドと同等の智謀を誇るデミウルゴスは目を眇めた。それが一体何を示すのか大凡の検討がついたからだ。

しかし、それだけならば少し怪しいけど脅威とならない下等な塵芥(ニンゲン)……アインズも影の悪魔(シャドウデーモン)を監視に遣わして様子見する事にしたのだが、そこで問題が生じた。

 

「2体の内緊急報告として戻ってきた1体はこう言ったわ。彼の人間は人間に非ず。受肉した悪魔であり、その内包量は自分達を纏める彼の最上位悪魔にも匹敵する……と」

 

そう告げたアルベドの言葉に、配下達はざわりと騒めいた。一斉に視線が一人の守護者へと集中する。

銀のプレートに覆われた棘の生えた尻尾をピシリと不愉快気に揺らしたデミウルゴスだ。丸眼鏡の奥に閉ざされた目も、瞼の裏側ではきっと苛立ちを顕にしていることだろう。

 

「その影の悪魔の言葉に信憑性はあるのですか?」

「悪魔の事については私も理解はあるつもりよ。影の悪魔の様子と言葉に嘘はなかった。純然たる差を感じ、理解したのね。格の違いを」

 

デミウルゴスは至高の41人のうちの一人、ウルベルト・アレイン・オードルにより創造された最上位悪魔だ。悪魔種族の中でも高位に位置する。それと同等とは、つまり、そういう事だろう。

 

「そ、そんな存在がデミウルゴスの他にこの世界に存在するんでありんすか?」

「有り得ない、ということはないわ。可能性はゼロではないもの。この話からも理解できるでしょう?相手のレベルというものが」

 

息を呑むシャルティアの信じられないという言葉に、アルベドはそう冷静に返した。それに他の守護者達も黙り込むしかない。何より、アルベドとデミウルゴスが肯定したのだ。

 

「たかが人間と侮った、私の落ち度だ。どのような可能性も捨て切れない以上、十分に警戒して然るべきだったのだ。……まぁ、今更言った所で遅いがな」

 

アインズの発言に下僕達が直ぐ様言葉を返そうとしたが、その前に手を突き出して止めると話の続きをする。

 

「相手の方もこちらの意図に気付きながらも静観の姿勢でいるようだ。お互い、相手の情報を得ろうと策を巡らせているのが現状だ。だが、それはこちらにとっても好都合というもの」

 

幸い、その悪魔は共にいた二人のうち青銀髪の少女の方を主人として付き従っているようだった。

少女の方からはさして強者足り得る力は感じられなかったと報告されたが、敢えて隠している可能性もある。所持しているアイテムについてもまだ未確認なのだから。

青年を悪魔と見抜けなかったように、少女もまた一筋縄ではいかない可能性がある。決めつけるのは早計だ。

そう、アインズは守護者達に語った。アインズの考えに下僕一同深く頷き、肯定した。

 

「それと、エ・ランテルでの件とは異なるけれど、ルプスレギナからの報告でカルネ村に数体のホブゴブリンが来たとのことよ。装備や強さは現地のモンスターよりも強く、彼らの住む村や彼らを遣いとして出した主など、不明な点も多い」

 

エ・ランテルに現れた人間と、同時期にカルネ村に現れたホブゴブリン。一見すれは別の場所で起こった、無関係の出来事とも取れる。

 

「エ・ランテルもカルネ村も、どちらもアインズ様に関する場所。そこに同時期に訪れたという事に違和感を感じる。そうですね?アルベド」

 

きらりと眼鏡を光らせて、智謀を誇る悪魔はそう問いかけた。アルベドはそれに頷く。

 

「黒髪の女の方に潜ませた影の悪魔だけど、街を出ていった後は暫くはそのまま尾行できたけれどいつの間にか影から追い出されて彼らを見失っていたとの事よ」

 

取り逃がすなど何たる失態か、と周囲はいきり立つが、影の悪魔はレベル的にもそう強くはない。向こうが上手だった場合軽くあしらわれるのは当然ともいえる。

街の外での監視は御免だ、という事だろう。始末したりせず感知されないよう撒いて置いていった事から敵対の意思は確認できていない。

 

「現状として、プレイヤーの可能性があるリリムという人物及びその出身国やその背景を探る事。また、そのホブゴブリン達との関係性もだ」

 

続けて述べたアインズの話を聞いて、ただ一人アウラは何故アインズからあのような命が下ったのか理解した。

 

「(流石はアインズ様!事態が起こってすぐその関連性に気づくなんて!)」

 

アウラはキラキラした目でアインズを見上げた。話を聞いてだいぶ理解できたのか、コキュートスやシャルティアも同様の視線だった。

 

「アウラ、待たせてすまないな。途中で構わないから報告を頼めるか」

「あっ、はい!アインズ様。えっと、調査を頼まれてたホブゴブリン及びその村の件ですが……」

 

フェンやその他の子と共に駆け回ったが、アインズの言うホブゴブリンも、その村も見つけられなかった。いるのはやはり低位のゴブリンばかりだった。

 

「山脈の方には配下達を向かわせてますが、そういったものは見かけないと……。ただ草原が広がるばかりです」

 

お役に立てずすみません……と色良い報告ができなかったアウラはしゅんと俯いた。折角アインズから直接賜った命だというのに、なんの成果も出せなかった。

 

「そう落ち込むな、アウラ。急に頼んだのにも関わらず調査に駆け回ってくれて感謝するぞ。早々に見つかるとは私も思っていなかったさ」

 

むしろ一日半でそこまで広範囲に探索できたのはアウラだからこそだろう。その手腕と実力をアインズは疑った事などなかった。

 

「もし、リリムと何らかの繋がりがあった場合は未だ手の内を見せない相手がそう簡単に見つかるような真似をするとは思えない。

難しいとは思うが、引き続き調査を頼めるか?」

「はいっ!お任せ下さい。今度こそ見つけ出してきます!」

 

顔を上げたアウラはより一層使命感に燃えていた。アインズは「頼んだぞ」と返すと、次にコキュートスの方を向いた。

 

「アウラには山脈を中心に調査させようと思うので……コキュートス、配下のリザードマン達もいくらか動かしてトブの大森林の中でそのホブゴブリンを探してみてくれないか」

「御意。必ズヤ探シ出シテミセマス」

 

アウラの負担を少しでも減らそうとコキュートスにも補佐を頼む。守護者を二人も動員するのは如何なものかと思うが、相手の実力が未知のうちは警戒して然るべきだろう。

シャルティアの時のような後手にだけは回りたくない。基本的に慎重に慎重を重ねて行動したいのだが、予測できない事態に巻き込まれたら本末転倒だ。

 

「暫くは私もエ・ランテルでその人間達が再び訪れないか警戒しておく。もし来た場合は動向を監視しつつ情報を集める事に専念する」

 

接触するかは今の所未定だ。彼らの様子を見て、敵対の意思が見えなければ多少こちらから誰かを寄越してもいいかもしれない。

アインズは警戒しつつもユグドラシルからきた同朋(プレイヤー)に出会えるかもしれない、何か仲間の情報を知っているかもしれない、という一縷の望みを抱かずにはいられなかった。

そのほんの僅かな機微を察知したのか、隣のアルベドはアインズに見えない所で奥歯をギッと噛み締めた。表情にはおくびにも出さないが、その瞳の奥に宿る仄暗い光は剣呑に満ちている。

 

「油断は決してするな。プレイヤーの脅威はお前達も理解しているだろう。発見してもこちらから手を出すのは愚策と思え。敵対行為を取れば状況がどう悪転するかわからないからな。あくまで友好的に近づくのだ。

私は、このナザリックもお前達も、全ての下僕達も危険に晒したくはないのだ。そこを理解してほしい」

「おお、なんと慈悲深きお言葉。身に余る光栄でございます。しかし、我ら一同にとってアインズ様こそが至高。アインズ様の為ならば私達下僕一同、ナザリックの全勢力を上げて敵を討ち滅ぼしてみせます!」

 

いやいやいや!そうじゃないって!なんで全面戦争ルートまっしぐらなの⁉

敵対しないよう友好的にお近づきになろうって話じゃん!え、俺の言い方悪かった⁉

 

ビシッと決めたデミウルゴス以下守護者達の気迫に、アインズはピカッと光って沈静化が起きた。

やはり、どうやっても自分の気持ちを伝えるのは難しい。魔王ロールをやりながらとなると余計に。

 

「…………そうじゃない。なんでそうなるんだ。敵対はしないと言ってるだろ。いや、それは勿論相手の出方次第だが。とりあえず、今は調査に専念しろ」

「ハッ!了解致しました!」

 

返事は立派だな、うん。その過激な思考はどうかと思うが。

 

「緊急事態ゆえ、優先事項はその調査になる。もちろん、計画進行中のデミウルゴスはそちらを優先してもらって構わない。手の空いているもので可能なら調査に当たってほしい。少しでも多く情報を集めたいからな」

「アインズ様からの命以上に優先すべきことなどありんせん!妾もお役に立ってみせるでありんす」

「ぼ、僕もお姉ちゃんとコキュートスさんのお手伝い、その、頑張ります!」

 

やる気をみせるシャルティアとマーレに感謝の言葉を述べ、そのような事……!と無限ループに陥りそうになった所を、骨の手を打ち鳴らして話を変える。

 

「報告は以上だ。もしこの場で何か提案がある者がいるならば話を聞こう」

「ではアインズ様、失礼ながら発言の許可を頂いてもよろしいでしょうか?」

 

アルベドの発言にアインズは頷いて続きを促す。ありがとうございます、と返したアルベドは調査の手段として謹慎中の身ではあるが情報収集力に長けたニグレドを動かしてはどうかと提案した。

 

「(なるほど!ニグレドか。確かにニグレドなら遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)よりも高性能に索敵ができるな)流石はアルベドだな。実に良い提案だ」

「勿体なきお言葉でございます」

 

アインズは手放しで褒めるが、アルベドはアインズ様ならば当然想定した手段だと疑いもしない。時々こうして守護者達の自発性や思考力を試す御方の期待には必ず応えなくては!と彼らは勘違いしている。

こうして、勘違いからくる発言により結果的に功を奏しているアインズは彼らからどう思われているのか知らぬまま支配者然とした振る舞いでニグレドの機動を許可した。

 

「ナザリック内での指揮はアルベドに任せる。些細な事でもいい、手掛かりを見つけ出せ」

「ハッ!」

 

最後の締めだと、アインズがバッと両手を広げて声を上げればーー内心「(ポーズ決まった!)」とドヤ顔であったーー、守護者は息を揃えて頭を垂れるとそれぞれ役目を果たすべく御前から姿を消した。

アインズもエ・ランテルへと移動し、警戒心を高めながらも今後の対策を考え、報告を待つのであった。




アインズ「まさか、プレイヤー⁉」
リムル「ちょっとした異世界旅行っていうか、観光?」
警戒心とお気楽という、壮絶なすれ違いは此処から始まった……。真実を知るまでアインズ様の無い胃が痛む。

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